第十話 ゴブリン 奴隷市場調査 その二
私はローカプス王国、ヴィタリー・フォン・メレンドルフ伯爵。
私は今、念話の魔道具を使い、各地の貴族と連絡を取り合っていて、非常に忙しかった・・・。
『今回のオークションには、兎獣人が出品されます、何卒御参加をよろしくお願いします』
『そうは言うがね・・・獣人は買っても魔族に奪い返されておるのだよ、そんな物に高い金は払えん』
『ご安心ください、隷属の首輪を改良しまして、獣人から発せられる魔力を抑える事に成功し、これにより魔族から発見される心配はございません!』
『そうかね?ではその隷属の首輪の効果が分かった次回から参加させて貰おう』
『分かりました、またのご参加、お待ちしております』
この様に、各貴族からオークションへの参加を断られ続けている・・・。
本来であれば、商人がやる仕事なのだが、商人からも泣き付かれたため、仕方なく私がやる羽目になっている。
私が伯爵であるため、子爵や男爵と言った者達は強制参加させられるのだが、私以上の爵位持ちにはそう言う訳には行かない。
今回の作戦は私に一任され、多額の資金も投じている。
オークションが失敗すれば大きな痛手となり、何としても成功させねばならない。
それに成功した暁には、侯爵の地位も約束されている。
私は諦めずに、各国の貴族に連絡を取り続けるのであった・・・。
ベリアベルは、オークションまで残り二日と迫ったこの日、獣人族の城へとやって来ていた。
獣人族の城は、重厚な作りで、所々に各獣人の彫刻が施されてあり、テーマパークの城を思い起こすな・・・。
俺とエリミナとソフィーラムの三人は、城の謁見の間へと通され、王座に座ったオルトバルの前で片膝をついて頭を下げていた。
獣人達を守っていた者達に話を聞きたかっただけなのだが、なぜか獣人の管理者の前にいる・・・。
「面を上げよ!」
横の一番前に立つ狼獣人から声がかかり、俺達は頭を上げた。
「この様な機会を設けて頂き感謝いたします、私はクリスティアーネ様の部下でベリアベルと申します。
今回、獣人族を攫っている組織についての調査を任されております」
俺が獣人の管理者に向け挨拶をすると、周囲からざわめきが起こった。
「ゴブリンが調査だと?」
「下等なゴブリンに、その様な事が出来るはずがあるまい!」
「後ろの猫獣人や、悪魔が調査をしているのでは?」
等と、声が聞こえて来る。
俺が逆の立場でも、そう思うから仕方ないな・・・。
「今回警備していた者から意見を聞きたいとの申し出を受け、ここに警備隊長を呼んでいる、アレヴァン前へ」
横に立つ狼獣人が声を掛けると、熊耳の付いた、二メートルは軽く超える体格のいい獣人が俺の前に出て来た。
「俺が警備隊長のアレヴァンだ!」
百六十センチの俺からでは、見上げるような形になるが、ゴブリンとして生まれて来てから、俺より小さい者とは会った事無いから今更だな。
俺を睨みつけて来るアレヴァンを睨み返して、質問をした。
「いくつか質問させて頂きます。
兎獣人の集落が襲われる前日まで、警備していたと聞いております、間違いありませんか?」
「その通りだ!」
「次に、兎獣人の集落を警備した際、周囲の探索はされましたか?」
「当然だ、半径十キロは何処でも行っている!」
「では兎獣人の集落の周辺には、人が大人数で通れるような道があったりしますか?」
「無いな、獣人族の小さな集落に繋がっている道はどれも細く、そこを人が通れば匂いで分かる!」
「探索の際、近くに人が潜んでいれば、見つけられるものなのでしょうか?」
「我々獣人は匂いに敏感だからな、たとえ姿が見えなくてもすぐに分かる!」
「最後の質問です、集落の警備は、毎回決まった間隔で行っているのでしょうか?」
「いや、回る集落に関しては、俺が無作為に決めている!」
「そうですか、ありがとうございました」
俺がお礼を述べると、アレヴァンは元いた場所へと戻って行った。
そして、今までずっと黙ったままだった獣人の管理者、オルトバルが声を発した。
「ベリアベル、今の質問で何か分かったのか?」
「はい、警備に問題が無い事が分かりました」
俺がそう答えると、オルトバルが眉をひそめた。
「ほう、我等を疑ったという事なのだな?」
「はい、私は全てを疑って行動しております、信じれば、調査はそこから先に進めません」
俺はオルトバルの目を真っすぐ見て、そう答えた。
俺がそう答えた事で、周囲から殺気が向けられてくる・・・。
特に警備隊長のアレヴァンからの殺気は凄まじい。
