第十二話 ゴブリン 奴隷市場調査 その四

私はローカプス王国、ヴィタリー・フォン・メレンドルフ伯爵。

今私の屋敷に、オークションを取り仕切って貰ったコンウェイ男爵が来ていて、冷や汗を流しながら必死に弁解をしている。

今回のオークションは、半分成功、半分失敗と言う事になるのだろうか・・・。

成功した部分は、今手元に売り上げた金板二千枚がある事だろう。

失敗した部分は、魔族にオークション会場の場所を発見され、殆どの兎獣人を回収されたことだ。

「それで、この金板二千枚で買った客は、返却を要求してこなかったのだな?」

「はい、その客にはオークション会場で商品を渡しましたので・・・。

それに、奴隷商の話によると、その商品はまだ客の所で働いており、魔族に回収されてはいないと言う事でした。

さらに、またオークションが開催される様なら、声をかけてほしいと言っていたそうです」

「ふむ、つまり商品を素早く移動させていれば、魔族に見つからなかったと言う事だな?」

「そ、それは・・・」

コンウェイ男爵は青ざめて、言葉をなくしていた。

魔族に商品を回収されたのは、彼のミスでもあり、私のミスでもある。

「まぁよい、今回の教訓を次回に生かさなければなるまい、なぜ、魔族にオークション会場を発見されたのかは分かっていないのだな?」

「も、申し訳ございません・・・可能性としましては、冒険者から漏れたのかと・・・」

「参加者から漏れたという線は無いのか?」

「そちらは全員身元が確認できております、ただ、今回参加した冒険者につきましては、所在は分かりません」

「冒険者は、所在を持たぬ者が殆どであろうからな・・・」

今度からは、商品の移送に細心の注意を払わなくてはならない。

ただ、私に次があるのかは不明だが・・・。


一ヶ月が経ち、ソフィーラムの部下達からもたらされてくる情報も、かなり集まって来た。

勿論俺も街に繰り出し情報を集めてはいるが、どれも噂程度の物で、それを精査してくれるのも、ソフィーラムの部下達だ。

悪魔族は、姿を変えたり、姿を見えなく出来たりするらしく、諜報活動には向いているとの事で、各国の動向を主に調べているわけだ。

俺は一人部屋に籠り、集められた情報を整理し、紙に書きだしていく。

まずは、ローカプス王国のコンウェイ男爵周辺から・・・。

集められた情報によると、コンウェイ男爵は、スレッソン商会にコンウェイ男爵領から王都までの奴隷の移送を依頼し。

スレッソン商会が、冒険者ギルドを通じて、馬車の護衛を集めた。

護衛にやとわれた冒険者は、馬車の荷物の事は知らされておらず、馬車の中を見た者もいなかったようだ。

兎獣人も魔法で寝かされていたようだから、暴れたり声を発したりする事は無かったから、分からなくて当然だろう。

スレッソン商会が、馬車の中身を知っていたのかは分からないが、コンウェイ男爵が直接冒険者ギルドに依頼を出さず、スレッソン商会を通した事から、恐らく知っていたものと推測される。

コンウェイ男爵に、出入りした者達から、怪しい人物は確認されなかった。

しかし、コンウェイ男爵が出かけて行った先は、ヴィタリー・フォン・メレンドルフ伯爵家で、コンウェイ男爵がオークションで稼いだお金を渡していることは、確認済みだ。

メレンドルフ伯爵には、現在、ソフィーラムの部下が張り付いているが、今のところ動きはない。

兎獣人の集落を襲ったのは、メレンドルフ伯爵の私兵である可能性が高まったが、確証は取れていない。

そろそろ、実力行使に出たほうがいいような気がしてきた。

次に、カリーシル王国の奴隷を捕まえている者達の事だが、魔王が鬼人族に協力を要請したところ、あっさりと承諾してくれた。

そんな面白そうな事、俺達に黙ってやってるんじゃねーよと、逆に怒られたそうで、魔王には申し訳なく思う・・・。

普段からこの地を監視している鬼人族の協力もあり、すぐに拠点を見つけることが出来た。

場所は、ケルメース王国と隣接している所で、現在戦争で攻防を繰り返している、ヴァムスカの街より南に行った場所にある、ネイドの街の近くに、その拠点があった報告を受けている。

