第二話 ゴブリン ソロ活動
洞窟を出て、周囲を確認する。
近くには何もいないようだな・・・。
今この状況で魔物に襲われたら、死ぬ確率が非常に高いだろう。
まずやる事はねぐらの確保だ!
場所はここから出来るだけ離れたいが、移動する距離が延びる分だけ危険も増加する。
取り合えず近場で見つけて、そこから少しずつ離れていく事にしよう。
俺は周囲を警戒しながら、慎重に歩き出した。
熱感知で見まわしながら、匂いも確認しての移動は、なかなか速度も出ず距離を稼げない。
しかし、魔物より先にこちらが見つけなければ、一方的にやられてしまうからな。
・・・どれだけ歩き続けたのだろう、肉体的には全く疲れてはいないが、周囲を警戒しながらの移動は、精神的にかなり疲れてきた。
しかし、その甲斐あって、魔物はこちらが先に発見し、危険を回避することは出来ていた。
少し休憩しようかと思っていると、微かに水の匂いを嗅ぎつけることが出来た。
俺は水の匂いがする方へと歩みを進めた。
十分ほど歩いて行くと、綺麗な小川を見つける事が出来た。
俺は周囲の安全を確認して、小川の水を触ってみた。
水は澄んでいて、とても冷たいのだと思う、感覚全般に鈍いのだろう。
口に含んで見ると、非常に美味しかった。
小川の上流を見ると、ジャングルの中から見えなかったが、山がそびえたっているのが見えた。
俺は川沿いに上流を目指しながら、住めそうな場所を探して行った。
しばらく進むと、丁度いい感じの洞穴を見つけた。
人が三人ほど入れば詰まってしまいそうな小さな物だったが、今の俺には十分な広さだ。
ここをねぐらにしよう、背負っていた鞄を置き、洞穴の外に出て、木の枝や岩などで、入り口をカモフラージュした。
これで外からパッと見て、洞穴がある事は分からないだろう。
俺は小川へ行き、周囲の安全を確認して、小川に飛び込んだ。
全身土埃と血で汚れていたため、川の水が濁ってしまったが、ゴブリンに転生してから初めての水浴びで、非常に気持ちが良かった。
温かいお風呂に入りたいが、そんな贅沢な物は無いからな・・・。
綺麗に全身を洗ってから、川から上がった。
そこでふと気が付いた・・・冒険者から服を頂いて来ればよかったと。
今まで服を着ていなかったからな・・・でも、誰かに見られる訳でも無いし、逆にゴブリンが服を着ていたら変に思われかも知れない。
さて、日も傾いて来た事だし、今日は洞穴で寝て、明日から行動する事にしよう。
俺は洞穴へと戻って行った。
洞穴の中から入口に、用意していた木で塞いだ、これでいきなり中まで入って来られる事は無いだろう。
さて、食事をしよう!
俺は冒険者達から奪って来た食料を取り出した。
焼き固められたパンに、何かの干し肉、芋みたいな根野菜、後は香草だろうか?
これは煮炊きして食べる物だろう・・・。
鍋も頂いて来たので、料理しようと思えばできるが、しかし、火を使うと魔物に気が付かれるだろう。
残念だが、そのまま食べるしか無い様だな。
取り合えず干し肉にかぶりついて見た。
悪くは無いが、生肉の方が美味しいと思ってしまった。
続いてパンを食べてみる・・・フランスパンより硬いが、味は悪くない。
バターが欲しい所だ。
お腹はたいして減っていないので、残りは取って置こう。
さて、まだ眠く無いので、明日からの事を考えて置こう。
まず生き抜くためには、進化する事が必要だ。
しかしそれは、未知の魔物と戦う事になるので、相手は慎重に選ばないといけないな。
おそらく、今まで能力を貰った、オーク、巨大なヘビ、狼ではもう進化できないだろうからな。
今日と同じように、慎重に行動して行けば、こちらが先に敵を見つける事が出来るだろう。
出来れば一対一で戦える相手が良いが、ゴブリンもそうだったように、群れで行動しているだろうからな。
今まで単独でいたのは巨大なヘビのみ。
そうなると相手が近づいて来る前に、数を減らす事を考えた方が良さそうだ。
鞄に結んでいた弓を手に取ってみて、構えてみる。
弦を引っ張って見ると、軽く引けた。
こんな軽い物だと、魔物を倒す事は出来ないのではないかと思ったが、力が強くなっている事を思い出した。
それに魔物を倒せない様な武器を、冒険者が持っているはずはないだろう。
明日、外で試し打ちをしてから、持って行くか考えよう。
後は冒険者を見つけた時どうするかだな・・・。
先程は家族を殺された事で倒してしまったが、人を殺したい訳では無い。
しかし、冒険者を放置すると、先程の様に、女子供関係なしに殺されてしまう。
俺はゴブリンだ!同族を守らないと、死んでいった家族やリーダーに申し訳なく思う。
多分、人の言葉は覚えたから、帰って貰う様に交渉してみるか?
