第十三話 恋人を求めて
冒険者になってから一年が経ち、俺達は順調に狩りを続けていた。
多少危険な場面もあったが、魔物を狩り始めてから、お金がどんどん貯まって行き。
半年ほどで、一番安い収納の魔道具を買う事も出来た。
収納の魔道具は、勿論ソプデアスにあるミュラ魔道具店で購入した。
ミュラ魔道具店には、弟のロティルスが働いており、購入する時少しまけて貰った。
ロティルスがソプデアスの街に来る予定の日は事前に知らされていたので、その日は冒険を休みにして貰って迎えに行った。
その際、何かプレゼントをと思ったのだが、良い物が思い浮かばず、服を買ってラーメンを食わせてやって就職祝いとした。
ロティルスは、それでも大変喜んでくれた。
その時は、まだお金に余裕がある状態では無かったからな・・・今だともっと良い物を買ってやれるのだが、ロティルスは俺より稼ぐようになるのだから、あれでよかったのだろう。
その際家族の事を聞いて見たが、アベルとシャルは相変わらず元気に宿屋を営んでいるとの事だった。
妹のシアリーヌは、毎日訓練に精を出し、俺と一緒に冒険するのだと、今でも言っているそうだ・・・。
正直、シアリーヌを危険な冒険者にしたくは無いが、他の者とパーティを組ませるより、俺と一緒の方が安心だな。
後一年後、シアリーヌの気持ちが変わっていなかったら、一緒にパーティを組む事にしよう。
収納の魔道具を得てからは、運び屋に払っていた五割分が自分たちの物になり、更にお金を稼げた。
訓練所の借金、金貨一枚分はすぐさま払い終え、今は全額俺達の物となっている。
そしてついに今日、俺達が目標とする金額に達した!
「金板五枚、ついに貯まったぞ!」
「この一年、あっという間だったな!」
「今日まで贅沢をせんと、貯めて来たさかい」
俺達は今日まで、酒も女も断って節約に努めて来たからな。
それも、自分の言う事を何でも聞く美少女奴隷の為だ!
「では、明日からカリーシル王国に向かう事でいいな!」
「構わない!」
「問題あらへん」
俺達は安宿で一夜を過ごし、翌朝カリーシル王国に向け旅立った。
旅は全行程歩きだ、今までも馬車等と言う贅沢な物は使ってこなかった。
節約の為ではあるが、俺とパトリックは訓練も兼ねている。
シグリッドは、運動は苦手だったが、この一年で鍛えられ、一日歩き尽くめでもへこたれる様な事は無くなった。
さらに俺達は、自分の好きな女性を手に入れる思いが強いため、足取りも軽く、予定より二日早く、カリーシル王国の王都へと辿り着いた。
「なんか、活気がありまへんな・・・」
シグリッドが言う様に、街に賑いは無く、道行く人々も暗い表情をしていた。
「この国はケルメース王国と戦争をしていたが、戦況が悪いのだろうか?」
「そうかもな、先に冒険者ギルドで情報を集めた方がいいかも知れないな」
「せやな、もうすぐ日も暮れるさかい、買い物は明日にしましょ」
「分かった、では冒険者ギルドに行って見よう」
俺達が冒険者ギルドへ入って行くと、夕暮れ時だというのに、閑散としていた。
「人が少ないな・・・」
「そうだな、とりあえず話を聞いて見よう」
俺達は受付のお姉さんの所に行き、話を聞く事にした。
「Cランク冒険者、マティルスと言いますが、話を聞いても構いませんか?」
俺は冒険者カードを見せた。
俺達はこの一年でCランクまで上がっていた。
今はそんな事はどうでもいいな・・・。
「マティルスさんですね、はい、構いませんよ」
「冒険者が少ないようですが、どうしたのでしょう?」
「えーとですね、二か月ほど前までは大変賑わっていたのですが、ケルメース王国がこの国の砦を破り、この王都近くまで攻め込んで来てからこの様な状態が続いています・・・」
「えっ、この王国は滅ぶのですか!?」
俺は驚いて、大声を上げてしまった。
「しー!、大きな声で言っちゃ駄目です!」
お姉さんに注意され、俺は慌てて口をつぐんだ。