警備を疑っていると言われた訳だから、当然の事だろう。
「わーはっはっはっ!胆の座った男だな!これだけの殺気を受けながら動じないとは、気に入ったぞ!」
オルトバルが大笑いした事で、周囲の殺気も収まって来た。
「それで、調査の方はどれくらい進んでおるのだ?」
「先程申した通り、全てを疑っておりますので話す事は出来ません、どうしてもと言う事であれば、オルトバル様のみ、お話致します」
「分かった、場所を変えて話を聞く事にしよう」
オルトバルは王座から立ち上がり、謁見の間を出て行った。
「ご案内いたします」
狼獣人の一人が来て、俺達を案内してくれた。
城の廊下を進み、奥の扉の前までやって来た。
「オルトバル様、お連れ致しました」
「通せ!」
狼獣人が扉を開け、俺達は部屋の中へと入って行った。
オルトバルは机の椅子にドカッと座り、こちらを見ていた。
「調査の進捗を聞こう!」
「調査を開始してから三日しか経っておらず、まだ何も進んでいないと言うのが実情です」
「何だと、もったいぶった割に何も進展していないのか?」
俺が調査が進んでいないと報告した事で、オルトバルは不機嫌になった。
「はい、そこでオルトバル様に兎獣人についてお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「今回兎獣人の集落が襲われた訳ですが、兎獣人は戦闘能力を有していないのでしょうか?」
「男はある程度戦えるが、女子供は無理だな、それに女子供を盾に取られると、戦える者も手出しが出来なくなるだろう」
「確かにそうですね、では、兎獣人は人が接近して来るまで、気が付かない物なのでしょうか?」
「ふむ、その点は俺も気になっていた、兎獣人は他の獣人より警戒心が高い、逃げ遅れた者が捕まったと言うなら話は分かるが、集落全員となると、腑に落ちない」
「と言う事は、兎獣人に気付かれない様に接近し、一気に集落を制圧したのでしょう」
「その様な事が、人に可能なのか?」
「そうですね、恐らく、飛行の魔道具を使い、上空から一気に制圧した、と言う事なら気付かれず、そのまま上空を飛び、連れ去る事も可能でしょう」
「なるほど、それなら兎獣人と言えども、近くに来るまで気が付かないだろう」
「あくまでも推測の域を出ません、本当にその様な方法で実行したかは、今後の調査次第です」
「分かった」
「そこで、オルトバル様に一つお願いがあります」
「何だ?」
「獣人の集落が襲われたのは今回だけでは無いのでしょう?以前に襲われた集落と警備体制の詳細を、調べて頂けないでしょうか?」
「何だと!貴様は獣人を疑っているのか!」
オルトバルは机を両手でバンッ!と叩き、立ち上がって俺を睨みつけて来た。
「はい、獣人から情報が洩れているのでは無いかと、疑っております」
「獣人が仲間を売る事など、ありえん!」
「私にも仲間がおりますので、信じたい気持ちは分かります、ですが、調査するに当たってはその気持ちを捨てなくてはなりません」
俺がそう答えると、オルトバルはゆっくりと席に座り、目を閉じて考えている様子だった。
「・・・・・・分かった、先程の件、調べておこう」
「ありがとうございます、所で、獣人族の間で、人が使うお金は使えるのでしょうか?」
「基本は物々交換だが、この城がある周辺では使えるな、お前達と同じように、人の街の調査に向かう際には、金が必要だからな・・・つまり、そいつらも疑えと言うのだな?」
ここまで来れば、オルトバルも俺が何を言いたいのか分かった様だ。
「はい、両方を調べると見えて来る物があるかも知れません。
それと、もし私が思っている様に、情報を流している者がいたとしても、捕らえないで放置していてください」
「何故だ!仲間を売った裏切り者だぞ!」
「私は、奴隷売買をしている組織を潰す事を目的としております、情報を流している者を捕らえても、組織が無くならなければ意味が無いからです。
それと調査には数年単位の時間が掛る事も、了承してください」
「・・・分かった」
オルトバルは渋々了承してくれた。
「ではこれで失礼します」
俺達はオルトバルの部屋から出て、帰る為に城の廊下を歩いていた。
『ベル、オークションの事を話さなかったが、良かったのか?』
ソフィーラムが、念話で俺に尋ねて来た。
『オークションに兎獣人がいるとは限らないからな、もし違った場合は困るだろう?』
『そうだな・・・』
『それに、獣人を助けるのは悪魔族の仕事だ、手柄を横取りしたくない』
『そんなこと気にする必要は無い!』