・・・無理だろうな、ゴブリンの言う事を聞くとは思えないし、冒険者は何かを得る為に狩りに来ている訳だ。
となると、冒険者を見つけ次第、倒さなければならないか・・・。
それは最終手段として、やはりまずは交渉して見る事にしよう。
冒険者に襲われる可能性が非常に高いが、他にいい手段を思いつけなかった・・・。
とまぁこんな感じだろう、俺は洞穴の壁に体を預けて休む事にした。
手元には剣を置き、魔物がここに入ってこようとしても、すぐ対応できるようにしておく。
眠くは無いが、目を瞑って、仮眠を取る事にした・・・。
翌朝、夜明けと共に起床した。
あまり眠る事は出来なかったが、特に眠い訳では無い。
俺は剣と弓矢を持って洞穴を出て行った。
周囲を見渡し、安全を確認する。
大丈夫の様だな、弓は高校の時に、弓道部の友達にやらせて貰った事があるが、あの時は全く当たらなかったんだよな。
しかしこの弓は、弓道の弓の様に長くは無いから当てやすいだろう。
弓を構え、五十メートルほど先の木を標的にしてみる。
矢をつがえて、弦を引き搾り、よく狙いをつけて、矢を放った!
スカッ!
矢は木の横をすり抜けて行った・・・。
まぁ五十メートル以上飛ぶ事は確認出来たな!
俺は気を取り直して、十メートルほど木に近づいてから、矢を再び放った。
カスッ!
おしい!あと少しで命中したのに・・・。
次だ、もう十メートル近づいて、矢を放った。
バシッ!
当たった!
木の中央からは少し外れていたものの、命中はした。
俺は残っている矢を、全て撃ち尽くした。
三十メートルの距離だと当てる事は出来るな・・・。
あくまで当てる事だけで、敵を倒せるかと言ったら、まず無理だろう。
何故なら敵が止まっていてくれる事など無いだろうからな。
俺は矢を回収して、一時間ほど弓の練習を続けた。
しかし、そう簡単に上達する訳でも無く、これは毎日練習しなければ使い物にならないという事は分かった。
弓矢を洞穴に置き、剣とナイフを携えて狩りへと出かける。
迷子にならない様に、小川を下って行く事にしよう。
周りのジャングルは、迷い込むと自分の場所さえ分からなくなる。
以前はリーダーが方角を指示し、その方向に行くと、ちゃんと住処の洞窟に帰れていたからな。
能力かどうかは分からないが、今の俺では一人で洞穴に帰る事は無理だろう。
小川を暫く下って行くと、少し大きな川へと合流した。
木に傷を付けて、目印にしておく。
川には魚が泳いでいるが、魔物の姿は見当たらないな。
もう少し下流に行って見るか。
川を下って行くと、湖らしきものが見えて来て、そこで魔物を発見した。
俺は身を隠し、様子を伺う。
あれはリザードマンだろうか・・・ここから見えるだけでも十体以上いるな、恐らく水の中にもいるだろうから、手を出すのは危険だ。
やはり、集団での行動は基本だよな。
俺はリザードマンを狩る事を諦め、踵を返そうとしたところで、目の前の水面が盛り上がり、三体のリザードマンが飛び出してきた。
しまった!
水の中までは熱感知も嗅覚も届かないのに、油断した。
俺は慌てて元来た上流へと逃げ出そうとしたが、既に上流の方へもリザードマンが出現していて、仕方なくジャングルの奥へと逃げ出した。
あまり奥まで逃げると、帰り道が分からなくなるから行きたく無いのだが、リザードマンは陸上でも軽快な足取りで、俺の事を執拗に追って来る。
最初に現れた三体だけなら何とか出来るとは思うが、俺の逃げ道を狭める様に、左右からも三体ずつ、計九体のリザードマンが追って来ていた。
リザードマン側から見ると、ゴブリン一体と戦う事など容易い事だろうから、俺はリザードマンが諦めてくれるまで逃げるしか無かった。
ジャングルの中を右に左にと逃げ回るが、リザードマンは諦める事無く、追いかけ続けて来た。
くそー、戦わないといけないか、そう思い始めた頃、突如リザードマンの追跡が止まった。
助かったのか。
そう思って前を見ると、十メートル位の背丈を持った、一つ目の巨大な魔物が立ち塞がっていた。
サイクロプス!
もしかして、こいつの骨がゴブリンが使っていた槍の材料だったのでは無いだろうか・・・。
そんなのんきな事を考えている場合では無く、サイクロプスは片手の持った丸太を、俺に振りおろしてきている所だった。
ズズーン!
俺は全力で横へ飛び、それを躱した。
リザードマンも戦闘態勢を取っている事から、サイクロプスの出現は偶然だったのだろう。
俺は剣を抜き、戦闘態勢を取る。
しかし、この剣でサイクロプスを傷付ける事は出来るのだろうか・・・。
そもそも、後ろのリザードマンを気にしながら、サイクロプスと戦う訳には行かないな。
どちらが脅威かと言えば、サイクロプスの方だが、リザードマンも数がいる為、侮る訳には行かない。
取り合えず間に挟まれ散る状況は不味いので、横へと移動して行く。
勿論その間にも、サイクロプスから丸太が振り下ろされてきているが、幸い動きが早く無いので避ける事が出来ている。
これだけ巨大な魔物と対峙しながら、恐怖心が無いのは、ゴブリンだからという事だろうか。
しかし、丸太を食らうと、一発で死ねそうだな、注意しなければいけない。
移動を続けて行き、丁度リザードマンとサイクロプスを挟むような位置取りになった所で、リザードマンが逃げ出して行った。
・・・まぁそうだよねぇ、俺も逃げ出したいが、サイクロプスは俺を標的にしていて、簡単に逃がしてくれそうには無いな。
しかし、どうやって十メートルはあるサイクロプスを倒すのかという事だが、全くイメージが出来なかった。
強いて挙げれば、あの一つ目を潰す事だが、あの高さまで跳躍は出来ないし、もし出来たとしても叩き落されそうな気がする。
となると足を狙うしか無い訳だ。
俺は丸太の攻撃は避けるしか無いので、剣を下段に構え、サイクロプスの隙を伺う。
サイクロプスが丸太を振りかぶり、俺に振りおろして来た所で、サイクロプスの足目がけて突っ込んで、足を斬った。
キンッ!