「いいですか、その様な事を警備兵に聞かれたら、捕まっちゃいますよ!」
確かに、警備兵に聞かれたら不味い事になっていただろうな・・・。
警備兵で無くとも、自分の国が滅ぶと言われたら、いい気持にはならないだろう。
「すみません・・・」
「それでですね、この国もやり返そうと必死になっています。
その為には、戦える人とお金が必要になり、冒険者に高給で前線に出て貰っている為、ここに人がいないのです。
それと、国全体に重税が課せられ、景気も悪くなっていますね・・・」
お姉さんは悲しい表情をしていた。
「説明ありがとうございました」
俺達はお姉さんの所を離れ、三人で話し合いをした。
「どうする?」
「早い事目的を果たして、この国を出た方がいいだろうな」
「ワイもそう思うで」
「俺も賛成だ、早い所宿を取って、明日目的を果たしに行こう」
俺達は冒険者ギルドを出て、宿屋に向かった。
「何でこんなに高いねん!」
普段あまり怒らないシグリッドが、宿屋の女将に怒鳴っていた。
「すまないねぇ、お国からのお達しで、料金を二倍にしないと行けなくなったんだよ」
「シグ、女将さんに怒っても仕方が無い」
パトリックが、シグリッドをなだめていた。
「そうだな、女将さんすみません、三人部屋をお願いします」
「はいよ、私も儲かるのならいいのだけど、この値段ではお客も減っていてね、その上増えた料金は全部お国が持って行っちまう、早く戦争が終わるのを女神様に願うしか無いんだよ」
女将さんから部屋の鍵を受け取り、俺達は部屋で寛ぐ事にした。
「この国に来るまで、情報を調べて来るんだったな・・・」
「せやな・・・」
「目的の事しか頭に無かった!」
パトリックが言ったように、俺達三人、奴隷の事で頭がいっぱいだったため、周りの事が見えていなかった・・・。
更に、二日早く着いたのは、ここに来るまで街にも寄らず夜も歩き続け、野宿をして数時間仮眠を取っただけだったから、重税が課されている事も知らなかった。
「部屋に来る前に食堂を覗いたが、食事の値段も倍だったな・・・」
「せやな、マティーはん、まだ食糧残ってはるのやろ?」
「まだあるが、ここでは火が使えないぞ?」
「あんな高い金払うくらいなら、干し肉とパンでかまへん」
「リックもそれでいいか?」
「構わない、明日目的を果たしたら、外で美味い料理作ってくれ」
「分かった」
俺は収納の魔道具から、干し肉とパンを取り出して皆に配り、水を魔法でカップに入れて渡した。
食料自体は、何があってもいい様に常に一週間分くらい持っている。
冒険をしていると、予定通り進む事は少ないからな・・・。
今日の事も予定外ではあったが、備えていたお陰で、高い金を払わずに済んだ。
食事を終えた俺達は、ここに来るまで睡眠時間を削っていたため、すぐに眠りにつく事となった・・・。
翌朝も同じ様に、干し肉とパンで済ませ、早々に宿屋を発った。
「目的の場所は分かっているな?」
「ちゃんと聞いてるさかい、心配せんでもええで」
シグリッドの案内で、俺達は目的の店へとやって来た。
店内に入ると、朝だからだろうか、妙に静かだった。
「いらっしゃい・・・」
カウンターに座っている怪しい目つきをしたオヤジは、とても元気が無さそうだった。
「若い女の子を買いに来たのだが?」
「若い女の子ねぇ・・・もうそんな上等な奴隷、何処に行ってもいないぜ・・・」
俺が尋ねると、オヤジがそう答えて来た。
「ここに来れば買えると聞いて来てやって来たのだが・・・」
「五年前までなら、いくらでも買えたんだがな・・・」
「今はもう奴隷は手に入らないという事か?」
「手に入らない事も無いが、若い女の子だと最低でも金板百枚はするぞ・・・」
「「百枚!!」」
「百枚やて!」
俺達三人はとても驚き、そして絶望した・・・。
五年前何が起きたのだろう・・・。
「どうして奴隷が手に入らなくなったんですか?」