『そうは言うがな、魔王様の手柄にしておけば、獣人族とも上手くやれるのでは無いだろうか?』
『それもそうだな、気遣い感謝する!』
獣人族の城を出て、転移で屋敷へと戻って来た。
それから二日後の朝、オークション当日、朝食を終えた俺達は、ローカプス王都へ転移するため、玄関前に集合していた。
「オークションとは、楽しみだの!」
「楽しみニャン!」
クリスティアーネとエリミナは、朝食の時からこの様子でご機嫌だ。
クリスティアーネは一緒に行く予定では無かったのだが、俺がオークションの事を説明すると、「われも行くぞ!」と張り切っていた。
そんな訳で、四人でローカプス王都へと転移して来た。
『クリス様も、繋げておきました』
『うむ、感謝する』
念話が無いと不便だから、ソフィーラムに頼んでおいた。
俺達はローカプス王都へと入り、東地区にある奴隷市場に歩いて向かって行った。
「ソフトクリームニャン!」
「うむ、買って行こうかの、あーはっはっはっ!」
当然、何も食べないで歩いて行けるはずもなく、アイスクリーム屋に寄り、コーンに乗ったソフトクリームを買って、食べながら歩いて行く。
ソフィーラムも何か食べて歩くのには慣れて、ソフトクリームをペロペロと舐めながら、美味しそうに食べている。
エリミナは、早くも一つ目を食べ終え、俺が持っているソフトクリームを渡して、二個目を食べ始めた。
食べるのが一番遅いクリスティアーネは、ソフトクリームが融けて来て、手を汚している。
俺はその度に手拭きを取り出し、クリスティアーネの手を拭いてやっている。
食べ終えてから、拭けば良さそうだが、それだと服が汚れてしまうからな。
ソフトクリームを食べ終える頃に、東地区に入った。
ここまで来れば、食べ物を売っている店が無いので、真っすぐ奴隷市場まで向かえる。
細い路地を抜け、奴隷市場の屋敷へとやって来た。
玄関にいる武装した男は、俺の顔を覚えていた様で、扉を開け中に通してくれた。
「お客様、お待ちしておりました」
小太りのオーナーが、手もみをしながら、俺の所へやって来た。
「今日は主も連れて来た、問題無いよな?」
「はい、問題ございません、裏に馬車をご用意しておりますので、ご案内したします」
オーナーに案内され、裏口から出ると、豪華な馬車が用意されていて、俺達はそれに乗り込んだ。
「会場に着きましたら、こちらを装着してください」
オーナーから、目元が隠れる仮面を渡された。
「会場には午後到着しますので、しばらくのご辛抱お願い致します」
オーナーはそう言って、俺達を見送った。
馬車はローカプス王都を出て、街道沿いを進んでいた。
「この仮面には、何やら魔力を阻害するような仕掛けが施されているようだの」
先程から仮面を観察していたクリスティアーネがそう言ったので、俺も仮面を見てみると、確かに魔力が淀んでいるように見える。
「恐らく、鑑定の魔道具を無効化する物だの、ほれ試してみてくれ」
クリスティアーネは仮面を付け、俺に鑑定の魔道具を寄こして来た。
「確かに、何も表示されませんね」
「ふむ、ソフィーよ、この仮面の調査も悪魔族に任せて構わんか?」
「お任せください!」
ソフィーラムは快く引き受けてくれた、悪魔族は魔道具にも精通しているのか・・・欲しい物を言ったら作って貰えたりしないかな・・・。
馬車は街道を逸れて森の中に入って行き、隠されるように建てられた、大きな屋敷へとやって来た。
そこにはすでに何台もの豪華な馬車が止められており、多くの客が訪れている事が分かる。
「皆様到着致しました、仮面をお付けしてから降りてください」
御者が馬車の扉を開け、そう言った。
俺達は仮面を付け、馬車を降り、屋敷の玄関へと向かった。
玄関では仮面を付けた執事が対応していた。
「ようこそお越しくださいました、失礼ですがカードをお見せ下さい」
俺は黒いカードを執事に見せた。
「確認いたしました、どうぞ中へお入りください」
執事は鑑定の魔道具を使い、黒いカードを確認していた。
なるほど、このカードはただのカードでは無く、何かしら魔術的な細工が施された物だったか。
後でクリスティアーネが持っている、鑑定の魔道具を貸して貰う事にしよう。
屋敷の中に入ると、仮面を付けたメイドが対応してくれた。
「いらっしゃいませ、会場へとご案内いたします」
メイドに案内され、廊下を奥に進んで行き、奥の扉から部屋の中へと入ると、地下へと降りる階段があり、そこから地下へと降りて行った。
地下の扉を出た先は、広いフロアーになっており、丸いテーブルがいくつも置かれ、既に仮面を付けた他の客が座って食事や談笑をしていた。