しかし、サイクロプスの皮は非常に硬く、剣で斬り付けた所は薄く傷が付いているだけだった。
駄目か・・・俺は離脱しながら、他の方法を思案する。
傷を付けられないのであれば、毒の牙も駄目だろう、となると、今の俺では勝つ事は出来なそうだ。
よし、逃げる事にしよう!
しかし、サイクロプスは俺が足を斬り付けた事により、非常に怒っている様子で、丸太を横から払ってっ来た。
俺がそれを上に飛んで躱すと、空中に浮いている俺目がけて、パンチが飛んで来た。
流石に飛んでいる状態でそれを避ける事は出来ず、剣を盾の様に構えてそれを受けた。
バキバキバキッ、ゴロゴロゴロゴロ。
吹き飛ばされた俺は、木の枝を折りながら地面に叩きつけられ、それでも勢いが収まらず転がり続けた。
俺は慌てて起き上がり、サイクロプスを見る。
吹き飛ばされた事で、距離が離れたな・・・俺はチャンスと思い、全力で逃げ出した!
サイクロプスも俺を追いかけては来るが、ジャングルの木々の中は見通しが悪く、右や左にサイクロプスを翻弄するように逃げ回った結果、サイクロプスは俺の事を見失った様だ。
助かった、これが平原とかだと、足の長さの差で逃げ切れることは出来なかっただろう。
しかし困ったな・・・、ここが何処だか全く分からなくなってしまった。
取り合えず、周囲の安全を確認しなければ。
辺りを見渡したが、魔物の存在は確認できなかった。
次は水の匂いがしないか確認したが、それらしい匂いはしなかった。
このままでは洞穴に帰る事が出来ない・・・太陽の位置で方角はある程度分かるが、どの方角に洞穴があるのかさえ分からないからな。
せめて目印になる物があったのならばよかったのだが・・・。
そうだ、山があったよな、俺はそう思い、近くにある木に登って山を見つける事にした。
木登りは、ゴブリンの爪が丈夫であったため、問題無く出来た。
木の上まで上り詰めると、周り一面緑に覆われた中で、先程リザードマンがいた湖と、その反対側に山を確認する事が出来た。
進む方角は分かった、俺は木を降り、山の方へと歩き出した。
暫く歩いて行くと、美味しそうな果物が沢山なっている木を見つけた。
これはラッキーと思い、木に近づき果物を取ろうとすると、何かが足に絡まり、逆さ釣りにされてしまった。
俺は慌てて剣を抜き、足に絡まっている物を斬り捨てた。
俺はそのまま地面へと落ちたが、転がりながらその場を離れ立ち上がった。
木を見ると、枝が伸びて来て、俺を捕まえようとしていた。
俺は剣で枝を斬り払い、捕まれない様、何度も斬り落としたが、枝は何度斬り落としてもすぐに生えて来て、効果が無かった。
トレントの一種だろう、逃げる事は簡単だが、相手は一体だから倒す事にしよう。
もしかしたら、トレントから何か能力を得る事が出来るかも知れないからな。
俺は剣で、迫りくる枝を斬り落としながら、徐々にトレントへと近づいて行く。
もう少しで、トレントの幹に剣が届くところへ近づいた所で、左足に根が絡まって来た。
しまったと思ったが、時すでに遅し。
左足をガッチリと捕らえられ、これ以上前に進めない、上からは枝が次々と襲ってくるため、根を斬り落とす暇が無い。
俺は仕方なく剣を握りなおし、根に剣を突き刺して、左足を自由にして、後方へと飛んで逃げた。
トレントとの距離は離れてしまったが、あのままでは捕まってしまうからな。
しかし、これではトレントに近づく事は出来ないな・・・。
先程の事でトレントは調子に乗ったのか、根を地面から引き抜き、こちらにズルズルと近づいて来ている。
どうあっても俺を食べたいらしいな、俺も果物を食べたいからお相子なのだが・・・。
またトレントは、俺に枝を伸ばしてきている、先程より少し速度が上がっただろうか。
それを剣で斬り飛ばして、ふと思った。
枝を斬り飛ばさなければいいのでは無いだろうかと・・・。
俺はトレントを中心として、円を描くように周り始めた。
トレントは俺の思惑通り枝を伸ばしてくる。
トレントの周りを十周ほどしただろうか、俺も目が回って来始めたが、トレントは自分の枝どうし絡み合って、動けなくなっていた。
後は根に注意しながらトレントに近づき、剣を幹へと突き刺した。
「ギヤァァァァァァァァァ!!」
木とは思えない甲高い声でトレントは叫び、今まで動いていた枝や根も動かなくなった。
俺は念のために、二、三度剣を突き刺して確認した。