「誰だか知らないが、奴隷を捕まえていた奴らを殺して回る様になってからだ・・・」
そうか、誰も好き好んで奴隷になったりなんかしないよな。
当然奴隷にする為、人を襲っていた訳だ・・・。
俺は、奴隷を買う事で頭がいっぱいになっていたため、どうして奴隷になる人がいるのかを考えた事が無かった・・・。
それは、シグリッドとパトリックも同じ様だ・・・。
「分かりました、私達では買えない様なので、失礼します」
「あぁ、すまなかったな・・・」
オヤジは申し訳なさそうにしていた・・・。
俺達は店の外に出て、立ち尽くしていた。
「どうする?」
目的を果たせなかった上に、奴隷がどの様にして捕まっていたのかを知ったからな・・・。
「金板百枚は無理や・・・」
「それに、奴隷を買う事自体出来なくなったな・・・」
「せやな・・・」
シグリッドとパトリックも、オヤジの話を聞いて、奴隷を買う事自体辞めたようだ。
「俺も同じだ・・・取り合えずこの国を出よう」
「せやな」
「そうしよう」
「それで目的地だが、ケルメース王国に行って見ないか?」
俺はケルメース王国行きを提案した
「ネイナハル王国に帰るんとちゃうんか?」
「俺は構わないが、ケルメース王国まで街道は使えないのではないか?」
「そうだな、戦争に巻き込まれない様に少し遠回りしないといけないだろうが、せっかくここまで来たのだから、新しい土地を見て見たいじゃないか」
「分かった、気分転換も兼ねて、ケルメース王国観光と行きましょか」
「じゃ行こう!」
俺達は街を後にして、ケルメース王国に向けて出発した。
シグリッドに先導して貰い、魔物が住む森の中を進んでいく。
シグリッドは戦闘は全くできないが、魔物を発見する能力と、森の中でも方角を見失わない能力はずば抜けている。
「オーガ三体いまっせ」
「やって行こう!」
「了解」
いつもの様に俺が魔法で一体倒し、魔物が近づいて来る間にもう一体倒す、残りはパトリックが受け止め、俺はその間に詠唱して三体目も倒した。
「お見事やな」
シグリッドは倒した魔物を、ササっと収納して行く。
「ほな、魔物は倒しながら行くのでかまへんか?」
「構わない」
「急ぐ旅でも無いしな」
俺達は、狩りをしながらのんびりと、ケルメース王国に向けて旅を続けた・・・。
そして、俺達三人の収納の魔道具が魔物でいっぱいになった頃、ケルメース王国のハリスの街に到着した。
「随分と賑やかな街だな」
「そうでんな」
「この街はカリーシル王国との国境に近い場所にあるから、前線に物資を送る為に景気がいいと、門番が言ってたぞ」
「なるほどね、取り合えず今日は、宿屋を取って風呂に入りたい・・・」
「せやな、何日も風呂入って無いさかい、におうで・・・」
「そうだな、では宿屋に行こう!」
俺達は宿屋へと行き、風呂を貸して貰った。
風呂と言っても、水を貯める場所があるだけで、自分の魔法で水を貯めて、火の魔法で温めるだけだ。
訓練所にあったシャワーの魔道具なんて高価で、こんな宿屋にある訳もない。
風呂から上がってサッパリした俺達は、宿屋の食堂で腹いっぱい食べて、久々のベッドに倒れ込んで眠りについた。
翌朝、宿屋の食堂で朝食を頂きながら、今後の方針を話し合う事にした。
「シグ、リック、俺達がパーティを組んだのは、女性を得る為だった・・・しかし、その目的が達成されなくなった今、今後どうするかを話し合おう」
「せやな、ワイらの目的が無くなった今、パーティを組む意味が無いと、マティーはんは考えとるんやな?」
「マティー、そうなのか!?」
二人は俺がパーティを解消したいと思った様で、驚いていた。
「いや、パーティを解消しようと言う訳では無い、ただ、新たな目的を定めようというだけだ!」
「せやな、ワイら目的が無かったら、真面目にやらへんな・・・」
「確かにそうだな・・・」
「俺も、真面目にやる自信は無い!」