そこからケルメース王国に向かうには、魔物が住む森を抜けて行かなければならなく、道がつながっている訳では無い様だ。

だからケルメース王国に見つからず、活動を続けられているのだろう。

近いうちに、鬼人族と協力してそこを攻め滅ぼす事になっている。

それと、新たに同じような拠点が出来た場合は、鬼人族が対応してくれるそうだ。

こんなものかな・・・。

俺は立ち上がり、部屋を出て、皆を食堂に呼び出した。

紅茶を入れて、今朝作っておいたシャーベットを冷蔵の魔道具から取り出し、皿に盛り、果物をスライスしたものを添えてテーブルに並べた。

「ベル、これは何だ?」

「はい、シャーベットと言い、アイスクリームとは少し違うのですが、似たようなものです」

「食べていいニャン?」

「どうぞ」

三人にシャーベットを食べて貰いながら、先程まとめた内容を説明した。

「と言う事で、ヴィタリー・フォン・メレンドルフ伯爵を捕らえて、何を知っているのか吐かせようと思いますが、いかがでしょうか?」

「私は良いと思うな!」

ソフィーラムは即座に賛成してくれた。

「そうだの・・・ベル、そのヴィタなんとか伯爵の元に、われが行って話しを聞いてやっても良いぞ」

クリスティアーネは伯爵の名前を覚えきれなかった様だ、まぁ俺も紙に書いて無かったら、こんな長い名前覚えきれないがな。

「いえ、クリス様が行かずとも、私が捕まえてこちらへと連れて来ますが?」

「その様な物騒な事をせずともよい、われが話を聞いてやろう」

クリスティアーネには何か考えがあるのだろう、魔族には魔族のやり方と言う物があるのかも知れないから、ここはクリスティアーネに任せるしか無いか。

「分かりました、では、メレンドルフ伯爵の在宅が確認出来ましたら、向かう事に致しましょう」

「うむ、頼んだぞ」

「ソフィー、確認をお願いします」

「ベル、既に確認済みだ、今日はまだ家から出ていないそうだ」

「それなら今から行くと行くかの」

「分かりました、ソフィー、メレンドルフ伯爵の屋敷まで、転移をお願いします」

「分かった、では外に行こう」

話はあっという間に決まり、メレンドルフ伯爵の屋敷に行く事が決まった。

しかし、こんな日中の内から向かって、クリスティアーネは何をするというのだろう?

まさか、屋敷に攻め込むわけではないよな・・・不安を覚えながら外へと出て行った。

「屋敷の近くに転移いたします!」

俺達は人の姿に変え、ソフィーラムの転移でメレンドルフ伯爵邸の近くへとやって来た。

「あれがメレンドルフ伯爵の屋敷です!」

ソフィーラムが指さした先に見える屋敷までは、少し距離があった。

「ふむ、遠いの・・・飛んで行くぞ」

「クリス様!」

俺が止める前に、クリスティアーネは飛び上がり、屋敷に向かって飛んで行った。

それに続いて、エリミナとソフィーラムも飛んで行ったので、仕方なく俺も追いかける事にした。

いきなり伯爵の屋敷に飛んで行けば、襲撃と間違えられると思うのだが・・・。

当然のことながら、屋敷前に降り立った俺達を、何事かと屋敷の警備をしていた者と執事が、玄関前で警戒をしていた。

俺はクリスティアーネの前に出て、警戒している人たちに説明しようと一歩前に出た所、クリスティアーネに止められた。

「ベル、大人しく見ておれ、心配せずとも手荒な真似はせん」

「・・・分かりました」

クリスティアーネはそう言うと、目を赤く光らせ、警戒している人たちの方に声を掛けた。

「あーはっはっはっはっ!われの名はクリス!この屋敷にいる者全てをこの場に集めよ!」

「「「クリス様、承知致しました・・・」」」

クリスティアーネの声を聞いた人達は虚ろな目をして、クリスティアーネの命令に従い、屋敷内へと入って行った。

「クリス様、今のは何をなされたのですか?」

「ふむ、ベルは見るのは初めてだったか?」

「はい」

「あれは、吸血鬼の能力で、一時的に相手の精神を支配して、言う事を聞かせるものだの」

「凄いじゃないですか!クリス様に勝てる者等いないのでは?」

「そんな事は無い、われより弱い者にしか効かない上に、こうしている間は無防備だからの、しっかり守っておれ」

「分かりました」

しかし、クリスティアーネより弱い者って、ほとんどでは無いのか?

魔王城に集まっていた、管理者達には効かないだろうが、あれは例外だろう・・・。

そうしている内に、玄関に次々と人が集められていた。

「クリス様、屋敷内にいるすべての者を集めてまいりました・・・」

虚ろな目をした執事が、クリスティアーネに報告しに来た。

「これは一体どういうことだ!」

おそらく、 メレンドルフ伯爵だと思われる人物が俺達の前に来て抗議をして来た。

「あーはっはっはっはっ!皆よく集まってくれた!こちらから質問を致す故、しばし大人しくしておれ!」

「「「承知しました・・・」」」

クリスティアーネが命令すると、集まった人全員虚ろな目をして従った。

「ベル、質問していいぞ!」

「分かりました、では、メレンドルフ伯爵はどなたですか?」

「私です・・・」

俺が質問すると、先程抗議して来た者が答えた。

「メレンドルフ伯爵、獣人族の集落を襲撃させたのは、貴方ですか?」

「その通りです・・・」

メレンドルフ伯爵は、俺の問いかけに素直に答えてくれた。

これは楽だな、俺は捕まえて来て、拷問して吐かせようと思っていたが、痛みつけるのは趣味じゃないし良かった。

「それは、貴方が自発的にやった物ですか?それとも、他の誰かに命令されてやったのですか?」

「ニコライ・フォン・ヴァルモーデン公爵に命じられて行いました・・・」

公爵か・・・やはりまだ上の人物がいたのだな。

俺は忘れないうちに、筆記用具を取り出し、紙に公爵の名前を書いた・・・。

書き留めていないと、間違いなく忘れるからな!