もう動かない様なので、真っ赤に熟した果物をトレントから一つ捥ぎ取った。
毒じゃないよな・・・毒でもヘビの毒の耐性があるから大丈夫だろう。
俺は思い切って、果物を一口食べた。
「甘くて美味い!」
俺はトレントに生っている果物を、お腹いっぱいになるまで食べた。
鞄とか持って来ていないので、洞穴まで持って帰れないからな・・・。
お腹いっぱいになった所で、トレントの心臓を食べて無い事に気が付いた。
トレントに心臓があるのかも疑問だが、取り合えず幹をえぐって探してみた。
見付かったのは魔石のみで、進化の為の心臓を見つける事は出来なかった。
そもそもトレントって、精霊とかそう言うカテゴリーじゃ無かっただろうか。
さて、帰る事にするか。
俺は両手に持てるだけ果物を持ち、再び歩き始めた。
しばらく行くと小川を発見でき、無事洞穴へと戻って来れた。
洞穴は特に荒らされた様子は無かったので、一応中の安全を確認して入って行った。
魔石を袋に入れた、果物を鍋の中にいれた。
しかしこのまま、ここに魔石を置いておくのは、冒険者に発見された場合持って行かれてしまうな。
俺は爪で洞穴の中の地面を少し掘ってみた、ゴブリンの爪は硬く、上手く土を掘る事が出来た。
三十センチほどの穴を掘り、そこに魔石を埋めて保管する事にした。
今だに魔石をどの様に使えばいいのか分からないが、冒険者にタダでくれてやるのは嫌だからな。
さて、お腹は先程食べた果物でいっぱいだから、少し早いが休む事にしよう。
なんだかんだ言って疲れている。
洞穴の壁にもたれかかり、目を閉じると、すぐに眠ってしまった・・・。
翌朝気持ちよく目覚めた。
俺は剣とナイフと弓矢を持ち、洞穴を出た。
外は日が差しており、明るかった。
俺は小川へと行き、水浴びをする。
昨日汚れたままだったからな、汚れを洗い落とし、サッパリした。
さて弓の練習だ、昨日遭遇したサイクロプスには、遠距離攻撃が無いと勝つのが難しい。
俺は昨日より時間を取って、弓の練習をした。
練習の成果と言えば、三十メートルの距離では木の幹から外す事は無くなった、とは言え動いていない物に対してだからな。
実戦で使って行くしか無いな。
弓矢を背負い、剣を腰に下げて、狩りに出掛ける事にした。
今日は山の周囲を回ってみよう。
少し山に登ると、草木が生い茂るジャングルから、背の高い木が生える森へと変わって行った。
この辺りだと歩きやすいな、取り合えず木に傷を付けて目印にしておこう。
俺はそこから山を時計回りに歩いて行く事にした。
森の中は薄暗いが、真っ暗な洞窟内も見通せる、ゴブリンの目では全く問題は無かった。
一時間ほど歩いて来たが、魔物と遭遇する事は無かったが、ジャングルでは見かけなかった動物をよく見かけた。
魔物を倒して進化する事も重要だが、地理や状況を確認するのも重要だ。
俺はこのまま森の中を歩き続けた。
二時間ほど歩いただろうか・・・やはり沢山の動物を見かける事はあっても、魔物の姿は全く見かけなかった。
この山には魔物が住んでいないという事なのだろうか。
ふと目の前に、森が切れ、陽の光が差し込んでいる所がある。
俺はそこへ行くと、そこは少し開けた場所となっていた。
特に何かあるわけでは無く、草や花が生えていて、ここにお弁当を持って来て食べて、昼寝でもしたら最高だろうと思えるような場所だった。
俺はそこに寝転がって空を見上げた・・・。
「悠希は今頃どうしているだろうか・・・」
俺が死んでゴブリンに転生した事は、間違いのない事実だろう。
悠希があの事故で生き延びていてくれる事を願うばかりだ。
俺の不注意で、悠希を事故に巻き込んでしまったからな・・・。
いつまでも寝転がっている訳にも行かず、体を起こした。
目の前に広がる景色は、遠くに山々が見え、今までいたジャングルとは違い、木々が生い茂る森が続いていた。
よく見ると森の合間に建物の様な物が見えた。
あれは街か?!
冒険者がいたのだから、人が住む場所があって当然だな。
ここから歩いて三時間位だろうか・・・意外と近くにある物だ。
人里を見て見たい気もするが、今の俺はゴブリンだ、見付かった時点で襲われるのは間違いないから、帰る事にしよう。
俺は来た道を引き返す事にした。
帰り道も魔物を見かける事は無く、順調に進めている。
この山が人と魔物の住み分ける境界線なのだろうか?
しかし、魔物がその様な事を守るのだろうか?