三人共、可愛い奴隷の女の子を手に入れる為に、ここまで頑張って来たが、それが達成できなくなった今では、頑張って狩りをしなくても、十分生活出来るお金を手に入れている。
一生とは言わないが、金板五枚あれば、十年は暮らして行けるだろう。
それを元手に商売を始めてもいい、安定して稼げるようになれば、嫁を見付ける事など簡単だろうからな。
今は冒険者と言う、明日死ぬかも分からない商売をしていて、住む所も定まっていない。
そんな状況で、嫁など来てくれるはずもないからな。
「そこで、案は三つ。
一つ目、後金板五枚稼いで金板十枚にし、商売を始めるための資金とする。
安定した仕事をしていれば、嫁は来てくれるだろうからな。
二つ目、女性冒険者を仲間に入れて行く。
俺達はCランクで、それなりに稼げるようになったから、新人の冒険者を仲間に出来るはずだ。
ただし、これをやると、俺達の儲けは少なくなる上に、仲間にした女性と仲良くなれればいいが、その保証はどこにもない。
更に、女性を巡って俺達で争いになる可能性もある。
三つ目、Aランクを目指して頑張る。
これは女性を得る可能性は未知数だが、少なくともお金は今まで以上稼げるし、Aランクになれば女性の方から寄って来てくれるだろう。
当然Aランクを目指せば、死ぬ可能性が高い。
だが、それで得られる名声は、冒険者なら誰でも憧れる物だろう。
俺が出した案は、これだけだが、他に何かいい案があれば出してくれ。
それと、今回は多数決では決めない。
三人共納得した上で無いと、後で揉めるからな。
ゆっくり考え、そして話し合って決めよう」
俺が三つの案を説明すると、二人共暫く考え込んでいた。
・・・。
「俺には商才が無いから、一つ目の案は無しだ!
二つ目は、マティーとシグと喧嘩をしたくはないから、これも無しだ!
残りは三つ目だが、取り合えずBランクを目指し、そこからさらにAランクを目指すのか、話し合って決めたい!」
パトリックは俺の案を吟味したうえでそう答えてくれた。
「ワイは、そうやな・・・一つ目か三つ目やな、二つ目は、魔物と戦わないワイが一番不利やさかい無理や」
「そうか、俺もシグと同じく一つ目か三つ目だと考えていた。
となると、三つ目で、リックが言った様にBランクになってから、また話し合うという事にするか?」
「ワイはかまへんで」
「俺もそれで頼む!」
「では、Bランクを目指して頑張って行こう!」
「「おう!」」
俺達は新たな目標を立て、再び男三人で冒険を続けて行く事にした。
「今日は、冒険者ギルドで魔物を換金した後、一日休養日にして、情報を集めつつ自由に過ごしてくれ」
「分かった」
「了解やで」
俺達は冒険者ギルドに向かい、魔物を換金した後、それぞれ別行動をすることとなった。
俺は冒険者ギルドを出て、市場へとやって来た。
戦争の最前線に近いだけあって、市場には多くの食材が売りに出されている。
多少高いが、カリーシル王国の重税に比べれば大した事は無いな。
「おじさん、これとこれとこれを、箱ごと頂戴」
「兄ちゃん、いい買いっぷりだね、こっちの芋も買ってくれれば、まけてやるぜ!」
「じゃぁ、その芋も貰おう」
「ありがとよ、多めに入れとくぜ!」
「おじさん、景気はどうだい?」
「かなりいいな、今までずっと停滞していた戦争が、もうすぐ終わりそうだからな!」
「戦争には勝てそうなんですか?」
「おうよ!何でも勇者候補ってのが来てから、ケルメース王国の優勢が伝えられているからな!」
「おじさんありがとう」
「毎度あり!」
野菜の料金を支払い、収納した。
他にも、肉、パン、香辛料と買い込み、今まで節約して買っていなかった、果物、砂糖、蜂蜜等も買い込んだ。
「これで、食後のデザートも付けられるな」
特にお金を貯める必要も無くなったため、これからの食事は贅沢にしていこうと思う。
さて、これからどうするか・・・。
宿屋に戻って、ベッドで寝て過ごすのもいいが、これからBランクを目指していくのに、今の装備では心もとないか・・・。