「メレンドルフ伯爵、獣人族の集落を襲った部隊は、貴方の私兵ですか?」

「はい、その通りです・・・」

「次の襲撃計画はありますか?」

「ありません・・・」

「もし、次の襲撃があるとして、また貴方が行うのですか?」

「分かりません・・・」

分からないか、質問には素直に答えてくれるが、質問以外の事は話してくれないから、質問する内容を絞らないといけないのは面倒だな。

「襲撃を命令されたのは、今回が初めてですか?」

「その通りです・・・」

なるほど、毎回違う貴族にやらせているという事か。

「今回襲撃には、飛行魔法か飛行魔法の魔道具が使用されたと思いますが、その資金と、飛行の魔道具はどの様に指示されていますか?」

「資金は、ヴァルモーデン公爵から渡されました、飛行の魔道具も同じで、返却する事になっています・・・」

つまり次回も上空から襲撃してくるという事だな。

聞きたい事はこれくらいだな。

「クリス様、質問は終わりました」

「ふむ、ではお前達!今ここであった事はすべて忘れるのだぞ!では元いた場所に戻ってよい!あーはっはっはっ!」

「「「承知しました・・・」」」

クリスティアーネが命令をすると、人々は屋敷の中に戻って行った。

「では、帰るかの」

「屋敷に転移します!」

ソフィーラムの転移で、屋敷に戻って来た。

俺は、ニコライ・フォン・ヴァルモーデン公爵の名前を新たに書いて、それをソフィーラムに手渡した。

「すまないが、ヴァルモーデン公爵の屋敷の場所を調べて貰えないか?」

「分かった、部下に調べさせよう!」

これでヴァルモーデン公爵、クリスティアーネに精神支配して貰って聞きだせばいいな。

思ってた以上に楽に進んだので、俺は気持ちよく屋敷の家事に精を出した。


翌日、皆でヴァルモーデン公爵の屋敷へと来ていた。

流石に公爵家だけあって、ソフィーラムの部下も探すのには苦労しなかった様だ。

今日もまた、虚ろな目をした人達が、クリスティアーネによって玄関前に集められていた。

「ベル、後は頼んだぞ」

「はい、ヴァルモーデン公爵、獣人の集落の襲撃を計画立案したのは、貴方ですか?」

「私ではありません・・・」

おっと、やや小太りの公爵は違うと答えた、まだ他にいるのか・・・。

「では、貴方に計画を指示したのは誰ですか?」

「黒いローブを着て、仮面を付けた者です・・・」

何、そのあからさまに怪しい人物は・・・。

「その黒いローブを着た人物が、誰がか知っていますか?」

「知りません・・・」

「依頼して来た人物を知らないのに、貴方はなぜ受けたのですか?」

「お金と、綿密な襲撃計画書を頂いたからです・・・」

金か・・・。

「計画書はありますか?」

「ありません、焼却処分するよう指示されておりました・・・」

証拠を残す様な事はしないか・・・。

「それで、今回得たお金を、その黒いローブを着た人物にも渡すのでしょうか?」

「いえ、利益はこちらで受け取っていい事になっています・・・」

えっ、黒いローブを着た人物の目的は、お金儲けでは無い!?

獣人の奴隷が欲しかった?いや違うな、それなら大掛かりにしなくても、自分が欲しい獣人だけ確保できるはずだ。

となると、目的はなんだ?

今の段階では分からないな・・・取り合えず、質問を続けよう。

「貴方は、黒いローブを着た人物から、目的を聞いていますか?」

「はい、獣人の奴隷が欲しいと聞いております・・・」

「その黒いローブを着た人物に、獣人を渡しましたか?」

「いえ、渡していません・・・」

「では、黒いローブを着た人物はどの様にして、獣人の奴隷を手に入れるつもりだったのだ?」

「オークションで落札すると言っておりました・・・」

益々おかしいな、資金と計画を渡しているから、捕まえて来た獣人から好きなのを持って行けるはずだ。

「オークションで落札せずとも、優先的に獣人の奴隷を得る事が出来るのでは?」

「はい、私もそう言ったのですが、オークションで競り落とすのが良いのだと言っておりました・・・」

単なる金持ちの道楽?

しかし、今回オークションで目玉商品を落札したのは、クリスティアーネだ。

金板二千枚と言う大金を持ち合わせて無かった?

いや、飛行の魔導ををそろえる資金があるのなら、二千枚くらい余裕で出せるはずだ・・・。

それとも、単にマリーロップが好みでは無かったとか?