ゴブリンは会話が出来るだけの知恵は持っていたから、誰かがこの山の向こうには行かない様にと説明すれば守る事はするだろう。
もしそうだとすると誰が?という事になるが、魔王とかいたりするんだろうか・・・。
今は考えても分かる訳も無いか。
と考え事をしながら歩いていると、前方から人が歩いて来ている事に気が付き、すぐに近場に身を隠して様子を伺った。
冒険者が六人か・・・。
盾を持つ者が一人、両手剣を持つ者が二人、弓を持つ者が二人、杖を持つ者が一人、何も持たず大きな鞄を背負う物が一人。
五人パーティと荷物持ち、と言った所だろうか。
冒険者を見た時、仲間たちの事を思い出して殺意がわいたが、既に仲間の仇は討っている。
積極的に戦いたくは無いので、冒険者が通過してくれるまで、身を隠してやり過ごす事にした。
しかし、冒険者達は俺が身を隠している所の十五メートル手前辺りで立ち止まり、周囲を警戒して戦闘態勢を取り始めた。
気が付かれた?
俺の隠れている場所は分かってはいない様だが、明らかに周囲を警戒して襲撃に備えているといった感じだ。
俺みたいに何かしら、敵を発見する能力、いや技量があるのだろう。
そうで無いと、魔物がいつ襲ってくるか分からないジャングルを歩き回る事は、死に行く様な物だな。
どうするか、このまま身を隠していると、いずれ見つかるような気がする。
かと言って逃げ出せば追い回され、昨日の様に他の魔物に遭遇する可能性が高い。
以前考えた様に、話し合いによる解決を模索してみるか、短期間に二つの冒険者パーティと遭遇したと言う事は、今後も頻繁に遭遇するという事だな。
俺は両手を上げて、敵意が無い事を示しながら、身を潜めている場所から出て行った。
「こんにちは、俺はゴブリンだが、敵意が無いので攻撃しないで欲しい!」
冒険者達は、俺が人の言葉を話したのに驚いた様子だったが、すぐに俺に攻撃を仕掛けて来た。
「ゴブリン一匹だ、やっちまえ!」
俺の横を矢が次々と通過して行く、二人の弓使いが交互に矢を放ってくる。
俺は両手を上げたまま、必死に矢を避けながら、話し合いが出来ない物かと訴えかけ続ける。
「お願いだから話を聞いてくれないか!君達とは争いたくない!」
「魔物の言う事を誰が聞くって言うんだよ、大人しく死ぬんだな!」
どうやら、話し合いは出来ない様だ・・・。
俺は冒険者を倒す決意をし、剣を抜き、中段に構えて、迫りくる矢を斬り落として行く。
「撃つのを止めろ!俺が斬り殺す!」
一向に矢が当たらない事に業を煮やしたのか、両手剣を持つ一人が、俺の前に剣を構えて出て来た。
「ゴブリンが剣なんか持ちやがって、俺が剣の使い方を教えてやるよ!」
両手剣を持つ者はそう言うと、上段に構え、力一杯振り落として来た。
当たれば一撃のもとに、頭から真っ二つにされそうだが、そんな大振り、剣道を習い始めた子供でもやらないぞ・・・。
俺はすすッと足さばきだけで躱し、相手の懐に潜り込んで、喉を突き刺した。
「ガヒュッ!」
俺が剣を引き抜くと、喉から空気が抜ける音と共に、両手剣を持つ者は倒れた。
俺は冒険者へと向き直り、再び話をしてみる事にした。
「これ以上戦いたくは無いので、俺の話を聞いてくれませんか?」
「ヴィギルがやられた!全員で囲んで倒すぞ!」
盾を持つ者が俺を取り囲むように命令し、一歩前に出て来た。
やはり、ゴブリンとは話し合ってくれないか・・・。
俺は剣を眼前に持ち上げる様に、八相の構えを取った。
八相の構えは、一対一での剣道の試合で使った事は無いが、師範代からこの様な構えがある事は教えて貰っていた。
主に多対一の時に有効な構えだと、師範代が八相の構えで待ち構え、弟子五人相手に無双していたのを思い出した。
当時中学生だった俺は、面白がって師範代の真似をして、仲間五人と戦ってボコボコにされたのだが、今なら使いこなす事が出来るだろう。
残る相手は五人、盾を持つ者が前面に出て、その横にもう一人の両手剣を持つ者、後ろに弓を構えて隙あらば撃とうとしている者、杖を持つ者は何かの呪文を唱えている様だ。
大きな鞄を背負う者は、少し離れた場所で待機している。
やはり狙うのは、杖を持つ者を優先した方が良いだろう。
やがて、呪文が完成した様で、俺目がけて火の玉が飛んで来た。
それは前に見たから、追尾して来る事は分かっている。
俺は前に駆け出しながら火の玉を躱して、一気に盾を持つ者へと間合いを詰め、剣を振り下ろすフェイントをかけて、盾で視界がふさがる様にして、盾を持つ者を土台にして一気に飛び越えた!
俺の思惑通り、火の玉は盾を持つ者に当たり燃え上がっている。
「アレシス!火を消せ!」
両手剣を持つ者が、杖を持つ者へと命令をしていた。
それを受けて、杖を持つ者が、新たに呪文を唱えている様だが、俺の狙い通りだ。
弓を持つ者が、宙を舞っている俺に矢を放って来ているが、それも予測済みだ!
剣で矢を払い、着地したのち一気に杖を持つ者へと迫り、斬り捨てた!
ドサッ!