俺は未だに、アベルとシャルに貰った、安物の剣と杖を使っていた。
それに防具は何も着ていない。
流石に不味いよな・・・。
いくら、パトリックが敵を抑えていてくれていても、数が多いとこちらに向かってくる魔物もいる。
お金は十分にある事だし、防具を買う事にしよう。
俺は武具店に向かい、店内へと入って行った。
「いらっしゃい!」
体つきの良いオヤジがカウンターに立っていて、店内には数人の客が、武器や防具の品定めをしていた。
俺はオヤジの所に行き、防具を選んでもらう事にした。
自分で選ぶには、知識が足りない。
鑑定すれば、物の良し悪しは分かるが、それが俺にあっているかの判断が出来ない。
「すみません、俺はCランクのビショップで、これからBランクの魔物と戦っていくのですが、防具はどのような物を着たらいいでしょうか?」
俺の質問が変だったのか、オヤジは顎に手を当て首を傾げていた。
「お客さん、今まで何を着ていたんだ?レザーか?チェインメールか?」
「いえ、何も着ていなかったので・・・そろそろ防具着た方がいいかなぁと思いまして・・・」
「はぁ?着ていなかっただと!今までよく死ななかったな・・・」
オヤジが大声を出して驚いた事で、周囲にいた冒険者もこちらに注目して来た。
「マジかよ、防具無しで魔物と戦っていたなんて、あいつは馬鹿か?」
「いくら魔法使いとはいえ、防具無しの冒険者なんて見た事無いぞ!」
「あのローブに、きっとすごい防御の魔法が掛けられれるんだよ!」
周囲の冒険者から聞こえて来る声によると、やはり防具を着ていないのは、異常だった様だ・・・。
シグリッドでさえ、皮の鎧は着ているからな。
「とにかくだ、防具を着ないで魔物を狩りに行くなんて無謀な事をしてたら、明日にでも死んじまうぞ!
こいつを着て見ろ!」
オヤジはカウンターに皮の鎧を差し出して来た。
「分かりました」
俺はローブを脱ぎ、普段着の上に皮の鎧を着た。
「サイズはあっているな?」
俺は手や足を動かし、動きに支障が無い事を確認した。
「問題ありません」
「それで、こっちからオーガレザーアーマー銀板五枚、トロールレザーアーマー銀板八枚、サイクロプスレザーアーマー金貨一枚と銀板五枚、ワイバーンレザーアーマー金貨四枚だ。
Bランクと戦うのであれば、サイクロプスかワイバーン辺りで無いと、着る意味が無いな!」
なるほど・・・どうせ買うならワイバーンにした方がいいかも知れないが、金属の方が丈夫では無いだろうか?
「金属鎧の方は駄目なんですか?」
「そりゃー着れるなら金属製の方が防御力は高い、だが、魔法使いのお前さんには、重いんじゃねーのか?」
オヤジはそう言いつつ、カウンターに金属鎧を一セット並べてくれた。
「試しに着てみな!」
俺は着ていた皮の鎧を脱ぎ、俗に言うフルプレイトと呼ばれる鎧を装着して行った。
確かに重いが、パトリックの盾よりは軽い感じだな・・・。
しかし、動いて見ると金属の厚みがあって非常に動き辛い・・・当たり前と言われればそうなのだが、金属鎧は無しだな。
「すみません、やっぱり皮の方にします」
「それが良いだろう」
俺は着ていた金属鎧を脱ぎ、カウンターに置いた。
「ワイバーンを買います、それと、この剣を修理出来ませんか?」
俺はアベルから貰った安物の剣を取り出し、オヤジに見せた。
「・・・こいつは修理するより、新しいの買った方がいいぜ、そこの樽に刺さっている剣は、これと同じような物で銀貨三枚だ!」
オヤジが指さした先にある樽の中には、数本の剣が入っていた。
俺はそこから、今まで使っていたのと同じような物を一本取り出し、カウンターに乗せた。
「これも下さい」
「そいつは、おまけしといてやる!しかし、魔法使いのお前が剣を使うとはね・・・実際さっき見た剣は使いこまれていた様だから、嘘じゃねーな」
「魔物の攻撃を受け流すのには、剣でやるのが楽ですからね」