「こちらにお掛け下さい」
メイドに案内された席は、ステージよりやや遠い場所だった。
「オークション開始まで、もうしばらくかかります、食事をお持ち致しますので、少々お待ちください」
テーブルに次々と食事や飲み物が運ばれてくる。
俺以外の三人は、おいしそうに食事を頂いていた。
俺は参加者の様子を窺ってみる・・・半数近くが貴族の様な立派な服を着ている、残りは商人と、極少数の冒険者が見受けられる。
参加費だけでも金貨一枚かかった事から、お金持ちで無いと参加資格は無いと言う事か。
テーブルもほぼ埋まってきており、そろそろオークションが開始されるのではないだろうか。
目の前のテーブルでは、本来の仕事を忘れたかのように、三人が食事を楽しんでいた。
「なかなか美味いの、あーっはっはっはっ!」
「美味しいニャン!」
「はい、このお肉を焼いたのが特に美味しいです」
おかげで周囲からの注目を集めているが、本人たちは気にしてはいない。
俺も手元に置いてある飲み物を手に取って、一口飲んでみた。
これはワインだろうか・・・果物の良い香りと、甘い味で非常に飲みやすい。
酔う心配が無いから、いくらでも飲めそうだな。
俺がワインを堪能していると、ステージに明かりが灯り、貴族と思われる立派な服を着た男性が現れた。
あの者が司会進行役をするのだろう。
「皆様、大変お待たせしました。
これよりオークションを開始いたします。
なお、初めて参加される方もいらっしゃるようなので、簡単にご説明いたします。
オークションでお客様の気に入られた商品がございましたら、テーブルに置かれてある番号札をお上げください。
商品を落札されたお客様は、係りの者が伺いますので、その場でお支払いをお願いします。
商品に関しましては、こちらが責任を持って、お客様の元へと送り届けます。
もし、お客様の元へ商品が届きませんでしたら、全額返金いたしますので、ご安心ください。
説明は以上となります、これよりオークションを開催いたします!」
パチパチパチパチ!!
会場は興奮に包まれていた。
「いよいよだの、あーっはっはっはっ!」
「楽しみニャン!」
「はい、ドキドキしてきました!」
クリスティアーネやエリミナは分かるが、ソフィーラムまでステージに期待の眼差しを向けていた。
今まで参加したことが無いから、そのように思うのだろうが、売られる側の気持ちを思うと、俺は楽しくはなれなかった・・・。
「最初目の商品はこちら!若い女性の兎獣人です!」
下着姿に首輪を付けられ、鎖で両手を縛られた兎獣人が、ステージの中央へ引っ張られて来た。
それを見て、今まで興奮していた三人も、ここに何をしに来たのかを思い出した様子で、真剣な表情に変わった。
「こちらの商品、金板十枚からとなります!」
若い女性と言う事もあり、各テーブルから番号札が上がり、値段がどんどん上がっていく。
『クリス様、このオークションで一人は落札してください』
『うむ、そうすることで今後につながるのだな?』
『はい、商品を買ったという実績を作っておきたいのです』
『分かった』
クリスティアーネはテーブルの中央に置いてあった、二十一番の番号札を手に取った。
一番目に売られた兎獣人は、最終的に金板八十枚と言う高額で落札された。
それからは、男性や歳を取った者が、ステージに上げられ、安値で落札されていく。
『ベル、おかしい、兎獣人から魔力を感じない!』
ソフィーラムにそう言われて、ステージの兎獣人を確認すると、俺達と同じように魔力が抑えられている様子だ。
『そうだの、あの首輪が怪しいの』
『はい、これでは売られて行った兎獣人を助け出すことが、困難となります』
『それは困ったの・・・ベル、いかがいたす?』
『そうですね、ソフィー、魔族をこの屋敷の外に集合させることは可能ですか?』
『可能だ!』
『でしたら、運ばれて行くのを追跡して、ある程度離れてから救出できるでしょうか?』
『厳しい条件だな、何とかしてみよう!』
『すみません、どうしても無理なようでしたら、オークションが終了してから、この場を襲撃してもらっても構いません、兎獣人の救出を優先してください』
『分かった、仲間と相談して見る事にする』
『お願いします』
ここを襲わせるのは、今後の調査に影響が出るが、兎獣人の安全には変えられない。
オークションは、半数以上の兎獣人がステージに上げられ、落札されて行っていた。
「そろそろオークションも終盤となってまいりました!