呪文を唱える事に集中していたからだろうか、杖を持つ者は避ける事も無く倒れ去った。
「トニオ、逃げろ!」
両手剣を持つ者は、弓を持つ者に逃げるように言っているが、既に俺の間合いに入っている。
ザシュッ!
弓を持つ者は、弓を盾にしようとしていたが、そんなもの斬れない訳もなく、弓ごと斬り捨てた。
そこに両手剣が迫って来たが、後ろに飛んで躱し、構えを取り直した。
盾を持つ者も、炎が消えた様で、両手剣を持つ者と並び、俺と対峙して来た。
元々盾しか燃えていなかった訳だからな、ほぼ無傷なのだろう。
「ドレアス、奴は強い、二人で協力して倒すぞ!」
「あぁ、分かってる!」
二人はじりじりと間合いを詰めて来る。
先ずは両手剣を持つ者から倒したいが、盾を持つ者がそうはさせてくれないだろう。
となれば!
俺は盾を持つ者へと迫り、剣を振り下ろす。
ガツン!
俺の剣は盾に防がれ、そこに両手剣が迫って来る。
俺は両手剣を躱しながら、盾を持つ者の横へと回り込む。
盾を持つ者は慌ててこちらに向きを変え、再び盾を構えようとするが、俺の剣の方が早く、盾を持つ手首へと当たった。
「ギンッ!」
しかし金属製の鎧に阻まれ、手首を斬り落とす事は出来なかった。
その上盾を逆に突き出されて、弾き飛ばされた。
ゴロゴロ。
俺は転がってすぐに起き上がり、後ろへ飛び跳ねて、迫って来ていた両手剣を避けた。
あぶねー。
起き上がるのが遅かったら、頭から真っ二つだった。
中々二人の連携は良さそうだな、俺は気を引き締め、二人と対峙した。
相手も俺の事をかなり警戒している様で、無理に攻めて来る事は無い様子だ。
それならばと、俺は二人の回る様に横移動を始めた。
当然二人は、俺を正面に捕らえようと、入れ替わり俺の前に出て来る事になる。
瞬間的にではあるが、一対一の状況を作り出せる。
そこに剣を振りおろして行く。
キン、キン、ガン、キン!
当然剣や盾で受け止められる訳だが、それでいい。
徐々にこちらの動きに、先読みして反撃を仕掛けて来る。
それを受け流しながら、同じように回りながら撃ち続ける。
両手剣を持つ者が俺の移動する先から、横なぎに剣を振って来た。
当然俺が進むべき進行から向かって来る剣は、避けられない。
だが俺はこれを待っていた!
両手剣を剣で受け止めながら、両手剣と持つ者へと迫り、両手剣上を滑らせるように、剣を振るった。
バシュッ!
剣は両手剣を持つ者の手首を斬り落とした。
「ぎゃぁぁぁぁ、俺の手がぁぁぁぁ!」
両手剣と持つ者は、切られた手首を抑え、うずくまった。
止めを刺したいが、盾が目の前に迫り、後ろに下がり、それを躱した。
「ピエール!手当をしてやってくれ!」
盾を持つ者が叫んで助けを呼んでいるが、誰も来る事は無かった。
おそらくピエールとは、大きな鞄を背負っていた者の事だろうが、先程確認した時には、ガタガタと震えて座り込んでいたからな。
俺は盾を持つ者へと迫る、両手剣を持つ者が復帰する前に倒す必要があるからな。
盾を持つ者も、俺から目を離してはいない。
俺は剣を上段に構えて、次々と盾へと打ち下ろして行く。
ガン、ガン、ガン、ガン!
当然盾は全く傷付く事は無いが、敵が防いでいる間に間合いを詰め、盾と鍔迫り合いのような形に持って行った。
力で押し負ける様な事は無いが、密着している為、横から剣で斬り付けられる。
でも近距離から斬り付けられても、俺の硬い皮膚を斬り割く事は出来ないだろう。
盾を思いっ切り押しのけ、弾き飛ばす!
盾の隙間からようやく相手が見え、すかさず喉元へと突きを放った。
ブシュッ!