人の好みまでは分からないから、考えるだけ無駄だな。

「黒いローブを着た人物は、定期的にここに訪れているのか?」

「いえ、不定期で、いつ訪れるか分かりません・・・」

「こちらから連絡を取る事は可能か?」

「出来ません・・・」

ここまで来て、黒幕の正体が分からないとは・・・。

「また来ると思うか?」

「はい、今までに何度も来ておりますから・・・」

それなら、この屋敷を張り込んでいれば会えるかもしれないな。

「黒いローブを着た人物は、馬車で来るのか?」

「はい、何時も馬車でいらっしゃいます・・・」

「その馬車の見た目は分かるか?」

「馬車の見た目は普通です、ただ、窓は黒い布で覆われていて、中の様子を窺う事は出来ません・・・」

特徴があるだけましか・・・。

後質問する事はもうないか・・・。

「クリス様、以上です」

「ふむ、ではお前達!今ここであった事はすべて忘れるのだぞ!では元いた場所に戻ってよい!あーはっはっはっ!」

クリスティアーネに精神支配されていた人達は屋敷に戻って行き、俺達も自分の屋敷に転移して戻って来た。

「ソフィー、すまないがあの屋敷も見張っていた貰えないか?」

「分かっている、黒いローブを着た人物を見付ければいいのだな!」

「そうだ、もし、黒いローブを着た人物を見付けた場合、その場で襲って確保して欲しい、俺がそこに行く時間が無い場合もあるからな」

「分かった、その様に指示しておく!」

「頼む」

上手く捕まえて話を聞き出せれば、一気に解決に向かうな。

俺は、楽観視していたのだが、そんなに甘くは無く。

半年後に、黒いローブを着た人物がヴァルモーデン公爵邸を訪れた際、ソフィーラムの部下が確保したが、その者は毒を飲んで自害したと報告を受けた・・・。

その者自身が黒幕と言う線は消え、他にもいる可能性が高くなったが、これ以上追う事は困難になった・・・。

しかし、以降獣人が襲撃される事は無くなったので、一応解決したという事にはなったが、俺個人としては、今後も黒幕の正体を追って行くつもりだ。


ヴァルモーデン公爵を尋問してから三日後・・・。

俺とソフィーラムはカリーシル王国のネイドの街を訪れていた。

今日は、鬼人族と協力して、奴隷を捕まえている者達の拠点を叩く事になっているので、エリミナにはお留守番して貰っている。

クリスティアーネも、「鬼人族と一緒なら、われが行く必要あるまい」と言って、着いて来てはいない。

拠点の位置は、このネイドの街から西に行った所にあるのだが、この街で鬼人族と待ち合わせをしていた。

鬼人族は、転移魔法も飛行魔法も使う事が出来ないので、ここに集まってから拠点に向かう事になっているが、まだ合流できていない。

拠点に攻め込むのは日が落ちてからとなっていて、今はまだ昼過ぎだから慌てる時間帯では無い。

「ソフィー、ラモンさんは、まだ来ていない様ですので、何か食べに行きますか?」

「そうだな、夜までには時間がある、是非食べに行こう!」

ソフィーラムは、俺達と行動する様になり、すっかり食べ物の虜になってしまった。

この仕事が終わった後、また食べなくていい生活に戻れるのだろうか?少し心配に思う。

せっかくだから、ソフィーラムが食べた事が無い物を食べさせてやりたいが、ネイドの街は小さく、目新しい食べ物は無かった。

「ベル、あの場所はどうだろう?」

「酒場か・・・たまにはいいかも知れないな」

情報を収集する時位しか、酒場には行かないからな。

甘い食べ物が大好きな、エリミナが行きたがらないと言うのもあるし、エリミナかクリスティアーネがいると、酒場では絡まれて面倒だと言うのもある。

俺達は、酒場に入り、席に座ろうかとしていた所で声を掛けられた。

「お前ら遅かったじゃねーか、こっち来て座れ!」

真昼間から酒を食らっている連中がいるなと思っていたら、そこには鬼人のラモンが、部下達と思われる人達と盛大に盛り上がっていた。

この前冒険者ギルドの裏で戦っていたため、顔は覚えていた。

「ラモンさん、こんにちは、私はクリス様の部下でベルと申します、本日はよろしくお願いします」

「私の名はソフィー、よろしく頼む!」

「まぁそんな硬い話はあとにして、まずは飲め!」

ラモンさんは、俺達の前に酒を差し出して来た。

飲んでも酔う事は無いが、差し出された物を飲まない訳には行かないだろう。

俺は差し出された酒を一気に飲み干した。

「いい飲みっぷりじゃねーか!どんどんやってくれ!」

ラモンさんは、再び俺に酒を進めて来て、それを頂きながら、話をする事にした。

「ラモンさん、ここに集まっている人が、今日手伝ってくれる人達ですか?」

「おうよ、俺の自慢の部下達だ!」

ラモンの部下達は俺の事を見て、ニヤッと笑っていた。

「ボスから聞いたぜ、おめー強いんだってな!後で勝負しようぜ!」

「こいつより俺の方が強いから、俺とやってくれよ!」

ラモンの部下達から、次々と試合を申し込まれ、俺が返答に困っていると、ラモンが助けてくれた。

「おい、てめーら、今日は遊びに来たんじゃねーぞ、勝負は終わってからにしろ!」

「「「へーい」」」

勝負はしないといけない様だな・・・。

決して試合をしたく無い訳では無い、むしろ積極的に鬼人族とはやってみたいと思う。

ラモンと戦ってから、よりそう思う様になった。

まぁラモンとまた勝負しても、勝てる見込みは全く無いが、負けた時の方が得る物は多い。

剣道の試合の時でも、負けた試合から多くを学んで強くなって行ったからな。

とは言え、今日は優先すべきことがある。

「ラモンさん、今夜の事を少し話しておきたいのですが?」

「そんなの後だ後、時間まで英気を養うぞ!ほら飲め飲め!」

ラモンさん達は、再び飲み始めた、仕方が無い、話は拠点に向かう道中、話す事にしよう。

結局、日が暮れるまで飲み続け・・・街を出た時は辺り一面闇に閉ざされていた。

照明とか無いから、月明かりが無い今夜は、特に真っ暗だ。

ゴブリンの俺は、真っ暗でも全く問題無いし、ソフィーラムも魔力感知で問題無く行動できる。

鬼人族も夜目は効く様で、行動に問題は無いらしい。

「ラモンさん、拠点の出入り口は、どの様になっているかご存知ですか?」

「あぁ、入り口は二つ、俺達は二手に分かれて同時に攻め込むつもりだ!」

「正面から行くつもりですか?」

「当たり前じゃねーか!正面から力でねじ伏せてこそ、男ってもんだろ!」

確かにそうかも知れないけど、相手の戦力がどれだけあるのか分かってはいない。

「この人数で大丈夫でしょうか?」

鬼人族は、ラモンを含めて六人だ、俺とソフィーラムを入れても八人しかいない。

「問題ねーよ、本当は俺一人で来るつもりだったんだが、こいつらがどうしても来たいと言うから仕方なく連れてきたまでだ」

ラモンは一人で来るつもりだったのか・・・まぁ一人でも問題無く倒せると思うが、逃げられると面倒だからな。

「分かりました、拠点に入ったら、奴隷と女子供は殺さない様にしてください」

「分かってるよ、無抵抗な者を殺す様な卑怯な真似をしたとあっては、鬼人族の恥となるからな!」

「その他は逃がさない様に殺してください、数多くの人を捕まえ、奴隷として売った報いを受けて貰わなければなりません」

「へぇ、捕まえろと言うのかと思ってたぜ!」

「俺はゴブリンですからね、人を擁護するつもりはありません、それに、獣人族・・・いえ、仲間を守る為なら、非情になりますよ」

「なるほどな・・・おめーら聞いたか!手加減する必要は一切ない!思いっ切り暴れてやれ!」

「久々に暴れられるぜ!」

「いい事言うじゃねぇか!」

「俺が一番乗りしてやるぜ!」

ラモンの部下達の士気は、最高潮に達していた。

「ベルだったな、お前達は空から敵が逃げ出さないか見張っていてくれ!」

「分かりました」

役割は決まり、しばらくして目的地へと辿り着いた。

奴隷を捕まえている者達の拠点は、丸太の柵で覆われており、閉ざされた入り口の上に見張り台があり、松明が灯されていた。

「お前達は裏へと回れ!」

「へい!」

ラモンの部下達五人全員、裏口へと回って行った。

「ラモンさん、一人で正面から行くつもりですか?」

「当然だ!」

まぁラモンなら、一人でも問題は無いか・・・。

「分かりました、では私達は上空から見張っております」

「任せたぞ!」

「ソフィー行こう」

「分かった!」

俺とソフィーは空へ飛び上がり、上空から見届ける事となった。

ラモンの部下達が裏口へと到着すると、ラモンが閉ざされている門へと堂々と歩いて向かって行った。

「何者だ!名を名乗れ!」

当然見張りについている者に見つかり、声を掛けられている。

ラモンは気にせず、背をっている剣を抜き。

一気に木の門へと振り下ろした!

バキッ!ガランガランガラン!

大きな音と共に、木の門は崩れ去った。

「敵襲!敵襲だ!!」

見張りが大声で叫ぶと、家の中から次々と、武器を構えた男達が出て来た。

「何だてめえは!」

「悪党に名乗る名前はねーぜ!」

ザシュ!

ラモンは問答無用に斬り捨てていた、同時に裏門も部下たちの手によって破壊され、流れ込んだ部下達も問答無用に斬り捨てていた。

そこからは蹂躙劇だ・・・抵抗する者、戦意を失って逃げ出す者も容赦なく斬り捨てて行く。

まさに鬼の所業と呼べるものだろう・・・。

ソフィーラムも同じで、拠点から逃げ出した者に魔法を撃ち込み、一人残らず殺していた。

惨劇は十分ほどで終わり、残ったのは恐怖に怯え、泣き叫ぶ女性や子供達だけだった。

少し可哀そうに思うが、今まで奴隷として捕まり売り飛ばされた人たちと思えば、同情する気にはなれないな。

「ソフィー、降りて奴隷がいないか探そう」

「分かった!」

俺達は、ラモンの傍へと降り立った。

「お疲れさまでした、後は俺達でやります」

「疲れたって程でもねーな、全然手ごたえが無い連中だったからな!」

「ボスの言う通りだぜ!」

「もう少し粘ってくれねーと、楽しくもなんともねー!」

上から見ていただけだが、部下達も相当強い事が分かった。

そもそも、魔族と人を比べるのが間違いなのかもしれない・・・魔力を抑えていても、本来の強さは変わらないからな。

俺とソフィーラムは、各家を調べて回った。

家の中には、怯えている人たちがいたが、奴隷の首輪をはめてはいない。

一応奴隷が捕らえられていないか、聞いて見る事にした。

「ここに、捕らえられている奴隷はいませんか?」

「ひっ!こ、こ、、殺さないで!」

「無抵抗な人は殺しませんよ、それで、捕まえている人はいませんか?」

「あっ、あっちの大きな家の、ち、地下にいる!お、教えたから、殺さないで!」

「ありがとうございます」

教えられた通り、大きな家に向かうと、魔力感知で地下に人が複数人いるのが確認できた。

「ベル、あの壁の向こうに降りる階段があるな」

隠し扉か何かだろうが、魔力感知の前には無意味だな。

俺は刀を抜き、魔力を込めて壁を斬った!

ズンッ!

斬られた壁は崩れ落ち、降りる階段が見えた。

階段を下りて行くと、そこは単に掘られただけで、土が剥き出しの状態でジメジメと湿気が籠っていて、とても居心地が悪い。

その中に、木で作られた檻があり、十数人の人達が捕らえられていて、既に首輪もはめられていた。

「すみません、貴方達はケルメース王国の人達ですか?」

俺が尋ねると、その中から若い男性が前に出て来て、答えてくれた。

「そうだ、俺達は旅の途中襲われ、ここに連れられて来た!ここから出してくれ!」

「貴方達を助けに来ましたが、今は夜中で、すみませんが朝までここを動く事は出来ません、朝になれば貴方達をケルメース王国へとお送りしますので、もうしばらくご辛抱してください」

「分かった」

「では、檻を開けますので、少し下がって下さい」

俺がそう言うと、男は素直に下がってくれた。

「はっ!」

俺は刀を抜き、木製の檻を斬り捨てた。

「さぁ出てください」

「ありがとう!」

「助かった!」

「これで家に帰れるのね!」

人々は喜びの声を上げ、檻から出て来た。

捕まっていた人達と一階に上がり、そこでソフィーラムに全員に付けられている首輪を外して貰った。

「外は危険ですので、この家から出ない様お願いします、ソフィー、すまないが、この人達を守っていてくれ」

「分かった!」

俺は家を出て、ラモンの所へ向かった。

「ラモンさん、捕まえられていた人を確保しました、明朝私が送って行きますので、ラモンさん達はもう帰って貰っても構いません」

「そうか、ここはどうするのだ?」

「私達が出て行く際、焼き払います」

「分かった、俺達は今後同じように潰して行けばいいのだな?」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃ、俺達は帰るとするぜ!それと、暇になったら俺達の所に来い!鍛えてやるぜ!」

「ありがとうございます、機会があったらお邪魔する事にします」

「おう、楽しみにしてるぜ!」

ラモンは片手を上げて、部下達と共に去って行った。

鬼人の訓練が、どれほど厳しい物かは分からないが、気のいい人達だったから、殺される事は無いだろう・・・。

この件が終わったら、クリスティアーネにお願いして、以前言われていた龍族の所か、鬼人の所に修行に行かせて貰う事にしよう。

俺は、大きな家の入口の警備をする事にした、中の守りはソフィーラムに任せておけば問題は無い。

周囲の気配を探っても、特にこちらに危害を与えて来るような存在は無いな。

ラモン達があれだけ暴れたのだから、残っている人達もこちらに何かして来る事は無いな・・・。

翌朝、空が白み始めて来た頃、捕まっていた人達を起こし、移動する準備をして貰った。

俺は夜中の間に準備していた料理を皆に振舞い、英気を養って貰った。

「では皆さん、これよりケルメース王国に戻ります、はぐれない様にしてください」

「「「はい」」」

俺達は家を出て、拠点の外までやって来た。

「ソフィー、燃やしてください」

「分かった!」

今朝の時点で、この拠点にいた人達は、全て逃げ出してしまっていた。

やはり、奴隷にする人を捕まえて生活していた事を全員知っていたからだろう。

つまりこのままこの場に留まって俺達に捕まれば、自分たちが奴隷として売られる可能性がある訳だ。

逃げ出してくれて、面倒な事が無くなり、俺としては大助かりだ。

ソフィーラムは周囲から魔力を集め、一気に全体を包み込む炎を作り出し、何もかも燃やし尽くした。

「凄い物だな!」

「いや、私などはまだまだだ・・・」

ソフィーラムは謙遜しているが、捕まっていた人達は、あまりの出来事に声も出せない様子だ。

人が扱う魔法では、これほど広範囲に一気に焼き尽くす事は出来ないだろうからな。

「ソフィー、先導役を頼む、俺は殿を務める」

「分かった!では皆、私に着いて来てくれ!」

ソフィーラムの先導で、道なき森の中を歩き始めた。

魔物が出る森なのだが、俺とソフィーラムがいる事で、魔物が近寄って来る事は無い。

捕まっていた人達の中には、子供や女性もいたため、森の中を抜けて行くのには時間が掛ったが、昼前には街道へ出る事が出来た。

そこからは早く、街の近くまで送り届け、そこで捕まっていた人達と別れる事となった。

「今回の事は、自分たちで運よく逃げられたという事でお願いします」

「本当にいいのか?正式にお礼をしたいのだが・・・」

若い男が代表して、俺に聞いて来た。

「お礼は不要です、貴方達を助けたのはついでです、それにケルメース王国とは戦争中ですから、私達がお礼を貰う訳には行かないでしょう」

「そうだなが・・・本当にありがとう、また会う機会があったらその時お礼をさせて貰う!」

「では、失礼します」

俺とソフィーラムは、足早にその場を後にした。

「ベル、急がないと変装が解ける!」

「そうだな、早く屋敷に戻ろう!」

俺とソフィーラムは、森の陰に入り、転移で屋敷に戻って来た。

何とか変装が解ける前に戻って来る事が出来て、胸を撫で下ろした。

なぜこんなに焦っていたかと言うと、俺達は人が住む領域で簡単に変装を解く事が出来ないからだ。

勿論ゴブリンの姿を見せられないと言うのもあるが、それ以上に魔力が強すぎるという理由だ。

魔力が強い存在と言うのは、そこにいるだけで、周囲の人達を怯えさせてしまう。

俺だと怯える程度で済むが、クリスティアーネが街中で変装を解き、抑えられていた魔力が解放されると、ほとんどの人が恐怖のため気絶してしまうだろう。

昨夜のうちに、一度戻って来て変装を掛けなおしておくか迷ったのだが、ソフィーラムが送っていく場所は近いと言う事だったのでそのままにしておいた。

しかし、森の中を捕まっていた人達を送る時間を甘く見ていて、このような結果となってしまった。

まぁ次この様な事があった際には、同じ失敗を繰り返さない様気を付けよう。


黒いローブを着た人物が、毒を食らって自害した事で、これ以上調べる事も無くなり、調査を終える事にした。

謎は残ったが、これ以上調べる事は出来ないからな・・・。

ここまでの調査結果をまとめ、俺はクリスティアーネ、エリミナと共に、魔王に報告するため魔王城へとやって来た。

城の中に入ると、この前とは別の会議場へと通された。

そこにはすでに、魔王と悪魔族の管理者ブレイヴァンが席に着いており、背後にソフィーラムが立っていた。

ソフィーラムも調査が終わった事で、魔王の元に戻っていたからな。

「待たせた様だの」

「大丈夫ですよ~、もう暫くしたらオルトバルも来ますので、席に座って下さいね~」

相変わらず魔王は軽い感じで、クリスティアーネに対応していた。

それから暫くして、獣人のオルトバルも加わり、会議が始まった。

「では今回の調査報告を、クリスティアーネより説明お願いします」

「うむ、ベル頼んだぞ!」

ブレイヴァンから説明を求められ、クリスティアーネはそのまま俺に託した。

「私からご説明させて頂きます」

俺は用意してきた調査報告書を読み上げた。

一応同じものを、魔王と獣人族の為に用意して来た。

コピー機なんて便利な物は無いから、全て俺の手書きで、大変な作業だった・・・。

「以上で報告を終わります」

「ベル君、お疲れだったね~、本当に助かったよ~」

「いえ、悪魔族の方に協力して貰わなければ、ここまで調べ上げる事は出来ませんでした、こちらこそありがとうございました」

魔王にお礼を言われたが、本当に悪魔族の協力が無かったら、これだけ調べ上げる事は不可能だっただろう。

俺の方が、魔王やソフィーラム、そして手伝ってくれた多くの魔族の人達に感謝を述べたい。

「それでは、もう獣人族が襲われる事は無いのだな?」

オルトバルが、俺に確認をして来た。

「それは分かりません、しかし、前回の様に集落丸ごと襲われる可能性は低いでしょう」

「付け加えるなら、今回クリスティアーネが調べてくれた貴族には、監視を付けています、同じような事を起こすようでしたら、容赦なく処分する予定です」

俺の言葉に、ブレイヴァンが補足してくれた。

「分かった、信用しよう!それとこちらから情報を流していた獣人の特定が出来た!

その処分に関して俺に任せて貰って構わないか?」

「はい、問題ありません」

「分かった、一応処分する前に話を聞くつもりだが、あまり期待はしないでくれ!」

獣人が情報を流していた者がいたとしても、恐らく雇われている者だろうからな。

そいつを捕まえても、黒いローブを着た人物の上にいる者には辿り着かないだろう・・・。

「ここからは私の推測なので、聞き流して貰って構いません。

毒を飲んで自害した、黒いローブを着た人物に関してですが、今ある情報を元に考えて見ました。

おそらく、獣人の奴隷が欲しかった訳では無く、ローカプス王国に獣人の管理地を攻めさせたかったのか、あるいはその逆か。

どちらにしても、獣人族とローカプス王国を戦わせたかったのでは無かったのでしょうか?」

「ほう~」

俺の意見に、オルトバルが目を細めていた。

「それで、利を得るのは誰なのですか?」

ブレイヴァンが俺に問いただして来た。

「それは分かりません、私は各国の事情に詳しくありませんので・・・ブレイヴァンさんの方がその事に関しては詳しいのでは無いでしょうか?」

悪魔族は各国の内情を調べているはずだから、予想は出来るだろう。

「そうだな、ローカプス王国が滅ぼされて利を得るのは、隣接しているネフィラス神聖国か、ヴァルハート王国のどちらかだろう。

ネフィラス神聖国だとすれば、女神教の教えに従い、魔族側に攻め込む理由となるだろう。

ヴァルハート王国だとすれば、ただで領土が増える事となる。

オルトバルも、もしローカプス王国を攻め滅ぼしても、領土は放置するだろう?」

「あぁ、必要無いな!管理するのは面倒だ!」

「それと、ヴァルハート王国は、南のカリーシル王国が戦争に敗れた際に備えて、軍備の増強を行っている。

ローカプス王国が滅びた際も、すぐ動ける状態だという事だ」

ブレイヴァンが丁寧に説明してくれた。

俺もその二国のどちらかだと思ったが、結論は出ないな・・・。

「ブレイヴァンさん、ありがとうございます、今は相手が何かしら動くまで、待つしか出来ない様ですね」

「そうだな、結論を急ぐ必要もない」

「さて、難しい話はこれくらいにして~、クリス、美味い物を食べに連れて行ってくれないか~?」

「ふむ、われは構わんが、ブレイヴァンが睨んでおるぞ?」

ブレイヴァンがこめかみに皺を寄せて、魔王の事を睨んでいた。

「魔王様、万が一の事があってはいけませんので、人の街に行く事は止めてください!」

「万が一の事なんてある訳無いじゃん、ソフィーから色々美味しい物の情報を教えて貰ったからさ~、ブレイヴァンも食べに行って見たいだろ~?」

あぁ、ソフィーラムから教えて貰ったのか・・・魔王が街に行きたいと言うのは、俺のせいだったりするのか?

「別に食べたいとは思いません、我等は食事を取らなくとも死ぬことはありませんので、我慢してください」

「ブレイヴァンのけち~、ソフィーも何か言ってやってくれよ~」

「あっ、いえ、私は・・・」

魔王から話を振られた、ソフィーラムはどう答えたらいい物か、困っていた。

「ふむ、魔王の間は我慢するのだな」

「そんなぁ~」

クリスティアーネにまで言われて、魔王はガックリと肩を落としていた。

「会議は終わった様だな、俺は帰らせて貰う!」

オルトバルは席を立ち、会議室を出て行った。

「われらも帰るとするかの」

クリスティアーネも席を立ち、帰ろうとしていた。

「忘れておった、ソフィー、何時でもわれの所に遊びに来ていいからの」

「はい、クリス様、ありがとうございます」

ソフィーラムは、笑顔を見せていた。

「ソフィー、今度私も連れて行ってくれ~」

「魔王様、それは出来ません!」

ソフィーラムが断った事で、また魔王は落ち込んでしまった。

俺達は魔王城を出て、屋敷へと戻って来た。

「クリス様、明日からは、またネイナハル王国を見て回るのでしょうか?」

「そうだの、ベルは何かやりたい事があるのか?」

「はい、以前言っていた龍族の所か、鬼人族の所に修行に行きたいです」

「分かった、連絡を取っておくかの」

「ありがとうございます」

「ベルは、修行に行くのがそんなに楽しいのか?」

どうやら嬉しさが表情に出ていた様だ・・・。

「はい、もっと強くなりたいですからね」

「それ以上強くなってどうするニャ?」

「それは勿論クリス様の役に立つためだ、しかし、それとは別に、自分自身強くなりたいと言うのもある」

「クリス様の為なら、頑張って修行して来るニャ!」

「うむ、頼もしい言葉だの、連絡が付き次第、ベルには修行に行って貰う事にしよう」

「はい」

この世界には、以前勇者がいた事は分かっている、また新たな勇者が現れて、クリスティアーネに危害をもたらすようであれば、俺が守らなければならない。

勇者で無くとも、以前俺が出会った冒険者には、今でも勝てない様な気がする。

しっかり修行して、強くなっておかねばならない!

どれだけ厳しい修行にも耐え抜く決意をし、夕飯の準備をするのであった・・・。

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