第九話 ゴブリン 奴隷市場調査 その一

いつも通り、夜明けと共に起き、外に出て素振りを始めた。

朝のすがすがしい空気の中、徐々に集中力が高められていく・・・。

素振りを淡々と続けていると、屋敷の玄関が開く音が聞こえ、誰かがこちらへとやって来た。

魔力で察するに、ソフィーラムだと分かる、俺は素振りを止め、ソフィーラムの方へ向き直った。

「ソフィー、おはようございます」

「ベル、おはよう、邪魔した様だな」

ソフィーラムは俺が素振りを止めた事で、申し訳なさそうな表情を見せていた。

「いえ、そろそろ終わる頃でした・・・ソフィーはいつも早起きなのですか?」

「いや、悪魔族は寝る必要が無いからな、ずっと起きていただけだ」

寝る必要が無いとは、悪い事をしたな。

一晩無駄な時間を過ごさせてしまった様だ。

俺も眷族となってからは、特に寝る必要は無いのだが、クリスティアーネも寝ている事だし、用事も無いので寝る事にしていた。

「そうでしたか、退屈させてしまった様ですまない」

「いや、気にする必要は無い、これからの事を考えていたからな」

「そうでしたか、所でソフィーに聞きたい事があります」

「何だい?」

「ローカプス王国では、奴隷制度を認めているのでしょうか?」

「勿論認めている、他にもヴァルハート王国、カリーシル王国も認めているな」

三国もあるのか、これはローカプス王国だけの問題ではなさそうだな・・・。

「今まで捕まった獣人族は、ローカプス王国のみで売られていたのでしょうか?」

「基本的にはそうだ、しかし売られて行った先は、先程言ったヴァルハート王国、カリーシル王国も含まれる」

やはりそうか、となると三国全て調べなければいけないが、俺達だけでは時間が掛りすぎるな・・・。

「ソフィーは他の悪魔族を使う事は可能ですか?」

「問題無い、今回は魔王様より命令を受けているから、部下も自由に使える」

「それは助かる、今すぐにと言う訳では無いが、部下に調べて貰いたい事がある」

「分かった、何なりと言ってくれ」

「それと、今回襲われた獣人族に関して、知っている事があれば教えてくれないか?」

「そうだな、今回襲われたのは、会議が行われる十日前・・・兎獣人の集落の一つが襲われた。

集落の人数は五十名ほど、そのほとんどが連れ去られたとの事だ」

五十名の獣人を連れ去った訳か・・・余程の人数で襲わない限り、連れて行くのにも大変だろう。

「獣人達は、守っていなかったのだろうか?」

「詳しくは分からないが、獣人達で定期的に集落を回って監視を強化している様だ、兎獣人の集落にも前日に訪れて守っていたそうだ」

「なるほど、分かった、監視をしている獣人達にも話を聞きたいが、それは可能だろうか?」

「直ぐには無理だが、獣人族に話を通して置こう」

「ありがとう、助かるよ」

前日に守っていたとなると、獣人側の情報が洩れているか、逆に人族の方から監視されているのだろうな。

「それで、連れ去られた兎獣人達の救出の目処は、立っているのだろうか?」

「それはまだだ、我らが救出するのは、売られて行った先か、運ばれて行く所を襲って救出するしか手立てが無い。

何処に捕らえられているか、全く分からないのだ・・・」

ソフィーラムはそう言って、表情を歪めていた。

「そうか・・・今回俺達の仕事は、救出する事では無く、その組織自体を潰す事だ。

申し訳ないが、救出は悪魔族に任せるしか出来ない」

「それは、我等の仕事だから気にする事は無い、ベルの言う組織を潰せれば、獣人族が襲われる事が無くなるのだろう?」

「当面はそうかな・・・」

「当面とはどういう事だ?」

「それは、組織を潰せば、ある程度は被害を食い止められるだろう、しかし、奴隷制度がある以上、まだ別の組織が作られる可能性が高い」

「つまり、国の制度を変えないといけないと言う訳か」

「そうだが、魔族の俺達には無理な話だろう・・・」

「そうだな・・・」

ソフィーラムは、俺の話を聞いて落ち込んでしまった。

「ソフィー、今回は無理でも、今後はどうなるかは分からない、幸いにも俺達には時間はいくらでもある、今回の事が無事に終わったら、魔王様やクリス様に相談してみよう」

「そうだな、そうするためにも頑張らないとな」

「そう言う事だ、すまないが俺はこれから屋敷の掃除がある、朝食の準備が整ったら呼びに行くから、部屋で待っていてくれ」

「そうか、よければ私も掃除を手伝うが?」

「申し出はありがたいが、この屋敷の客に掃除を手伝わせたと知れたら、クリス様に怒られてしまう」

「それもそうだな、では部屋に戻っている事にする」

「あぁ」

ソフィーラムと別れて、掃除洗濯をし、朝食の準備を終えた後、クリスティアーネとソフィーラムを食堂に呼び、朝食を皆で食べる事となった。

「では頂くかの」

「頂きますニャン!」

「頂きます」

「・・・頂きます」

ソフィーラムが朝食を前にして、少しためらっている様だった、何か嫌いな物でもあったのだろうか?

「ソフィー、食べられない物があったか?」

「ベル、そうでは無い、悪魔族は食事をする必要が無いため、この様に朝食を摂る習慣が無いだけだ」

「そうか、無理に食べる必要は無いぞ」

「いや、頂く、折角用意して貰った物だからな」

「うむ、吸血鬼のわれも食事の必要は無いが、ベルの作った食べ物は美味いぞ!」

クリスティアーネにそう言われて、ソフィーラムは朝食を摂り始めた。

今日の朝食は、昨夜から発酵させ、焼いたパンと、ハムエッグにサラダ、果物を絞ったジュースと簡単な物だ。

この中で、卵だけは高級品だが、無いと寂しいから高くても買っている。

アイスクリームの材料にもなる卵だが、養鶏をしている所が限られており、市場に出回る数も少なく高価だ。

ではなぜアイスクリームが作られているかと言うと、勇者の子孫が養鶏と酪農を営んでおり、アイスクリームも独占して作っている様だ。

他の場所でも養鶏や酪農をすればいい様に思えるが、街の周囲には魔物が徘徊しており、家畜を飼育して、卵や牛乳や食肉を得る事が困難と言う訳だ。

食肉は魔物を狩る事で簡単に手に入るからな、わざわざ育てる必要もない。

冒険者としての収入で、お金には困って無いから、この様な贅沢が出来ているという事だ。

ソフィーラムも用意した朝食を全て食べてくれたので、安心した。

「ベル、われはこの地からあまり離れる事は出来ぬから頼んだぞ!」

「クリス様、分かりました、私に出来る限りの事をやってまいります」

「うむ、頑張ってまいれ」

クリスティアーネに見送られて屋敷を出た。

ローカプス王国に行くメンバーは、俺とソフィーラムにエリミナの三人だ。

エリミナは正直来ても役には立たないだろうが、屋敷にいても寝ているだけだから同じだな・・・。

「ベル、何処に向かえばいいだろうか?」

「そうだな、ローカプス王国の地理は全く分からない、獣人族の管理地に近い所にある、大きな街にお願いできるだろうか?」

「分かった、エーオバルの街がそれに該当するだろう、転移するから近寄ってくれ」

「分かった、その前に変身しておかなくてはな」

俺は蝙蝠のペンダント魔力を注ぎ、ゴブリンから人の姿へと変わった。

ソフィーラムも赤い瞳が黒く変化し、牙も無くなり、服装もローブ姿へと変わっていた。

今まで制服のような服を着ていたのに、一瞬で変わった事には驚いたが、女性にその様な事を聞くのも失礼な事だろう・・・。

「準備出来たニャン!」

エリミナも猫耳と尻尾が消え、全員の準備が整った。

「では、転移する」

ソフィーラムの転移によって、一瞬のうちに景色が変わり、森の中に出現した。

「ベル、エリー、こっちだ」

ソフィーラムの後に着いて行くと、整備された道へと出て、そこから少し歩いたところで街門が見えた。

「あれがエーオバルの街だ」

高い防壁に囲まれた街へと歩いて行き、門で冒険者カードを見せ、街の中へと入って行った。

「ソフィーはCランクなのだな」

街に入る際に、ソフィーラムが出した冒険者カードにはそう記されていた。

「ランクが高すぎても低すぎても、行動に支障が出るからな」

「私はAランクニャン!」

「俺はDランクだな」

エリミナが自慢する様に冒険者カードを見せていた。

「まぁそれぞれ、違うランクの方が集められる情報も違ってきていいだろう」

「そうだな」

俺とソフィーラムは、エリミナを無視して話を進めた。

「それでベル、まずは何処に行くのだ?」

「アイスクリーム屋だ!」

俺がそう答えると、ソフィーラムが不思議そうな表情を浮かべていたが、アイスクリーム屋へと案内してくれた。

「着いたニャン!」

「ベル、ここで何か重要な情報が得られるのか?」

「いや、何も得られないな・・・」

「では、何故ここへ?」

「それは、エリーを黙らせるためだ・・・」

「???」

ソフィーラムの頭の上には、クエスチョンマークがいっぱい出ているような感じだが、エリミナに食べ物を与えておかないと、今後の行動に支障をきたすから仕方が無い・・・。

「早く注文するニャン!」

俺はいつもと同じように、エリミナとは違うパフェを注文した。

「ベル、私は食べた事が無いのでどれがいいのか分からない、注文して貰えないだろうか?」

「分かった、すみません、おすすめのパフェを一つお願いします」

「は~い、本日のおすすめは、イチゴパフェとなっておりま~す」

注文を終え、席へと座った。

ソフィーラムはこの様な場所に来たのも初めての事で、店内をキョロキョロと見回していた。

やがて俺達の席のテーブルの上に、パフェが運ばれてきた。

ソフィーラムの前に置かれた、イチゴがふんだんに盛り付けられたパフェは、とても美味しそうだった。

「これ、食べてもいいのか?」

「構わない、俺のおごりだから、遠慮せず食べてくれ」

「感謝する、あまりお金は持ち合わせていないからな」

ソフィーラムはそう言って、イチゴパフェを食べ始めた。

一口ごとに、幸せそうな表情をして食べているのを見ると、普通の女の子の様に思える。

俺は自分のパフェを二、三口食べて、味を確認した後、エリミナに差し出す。

エリミナは、自分のパフェと俺のパフェを交互に食べながら、幸せそうな表情を見せている。

この二人の表情を見ているだけでも、俺は癒されて行く気がするな・・・。

二人がパフェを食べ終え、アイスクリーム屋を出た。

「ベル、ありがとう、とても美味しかった」

ソフィーラムは笑顔でそう言ってくれた、今まで硬い表情をしていた彼女が見せる笑顔は、非常に可愛らしく思える。

エリミナは上機嫌で、次は何を食べようかと、辺りを見回している。

「それは良かった、俺達と行動を共にする間は、毎日食べられるぞ」

「そうなのか!あっ、いや・・・どうしてこのような事をする必要があるのかと思っただけで、別に食べたい訳では無いぞ!」

ソフィーラムは一瞬嬉しそうな表情を見せたが、恥ずかしかったのか、俯いてしまった。

「理由は、最初に言ったように、エリーを黙らせる必要があるのと、もう一つは他の人達に怪しまれない様にするためだな」

俺はソフィーラムに小声で耳打ちした。

「アイスクリームを食べると怪しまれないのか?」

「アイスクリームに限った事では無いが、ソフィーは街に来て食事をした事があるか?」

「いや、ほとんど無い」

「俺達は食事を必要としないから、気にならないだろうが、人は朝昼晩と日に三食食べている訳だ、当然俺達も人に紛れている際には、食事を定期的にした方が怪しまれない」

「なるほど、確かにそうだな、今後街に潜入する際には気を付けよう」

「三度かならず食べる必要は無いが、移動しながら物を食べている人たちもいるだろ?あんなのを適当に食べていれば問題無いよ」

「分かった」

ソフィーラムは真剣な表情で俺の話を聞いていた。

「さて、お腹も膨れた事だろうし、冒険者ギルドへ行こう」

「では案内する」

「待つニャン、ハンバーガー食べたいニャン!」

「分かった、好きなのを買ってこい・・・」

「行って来るニャン!」

俺がエリミナにお金を渡すと、ニャン♪ニャン♪とスキップをしながらハンバーガーを買いに行った。

「ソフィーすまないが、もう少し待っていてくれ・・・」

「問題無い、あれも怪しまれないためだな!」

「いや、あれは単にエリーが食べたいからだ・・・」

真剣な表情でエリミナの行動を見ているソフィーラムには申し訳ないが、何か食べていないとお腹すいたとうるさいからな・・・。

「お待たせニャン!」

エリミナは右手にハンバーガー、左手にフライドポテトを握りしめて戻って来た。

俺はお釣りと、フライドポテトを受け取り、ソフィーラムに差し出した。

「食べていいのか?」

「半分だけニャン!」

「エリー、ありがとう」

ソフィーラムは、フライドポテトを一つ摘み、口へと運んだ。

「美味しい!芋を揚げただけなのに、なぜこのように美味しいのだ!」

ソフィーラムは次から次へと、フライドポテトを食べ続けていた・・・。

止まらない気持ちは分かるが、そろそろ半分になるので、ソフィーラムの前からフライドポテトを離した。

「あっ・・・すまない、美味しかったので、手が止まらなかった・・・」

ソフィーラムはフライドポテトを離されて、残念そうな表情を見せたが、すぐ元の表情に戻り、食べ過ぎたことを謝罪した。

「気にしないでいいニャン、ポテトは食べ出したら止まらないニャン!」

ハンバーガーを食べ終えたエリミナは、俺の手からフライドポテトを摘まんで食べ始めた。

「では、冒険者ギルドへ行こうか」

「うむ、改めて案内する!」

ようやく、本来の目的である、奴隷市場の調査へと向かう事が出来た。

冒険者ギルドへ入り、依頼が張り出されている掲示板をチェックする。

・・・。

通常の依頼しか無いな。

まぁ冒険者ギルドで、獣人族の集落を襲撃する募集を行われているとは思ってはいなかったが、それに類するようなものが隠れていないか見ていた訳だ。

兎獣人の集落は、五十名いたという事なので、そこを襲う人数も、それなりに揃えないといけないだろう。

手っ取り早く人を集めるなら、冒険者ギルドだと思って来てみたが、足が付くような所で人の募集をするはずも無いか。

「ベル、何か良い依頼はあったか?」

ソフィーラムが周囲にいる者達に、怪しまれない様な言い方で聞いて来た。

「無いな、受付で少し話を聞いて見る事にするよ」

「分かった」

俺は受付にいる、三十台が見え始めた様なお姉さんに、話を聞いて見る事にした。

「すみません、少し聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「はい、構いませんよ」

受付のお姉さんは笑顔で応えてくれた。

「私はこの地に来たのは初めてでして、私の主から頼まれ事を承って来た次第です。

その、頼まれ事と言うのが、少々言いにくいものでして・・・他の人に聞くのも、少々はばかられる物なのです・・・」

俺は困った表情を見せ、お姉さんの出方を見た・・・。

「それはもしかして、高価な買い物なのでしょうか?」

「はい、そうなんです!」

俺がそう答えると、受付のお姉さんはやっぱり!と言うような表情を見せ、俺に耳打ちをして来た。

「・・・大きな声では言えませんが、この街に奴隷市場はありません、ローカプス王都へ向かわれるといいでしょう」

「この街から王都までは、どれくらいの日数がかかるのでしょう?」

「馬車で三日かかります」

「そうですか、ありがとうございます」

俺はお姉さんに、銀板を一枚そっと握らせて、感謝を述べた。

「また何か困った事があったら、何でも聞いてくださいね」

お姉さんは銀板を受け取り、にこやかに微笑んでくれた。

取り合えず、市場がローカプス王都にある事は分かった。

兎獣人の集落が襲われたのは、十日前だったから、急がないと売りに出されている可能性が高いな・・・。

救出は悪魔族に任せるのだが、奴隷市場の場所、特に獣人を扱っている場所を出来れば突き止めておきたい。

おそらく、普通の奴隷とは違う場所に捕まっているだろうからな。

俺は、エリミナとソフィーラムを連れ、冒険者ギルドを出て行こうとすると、四人の冒険者の男達に囲まれた。

「これから狩りにお出かけかい?俺達も丁度今から行く所なんだ、よければ一緒に行かねぇか?」

男達は明らかにエリミナと、ソフィーラムを誘っていた。

「そうだな、ここで話すと他の人の迷惑になるから、外に出ないか?」

冒険者ギルド内での揉め事はご法度だ、言い争い程度なら注意されるだけだが、喧嘩となると最悪冒険者カードをはく奪されてしまう。

冒険者ギルドも、外での揉め事にまでは口を出して来る事は無い、ただ街中で剣を抜いたり魔法を使ったりすると、警備兵に捕まるのだが・・・。

「分かってるじゃねぇか、外で話し合おうぜ!」

俺達は、冒険者ギルドの外へとやって来た。

俺達がいつも回っているネイナハル王国では、この様な輩は既に排除してしまったため、絡まれる様な事は、滅多に無いのだが。

この街は始めて来たからな、Dランクの俺が女性を連れていると、舐められて絡まれる訳だ・・・。

男達は例によって、鑑定の魔道具を付けている。

あれを使われると、魔道具で魔力を抑えている俺は、非常に弱いと出る様だ。

鑑定出来るという事で、俺も教えて貰った時は購入しようと思ったのだが、クリスティアーネに止めるよう言われた。

鑑定の魔道具は便利な物だが、本質を見抜けない欠陥品だと教えられた。

クリスティアーネが持っていた物を俺に渡して来て、「われを鑑定して見よ」と言われたので、鑑定の魔道具で、魔力を抑えている状態のクリスティアーネを鑑定して見ると。

青い文字で、クリス、魔術師、Aランクと表示された。

青い文字は、自分より弱い者に出る色だそうで、いくら魔力を抑えているとはいえ、魔法を扱う技能まで落ちている訳では無い。

つまり魔力を抑えている状態でも、俺はクリスティアーネには勝つ事は出来ないからな。

そう言われると、確かに欠陥品だなと納得して、購入を止めた。

外に出た俺達は、通りの端の方に集まっていた。

男達はニヤニヤと、エリミナとソフィーラムを舐め回すように見ている。

二人は余り気にしていない様だが、俺はかなりムカついている。

「折角のお誘い申し訳ないが、私達はこれから主の用事を済ませに行くので、ご一緒出来ない」

「そう硬い事言わずによう、俺達と楽しく狩りに行こうぜ、良い狩場を知っているからよぉ」

男はしつこく言い寄って来る・・・。

殴って黙らせるのは簡単だが、警備兵のお世話にはなりたく無いな・・・。

俺がどうしようか迷っていると、ソフィーラムが男達の前に出て睨みつけた。

「弱いお前達と狩りに行っても得るものは何も無い!私達と狩りに行きたいのなら、この男を倒すといい!」

ソフィーラムが男達を挑発すると、男達はニヤリと笑いっていた。

「ほう、そこのDランクの男の方が、俺達よりも強いと言い張る訳だ!

面白い、やってやろうじゃねぇか!」

ソフィーラムは、俺に小さな声で「任せたぞ」と言って後ろに下がった。

この方法が手っ取り早いとは言え、出来る事なら穏便に済ませたかった。

男達はそれそれの武器を持ち、やる気満々だ。

流石に鞘から抜いてはいない、抜けば警備兵に捕まるから、そこまで馬鹿では無い様だ。

俺は素手のまま、男達の前に出た。

「その高価な刀は飾りか?」

「お前達程度に抜く必要もあるまい?」

俺が挑発すると、男達は声を荒げて襲い掛かって来た。

「Dランクが舐めた口を利くんじぇねぇ!」

俺の魔力は魔道具によって抑えられ、動きも普通の人並みになっている。

だがそれはあくまで肉体的な物で、技量や魔力感知が失われた訳では無い。

一人目の男が、大上段から剣を振りかぶって来る。

軌道は読めているから、それを足さばきを使って紙一重で避け、振り下ろされた腕を掴み、引っ張りながら足を掛けて倒して、鳩尾に一撃を食らわした。

「ごふっ!」

一人目の男は呼吸が出来なくなり、意識を失った。

一人目の男を仕留めた状態の俺に、二人目の男が剣で殴りつけて来る。

魔力感知で確認している俺は、何なく剣を躱し、振り下ろされた剣は、気絶した男へと当たっていた。

骨が折れたかも知れないな・・・まぁ俺の知った事では無いが。

二人目の男が、仲間に当たった事で動揺しているので、その隙に懐に潜り込み、剥き出しの顎に掌底を打ち込み、脳震盪を起こさせて倒した。

二人が倒された事で、三人目と四人目の男は二人同時に俺に襲い掛かって来た。

俺は後ろに飛んで二人の攻撃をかわし、手招きをして挑発した。

「Dランクが、なめやがって!」

「死ねやぁ!」

男達は顔を真っ赤にして、力一杯俺を殴りつけて来た。

そんな大振り当たる訳が無い!

二人の攻撃をスルリと躱し、前のめりになっている二人の背後から首筋を殴り、気絶させた。

首を殴るのは危険だが、魔法で治療すれば問題無く治るだろう・・・たぶん。

俺が二人の所に戻ると、ソフィーラムが駆け寄って来た。

「ベル、見事だった!」

「そうか?相手が弱すぎて話にならなかったと思うが・・・」

「確かに相手が弱かったが、不用意に傷つける事無く戦闘不能にする技は、他の者には真似できないだろう!」

ソフィーラムに褒められて悪い気はしないが、今は早く移動しなくては、警備兵が駆けつけてきたら面倒だ。

「取り合えず、移動しよう」

「あぁ、そうだな」

「ごはんニャン!」

「エリー、別の街へ行くから、そこで何か食べる事にしよう」

「分かったニャン!」

俺達は急いで街を出る事にした。

しかし、あいつらがエリミナに手を出さなくて助かった、エリミナは触れられる事を極端に嫌うからな。

以前エリミナの腕を掴んだ奴は、ボコボコに殴られ、俺が止めに入らなければ死んでいただろう。

普段訓練や、戦闘行為を一切しないエリミナは、手加減と言うのを知らない。

俺と戦闘訓練をすれば、その辺りも学習できるのだが。

「戦うのは嫌いニャン!」と言うので、無理強いは出来ない。

家事もしない、戦闘行為もしないのに、なぜメイド服を着せているのかと、クリスティアーネに尋ねた所。

「可愛かったからの」、と言うお答えが返って来た。

確かにエリミナにメイド服は似合って可愛らしいが、家事をしないメイドは違和感しかない・・・。

俺達は無事街の外に出る事が出来た。

「ソフィー、ローカプス王都に転移してくれないか?」

「分かった、あの森の中に行こう」

転移を他の人に見られる訳には行かないからな、一応目くらましみたいなのをしている様だが、用心するに越した事は無い。

ソフィーラムの転移で、別の場所へと移動した。

「エリー、ソフィー、聞いてくれ、これから奴隷市場に行く訳だが、もしそこで捕まっている獣人を見付けても騒いだり、助け出したりしないでくれ」

「分かったニャン!」

「分かった、しかし、情報は流していいのだろう?」

「それは勿論構わないが、出来れば売られた後に救出して欲しい」

「何故だ?そこを襲撃すれば、獣人の集落を襲った者達も捕まえる事が出来るだろう?」

「そこにいるやつらは捕まえられるが、全てでは無いだろうからな」

「そうか、他にも仲間がいると言う訳だな?」

「あぁ、獣人族がどれくらいの値段で売られているかは分からないが、相当な金額になるはずだ。

お金が動くという事は、その金額に応じて関わって来る人も増えて来る。

今回五十名もの獣人を捕らえた事から、それを捕らえて運ぶ人を集め、ここまで獣人を運んで来るのにも、馬車も相当数に上るだろう。

その上見付からない様に、捕まえておく場所も必要だ。

そして獣人を売るのに、お金を持っている人を集めなくてはならない。

これらの事を、奴隷商人一人で出来るとは思えなくてね」

「分かった、ベルの言う通りにしよう」

ソフィーラムは納得してくれたが、エリミナにもう一度確認しておいた方がいいだろう。

「エリー、もし猫獣人が捕まっていても、手出しはしないでくれよ」

「大丈夫ニャン!」

「本当だな?鞭で叩かれていても助けては駄目だからな!」

「くどいニャン、私はクリス様の眷族だから、猫獣人では無いニャン!」

「そうだな・・・分かった、信用しているぞ!」

俺もクリスティアーネの眷族だから、正確にはゴブリンでは無いしな・・・エリミナを信用しよう。

「では、街へ向かおう」

「分かった、こっちだ」

ソフィーラムの後に着いて道に出て、ローカプス王都へと入って行った。

王都内は大変活気にあふれていて、人の行き交いが激しい。

「エリー、何が食べたい?」

「そうだニャ~、カレーにしようかニャン!」

「分かった、ソフィー、カレー屋の場所は分かるだろうか?」

「大丈夫だ、案内しよう!」

ソフィーラムは迷う事無く、歩みを進めて行く。

「ソフィーは、この街にも詳しいのか?」

「来たのは初めてだが、地図は把握している」

「では、奴隷市場の場所も分かったりするのか?」

「すまない、それは分からない・・・」

ソフィーラムは立ち止まり、小声で耳打ちして来た。

「悪魔族は情報を共有出来、この街の担当の者から地図は教えて貰った、しかし、それはあくまで表面上だけの物であって、店の内部で何が売られているかは分からない。

看板が出ている店なら、問題無いのだがな・・・」

「なるほど」

奴隷市場が看板を出して、堂々と商売をしているはずも無いだろうからな。

ソフィーラムは再び歩きだし、しばらくしてカレー屋の看板の前で立ち止まった。

「ここだ!」

店内から、カレーのいい匂いだ漂って来ている。

「入るニャン!」

エリミナが早速店内に入って行ったので、俺とソフィーラムも遅れず着いて行った。

「いらっしゃいませ~、お好きな席へお掛け下さい」

店内はまだお昼前という事もあり、人はまばらだった。

エリミナが窓際の席に座り、俺達もそこへと座った。

「ベル、すまないが、私の料理も注文してくれないだろうか?」

「分かった、ソフィーは辛いのは平気か?」

「分からない・・・」

「そうだな、では甘いのを注文しよう」

ソフィーラムは食事自体、あまりして来なかったのだろうから、辛いのを食べられるかも分からないのだろう。

先程、パフェを美味しそうに食べていたので、甘いのは大丈夫だろう。

「決まったニャン!」

メニューを見ていたエリミナが決まったようなので、店員を呼ぶ事にした。

「すみません、注文お願いします!」

「は~い!」

ウェイトレスが注文を取りに来てくれた。

「ハンバーグカレー、甘口ニャン!」

「カツカレーと野菜カレー、どちらも甘口でお願いします」

「は~い、ハンバーグカレー、カツカレー、野菜カレー、全て甘口ですね、少々お待ちください」

ウェイトレスは注文を受け、厨房へと向かって行った。

さて、取り合えず奴隷市場の場所を突き止めなければならないが、何処で調べればわかるだろうか・・・。

俺が考え込んでいると、早くも注文したカレーが運ばれてきていた。

「お待たせしました、ハンバーグカレーのお客様」

「私ニャン!」

「カツカレーのお客様」

「私です」

「野菜カレーです、以上でよろしかったでしょうか?」

ウェイトレスのお姉さんは笑顔で配膳してくれた、そうだ少し聞いて見る事にしよう。

「すみません、少し訊ねたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「この街に来たのが初めての事で、行ってはいけない場所、もしくは危険な場所があったら教えて欲しいのですが?」

「・・・そうですね~、東地区には近寄らない方がいいかも知れませんね」

ウェイトレスのお姉さんは、少し考えてそう言ってくれた。

「スラム街などあったりするのでしょうか?」

「そうでは無いのですが・・・少し怖い人達がいて絡まれたりするので・・・女性連れで行くのはお勧めできません」

「分かりました、ありがとうございます」

俺はウェイトレスのお姉さんに、銅板一枚を渡し、お礼を述べた。

「いえいえ、それ以外の場所なら安全ですので、楽しんで行ってください」

ウェイトレスのお姉さんは、俺に微笑みかけてから仕事に戻って行った。

その間、エリミナとソフィーラムは食事を待っていてくれた様だ。

「すまない待たせた様だな、食べようか」

「頂くニャン!」

「あぁ、頂きます」

俺はカツカレーのカツを半分、ソフィーラムの野菜カレーの上に乗せた。

「ベル、これはお前が食べる分では無いのか?」

「俺はあんまり食べないから、食べてくれないか?」

「そうか、それなら遠慮なく頂こう」

俺達魔族は、食事を摂る必要は無いが、味覚が無い訳では無い。

美味しい物はちゃんと分る、ソフィーラムも今日食べて来た物を美味しそうに食べていたので、カツと野菜の両方の味を楽しんでもらいたいと思った。

カレーを一口食べる・・・甘いな、カレーはやはり辛いのに限る。

では何故甘口を頼んだのかと言うと、残りはエリミナが食べるからだ。

俺はカツカレーをエリミナの前に移動させた。

「ありがとニャン!」

エリミナは美味しそうに、二つのカレーを交互に食べ始めた。

「ベルは、食べるのが嫌いなのか?」

その光景を見て、ソフィーラムが不思議そうに尋ねて来た。

「食べる事は大好きだぞ、屋敷での朝食はちゃんと食べていただろう?」

「そうだな、しかし、街では全てエリーに渡しているでは無いか・・・」

「少し思う所があるだけだ、気にしないでくれ・・・」

「分かった・・・」

ソフィーラムは納得した訳では無いだろうが、食事を再開してくれた。

いまだにファンタジーの世界に、この様な日本食がある事を受け入れる事が出来ないでいた。

まぁ半分は意地になっている気もしないでも無いが、エリミナも喜んで二人分食べてくれるし、問題は無い。

「所でベルよ、先程なぜあのような事を聞いていたのだ?」

「危険な場所の事か・・・俺達は男性一人、女性二人、しかも、見た目は非常に若い。

俺達のような者が行かない場所となれば、酒場か娼館だ。

その場所をお姉さんに教えて貰ったんだよ」

「酒場の場所が知りたいなら、普通に聞けば良かったのでは?

それと、酒場の場所は分かるぞ!」

「まぁそうだな、ただ、普通に聞けば、宿屋にある酒場の場所を教えてくれるはずだ。

その様な場所に、俺達が行きたい所があると思うか?」

「確かにそうだな、私が知っている酒場も宿屋にある物で、西地区にある・・・」

「そう言う事で、午後からはそちらに向かう」

「直ぐに向かわないのだな?」

「そう言った場所は、主に夜に店が開くからな、早く行ってもあまり意味が無い」

「分かった・・・」

「そう言う訳で、ゆっくり味わって食べてくれ」

二人が食べ終えるまで、午後からの事を考えて過ごし、代金を支払ってカレー屋を後にした。

「ありがとうございました~、またいらしてください」

ウェイトレスのお姉さんは、にこやかに手を振って送り出してくれた。

「ベルは、女性にモテるのだな?」

「ん?その様な事は無いぞ、単に情報量としてお金を渡したから、あのような態度を取ってくれるだけだろう」

「本当にそれだけか?同じ女性として、あれは好意を持った笑顔だったと思うぞ!」

「そうだとしても、恋愛する訳には行かないからな、モテた所で意味が無い・・・」

「それもそうだな・・・」

女性にモテるのは非常に嬉しい事だが、俺の正体はゴブリン・・・。

ゴブリンだと分かれば、誰も好きになったりしてはくれないさ・・・。

「ところで今からどこへ向かうのだ?」

落ち込んだ俺と元気づける為か、ソフィーラムは話を変えて来た。

「冒険者ギルドに向かおう、何か情報があるかも知れない」

「分かった、こちらだ!」

ソフィーラムの案内で冒険者ギルドへ入ると、お昼時だと言うのに大勢の冒険者がいた。

「ソフィー、王都の冒険者ギルドは、いつもこのような感じなのだろうか?」

「そこまでは分からないな」

「そうか、受付で話を聞いて見るから、ソフィーとエリーは掲示板を見てくれないか?」

「分かった」

「分かったニャン!」

俺は受付に向かうと、数名いる受付のお姉さんの中から、少し年齢が高いと思われる女性の所へ行った。

身長百六十センチと小柄な俺は、年上のお姉さんからの受けがいい。

若くて綺麗なお姉さんだと、Dランクの俺は舐められて、良い情報を貰えない事が多いからな・・・。

「すみません、少しお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、冒険者カードを見せて貰えますか?」

「これです」

お姉さんは俺の冒険者カードを確認し、すぐに戻してくれた。

ここで若くて綺麗なお姉さんだと、Dランクを見て表情を変えるのだが、ベテランのお姉さんはその様な事は無い。

「確認いたしました、それで、何を聞きたいのでしょう?」

「はい、この街で特に必要となっている薬草を教えて頂けないでしょうか?」

「薬草ですか、そうですね・・・ここは王都で人が多いですから、基本的にすべての薬草は高値で取引されています。

その中で特に需要があるのは、解毒薬に使われるマリョ草ですね。

この辺りにいる魔物の多くが毒を持っていますので、冒険者の必需品となっています。

ベルさんは、薬草を主に集めているのですか?」

「はい、戦うのは苦手でして・・・そのお陰でDランクのままなんですけどね・・・」

「薬草ではランクは上がる事はありませんが、お金にはなりますからね!」

お姉さんは俺が下げている、魔道具の小袋を見てニヤリと笑った。

普通のDランクの冒険者が買えるような物では無いからな。

「えぇ、お金に困る事はありませんので、助かっています。

所で、王都の冒険者ギルドともなると、お昼でもこの様に賑わっているものなのですね」

「今日は特別ですね、大手の商人が大量に荷物を運んだ事で、その護衛の任務を終え、今報告に来ている所なんですよ」

「そうだったのですね、それではお姉さんを独占していてはいけませんね、薬草を納品して来ます、ありがとうございました」

「困った事があったら、何でも聞きに来ていいからね!」

お姉さんは手を振ってそう言ってくれた。

大手の商人が大量の荷物を運んで来たか・・・これだけの冒険者を雇ったとなると、その荷物はとても高価な物だったという事だろう。

冒険者に話を聞いて見たいが、依頼の内容を教えてはくれないだろうな・・・。

内容を話すような冒険者は信用されないし、冒険者ギルド内で依頼の内容を聞いたり話したりしていては、次から依頼を受けさせてはくれなくなる。

俺は薬草を納品しようと、奥のカウンターへとやって来た。

薬草の買い取り価格は、俺がいつも売っている、ネイナハル王国より高いな、しかも、解毒薬になるマリョ草は二倍の買い取り価格だ。

さらに、俺が集めて来る薬草は品質が良く、更に二割増しで買い取ってくれる。

いつもここまで飛んできて売れば儲かるが、時間も無いしお金にも困って無いからいいか・・・。

お金を受け取って二人の所に戻ると、二人は男達に囲まれていた・・・。

「姉ちゃん、俺達今から飲みに行くんだけど、一緒に行かないか?」

「そうそう、俺達今金持ってるからよ、奢ってやるって!」

「断る!私達は暇では無いのだ!」

「そう言わずによ、この時間からでは冒険には行かないんだろ?ちょっと付き合えよ!」

「美味い物も食わせてやるからよ!」

ソフィーラムは必死に断り続けているが、男達がその様な事を聞くはずもない・・・。

エリミナはずっと沈黙を保ち続けている・・・不味い!

俺は慌てて、二人を庇う様に男達の前に出た。

「遅いニャッ!」

「すまない、奥で納品していて気が付かなかった」

ふぅ・・・もう少し遅れていたら、エリミナが暴れ出す所だった・・・。

「何だてめえは?」

「俺は二人のパーティメンバーだ!用事があり飲みには行けないから、諦めてくれないか?」

「ふざけんな!Dランクなんかが、偉そうに言ってんじゃねぇよ!」

「お前に用は無ねぇんだよ、俺達はそこの姉ちゃんと話をしているんだ、邪魔だからどきな!」

男の一人が俺の肩に手をかけ、払いのけようとした。

しかし、その様な事で俺が動くはずもなく、俺を払いのけられなかった男は驚きの表情を見せていた。

「Dランクだよな・・・」

「確かにDランクだ、そんな俺を払いのけられないお前はEランクか?」

俺が挑発すると、男は顔を真っ赤にして俺に殴りかかろうとしていた。

「待てっ!ここではまずい!」

「しかし、こいつ俺の事をEランクだと馬鹿にしやがった!」

「冒険者ギルド内で喧嘩は不味い、抑えろ!」

「分かった・・・ふんっ、今度会ったらただじゃおかねぇぞ!」

「じゃぁな、夜道には気を付けるんだな!」

男達は捨て台詞を吐いて、冒険者ギルドを出て行った。

「ベル、すまなかった、私がちゃんと断る事が出来れば、この様な事にはならなかった物を・・・」

「いや、あのような奴らは話を聞かないからな、一緒に行動するべきだったな、すまん」

「ベルが謝る様な事では無い、悪いのはあいつらだからな!」

「そうだな、お互い悪くなかったという事だ、用事は済んだから外に出よう」

「分かった」

俺達は冒険者ギルドを出て、通りを歩き始めた。

「ソフィー達は、掲示板で何かいい情報は得られたのだろうか?」

「何も無かったニャン!」

「そうだな、特に変わった依頼は無かった」

「そうか」

「ベルは何か情報を得られたのだろうか?」

「あぁ、冒険者達が多くいた理由は分かった、大手の商人が大量の荷物の護衛依頼をしていたそうだ」

「ベルはそれが怪しいと思ったのか?」

「絶対とは言えないが、可能性は高いだろうな・・・しかし、何処に運んだのかまでは分からない。

ソフィーは、その依頼をした商人と、何処から何処へと荷物を運んだのかを、調べて貰えないだろうか?」

「分かった、部下に調べさせよう」

「よろしく頼む」

その商人については、ソフィーラムの部下に任せるとして、俺達は奴隷市場を見つけないといけないな。

「これから東地区に向かおうと思うが・・・」

「ドーナツニャン!」

そうだよな・・・目の前にドーナツ屋が見えて来たからな。

「まだ食べるのか?」

ソフィーラムが、いくら何でも食べすぎだろうと言う視線を向けてくる。

「今日はこれで最後だからな、好きなだけ買ってこい」

「分かったニャン!」

俺がお金を渡すと、エリミナは喜んでドーナツを買いに行った。

「ソフィーは、念話を使えたりするのだろうか?」

「勿論使える、そう言えばベル達とは繋げていなかったな、エリーが戻ってきたら繋げよう」

何をどう繋げるのかは分からないが、魔法を呼吸する様に使いこなす悪魔族には、念話など造作も無い事なのだろう。

「戻ったニャン!」

エリミナは、紙袋に溢れんばかりのドーナツを抱えて戻って来た。

俺はお釣りと、ドーナツが入った紙袋を受け取った。

「頂くニャン!」

エリミナは俺が抱えている紙袋から、ドーナツを一つ摘み、美味しそうに食べ始めた。

「ソフィーも食べていいぞ」

「あぁ、頂こう・・・その前に、先程言ってた事をやっておこう」

ソフィーラムはそう言うと、俺とエリミナに触れ、軽く魔力を流して来た。

『これで三人、何時でも念話で会話する事が可能だ』

『ソフィー、ありがとう』

『便利ニャン!』

念話を繋ぎ終えたソフィーラムは、ドーナツを一つ摘み、味を確かめる様に食べ始めた。

「これは美味しいな、なぜ穴が開いているのかは気になるが、甘くて食べやすい」

「気に入ったのなら良かった、まだ沢山あるから遠慮なく食べてくれ」

ドーナツを食べながら、東地区へと向かった。

・・・。

東地区へと着くと、今までの賑やかで活気あふれる雰囲気とは違い、どこか怪しげな感じがした。

『ここから先、また先程の様に絡まれるかも知れないが、俺が対処するから、手を出さない様にしてくれ』

『任せたニャン!』

『分かった』

俺達は東地区の奥へと進んでいく、左右に立ち並ぶ店は、酒場に娼館等の、男性客をターゲットにした店ばかりが並んでいた。

そのほとんどがまだ閉まっているが、その中で開いている酒場を見つけ、店内へと入って行った。

店内の様子は、日が高いにもかかわらず薄暗く、客は男性ばかりかと思いきや、女性も複数いるようだ。

いや、あの女性達はこのお店の店員だろう、男性客の相手をしている様子だ。

俺達はカウンターの席へと座った。

「いらっしゃい、見かけない顔だな・・・ご注文は?」

カウンターにいる男性店員に、怪しげな視線を向けられた。

「エールを三杯頼む」

男性店員は無言でエールを注ぎ、俺達の前に差し出した。

「銅貨十五枚だ」

俺はお金を支払った。

『ベル、私はお酒など飲んだことが無いぞ!』

『苦くて美味しくにゃいけど、大丈夫ニャン!』

『悪魔族に毒は効かないだろ?』

『確かに効かないが、お酒と何の関係が?』

『少し苦いジュースだと思えばいいよ』

クリスティアーネの眷族となった事で、あらゆる耐性が付いていて、アルコールも毒としてみなされる様で、全く酔う事は無い。

生前は、剣道の支障になるので、お酒は断っていたのだが、飲めない訳では無かった。

まぁ特にお酒が好きな訳でも無かったので、酔えなくても問題は無い。

俺はエールを一気に飲み干し、男性店員に話を聞いて見る事にした。

「聞きたい事があるのだが・・・」

俺がそう言った所で、背後から大きな声が掛った。

「あーっ!どこかで見たような顔だと思ったら、さっきの生意気なガキじゃねぇか!」

「ここはガキの来るところじゃねぇぞ!」

「そっちの姉ちゃん達を置いて、怪我しないうちに帰りな!」

「さっきは良くも馬鹿にしてくれたな!ここなら問題無い、ぶっ殺してやる!」

先程俺が挑発した男が剣を抜き、今にも襲い掛かって来そうな勢いだ!

相手は四人か・・・。

「ここでは店の迷惑になる、外に出よう」

「このガキやる気だぜ!」

「面白れぇ、DランクにCランクの実力を分からせてやるぜ!」

「四対一で勝つつもりかよ!」

「後悔させてやるぜ!」

男達は店を出て行き、俺達も後に続いて店を出た。

俺は半分ほど残っていた、ドーナツの紙袋をエリミナに渡した。

男達は、それぞれ武器を抜き、準備万端の様子だ。

「ここは俺にやらせてくれ!」

先程俺が挑発した男が一歩前に出て来た。

「いいのか?」

「問題無い!おいガキ!俺が戦ってやるから、その刀を抜け!」

「警備兵のお世話にはなりたくないからな、このままで構わない」

「安心しな!ここに警備兵が来る事はねぇ、誰が死んでも咎める者はいないからな!」

「それは良い事を聞いた、では遠慮なく刀を抜かせて貰おう!」

俺は刀を抜き、中段に構えた。

「抜いたな!これで俺がお前を殺しても問題無ねぇな、死ねや!」

なるほど、一応無防備な者を襲うほどまでは、落ちぶれていない訳か。

しかし、この様な奴が生きていても、迷惑を被る人が増えるだけだな・・・。

勢いをつけて斬り付けて来た男の剣を躱し、喉元を素早く突いて終わりだ。

ドサッ!

男は首から血を流し、その場に倒れ込んだ。

「おいっ!、何が起きたんだ!」

「よく分からねぇが、奴が倒れて動かねぇ!」

「仲間がやられたぞ!三人で一気に潰すぞ!」

男達に、俺の突きは見えなかった様だな。

まぁ、この様な奴らに見える様な剣筋では、また修行を一からやり直さないといけなくなる・・・。

男達が動揺している今がチャンスだ。

俺は素早く男達との距離を詰め、三人の首に突きを放ち、刀を鞘に納めた。

俺は男達に背を向け、二人の所に戻り、エリミナからドーナツの紙袋を受け取った。

「お見事!」

「格好良かったニャン!」

「殺していいのなら手間はかからないからな、助かった」

俺は再び店内に戻り、カウンターへと向かった。

「すまない、店の前を汚してしまった」

俺は銀板一枚をカウンターへと置いた。

「なかなかやる様だな・・・それで聞きたい事は何だ?」

男性店員は銀板を受け取り、俺に聞いて来た。

「主の屋敷で、忠実に働いてくれる者を求めてここに来た」

「そうかい、この店を出て左に進み、右側の二つ目の細い路地を奥に行った所にある」

「ありがとう」

男性店員のお礼を言って、店を出た。

通行人は男達の死体を避けて通っているが、特に気にしている様子は見られない。

ここでは人が死ぬことは、珍しい事では無いのだろう。

男性店員に言われた通り、店を出て左に進み、右側の二つ目の細い路地へと入って行った。

細い路地を抜けた先には、馬車が通れるほどの通路と、大きな屋敷があった。

「ベル、あれがそうだろうか?」

「多分そうだろう」

屋敷の玄関前には、武装した男が二人立っていた。

「すまない、ここは店だと聞いて来たのだが?」

「そうだ、ここに入りたくば、身分証を提示しろ!」

俺達は武装した男に、冒険者カードを見せた。

「入っていいぞ!」

武装した男達は扉を開け、俺達を中に通してくれた。

屋敷の中は赤いジュータンが敷き詰められていて、高級感が漂っている。

「いらっしゃいませ、わたくしこの店のオーナでテムラーと申します、お客様、本日はどの様な物をご希望でしょうか?」

立派な服装を着た、少し小太りの中年男性が、手もみをしながら話しかけて来た。

「主の屋敷で、忠実に働く者を希望だ」

「承知しました、失礼ですが、ご予算はいかほどでしょう?」

「私の主は珍しい物が好きで、金に糸目は付けないとの事だ、今日は取り合えず金板百枚を持って来ている」

俺は金板の入った箱を収納から取り出し、カウンターに置いて中身を見せた。

「これは大変失礼しました、ではご案内いたします」

「よろしく頼む」

俺は金板の入った箱を収納し、オーナーの後に着いて行った。

『ベル、よくあんな大金持っていたな!』

ソフィーラムが驚きの表情で俺を見ていた。

『あの金は、俺が冒険者として稼いだ物だ、食事以外、特に買うものは無いから貯まって行っただけだ』

『冒険者とはそんなに稼げるものなのか?』

『普通は稼げないな・・・大抵の冒険者は五、六人でパーティを組むから、当然稼ぎもその人数で割る事になるが、俺は一人だからな』

『なるほど・・・』

オーナーに案内され通された部屋は、豪華な応接室といった感じだ。

俺達がソファーに座ると、メイドが数人やって来て、紅茶とお菓子を用意してくれた。

俺はてっきり、奴隷が入れられた、牢屋みたいなところに案内されるかと思ったが、違うようだな・・・。

「お客様、今からこちらに商品を持って参りますので、少々お待ちください」

オーナーはそう言うと、部屋を出て行った。

「食べていいかニャン?」

「構わないぞ」

「頂くニャン!」

「ソフィーも遠慮しなくていいんだぞ」

「そうなのか?」

「店の厚意で出してくれた物だ、遠慮しては悪い」

「分かった」

俺も紅茶を飲む・・・美味いな!

こういう部屋が用意されているという事は、このお店は貴族相手の店という事だろう。

これだと、お目当ての兎獣人が連れて来られるかも知れない。

俺は期待して待つ事にした。

「お客様、お待たせいたしました」

オーナーが部屋に戻って来て、その後に続いて綺麗な身なりの奴隷たちが入って来た。

服装は下着姿だが、体は綺麗で、血色も良く、良い環境で管理されている事が分かる。

奴隷たちは、男性も女性も自分を買ってくれとアピールして来る。

「いかがでしょうか?」

オーナーの問いかけに、俺は首を横に振った。

オーナーはそれから三回ほど、違う奴隷を連れて来たが、俺は首を縦には振らなかった。

幼い子供の奴隷もいたが、ゴブリンの俺が買った所で、面倒を見る事が出来ないからな・・・。

「主のお眼鏡にかないそうな者はいなかった、今日はこれで失礼する」

俺がソファーから立ち上がり、部屋を出て行こうとすると、オーナーが慌てて俺を止めて来た。

「お客様、お待ちください!」

俺は立ち止まって、オーナーの方に振り返った。

「五日後、特別なオークションが開催される予定となっております、そちらでしたら、ご希望の商品が見つかるかも知れません」

「分かった、それは何処で開催されるのだ?」

「開催場所は秘密となっております、五日後の午前中にこちらへ来て頂ければ、会場へとお送り致します」

「分かった、五日後にまた来よう」

「ありがとうございます、それと参加費用として金貨一枚頂いております」

俺は金貨一枚をオーナーへと渡した。

「こちらは、会場に入る際必要となる物です」

オーナーは俺に、黒いカードを手渡して来た。

「では失礼する」

俺達は、屋敷を出て、一度帰る事にした。

『ベル、凄いじゃないか!これで兎獣人が捕らえられている場所が分かるな!』

ソフィーラムは喜びの表情を見せていた。

『まだそうとは決まった訳では無い、喜ぶのは全員助け出せた後にしよう』

『そうだな・・・』

『それから、王都と周囲の街の冒険者ギルドで、警備の任務が無いか、部下に確認させては貰えないだろうか?』

『分かった、オークション会場の警備だな』

『そうだ、名目上そう書かれてはいないだろうから、建物の警備辺りだろうか』

『部下にそう伝えよう』

『よろしく頼む』

俺達は王都を出て、転移でクリスティアーネの屋敷へと戻って来た・・・。

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