これからは、目玉商品が出てまいります、お見逃しが無いよう、お願いします!」
ステージには、女性や子供が上げられ、高値で落札されて行った。
クリスティアーネはまだ一度も札を上げていない。
俺は心配になって、聞いて見る事にした。
『クリス様、落札していただけないのでしょうか?』
『心配するでない!こういうのは一番最後に良い商品が出て来る物なのだ!』
『確かにそうですが・・・その分値段が上がると思います』
『それがどうした?高い物を買った方が信用されるであろう?』
クリスティアーネが言うように、高い買い物をした方が信用は得られるが、それを買えるだけのお金が無い・・・。
一番最初に買われた若い女性ですら、金板八十枚だったのだ。
『クリス様、私は金板百枚程度しか持ち合わせておりません、最後の商品を買う事は不可能かと・・・』
『金なら私がいくらでも持っているから、心配する事は無いぞ!』
『分かりました』
クリスティアーネはAランクで、相当稼いでいるのは知っているが、どれだけお金を持っているのかは知らない。
俺が屋敷に来るまで、一度着た服を焼却処分するような贅沢な事をしていたから、それなりには持っているのだろうが・・・。
クリスティアーネにいくら持っているのかを聞くのもなんだしな。
クリスティアーネが心配するなと言っているから、気にしない様にしよう。
最悪落札出来なくても、手を挙げて、ある程度参加できれば、購入する意思はあった事に出来るだろう・・・多分。
女性や子供は、やはり高く競り落とされており、最低でも金板五十枚だ。
ステージからは兎獣人の子供の泣き声や、魔族語で「助けて!」と叫ぶ声が聞こえて来て、一刻も早く助けてあげたい気持ちになる・・・。
しかし、今は我慢だ・・・。
エリミナも、握りこぶしを作り、ステージを睨みつけて、じっと我慢している。
『エリー、辛いだろうが、もう少し辛抱してくれ』
『大丈夫ニャ!終わったらあいつらぶっ飛ばしてもいいニャ?』
『いや、それは駄目だ!調査は始まったばかりだからな、当分あいつらをどうにかする事はしない』
『それは残念ニャ・・・パフェ三杯で手を打つニャ!』
『分かった、ちゃんと我慢してくれたら、何杯でも食べていいよ』
『本当ニャ!約束ニャン!』
『約束しよう』
俺が約束した事で、エリミナの表情は幾分和らいだ。
俺も今この場で全員斬り殺して、助け出したい気持ちだ、同じ獣人族であるエリミナの気持ちは、もっと辛い物だろう。
パフェで少しでも気分が柔らすのであれば、いくら食べて貰っても構わない。
「皆様、いよいよ最後の商品となります!!」
ステージ上には、可愛らしい兎獣人の女の子が連れて来られていた。
「金板五十枚からとなります!」
いきなり五十枚からのスタートか・・・しかし、どのテーブルからも番号札が上がっている。
一気に百枚を超え、二百枚を超えた辺りで、番号札の数が減って行った。
それでもなお値段は上がり続け、三百枚を超えた所で、一人になった。
「もう、御座いませんか?」
進行役が、もう他に手を挙げる人がいないか確認していた。
「あーっはっはっはっはっ!金板四百枚!」
今まで番号札を挙げなかった、クリスティアーネが金額も釣り上げて、番号札を高々と上げた。
「四百枚!さぁ他にいらっしゃいませんか!」
一気に値段を上げた事で、先程まで手を挙げていた者も、少々ためらっている様だった。
「むむむっ!五百枚!五百枚じゃ!」
先程まで挙手していた、太ったおじさんは立ち上がり、クリスティアーネに負けじと、更に百枚上乗せして来た。
「なら、六百枚だの、あーはっはっはっ!」
「ぐぬぬぬ!えーい!千枚!千枚ならどうじゃ!!」
太ったおじさんは、一気に千枚まで釣り上げた事で、周囲からどよめきが起こった。
流石にクリスティアーネも、もう無理だろうと思っていたが、クリスティアーネはニヤニヤと笑っていた。
「二千枚ではどうかの?あーはっはっはっはっ!」
それを聞いた太ったおじさんは、フラフラと、倒れ込むように椅子へと座った・・・。
「二千枚!二千枚です!他にご購入の方はいらっしゃいませんか?」
進行役が周囲を見渡すが、流石に誰も手を挙げる者はいなかった。
「本日最後の商品は、二十一番のお客様に決定しました!」
パチパチパチパチ!