実際ここまで、パトリックが押さえきれなかった魔物は、俺が剣で攻撃を受け流して戦って来たからな。
でも、剣はあくまで防御用だ。
攻撃に使えなくは無いが、安物の剣だと魔物の硬い皮を貫けないからな。
「すみません、今これしか持ってないのですが、大丈夫でしょうか?」
俺はワイバーンレザーアーマーを購入するため。金板一枚をオヤジに差し出した。
可愛い奴隷の女の子を購入するため、冒険者ギルドで金板に両替して貰って来たんだよな・・・。
今となっては、金貨のままが使い良かったと後悔している所だ。
「構わない」
オヤジは金板一枚受け取ると、お釣りの金貨六枚を手渡してくれた。
「あの魔法使い、Cランクの癖に金板持ってるとは、スゲーな!」
「俺もCランクだが、金貨すら見た事ねーぜ」
「そりゃ、お前がはいつも無駄遣いしているからだ!」
俺も目的が無かったら、金板なんて手にしていなかっただろうな・・・。
ワイバーンレザーアーマーと剣を収納に入れ、武具屋を出て行った。
「毎度あり!」
さて、昼食は何にしようか・・・地方の街だが、戦争が長く続いていたせいで、色々な店が出店しているな。
よし、カレーだな!
もう節約する必要もないし、ちょっと高いカレーを食べる事にした。
俺がカレー屋に入ろうとしていると、見知らぬ冒険者から声を掛けられた。
「すまない、先程武具屋にいた者だが、少し話を聞いて貰えないだろうか?」
「えーっと、今から昼食を食べようと思っていたんだけど、それが終わってからでいいですか?」
「あぁ構わない、どうせなら一緒に食べないか、勿論食事代は俺が出そう」
見知らぬ男と一緒に食事をする趣味は無いが、真剣な表情をしているので断りにくいな・・・。
「分かりました、そこのカレーでいいですか?」
「分かった」
カレー屋に入り、男二人で席に着いた。
「いらっしゃいませ~、ご注文が決まりましたらお呼びください」
店員のお姉さんにメニューを渡されて、何を食べようか迷う・・・。
自分がお金を出すのであれば、遠慮なく頼めるのだが、奢って貰えるとなると、高い物を注文するのは気が引けるな・・・。
「好きな物を頼んで貰って構わない!」
「そうですか、では遠慮しませんよ?」
「それなりに稼いでいるからな」
「すみませーん」
「は~い、ご注文はお決まりでしょうか?」
「カツカレー大盛り!」
「スパイシーカレー大盛りで!」
俺はカツカレーを頼んだ、カツはオークの肉だが、これがなかなか美味い!
見知らぬ男はスパイシーカレーか、結構辛いんだが食べなれているという事だろうな。
「俺の名はアルティン、Cランクの戦士で、パーティ名グリーンピースのリーダーを務めている」
「俺はマティルス、Cランクのビショップだ」
お互い自己紹介をした。
「それで話と言うのは、稼ぎについてだ」
「稼ぎですか?」
「あぁ、恥ずかしながら、俺達のパーティは稼げないのだ、先程マティルスは防具を買う際に金板を出していただろう。
俺達は金板はおろか、金貨すら手にした事は無いのだ・・・。
そこで恥を忍んで、マティルス達がどの様にして稼いでいるのか教えて貰えないだろうか?」
アルティンは俺に頭を下げて来た。
「アルティン、頭を上げてください、別に俺達は特別な事はしていませんし、俺達がやっている事なら教えますので」
「そうか、助かる!」
アルティンは頭を上げ、喜びの表情を見せていた。
リーダーともなれば、時には他人にも頭を下げないといけないのだな・・・。
俺達グリードは、特にリーダーを決めてはいない、三人しかいないと言うのもあるし、皆リーダーなんて面倒なことやりたがらなかったからな・・・。
「お待たせしました!カツカレー大盛りとスパイシーカレー大盛りですね」
店員によってカレーが運ばれてきたので、食べながら話す事にした。
「俺達はCランクの魔物を狩って、最初は運び屋に運んで貰っていましたが、収納の魔道具を買ってからはその必要は無くなりました。