俺の剣は鎧のつなぎ目を通って、喉へと突き刺さった。
剣を引き抜くと、盾を持つ者は崩れるように倒れた、俺は両手剣を持つ者へと近づいて行く。
片手首を失ってはいるが、片手で両手剣を持ち、まだ俺と戦う意思がある様だ。
俺は中段に構えて対峙した。
「大人しく剣を捨てれば、見逃してやるが?」
「誰がゴブリンなんかに、命乞いするかよ!」
「そうか・・・」
両手剣を持つ者は、力を振り絞って両手剣を振りおろして来たが、片手で振るには筋力が足りていない様で、速度が遅い。
俺は剣が振り下ろされる前に、踏み込んで斬り捨てた。
ドサッと両手剣と持つ者は倒れて、動かなくなった。
情けを掛けるつもりは全く無かった、あの場で俺が斬り捨てなくても、出血多量で死んでいただろうからな。
さて後一人は・・・俺は剣を鞘に仕舞って、今だに座り込んでガタガタと震えている、大きな鞄を背負う者の所へと向かった。
近づいて顔を確認すると、随分と若い少年の様だ、冒険者見習いなのだろうか。
俺は出来るだけ怖がらせない様に、少年の前にしゃがみこんで声を掛けた。
「こんにちは」
「ひっ!」
俺が声を掛けると、必死に後ずさりをして逃げ出そうとしているが、背中に背負った荷物が邪魔で逃げられない様だ。
目の前で仲間が五人殺されたのだから仕方のない事なのだろう。
「教えて欲しい事があるんだけど、いいかな?」
「ひぃぃぃ、殺さないでぇぇぇ!」
少年は手で頭を守る様に抱え込んで、丸まって震えていた。
情報を聞き出したかったのだが、無理そうだな。
「俺はこれで失礼するよ、あっ、剣は貰って行くから」
少年は今にも泣きだしそうな表情で、何度も頷いていた。
盾を持つ者から剣と鞘を頂いてっと、両手剣はどうするか・・・。
大型の魔物と対峙するには、両手剣の方が良いとは思うのだが、俺の身長とのバランスがなぁ・・・。
でもそのうち成長するかも知れないし、貰っておくか。
両手剣を二本とも頂き、それと矢も頂いて置いた。
矢自体は木を削って作れるだろうが、矢じりは作れないからな。
食料も頂きたかったが、恐らくあの少年の鞄の中だろうからな、俺は諦めて帰路へと着いた。
帰りも魔物と遭遇する事は無く、木に付けた目印の所までたどり着き、そこからジャングルの方に向かって、無事洞穴へと辿り着いた。
洞穴は・・・特に荒らされた様子も無いな。
中に入り、持ち帰った戦利品を置いて、座った。
取り合えず、剣の手入れをしないといけないな。
鞘から、血塗れの剣を引き抜き、手入れを始めた。
手入れをしながら今日の事を考える。
山には魔物がいない様だな、何故いないのかは分からないが、冒険者と遭遇する可能性が高いので、今後はなるべく山には行かない様にしよう。
山の向こう側には、人の住む街もあったな。
俺もこの様な洞窟では無く、ちゃんとした家に住みたい・・・。
ゴブリンに生まれてしまった以上、その様な事は夢なのだろうが、もう少しまともな所に住みたいものだ。
木の家を作ってみる?
すぐに魔物に見つかって壊されそうだな。
それならば石の家はだどうだろう。
石を削ったり、組み上げたり出来ないよな。
駄目そうだな、当分は家の事は諦めるしか無い様だ。
剣の手入れを終え、トレントの果物や干し肉を食べて、休む事にした。
翌朝、気持ちよく目覚めた俺は、剣とナイフと弓矢を持って小川へ行き、水浴びをした後、弓の練習をして、狩りへと出かけた。
今日は小川を渡った、反対側へと行って見よう。
三十分ほど行った所で、第一魔物を発見した。
オーク三体か、オークの能力は既に持っているから、倒しても意味が無いな。
食料と言う意味では必要だが、まだ余裕はある、オークとの戦闘を避けて先に進んだ。
オークを避け、しばらく進むと、第二魔物を発見した。
あれは初めて見る魔物だな。
丸い球体に複数の触手が生えていて、中央に大きな目玉が一つあり、触手にもそれぞれ目玉が付いていて、宙に浮いている奇妙な魔物だ。
鑑定能力とかあれば名前が分かるのだろうが、生憎そんな物はない。
俺は背中から弓矢を取り、矢じりを口に含んで毒を付けた。
弓矢を構えて、俺の射程距離、三十メートルまで気づかれない様に慎重に近づいて行く・・・。
射程距離へと入った!
慎重に狙いを付けて、矢を放つ!
ブシュッ!
矢は見事に丸い魔物へと当たった、中心では無いが構わないだろう。
俺はその場から逃げ出した。
丸い魔物が矢が当たった事で、こちらに向かって飛んできているからだ。
ザシュッ!ビシュッ!
次々と丸い魔物から魔法が放たれてきている。
俺はそれを必死に避けながら、逃げ回った。
あの大きな目玉と視線を合わせたら、絶対よく無い事が起こるだろうからな。
二十分ほど、周囲を周りながら逃げ回った結果、ようやく毒が回って来たのか、丸い魔物は地面に落ちてしまった。
俺は矢を二発放ち、もう動かない事を確認してから、丸い魔物へと近づいた。
やはり、矢の一本に付けた毒では時間が掛るな。
二、三本矢を連続で放てればいいのだが、生憎そんな技術は無い。
俺はナイフを取り出し、丸い魔物を解体して、心臓と魔石を取り出した。
心臓にかぶりつくと、やはり果物の様に美味しかった。
こいつの肉はどうしようか、少しナイフで切り取って食べてみる。
ゼリーのような食感で食べやすく美味い。
俺はお腹いっぱいになるまで、丸い魔物の肉を食べた。
新しく得た能力は、目で見た者に一時的に麻痺を与えると言う物だ、いわゆる邪眼と言う物だろう。
やはりあの目玉は危険だった訳だ、麻痺させられては良いようにいたぶられて死ぬだけだからな。
魔法を得たかったのだが、それは無理だった様だ。
魔法と言う簡単に遠距離攻撃出来るものがあれば、狩りがものすごく楽になるなと思ったのに、残念だ。
ゴブリンはやはり魔法を使う事は出来ないのだろうか、ゲームではゴブリンシャーマンとかいたような気がするんだけどな。
現実は厳しいという事なのだろう。
さて、次の狩りに行こう、手に入れた邪眼も試してみたいしな。
俺は新たな魔物と求めて、ジャングルを彷徨った。
熱感知に反応あり、木の上に二、三メートルはありそうな豹を見つけた。
パワーとスピードがありそうだな、邪眼を使いたい所だが、木の陰に隠れていて見えない。
仕方が無い、弓矢を構えて気付かれないように近づいて行く。
もう少しで射程に入る所で、豹は立ち上がり、こちらを睨んで来た。
気付かれた!