盛大な拍手が、クリスティアーネに贈られていた。
オークションで落札した場合、その場でお金を支払わなくてはならない。
係りの者が、クリスティアーネの元へとやって来た。
「お支払いを、お願い致します」
「うむ、金を出すから、テーブルを片付けてくれぬか?あーはっはっはっ!」
「承知しました」
係りの者が、メイドを呼び、急いでテーブルの料理を下げて行った。
そこにクリスティアーネは、大きな箱を二つ、ドンッ!ドンッ!とテーブルの上に置いた。
「一つの箱に千枚入っておる、確認するがよいぞ、あーはっはっはっ!」
係りの者は、鑑定の魔道具を用いて、箱の中に入っている金板を確認していた。
あのような使い方も出来るのか、この場で全部数えるのかと思ったが、二千枚数えるとなると、かなりの時間が掛っていただろうからな。
「確認いたしました、誠にありがとうございます」
係りの者は、金板の入った箱を、収納の魔道具へと仕舞った。
「失礼ですが、商品はどちらにお送りすればよろしいでしょうか?」
「ふむ、われらは飛行魔法で飛んで帰るからの、ここに連れて来てはくれぬか?あーはっはっはっ!」
「承知しました」
係りの者が、部下に指示を出し、しばらくして、先程の兎獣人の女の子がこちらに連れて来られた。
「お待たせ致しました、こちらが商品と、それを管理する指輪でございます。
商品はこの指輪の持ち主の命令背くと、首輪より激痛が走る様に出来ております。
もし、逃亡された場合でも、こちらの指輪にて商品の場所を確認出来る様になっております」
「うむ、では頂くぞ、あーはっはっはっ!」
クリスティアーネは指輪を受け取り、俺に目配せをして来た。
俺は兎獣人の女の子を受け取り、上着を脱いで、女の子に着せた。
流石に下着姿では、可哀そうだからな。
その際、女の子に聞こえる様な小さな魔族語で、「もう大丈夫」と伝えた。
女の子は、俺が魔族語を話したのに驚きの表情を見せていた。
「ふむ、ベルは中々に紳士だの、あーはっはっはっ!」
「普通出来ないニャン!」
「ベルは、やはり女泣かせの様だな!」
三人から、褒められてるのか貶されているのか分からない、微妙な視線を向けられた。
まぁそんな事より、女の子の方に気を使わなくては・・・。
俺はそっと女の子の手を取り、優しく微笑んで見せた。
女の子も、それに応える様に、微笑み返してくれた。
「では帰るとするかの、あーはっはっはっ!」
周囲はもう既に、ほとんどの者達が、フロアーからいなくなっていた。
俺達もフロアーを後にし、階段を上り、屋敷の外に出た。
玄関には俺達が乗って来た馬車が待ち構えていた。
『クリス様、帰りはどうします?』
『そうだの、街の近くまで送って貰った方がいいのでは無いか?』
『そうした方がよろしいかと思います』
『ではそうしよう』
御者に、街の近くで降ろしてくれと頼んで、馬車へと乗り込んだ。
『ベル、仲間と協議した結果、他の兎獣人達は、この会場を出た際に助け出す事になった、すまない』
ソフィーラムが、俺の希望通りにならなかった事を、謝罪して来た。
『ソフィー、それは兎獣人の救出を優先した結果でしょうから、問題ありません』
『しかし、今後の調査が厳しくなるのでは無いのか?』
『そうかも知れませんが、そうで無いかも知れません。
救出された獣人のお金は全額返却される事になって、主催者側から見れば大変な事でしょう。
しかし、クリス様が金板二千枚使ってくれた事で、動きやすくなったのは確かです』
『うむ、役に立ったであろう?』
『それはもう助かりました、しかし、あの様な大金を使ってよろしかったのですか?』
『問題無いぞ、お金は使いきれぬほど持っておるからの、それに、ベルが来てからと言うもの、お金を使わなくなって、貯まる一方だの』
『それならば安心しました』
馬車が街の近くで止まった。
「到着致しました、本当にこのような場所でよろしいのでしょうか?」
「構わない」
「承知しました、またのご利用お待ちしております」
御者は深々と頭を下げ、街へと戻って行った。
「では、ソフィー、屋敷まで送ってくれぬか?」
「分かりました」
ソフィーラムの転移魔法によって、屋敷へと戻って来た。
「ここまでくれば安心だの」
クリスティアーネは変身を解き、魔族語で兎獣人の女の子に話しかけた。
「魔族?」
「そうだ、われは吸血鬼のクリスティアーネだ、そなたの名前は?」
「私はマリーロップ・・・他の仲間はどうなったの!」
マリーロップは、クリスティアーネに掴み掛るような勢いで問い詰めた。
「安心するが良い、悪魔族によってあの屋敷は包囲されておる、全員助け出されるであろう」
「良かった・・・」
マリーロップはそれを聞いて安心し、緊張が解けたのだろう、全身の力が抜け、俺に倒れ掛かって来た。
俺はマリーロップを倒れないように支えた。
「・・・ゴブリン」
「そうだ、俺はクリスティアーネ様の部下で、名前はベリアベル、ベルと呼んでくれ」
「私もいるニャン!エリーニャン!」
エリミナが、獣人の仲間がいる事で安心させようと思ったのか、マリーロップの顔を覗き込んでいた。
「猫獣人・・・私、本当に助かったんだ・・・」
マリーロップは、エリミナを見て、顔を手で覆って泣き出してしまった・・・。
捕らえられてから、半月余り、相当大変だったのだろう・・・。
「ベル、屋敷の中に連れて行こう」
「はい」
玄関にいてもゆっくり出来ないからな、中に連れて行こうと思ったが、泣いているマリーロップはまともに歩くことは困難だな。
俺はマリーロップを抱きかかえ、屋敷の中に連れて行った。
「まずは、その首輪と服をどうにかしてやらんといかんの」
マリーロップは下着の上に、俺の上着を羽織っているだけだからな、ちゃんとした服を着せてやらないといけない。
「そうですね、服はともかく、首輪を外せるのでしょうか?」
「それは私がやろう!」
ソフィーラムがそう言って、首輪に手をかけ魔力を流すと、パチンッ!と言う音とともに、首輪が外れた。
「見事な物だの」
「悪魔族には、この手の魔道具の解除方法が伝わっておりますので・・・」
「この指輪も、ソフィーに預けておこう」
「お預かりします」
クリスティアーネは、オークション会場で受け取った指輪をソフィーラムに渡した。
「服はわれのを着せればいいとして、その前にお風呂だな!エリー、部屋から着替えを取って来てくれ!」
「分かったニャン!」
「ベルはそのまま、お風呂まで運んでやってくれ」
「分かりました」
俺は抱きかかえているマリーロップを、そのまま風呂場へと運んで行った。
「えっ?えっ?」
マリーロップは、お風呂と聞いて驚いていた・・・いや、ゴブリンに運ばれているから驚いているのだろうな。
風呂場に着き、マリーロップを下ろした。
「クリス様、後よろしくお願いします、私はその間に、食事を作っておきます」
「うむ、頼んだぞ」
俺は食堂に行き、少し早い夕食の準備を始めた。
しまったな・・・マリーロップが食べられない物とかあるかも知れないな。
クリスティアーネに聞いてもらえばいいか。
『クリス様、マリーロップから食べられない物があるか聞いてもらえませんか?』
『分かった、少々待っておれ』
・・・。
『ベル、何でも食べられるそうだ、しかし、捕らえられていた間、あまり食べさせて貰えなかったようだからの、柔らかい物にしてやってくれ』
『分かりました、ありがとうございます』
となると、野菜スープなんかが良いだろうな、後はパンと果物を多めに切っておくか。
他の三人には、物足りないかもしれないが、昼に豪華な食事を食べていたから、このくらいで丁度いいだろう。
まぁ足りないと文句を言われた時には、肉でも焼いてやる事にしよう。
材料を用意し、手際よく下準備をしていく。
「いつも思うが、ベルはどこで料理を覚えたのだ?」
食堂から、俺が料理を作るのをじっと見ていたソフィーラムが聞いてきた。
「街の料理屋で、作るのを見ていて覚えたんだよ」
咄嗟に嘘をついてしまった・・・ゴブリンの俺が料理をしているのは、確かに変だよな・・・。
俺が転生者なのは、クリスティアーネから他人に話さない様に言われているから、正直に話す訳にも行かない。
「そういう物なのか・・・」
「料理はやってみると意外と簡単な物だぞ、ソフィーもやってみるか?」
「いや、遠慮しておこう、この任務が終われば、食事を食べる事も無くなるだろうからな・・・」
ソフィーラムは、少し残念そうな表情を見せていた。
最近は、ソフィーラムも街での食事を楽しみにしている様だからな、任務が終わっても、たまに食事に誘ってやる事にしよう。
食事の準備を終えた頃、クリスティアーネ達がお風呂から上がり、食堂へとやって来た。
マリーロップは、クリスティアーネのゴスロリ服を着せられ、非常に可愛らしい姿へと変わっていた。
「どうだ、可愛いであろう?」
「そうですね、服とうさ耳がマッチしていて、可愛らしいと思います」
クリスティアーネが聞いて来たので、素直に答えると、マリーロップは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。
「食事の用意は出来ております、席にお座りください」
「うむ」
「ご飯ニャン!」
一緒にお風呂に入れられたエリミナは、先程まで気分が落ち込んでいた様だが、食事と聞いて元気を取り戻していた。
俺は、食事をテーブルに並べた。
「これだけニャン?」
「お昼に豪華な食事を食べましたので、夕食は少し控えめにしました」
「そんにゃ~・・・」
「しかし、スープのお代わりは幾らでもありますよ」
「では頂こう、マリーロップも遠慮する事は無いからの」
クリスティアーネが、マリーロップに食事を勧めたが、食べようとはしない。
「ふむ、仲間の事を気にしているのであれば、心配不要だぞ、ソフィーそうだな?」
「はい、屋敷の周囲を固めており、日が暮れ次第、襲撃する予定です」
「・・・分かりました、頂きます」
マリーロップはようやく食事を食べてくれた。
「美味しい」
「そうであろう、ベルの作る食事は美味いからの」
クリスティアーネに褒められて少し恥ずかしいが、マリーロップが美味しく食べてくれる様子は、素直に嬉しく思う。
食事を終え、食後の紅茶を出した。
「マリーロップ、もう落ち着いたかの?」
「はい、ありがとうございます」
「では、少し話を聞かせて貰っても構わんか?」
「はい、大丈夫です」
マリーロップは、食事をした事で、落ち着いた様子だ。
「ではベル、任せたぞ」
「はい、マリーロップさん、私からいくつか質問をしますが、答えたく無い事は、話さなくて結構です」
「分かりました」
「まず、集落を襲われた時の事を教えて貰えますか?」
「はい、襲われたのは、私達が寝静まった深夜でした。
突然の事で、大人たちも反撃できずに捕まってしまいました。
そして、全員に首輪を付けられ魔法で眠らされてしまい、次に気が付いた時には、鉄格子で囲まれた馬車の中でした。
馬車には窓が無く、外の様子を窺う事は出来ませんでした。
それからも、定期的に魔法で眠らされ、何処に連れて行かれたのかは、分かりません」
マリーロップはしっかりとした口調で答えてくれた。
「そうでしたか、では、あの屋敷に着いてからは、どう過ごしていましたか?」
「数人ずつ牢屋に入れられ、食事は一日一回のみでした」
「酷い事はされませんでしたか?」
「それは大丈夫でした、今日牢屋から出された際に、服を脱がされただけです・・・」
「分かりました、質問は以上です、ありがとうございました」
服を脱がされたこと以外は、酷い事をされてない様で良かった。
「ふむ、今日はもう休んで貰った方がいいだろう、明日、仲間の所に連れて行ってやるからの」
「ありがとうございます」
「ベル、部屋に案内してやってくれ」
「分かりました、マリーロップさん、私に着いて来て下さい」
「はい・・・」
俺は、マリーロップを部屋に案内し、部屋の扉を閉めて出て行こうとするとお礼を言われた。
「あの、今日は助けて頂いて、ありがとうございました」
「助けたのは、クリス様ですので、明日本人に言ってあげてください、とても喜ぶと思います」
俺は笑顔でそう答えると、マリーロップは笑顔を見せてくれた。
「はい、クリス様に改めてお礼を言う事にします、それとベルさんも、ありがとうございました」
マリーロップはそう言って、扉を閉めた。
特に俺が何かした覚えは無いが、お礼を言われて悪い気はしないな。
さて、食器を洗い、俺も風呂に入って寝る事にするか・・・。
その夜、悪魔族によって他の兎獣人達は全員助け出された。
翌朝、マリーロップを獣人族のお城へと送り届け、仲間との再会を果たし、兎獣人の問題は解決へと至った・・・。
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