後はそれを冒険者ギルドに買い取ってもらうだけです」
「それだけなのか?」
「はい、それだけです」
俺の説明を聞いて、アルティンは落ち込んでいた。
「俺のパーティでは、魔物からは魔石を取るだけで、後は自分達が食べる分の肉を取る事しかしない・・・」
「念話の魔道具を冒険者ギルドで借りれば、運び屋と契約出来るのでは?」
「最初は俺達もそうしていたのだが、運び屋が俺達が倒した魔物を運んでくれなくてな・・・。
運び屋が言うには、俺達が倒した魔物は売り物にならなく、運んで行っても儲けにならないと拒否されたのだ」
なるほど、大方魔術師が中級魔法以上を使って、一気に倒しているのだろう。
別にそれは悪い事では無い、その方が魔物を安全に倒せて、味方の危険を回避できるのだから。
ただ、儲けという点においては、それでは駄目なんだが、高く売れるように倒そうとして、自分が死んでいては意味が無いからな。
その点俺は、初級魔法で最低限の傷だけで魔物を倒していて、ほとんどの魔物を最高値で買い取って貰えている。
それに、運び屋の人達も、俺が状態良く魔物を倒す事で、優先的に駆けつけてくれるようになったからな。
「問題点は、いかに魔物を売れるように倒すかですね、普段どのように倒しているのか教えて貰っても?」
「あぁ、魔物を発見したら、まず魔術師が上級魔法で一気にダメージを与えて、それで倒せなかった物を、俺が仕留める感じだ」
やはり俺が思っていた通りだな・・・。
「やり方は俺達も同じです、しかし、私は初級魔法で魔物が近づいて来るまでに、二体は倒します。
その後も、初級魔法で剣士が押さえているのを倒していきます」
「初級魔法で魔物が倒せるのか!?」
「はい、ですが・・・他の魔術師では難しいでしょうね」
俺はずっと初級魔法を使って来て、威力を上げて来ているから一撃で倒せているが、他の魔術師だといい杖を持っていないと無理だろう。
「どうしてマティルスには出来て、他の魔術師には出来ないのだ?」
「私は初級魔法だけを使って来たからとしか・・・」
「なるほど、俺のパーティの魔術師にも初級魔法を使わせればいいのだな!」
「いえ、それは止めた方がいいでしょう!初級魔法を使って魔物が倒せなかった場合、パーティの危機となります。
アルティンはリーダーですから、パーティの安全を優先させなくてはならないでしょう?」
「そうだな・・・」
アルティンは酷く落ち込んでしまった。
「ですが、お金を稼ぐ方法はあります!」
「そうなのか!」
「はい、ランクの低い魔物を、初級魔法か剣で、出来るだけ魔物を売れる状態で倒して行けばいいのです。
これなら、お金は稼げます」
「なるほど、それは試してみる価値はあるな!」
「頑張って下さい、では御馳走様でした」
「あぁ、ありがとう!」
カツカレーを食べ終え満足した俺は、アルティンと別れて店を出た。
果たして、上級魔法を使っていた魔術師が、初級魔法を使ってくれるかは疑問だが、それはアルティンの説得次第だろう。
それにランクの低い魔物を倒す事に抵抗を覚える者もいるかも知れない、全てはアルティン次第と言った所だろうな。
午後はゆっくり街を見て回る事にするかな。
俺は街を散策しながら、お菓子を食べたりして、久々にゆっくりと過ごした。
夕方宿に戻って、シグとリックと共に夕食を取った後、部屋で今日の事を話し合った。
「俺は防具を買って来たぞ!」
武具屋で買って来た、ワイバーンレザーアーマーを二人に見せた。
「やっと普通の冒険者になったな!」
「マティーはんは、防具を着ないのだと思っとったわ」
「別に着ないつもりは無かったのだが、少しでもお金を節約しようと思ってただけだ・・・」
「だが、これでマティーも前に出て戦う事が出来るな!」
「せやな、頑張って貰いましょ」
「おいおい、俺は別に前に出る為に防具を買った訳では無いぞ・・・」
二人は冗談っぽく笑っていた。
「しかし、これで安心してBランクの魔物と戦う事が出来るな」
「せやな、ワイはBランクに上がる為の情報を聞いて来たで」
シグリッドはメモを取り出し、読み上げた。
「Bランクに上がる為には、Bランクの魔物を八種類倒すか、Bランクの依頼を五回やるかやな」
「そうか、依頼は受けない方針に変わりは無いよな?」
「そうだな」
「せや、ワイらは八種類の魔物を倒せばええわけや!」
俺達は三人であるため、依頼を受ける事はしていない。
依頼となると、目的達成のため、多くの魔物と戦わないといけない場合があるからな。
五体以上の魔物と戦う事は、俺達にとっては危険すぎる。
今までも、四体以下の魔物としか、戦ってこなかったからな。
それ以上の数の魔物は、たとえゴブリンであっても逃げて来た。
攻撃できるのが俺しかいない以上、数の暴力には勝てない訳だ。
「それで、ケルメース王国にはどれだけの魔物がいるのか、調べはついているのか?」
「勿論やで、えーとな、この国には四種類おって、ワイバーン、ヒドラ、キマイラ、ハーピーやな」
「流石にBランクだけあって、どれも厳しいな・・・」
「そうだな、ワイバーン、ヒドラ、キマイラはどうにかなるとしても、ハーピーは無理だな!」
ハーピーは単体ではCランク程度の魔物だが、群れを成す事でBランクに指定されている。
一匹だけ狙えばいいと思うだろうが、ハーピーは仲間を呼ぶからな、それも数十匹単位で襲い掛かって来る。
上級魔法で吹き飛ばせばいいのだが、俺は使えない・・・。
それに運良く一匹だけ倒せたとしても、それではBランク判定してくれない、二十匹以上倒さないと、冒険者ギルドはBランク判定してくれないのだ。
「せや、この国で三種類倒して、他の国に移動せなあかん」
「分かった、明日から準備して倒しに行くとしよう」
「おう、それと俺は戦争に関して話を聞いて来たぞ」
「それは俺も少し聞いて見たが、詳しくは聞いてない、教えてくれ」
パトリックは腕を組み、真剣な表情で話し始めた。
「分かった、まずケルメース王国とカリーシル王国が戦争している理由だが、これは俺達が求めていた奴隷が原因だ。
カリーシル王国側が、ケルメース王国の人々を襲って、奴隷として売っていた様なのだ」
「なるほど、それなら戦争をして当然だな!」
「その通りだ、そして長く膠着状態が続いていたのだが、ネフィラス神聖国より援軍を受け、一気に攻め込む事に成功し、カリーシル王都へあと一歩の所まで来ているとの事だ。
それで、その援軍と言うのが、ネフィラス神聖国が選りすぐって集めた、勇者候補者達らしい」
「勇者候補と言う事は、将来その中から勇者が出るって事か?」
「そこまでは分からない、ただ、ネフィラス神聖国は、聖女が女神様からの神託を得て、勇者を選定している。
全ては女神様次第なんだろう」
「女神様からの神託か・・・」
「えらい胡散臭い話やな!」
「代々勇者は、聖女によって認定されている事は事実だ、疑っても仕方あるまい」
「そうだな、まぁ俺達に勇者なんて関係無い話だな」
「せやな」
代々の勇者は、管理者や魔王と戦って来ている。
いまだに、管理者は魔王がいる事から、勇者が勝ったという話は聞いていない。
アベルでさえ管理者に勝てないのに、勇者とかには絶対に関わり合いたくない。
確か、俺達がいるケルメース王国の北に位置するのが、ネフィラス神聖国だよな・・・。
出来るだけ行かない様にした方がいいだろう。
「勇者は関係無いとして、戦争は早く終わってくれないと、カリーシル王国を通過するのが面倒だ」
「そうだな、俺達が三種類の魔物を倒す間に決着付けて欲しい」
「せやな、勇者候補に頑張って貰いましょ」
「「「わははははは」」」
俺達は笑い合い、勇者候補達の活躍に期待して、就寝に付いた・・・。
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