慌てて矢を放つが、動き出した豹には当たらず。
豹は木より飛びおりて、こちらに向かって駆けだして来た。
俺は弓を置き、剣を抜き、中段に構えて、豹を迎え撃つ。
真っ黒い豹は高さ二メートル、長さ三メートルといった感じででかい。
豹はあっという間に接近してきて、飛び掛かって前足の爪で攻撃して来た。
俺は爪を剣で受け流し、通り過ぎた豹へと向き直った。
今の前足の攻撃は非常に重かった、まともに受けていれば吹き飛ばされていただろう。
こちらへと向き直った豹は、連続で猫パンチ、いや豹パンチを繰り出してくる。
その一撃一撃がとても素早く、そして重い。
俺はそれを受け流す事で精いっぱいだ。
豹は攻撃が当たらない事に苛立ったのか、一度距離を離れた。
「はぁはぁ」
あんな連続攻撃受け続けるのはしんどい、しかし距離が離れた今がチャンスだ。
俺は邪眼を豹へと使ったが、豹は麻痺する事無く、加速して牙を剥いて噛みついて来た。
俺はそれを横に飛んで避ける事しか出来ない、剣で斬り付ける?
豹の口は俺を丸呑み出来るくらいに開いていたので、たとえ受け止められたとしても噛みつかれてしまう。
邪眼はどうやら、暫く見つめ続けていないと発動しない様で、頻繁に避けて視線を切っている状態では無理そうだ。
何とか斬り付けたいが、牙に爪にと立て続けに攻撃されては、躱したり受け流す事で精いっぱいだ。
しかしこのままでは、いずれ攻撃を食らってしまうだろう。
まだ体調が万全の内に勝負に出るしかない。
俺は豹の爪の右からの攻撃を、流れに逆らわない様に受け流し、その勢いのまま体を回転させ、上手く豹の横へと移動する事が出来た。
そこから飛び上がって、豹の背中にしがみつき、背中に思いっ切り噛みついた!
豹は驚き、背中を地面に打ち付け、俺を剥がそうと必死に暴れるが、俺も必死に噛みついたまま離さない!
豹は暫く暴れ続けていたが、毒が回ったのか動かなくなった。
俺は泥まみれの上、右手と両足が骨折している様だ・・・。
唯一動く左手を使って、ナイフで豹の皮を切り、そこにかぶりついて肉を食べた。
暫くすると骨折は治り、立ち上がる事が出来た。
もっと簡単に勝ちたい所だが、豹はかなり強かった。
俺は心臓を頂くべく解体を始めた。
心臓を美味しく頂き、魔石を回収した俺は、この豹の肉をどうするか悩む。
お腹はいっぱいだし、持って帰るには重すぎる、それに血の匂いをさせながら運んで行くとなると、他の魔物が襲ってこないとも限らない。
勿体ないが、放置して行くしかなさそうだ、他の魔物が食べてくれるだろう。
それで、得られた能力だが、能力と言うより肉体的な変化だな。
まず、手足の筋肉がしなやかになった、今までオークの時に得られた力強さに加えて、素早さが加わったと言う事だ。
それと、両足の裏に肉球が出来たニャー!
思わずニャーを語尾につけたくなるくらい凄い変化だ、残念な事に猫耳はつかなかった模様・・・。
まぁゴブリンに猫耳は似合わないだろうからいいのだけれど。
これで音を立てずに敵に近づけると言う事だ、恐らく豹が俺に気づいたのも音でばれたのだろうからな。
試しに軽く走ってみる。
凄く速い!
風を切って走るとはこの事だろう、今までの倍以上の速度を出せるのではないだろうか。
ただこの草木が生い茂るジャングルでは、全力では走れないな。
次はジャンプをしてみた、自分の身長からして軽く七メートルくらい飛んだのではないだろうか。
まさに飛んでいるような感覚だ、しかし長く浮いていると言う事は、その間は無防備になるから注意が必要だな。
着地もきれいに降り立った、十点満点を上げたい気分だ。
さて、今日はもう帰る事にしよう。
新しく手に入れた能力で、魔物を倒したい気持ちはあるが、倒しても食べきれないからな。
明日からは倒すのは一日一体にしよう。
帰り道で魔物を見かけたが、肉球の威力はすさまじく、気付かれず素通りすることが出来た。
洞穴に入る前に小川で身を綺麗にして、洞穴へと帰宅した。
翌日からは、麻痺と肉球と速度を手に入れた俺の狩りは、いたって簡単な物へと変わっていった。
単体の魔物には、毒の矢を撃ち込み、麻痺で動かなくして、剣で止めを刺す。
複数の魔物には、気が付かれないように近づき、一気に剣で一体を仕留めて、担いで逃げると言う事が可能となった。
こうして順調に、俺のゴブリン生活は続けられていく事となった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます