第一話 ゴブリン転生(兄)

・・・・・・。

・・・。

徐々に意識が戻って来た、俺は崖から落ちて・・・。

そうだ!悠希は無事だろうか?

目を開けようとするが思う様に開かないし、体も思うように動かせない!

体に痛みは無いが、血生臭い匂いが漂って来ている事から、俺は相当ヤバい状況にあるのだろう・・・。

何とか目を開けて状況を確認したが、思うようにいかない。

やがて、俺の方に近づいて来る足音が聞こえた。

「食え!」

どうやら俺の前に食べ物を差し出されているのだろう、強烈な血の匂いが漂って来る、そして何故か唾液が湧き出て来て、食欲がわきあがって来た。

確かに空腹だし、体も動かない状態だから、何か食べないと不味いのだろう。

俺は言われるがままに口を開き、目の前にある食べ物に食らいついた。

生肉だ!しかし空腹だったためか、非常に美味しく感じて、瞬く間に差し出された物を食べきってしまった。

すると、体のあちこちから、バキバキと言う音と共に、成長しているように感じた。

成長?と疑問に思ったが、目も同時に開いたので状況を確認する。

目の前にいたのは、全身緑色の醜い姿をした、ゲームに出て来るようなゴブリンだった!!

「ゴブリン!」

俺は思わず声に出してしまった。

「そうだ、俺達はゴブリン」

目の前のゴブリンはそう言うと、踵を返し俺の前から去って行った、どうやら敵意は無い様で安心した。

そもそもなぜゴブリンがいるのだ、俺達がいた世界にそんな物はいなかったし、もしかして俺は悪い夢でも見ているのだろうか?

俺は周囲を見回すと、この場所は洞窟の様で、岩肌がゴツゴツしていた。

そしてその中に、沢山のゴブリンがいた。

先程のゴブリンが俺達はと言った事が気になり、恐る恐る自分の体を確認する・・・。

全身何処を見ても緑色の肌だった・・・。

嘘だろぉぉぉぉぉぉ!!!

俺、ゴブリンになった!?

いやいやいや、ゴブリンとか意味わからない・・・。

ゴブリンと言えば、ゲームに序盤で出て来る雑魚魔物として有名だ。

そんな魔物に生まれ変わった?

取り合えず落ち着こう・・・目を瞑って深呼吸をするんだ、スーハー、スーハー。

夢かも知れないから、取り合えずほっぺをつねってみる!

あれ、痛くない?

もう少し強くつねって見たが、全く痛みを感じる事は無かった。

ふぅ~、どうやら崖から落ちたショックで悪い夢を見ているのだな・・・。

良かった~、ってそれは余計不味い状態なんじゃないか!

怪我をして意識を失った状態で、夢を見続けている事になる。

俺はまだ崖の下に意識を失った状態でいるか、病院のベッドの上で寝たきりの状態になっているかのどちらかだろう。

どちらの状況にしても、早く目を覚まさなけばならない!

悠希がどうなっているかも心配だ。

俺は再び目を開いて見るが、状況は変わってはいなかった、ゴブリンが大勢いて食事(何かの生肉)をしていた。

しかし夢を見るにしても、ゴブリンに生まれ変わる夢とか無いだろう、どうせ見るならドラゴンとか良かった・・・。

そんな事より、どうやれば夢から覚めるのか考えないといけない、取り合えず体を動かしてみる事にした。

先ずは腕を前から上にあげ、背伸びの運動から。

いち、にい、さん、よん・・・。

軽く体操して見たが、目覚める事は無いな、周りのゴブリンからは何やってんだこいつ?みたいな視線を向けられている・・・。

夢だからそんな事は気にせず、次はジャンプをしてみた。

あんまり力を入れて無かったのだが、軽く二メートルは上に飛んだな・・・。

次は力一杯飛ぶと、三メートルほど飛び上がって軽く着地した。

俺が遊んでいると思ったのだろうか、それを見ていた周りの子供のゴブリン達も、俺と同じように飛び上がって遊び始めた。

俺の目線から見るに、子供のゴブリンは身長五十センチほど、大人のゴブリンが倍くらいの一メートル位だろうか?

という事は俺も五十センチ位だろう、そんな事より次は走ってみよう。

軽く走ったつもりが、意外と早く走れて、急いで止まろうとするも壁に激突してしまった。

意外と強くぶつかったと思ったが、やはり痛みは無かった。

俺が走った事で、また次の遊びだと他の子供のゴブリン達も洞窟内を走り始めた。

それにしても、俊敏に走るな・・・。

そうしていると、大人のゴブリン達はそれぞれ、木や骨で作った槍の様な武器を携え、洞窟から出て行った。

まだ洞窟内には、四十人ほどのゴブリンが残っている、恐らく女性のゴブリンとその子供達だろう。

残念な事に、男性と女性の区別はつかなかったが、残っているゴブリンのお腹が膨らんでいるので、身ごもっていると思い女性だと判断した訳だ。

俺も洞窟の外に出れば、目が覚めるのではと思い、大人のゴブリンの後を追いかけ、出口へと向かった所、入り口で見張りをしているゴブリンに、洞窟内へと連れ戻されてしまった。

洞窟から出ると、目が覚める様な感じはするのだが、他のゴブリンに、こいつが外に出ない様に見張っていてくれと頼んで行ったので、それは難しそうだ。

仕方が無いので俺は大人しくその場に座り、別の手段を考える事にした。

再度ほっぺをつねって見たが、やはり痛みは無く、夢であるだろうと思う。

暫く考えていたが、良い案は思い浮かばず、やがて急速に眠気が襲って来た。

夢の中で寝る?もしかしてこれが夢から覚めようとしているのだろうか、俺はそう思い横になって眠る事にした。

・・・どれくらい眠っていたのだろう、強烈な血の匂いによって目が覚めた。

「食え!」

目を開けると、ゴブリンが俺の口の前に肉の塊を差し出していた。

夢なのだろうが、急激な空腹に襲われたので、仕方なく目の前の肉の塊にかぶりついた、美味い!

俺は空腹の為、一気にその肉の塊を平らげた。

すると、またバキバキと音を立てながら、俺の体が成長していった。

周りの子供のゴブリンも同じ様に、肉の塊を与えられ成長していた。

子供のゴブリンは八十センチくらいまで成長して止まり、大人のゴブリンより少し小さいほどになっていた。

もう一度成長すると大人と変わらない様になるのだろうか?

そんな事よりも、いまだに夢から覚めないのはどういう事だろう・・・。

もしかして、本当にゴブリンへと生まれ変わってしまったのだろうか・・・。

冷や汗が流れて来る・・・。

俺が不安に思っていると、食事を終えたゴブリン達が交尾を初めていた・・・。

種の繁栄には必要な事ではあるが、目の前で複数の交尾を見せられるのは流石に遠慮願いたい。

とは言え、交尾は十秒ほどで終わっていた、長い時間交尾をするのは人だけという事だな・・・。

交尾を終えたゴブリン達は、武器を手にして洞窟を出て行った。

これが夢じゃないとすると、俺はゴブリンの子供として養われている訳で、父達?の帰りを待つしか無いという事だろうか・・・。

最悪、ゴブリンに生まれ変わったとして、今俺がすべき事は、情報を集める事だな。

俺は近くにいる女性のゴブリンに近づき、話をしてみる事にした。

「すみません、話をしてもいいですか?」

「ぼうや、なに?」

ゴブリンは優しそうに微笑んだ表情を見せてくれた。

「名前を聞いてもいいですか?」

「私達に名前なんて無いよ、おかしな事を聞く子だね」

名前が無い、ゴブリンに名前がある方が変なのだろうか、まぁそうかもな。

「洞窟の外はどうなっているのでしょう?」

「知らないよ、私はここから出た事が無いからね、でも、ぼうやはすぐに出られるようになるさ」

女性は洞窟から外へは出ないのか、そして、俺は男だから先程の様に、外に狩りに行けるようになるという事か。

しかし狩りか・・・武器はお世辞にも上等とは言えなかった、あんな物で無事に狩りから戻って来られるか不安になる。

まだ色々聞きたい事はあるが、あまり聞いては怪しまれそうなので、少し離れて座り込んだ。

もし俺が車ごと崖から落ちた事で死んでしまい、ゴブリンに転生したのだとしたら、悠希も同じ様にゴブリンに生まれ変わっていたりするのだろうか?

もしそうだとするなら、名前を呼べば反応するかも知れない、そう思って周りに聞こえるくらいの声で名前を呼んでみた。

「悠希・・・」

特に周りのゴブリンが反応する事は無く、悠希がここにいない事に安堵した。

おそらく崖から落ちて死んだのは、俺だけなのだろう。

ゴブリンに転生したのは納得いかないが、悠希が生きているのであれば、それは喜ばしい。

俺のミスで事故に巻き込み、悠希が死んだとなれば、俺は死ぬほど後悔した事だろうからな。

座り込んで考えていると、また眠気が襲って来た、恐らく急激な成長に伴う睡眠なのだろう、他の子供のゴブリン達も寝ているからな。

俺は仕方なく眠りについた・・・。

・・・俺は物音で目が覚めると、狩りから戻って来た男達が獲物を切り分けている所だった。

獲物が何なのかは分からないが、二メートル以上はありそうな感じだ。

ゴブリンからすると倍以上の大きさの獲物となる、それを倒して持ち帰って来るという事は、ゴブリンは俺が思っているより強いのかもしれない。

一人のゴブリンが俺に肉の塊を持って来てくれた、俺はそれを受け取りかぶりついた。

血の滴った生肉を食べる事には抵抗があるが、ゴブリンの味覚では美味しく感じられるので、あっさりと完食した。

またバキバキと音を立てて成長し、大人のゴブリンと同じ大きさになった。

三回の食事で大人へと成長した訳だ、驚くべき速さだな。

俺は成長した自分の体を確認していると、女性のゴブリンが俺の所へと寄って来た。

ドクン!

するとどうした事だろう、急激に性欲が増し、目の前の女性と交尾したくてたまらなくなった!

俺は理性を動員して、全力で性欲を押さえ込もうとするが、強力な性欲に押し流されて、目の前の女性と交尾をしてしまった・・・。

交尾が終わると、女性はさっさと俺の元を離れて行き、俺は性欲を抑えきれなかった事を非常に後悔した。

警察官である俺が、同意も無い女性と至ってしまうとは、なんと言う事だ・・・。

これが夢だとすると、俺にはそう言う願望があるという事だろうか・・・いや、決してそのような事は無い!

夢では無いとすると、ゴブリンと言う種の繁栄の為必要な事だとは思うが、出来れば合意した相手としたいと思う・・・。

俺が落ち込んでいると、一人のゴブリンが近寄って来て、木で出来た槍を俺に差し出した。

「持て!」

俺はよく分からないで槍を受け取った。

「行くぞ!」

そう言われて、狩りに行くのだと理解した。

どうやら、俺と同じように成長していた者達も、同じように槍を受け取って狩りに行く様だ。

皆に続いて洞窟の外へと歩いて行く、入り口は真っ白に光り輝いて、外の様子が中からは確認できない所を見ると昼間の様だな。

入口から外へ出て、眩しさのあまり目を細め、腕で眼を隠した。

しかしすぐに目は慣れ、周囲の状況を確認する事が出来た。

辺り一面緑に覆われていてジャングルの様だった、生えている植物は見た事無い物ばかりで、ここが以前生活していた場所とは違うのだと思い知らされた。

まぁ俺自体が既に人じゃないからな・・・。

全員が外に出た所で、一回り大きなゴブリンが指示を出している、あのゴブリンがリーダーなのだろうか?

ゴブリンの数は三十人ほど、その中からリーダーが五人ほど選出し、斥候としての役割を与えた。

残りのゴブリンを赤、白、黒の三チームに分けられ、俺は赤チームとなった。

意外としっかりしている物だと思った、俺のゴブリンに対してのイメージが、ゲームで冒険者にやられてしまう雑魚でしか無いからな・・・。

チーム分けが終わった所で、斥候の五人が移動を開始し、俺達はチームごとに分かれて斥候の後を追いかける形となった。

当然ジャングルだから道は無く、草木の間を飛び跳ねる様な感じで進んでいく。

移動速度は小走り程度、洞窟でも確認したが、ゴブリンの身体能力はかなり高く、大きな岩や崖もひょいひょいと登って行く。

一時間程度移動しただろうか・・・斥候が立ち止まり、前の様子を伺っている。

俺達も斥候の所に行き確認すると、百メートルほど先に、豚鼻で牙の生えたオークが三人歩いているのが見えた。

どうやらあれを倒す様だ、正直人を襲うのでは?と心配していたのだが安心した。

もし人を襲うようだったら、逃げだそうかとも思った、まぁこのジャングル内に人里があるような感じでは無いけどな。

リーダーから指示が出される、斥候の五人はこの場に待機して、周囲に危険が無いか監視させる様だ。

次に赤チーム、つまり俺のいるチームだが、オークに突っ込むよう命じられた。

白チームは赤チームに続き突っ込むよう命じられ、黒チームは赤チームの後に突っ込むように命じられた。

・・・チーム分けた意味ありますか?

左右や背後から別チームを攻め込ませるとかあると思うのだが、リーダーの命令は絶対の様で、皆不満を漏らす事無くオークに向けて移動を開始した。

俺も遅れない様に着いて行く、徐々に移動速度を速めながらオークへと迫って行く。

ゴブリンとなり、木の槍を持たされて、いきなり実戦とか、頭がいかれてるとか思うのだが、恐怖心は全く無かった。

やはり夢?

いやいや、もし現実だった場合油断していると死ぬことになる。

俺は剣道の試合を思い出し、集中力を高めて行った。

オークまで三十メートルといった所で、オークもこちらに気付き、棍棒を振り上げて構えを取った。

そこから赤チームのゴブリン達は一気に加速し、オークへと迫って行った、勿論俺も遅れない様に突っ込んでいく。

オークへと五メートルと迫った所で、俺の前を走っていた三人のゴブリンが、それぞれ別のオークへと跳躍して襲い掛かった。

俺は真ん中のオークへと姿勢を低くして突っ込む、俺の左右にいたゴブリンも同じ様に姿勢を低くして左右のオークへと突っ込んで行った。

何故だかは分からないが、何となくそうしろと本能で感じた。

跳躍したゴブリンと、下から突っ込むゴブリンが上下で重なる様に、一斉に槍を突き出しオークへと迫る。

オークは上に振り上げた棍棒を振りおろし、跳躍していたゴブリンと叩き落し、そのまま下にいる俺もろとも叩き潰す勢いで振り下ろして来た。

跳躍していたゴブリンは避ける事が出来ず、そのまま棍棒に当たり、俺は何とか躱して、オークの胸へと槍を突き刺した。

「バキッ!」

オークに突き刺した槍は、オークの胸に突き刺さる事無く折れてしまった。

その事に怒りを覚えたのか、オークは吠え、棍棒を横に振り払って来た。

余りに近すぎたため、俺は棍棒を避ける事が出来ず、吹き飛ばされてしまった。

ゴロゴロと地面を転がりながら十メートル飛ばされた所で、木に当たって止まった。

俺は立ち上がって体を確認する、痛みは・・・あまりない。

若干左腕が痛いかな?と思い見て見ると、棍棒に叩かれた所が陥没し、そこから先も変な方向に曲がっていて、左手が複雑骨折していて、使い物にならないと分かった。

右手には中ほどから折れた木の槍が、しっかりと握られていた。

左手以外は問題無く動く!

三人のオークとの戦いは続けられていて、次々とゴブリンがオークに槍を突き出しているが、木の槍は勿論の事、骨の槍もオークの硬い皮膚に傷を付けられてはいるが、貫通するまでには至って無い様だった。

「おしっ!」

俺は気合を入れ、素早くオークの背後へと回り込み、折れた槍を短く持って跳躍し、オークに肩車される様な感じで跨り、オークの目に折れた槍を突き刺した!

「ぐああああああ!」

目を突き刺されたオークは激しく暴れ出し、棍棒を持っていない方の手で俺を引きはがそうと、必死に叩いたり引っ張ったりして来た。

俺も引き剥がされまいと、必死にしがみついた。

いくら叩かれようと、痛みをほとんど感じない、俺は目に突き刺した槍を深く突き刺そうと力を込めて行った。

他のゴブリン達も、俺を援護するかのようにオークに攻撃を仕掛け、ついにオークは倒れ込んでしまった。

その時オークが後ろに倒れてしまった為、俺も下敷きになる形となって抜け出せない。

オークは倒れた時まだ生きていたが、上に乗られて槍で突きまくられて、ついに動か無くなった様だ。

一人のオークが倒された事によって、ゴブリン側が有利となり、残りのオークもゴブリンに倒されてしまった。

俺は全てのオークが倒された後、助け出されたが、オークの下敷きになった際に腰を強く打っており、両足が動かず立ち上がる事が出来なかった。

唯一動くのは右手だけだ、これだけ重傷を負っているにも関わらず、痛みが非常に少ないのは助かる。

しかし、俺のゴブリン人生ここで終わりか・・・所詮雑魚魔物のゴブリンだったという事だろう。

周囲のゴブリンを確認すると、十人ほど死んで動かなくなっている様だ・・・。

生き残ったゴブリン達も、俺と同じように負傷していて、無傷のゴブリンはほとんどいなかった。

リーダーが命令し、死んだゴブリンを集めて解体し始めた。

倒したオークも、リーダーが解体している様だ。

非情だとは思うが、ゴブリンにとっては当たり前なのだろう、解体したゴブリンを食べ始めていた。

俺は流石に食べたく無いと思ったが、もしかすると今まで食べていた物が、そうだった可能性を否定できない・・・。

でもまぁ、その心配をする必要は無いだろう、身動きが取れない状態では死ぬのが目に見えている。

勿論死にたくは無いが、先程から足を動かそうと何度か試みたが、全く反応が無かった。

俺は諦めて地面の上に仰向けで倒れたまま空を見上げた・・・木々の間から見える空は、雲一つなく晴れ渡り美しい。

「悠希・・・」

その時脳裏に浮かび上がったのは、悠希の姿だった。

そうだ、悠希の無事を確認するまで死ぬ訳には行かない!

そう思った所で、リーダーが俺の目の前に何か差し出して来た。

「お前よく頑張った、食え!」

目の前に差し出された物は心臓だろうか・・・リーダーから差し出された物を受け取らない訳にも行かず、動かせる右手で受け取った。

顔に血が滴り落ちて来る・・・すると何故か無性に空腹を覚え、血の滴る心臓に思い切ってかぶりついた!

口の中に広がるのは、血生臭い物では無く、果物にかぶりついた時の様な甘酸っぱい物でとても美味しく、すぐ食べきってしまった。

すると体全体が熱くなり、力がみなぎって来た。

不思議な事に折れ曲がっていた左手は元通りとなり、感覚の無かった両足も動くようになった。

俺は慌てて立ち上がり、体全身を確認すると、緑色の肌は少し色が薄くなって、皮膚も硬くなったような気がする。

身長も少し伸びただろうか?

周りを見て見ると、傷付いたゴブリン達も、食事をした後体が元通りになっていた。

それこそ腕が無かったゴブリンも、ニョキッと腕が生えて来ていたのは、驚きだった。

成長するのも早かったし、ゴブリンとはそういう物なのだろうか・・・。

とにかくこれで死ななくてすんでよかった・・・。

全員元通りとなった所で、リーダーがオークを運ぶよう命令をした。

二メートル越えのオークを神輿を担ぐように、数人のゴブリンで囲い持ち上げた。

斥候がいる所へと、オークを担いで戻り、そこから来た時と同じように、斥候に先導して貰い、無事洞窟へと帰り着いた。

洞窟内にオークの死体を運び込むと、女性達が集まって来て解体を始めた。

俺はやることが無くその様子を見ていると、リーダーが今回生き残った者達を集めて、洞窟の奥へと連れて行かれた。

「好きな武器を選べ」

そこには骨を削って作られた武器が沢山置いてあった。

皆それぞれ好きな物を選んでいる、二メートル程の槍が多いが、中には短い物もあったので、俺は一メートルほどの槍を手に取った。

俺は剣道をやっていたので、あまり長いと感覚がしっくりこなかった、これも先を尖らせただけの物なので突きしか出来ないが、良い感じだろう。

しかし、この骨の元となる生物は、相当巨大なのだろうな・・・それもゴブリンだけで倒してしまうのだろうか?

俺はそんな生物とは戦いたく無いと思いつつ、武器を手にして皆の所へ戻って行った。

洞窟の広場に戻ると、オークの解体を終え、皆に配っている所だった。

やはりと言うか、食事を終えた子供達は、みるみる成長して行った。

あれだけ激しい戦闘で多くの犠牲を出すのだから、これくらい成長して増えて行かないと、瞬く間に全滅してしまうよな・・・。

しかし、ゴブリンの身体能力は決して悪い物では無い、もう少しいい武器・・・いや、戦略を考えれば、少ない犠牲で戦えるとは思うが、無理な事なのだろうか・・・。

俺が考え事をしていると、いつの間にか目の前に女性のゴブリンが立っていた。

ドクン!

また激しい性欲が押し寄せて来る!

必死に抗おうとするが、そんな俺の抵抗を嘲笑うかのように、体は言う事を聞いてくれず、再び交尾へと至ってしまった・・・。

何とも言えない罪悪感が押し寄せて来るが、これも種族繁栄の為だと思って諦めるしか無いのだろうか・・・。

確かにゴブリンとして考えれば、生きる為の狩りで、あれだけの被害が出るのだから、子供を作る事は大切だろう。

とは言え、この前まで人だった俺の倫理観が、いけない事だと判断を下す。

俺がそんな葛藤していると、リーダーから狩りに出掛けると声が掛かった。

先程帰って来たばかりなのに、また狩りに出掛けるのか・・・。

確かに全く疲れてはいないし、心臓を食べてから元気が有り余っている気がする。

俺はゴブリンだからリーダーの指示に従って集まり、洞窟の外へと出て行った。

空は赤く染まりかけていて、もうすぐ日が暮れる事だろう。

洞窟内は真っ暗で支障なく見えている事から、夜活動する事に関しては問題なさそうだ。

しかし、夜はどんな危険があるか分からないから、気を引き締めて行く事にしよう。

リーダーによって斥候とチーム分けがなされた、今回俺は白チームだった。

斥候に選ばれれば戦闘せずに済むかもと、淡い期待をしていたのだが残念だ・・・。

今回は、前回とは違う方角に進みだした、毎回同じだと獲物に遭遇しないかも知れないからな。

しばらく行くと日は完全に落ち、多分真っ暗な闇に包まれたのだろう、なぜ多分かと言うのは、昼間より少し暗いかなと言うくらいに見通せているからだ。

空を見ても月は出ていない、そもそもこの星に月があるのかも分からないからな。

ふと斥候が大きな木の傍を通った所で、突然一人いなくなった。

残りの四人も気が付き、周囲を警戒していて、リーダーも俺達に伏せて待機を命じる。

周囲を警戒していたが、敵の攻撃は大きな木の上からだった。

木の幹に擬態した巨大なヘビが、斥候のゴブリンを一飲みにしていた。

「全員かかれー!」

リーダーから全員攻撃の命令が下された、チーム分けしたのにと思ったが、命令には逆らえず、全員で一気に巨大なヘビへと迫って行った。

その間にも斥候は巨大なヘビに噛みつかれ、動けない様になっていた。

おそらく毒なのだろう、あの牙には注意しなくてはならない。

巨大なヘビは、こちらに気付くと、スルスルと木を降りて来て、尻尾で俺達を薙ぎ払って来た。

俺も含めて半数ほどは飛び上がり難を逃れたが、半数は尻尾の攻撃により吹き飛ばされていた。

そして飛び上がって軌道修正できない俺達に向かって、巨大なヘビの牙が襲って来た。

俺は骨の槍を盾にして、牙の攻撃を受け止められたが、そのまま弾き飛ばされた。

ダメージを受けていなかったので、クルリと回転し、無事着地する事に成功した。

それでも二十メートルほど吹き飛ばされただろう、大きく離れてしまった。

しかしそのお陰で全体を見る事が出来た、ゴブリンは半壊し、残っている者達も巨大なヘビに近づく事さえ出来ずにいた。

逃げる!

一瞬頭をよぎったが、まだ皆誰も諦めずに戦っている状態で、俺だけ逃げる訳には行かないし、俺自身そんな事をするのは許せなかった。

俺は気合を入れなおし、全力で走り、巨大なヘビへと突っ込んで行った。

幸いな事に巨大なヘビはリーダと戦っており、こちらには気付いていない。

流石リーダーだな、巨大なヘビの牙や尻尾による攻撃も受け止めていた。

俺は跳躍して全体重を槍に乗せ、巨大なヘビの首筋辺りに突き立てた!

「グサッ!」

俺の槍は半分ほど突き刺さった所で止まった、俺はさらに押し込めようと力を籠めるが、巨大なヘビが暴れて、槍を掴んでいるので精一杯だった。

しかし俺が槍を話さないで振り回されるような状態となり、掴んでいる槍がその反動で、ぐりぐりと巨大なヘビの傷を広げるような形となった。

巨大なヘビは激しい痛みのせいか余計暴れて、ついに首を地面へと叩きつけた。

その事で、俺の槍はさらに深く突き刺さったが、俺は巨大なヘビと地面に挟まれる形となり身動きが取れなくなった。

というより巨大なヘビが動いて、挟まっている状態から抜け出せたとしても、全身を強く打ち付けられているので、多分動けないだろう。

口から血も出ている様だしな・・・やはりと言うか痛みを感じないので、自分の体がどこまで壊れているのか判断が出来ない。

痛みが無い事で、死への恐怖心が薄らいでいる様だ、これは非常に不味い事だな・・・。

今のも挟まれる前に逃げられたはずだ、今後意識して逃げ出すようにしないといけない。

巨大なヘビがまた暴れ出し、俺の上からどいてくれた。

俺は立ち上がろうと体を動かすと、意外な事に手足共無事で立ち上がる事が出来た。

何にせよまだ戦えるという事だ、俺は近くで死んでいるゴブリンの手から槍を貰い受け、再び巨大なヘビと対峙する。

巨大なヘビは暴れ続けていて、所構わず尻尾や首を振り回している。

そのせいでリーダーを含む他のゴブリン達は、巨大なヘビに近づく事が出来ないでいた。

俺は全力で巨大なヘビ目がけて走り込み、跳躍して、上から比較的動きが鈍い巨大なヘビの中心部分へと槍を突き刺した。

今度は上からだったので、槍は一メートルほど突き刺さった、俺が最初に持ってた槍の長さが一メートルだったので、倍は突き刺さった事になる。

巨大なヘビは新たな痛みに、こちらへと振り返り、口を開けて牙で攻撃して来た。

俺は咄嗟に後ろに飛び牙を避けたが、次の瞬間横から尻尾の攻撃が来て、それをもろに食らい、吹き飛ばされてしまった。

ゴロゴロゴロゴロ・・・。

何度も転がり、木々に体を打ち付けながらようやく止まった。

俺は立ち上がろうとしたが、右足の骨は折れ曲がり、上手く立ち上がれなかった。

全身を確認すると、折れているのは右足だけで、その他はかすり傷程度だった。

あんな巨大な尻尾で叩きつけられて、木々に当たったと言うのに、右足の骨折だけで済んだのは幸運だったのだろうか?

今はそんな事よりも、戦っている仲間の所へ戻るのが先だ!

俺は片足で立ち上がり、片足飛びで、いまだに暴れている巨大なヘビの方へと向かって行った。

巨大なヘビに近づくと、少し動きが鈍くなっている様だった、よく見ると俺が突き刺した槍以外にも、数本の槍が突き刺さっていた。

俺も再び、死んでいるゴブリンから槍を貰い受け、巨大なヘビの隙を伺う・・・。

片足の状態で、巨大なヘビの鱗を貫けるか怪しい・・・となると目か口を狙うしか無いが、暴れていて静止してくれるような感じはしない。

一か八かで突っ込むしか無いか・・・そう思っていた所、リーダーに巨大なヘビが噛みついた所、リーダーがそれを受け止めた。

凄い!っと感心している場合では無い、俺は槍を杖代わりにして巨大なヘビに近づき、リーダーが押さえているうちに目に槍を突き刺した!

巨大なヘビが暴れ出し、俺は槍を掴んでいられなくて飛ばされた。

ゴロゴロ。

そこまで飛ばされなかったが、片足の為上手く着地出来なかった。

体は土まみれだが、気にしている暇は無い、片足で立ち上がり前を見ると、リーダーが巨大なヘビの頭に槍を突き刺している所だった。

それから暫く巨大なヘビは悶え苦しんでいたが、やがて動かなくなった・・・。

倒したのか・・・俺はその場に座り込んでしまった。

周りの生き残った仲間達も、俺と同じような状態で傷だらけで疲労困憊といった感じだ。

リーダーだけが元気に、巨大なヘビの解体を始めていた。

そして切り取った肉片を、傷付いた仲間達に食べさせていっている。

なるほど、リーダーとはあのようでなければならないのだな、残念なのは作戦が何も無いという事だが、そこはゴブリンだからという事なのかもしれない。

毎回狩りの度にこれだけの被害を出していると、連携とか出来ないだろうからな・・・。

リーダーから肉片を貰って食べた者達は、傷が癒え元気になっていた。

元気になった者達はリーダーを手伝い、傷付いた者達へと肉片を配って行く。

俺の所にはリーダーがやって来てまた心臓を突きだして来た。

「これを食え!」

俺は心臓を受け取り、ためらわずに食らいついた、食事をすれば傷が治る事が分かっているからな。

心臓はやはり果物の様に甘く、とても美味しかった。

食べ終わると、体が熱くなり、傷が癒えて行く。

さらに何か体に異変を感じた・・・。

「どうだ?」

リーダーが俺に聞いて来る。

「毒の牙・・・それから熱を感じられる?」

俺は体の異変をリーダーへと伝えた。

「それが進化だ、獲物の心臓を食べる事によって、その能力を得る事が出来る」

リーダーはそう言って、俺の元から去って行った。

進化・・・もしかして前回オークの心臓を食べた時に感じた、皮膚が堅くなったのも、オークの能力を得たという事なのだろうか。

それで巨大なヘビに潰されても、無事でいられた訳か・・・。

改めて自分の体を確認する。

毒の牙が口の中に生えているのが分かる、それに多分毒の耐性も出来たのだろう。

それから熱を感じられるのは、恐らく赤外線を感知しているのだろう、以前何かの本で何種類かのヘビが赤外線を感知して獲物を捕らえていると読んだ記憶がある。

周りを見て見ると、周囲の仲間達から発せられている熱を感じ取る事が出来た。

これは良い物だ、ただし、ヘビの様な変温動物には効果は期待できないから注意が必要だな。

俺が考え事をしていたらリーダーに呼ばれた、どうやらこの巨大なヘビを持って帰る様だ。

生き残った仲間は全部で七人、よく見ると、皆肌の色が少し違って、どうやら進化している様だな、そうで無いと巨大なヘビの攻撃を受けて生き残れないか・・・。

リーダーはおもむろに巨大なヘビの下へと潜り込み持ち上げた、他の仲間も同じ様に間隔を開けて巨大なヘビの下へと潜り込んでいたので、俺も適当な所に潜り込んだ。

そして力一杯持ち上げた、巨大なヘビは重いが、持ち上げられない重さでは無いな。

これも、オークの心臓を食べて、進化していたお陰だろう。

皆で巨大なヘビを持ち上げて、洞窟へと帰って行った・・・。

洞窟の入口へと着き、巨大なヘビを地面に下ろした。

洞窟の入り口は狭く、中に入れる事は出来ないからな。

リーダーは俺に見張りを頼み、洞窟内へと入って行った。

熱感知の能力を得た俺にはぴったりの仕事だな、周囲を確認するが反応は無かった。

ここまで来る途中もずっと確認していたが、小さな動物の反応はあったが、それ以外の反応は無かったからな。

リーダーは洞窟の中から女性達を連れて来た、どうやら切り崩して中に運ぶ様だ。

女性達は手際よく、巨大なヘビを切り分け、洞窟内へと運び込んで行った。

その作業は空が白み始めるころまで続けられた。

巨大なヘビは全て洞窟内へと運び込み、俺も見張りの任を解かれ、洞窟内へと入って行った。

洞窟内には、先程切り分けて運び込まれた巨大なヘビの肉が、所狭しと積み上げられていて、皆それを好きに食べていた。

食事を終えた女性達は、男性の所へ行き、交尾をする。

当然俺の所にも女性がやって来て交尾をした、もう三度目ともなると慣れて来たな・・・という事は全く無く!

激しく後悔をし、頭を抱えて悩んでしまう・・・。

この後また狩りに行くのだろうと、気持ちを切り替えたら、リーダーがしばらく休めと皆に告げた。

食料はいっぱいあるし、今回の狩りで人数が大幅に減ってしまったからな。

子供が大きくなるまで、狩りには行かないのだろう。

しかし、休めと言われたが、全く眠くは無かった、昨夜は一晩中起きていたのにどうなっているのだろう?

むしろ、元気が有り余っている感じだ、とは言え、立っていると女性に襲われそうな気もするので、洞窟の隅に座る事にした。

今までの事を整理してみよう・・・。

俺は元の世界で、自分のミスで車ごと崖から落ちた。

その結果死んで、ゴブリンへと転生をしたのだろう。

悠希の事が心配だが、ここにはいない様だから、生きていると信じたい。

むしろ一緒にゴブリンへと転生しなくてよかった思う。

しかしなぜゴブリンなのだ!魔物に転生したとしても、もっと強い魔物へと生まれ変わりたかったぞ!

いくら願っても、既にゴブリンへと転生してしまったので、諦めるしか無いだろう・・・。

そして、そのゴブリンに関してだが、今までゲームに出てきたゴブリンのイメージでは、最弱な魔物だと思っていた。

しかし、ゴブリンとして戦ってきた今となっては、弱いイメージが無かった。

体は大きく無いが、身体能力は非常に高く、傷を負っても痛みを感じないので、常に全力で戦える。

痛みが無いと言うのは、自身の体が壊れている事に気が付かないと言うマイナス面もあるが、食事をすると元通りになるため、あまり気にする事は無い様に思える。

そして進化だ!魔物の心臓を食べる事によって、その魔物の能力を得る事が出来る、つまりどれだけでも強くなれる可能性があるという事だ。

おそらくリーダーは数多くの魔物の心臓を食べて来たのだろう、あの巨大なヘビの攻撃も受け止めるだけの強靭な肉体がそれを証明している。

俺はオークの硬い皮と筋力に、ヘビの毒の牙と熱感知を手に入れている。

これからも勝ち残って、進化して行きたいものだ。

しかし、いつも心臓を分けて貰えるとは限らない、リーダーにその権限がある様だからな。

多分、狩りで活躍した者に分け与えているのだと思う。

死なないためにも、狩りで頑張るしか無いな、矛盾している様だが、ゴブリンに転生してしまった以上、生死を賭け戦って行かなければならないのだからな。

と前向きに考えて見た物の、ずっとここで原始的な生活を送るのは、流石に遠慮したい。

ある程度したら、ここを出て行く事を考えた方が良いだろう。

その為には、まずこの世界の事を知らなければならない、しかし、ここのゴブリン達に聞いたところで何も知らないだろう。

唯一何か知ってそうなのはリーダーだが、忙しそうにしているし、変な奴だと思われるのは得策じゃないだろう、少しずつ聞いて行くしか無いだろう。

そうしている内に少し眠くなってきた・・・。

俺は横になり、眠る事にした。

・・・・・・。

・・・。

「ドクン!」

気持ちよく寝ていると、激しい性欲によって目を覚ました。

目の前には女性が立っていて、目を覚ましたばかりだと言うのに交尾をさせられた。

今回の事で確信したが、女性の方から求めて来ている様だな。

そして男性の方は拒否できないと・・・。

美しい女性に求められるのなら、喜んで受けたいと思うが、ゴブリンだからなぁ・・・。

俺もゴブリンだが、元の記憶を持っている為、ゴブリンの女性を美しいとは思えない。

しかし、ゴブリンと言う種を繁栄させるためには必要な事、頭では分かっているのだが・・・。

あああああああああああああああ・・・・・・・。

心がそれを受け入れてはくれない。

「はぁ、はぁ、はぁ」

俺が頭を抱えて悩んでいると、リーダーから狩りに出掛けると告げられた。

よく見ると、あれだけあった食料が無くなっており、ゴブリンの数も元に戻っている様だった。

俺はどれだけ寝ていたのだろう・・・。

とにかく出掛ける準備をする、と言っても巨大なヘビの解体作業中に回収した槍を持つだけだが。

新しく大人になったゴブリンには、木の槍が手渡されていた。

あれは折れるから、骨の槍を持たせた方が良いと思うのだが、数に限りがあるので仕方が無いのかな。

もしかして、この中に俺の子供がいたりするのだろうか?

流石にまだ生まれていないかな、まだ女性のお腹の中だろう。

という事は、俺はこれから家族を養うために狩りに出掛けるという事になる・・・。

結婚もしていないと言うのに子持か・・・。

過程はどうであれ、子供を作った事には変わりない、家族のために頑張って来る事とするか!

俺は気合を入れて、狩りへと出かける事にした。

洞窟の外に出ると、外は眩しいくらいに明るかった、前回洞窟に入ったのが夜明けだったから、俺はそんなに寝ていなかった?

もしくは一日以上寝ていたのだろうか・・・まぁ悩んでも分からないので、深く考える事は止めよう。

リーダーは斥候五名と、チーム分けをしていた、俺は今回黒チーム、移動中は殿を任される事となった。

移動を始めて一時間以上経過したが、獲物は見つからない、リーダーも進む方角を変えようか悩んでいる様だ。

俺も後ろを確認してみる・・・いた!

俺達の背後を一定の距離を置いて着いて来ている魔物を、熱感知で確認できた。

「後ろから敵が来てるぞ!!」

俺は皆に知らせた。

「戦闘態勢!」

皆槍を構えて、戦う準備をしている、俺も槍を構え敵を見据える。

大きな魔物だと思っていたが、集団が固まっていた様で、俺達が足を止めると、取り囲むように左右に分かれた。

犬?いや狼か、魔物の姿が見える様になり、その数と大きさに驚いた。

四十頭はいるだろうか、そしてその大きさは俺達の背を軽く超えている、あんなのに一斉に襲い掛かれたら、一気に押しつぶされるのでは無いだろうか?

リーダーも不味いと思ったのか、俺達に突っ込むよう命じた。

「かかれぇ!」

俺も一気に駆け出し、狼へと迫って行く!

狼達もこちらへと迫って来る!

俺は狼に向け槍を突き出した!

二段突き!

「ギャンッ!」

最初の一突きは目は躱されたが、すぐ戻して二度目の突きは躱されず、狼の喉元へと突き刺さった。

俺は慌ててその場から後ろへと飛んだ下がった。

次の狼が、突きで止まった俺に噛みつこうと飛び掛かっていたからだ。

俺が着地すると同時に狼は飛び掛かって来た。

流石にこの体制から反撃は無理なので、横に転がって狼の鋭い爪を避け、素早く起き上がって槍を構えなおした。

狼もこちらが素直に倒されてくれないと警戒している様子だ。

それならばこちらから仕掛ける!

俺は突っ込みながら、狼を牽制するために槍を横なぎにはらう、これなら狼は後か横に逃げるか、飛び越えて来るだろう。

狼は横に逃げた、今だ!

俺は狼の横に向いた体に飛び掛かり、狼の背中にしがみつく事に成功した。

そして俺は狼の背中に思いっ切り、毒の牙で噛みついた!

狼は激しく暴れ、俺を振り落とそうとするが、俺も必死でつかまり噛みついた口も離さない!

十秒ほど噛みついていると、狼の動きが鈍くなってきた、やはり巨大なヘビの毒は強力のようだ。

俺は倒れ込む狼から離れた、まだ死んではいないが時間の問題だろう。

俺は周囲を確認した、全体的に押され気味の様だ、前回生き残った仲間たちは大丈夫だと思うが、今回初めて狩りに来た者達では厳しいだろう。

俺は仲間を助けに行こうと思った所で、一回り大きな狼を見つけた。

こちらに攻撃する訳でも無く、戦況を見渡している所を見ると、あれがボスだろうか。

集団で行動する狼だと、ボスの存在は大きいだろう、俺達のリーダーは・・・大丈夫そうだな。

槍を振り回し、襲って来る狼を蹴散らしているのが見えた。

となれば俺は狼のボスを倒しに行った方が良いだろう。

「よし!」

俺は気合を入れ、狼のボスの所へ駆けて行った。

ボスの近くまで行くと、目の前に二匹の狼がボスを守るように出てきた。

素直に通してはくれないか・・・しかし二匹を相手に戦うのは非常に厳しい、さらにボスまで戦闘に加わって来られては負けるのが目に見えている。

そう考えていると、有無を言わさず二匹の狼が俺に襲い掛かってきた。

俺は二匹の狼から、次々と襲い掛かってくる爪や牙を、後ろに下がりながら必死に避けていく。

二匹の攻撃は、お互いの隙を埋めるかのように続けられていて、反撃に移ることが出来ない。

一匹の狼が攻撃が当たらない事に業を煮やしたのか、前足を大きく振りかぶり飛びかかってきた。

俺はチャンスと思い、一気に後方へと飛び、距離を離した。

そこで槍を竹刀の様に持ち替え、中段の構えを取った。

そして気持ちを落ち着かせる。

「ふぅ~」

やはり慣れ親しんだ、こちらの持ち方が落ち着く。

ただし、槍だから打撃を与えるだけだが、オークの筋力を得ていて骨を折る事くらいは出来るだろう。

二匹の狼が再び襲い掛かってきた、俺は一匹目の狼の頭めがけて槍を振り下ろす。

「キャン!」

すかさず襲ってきた二匹目の狼の右前足を叩き落す。

「キャイン!」

一匹目は軽い脳震盪を起こし、二匹目は右前足を痛めて歩きにくそうにしている。

「悪く思うなよ!」

俺のは脳震盪を起こしている狼の首を突きさして止めを刺した。

もう一匹は右前足を引きずってはいるものの、まだ戦意は失われてはいない。

俺は中段の構えを取り、狼と対峙する・・・。

じりじりと間合いを詰めていく、お互いの間合いが詰まったところで、狼が牙をむいて飛びかかってきた、右前足を負傷しているから、それしかないよな。

俺は左に躱しながら、狼の首筋めがけて槍を振り下ろした。

ドサッ!

狼は首の骨が折れたのか、そのまま横倒しになり動かなくなった。

「ふぅ」

残るはボスだな・・・呼吸を整え、ボスの方を見た。

「アオーン!」

ボスが遠吠えをすると、戦っていた狼が、ボスの周りに集まって行った。

纏まって攻撃するつもりだろうか、俺は警戒を強め、こちらも纏まった方が良いのでは無いだろうか、そう思っていると。

ボスはこちらを睨みつけた後、踵を返して逃げて行った。

他の狼も、ボスの後に続き逃げて行った。

助かったのか・・・俺は周囲を確認した。

仲間の被害は半数程度か・・・狼も同じくらい倒れているな、狼の方が数の上では勝っていたから、ボスが分が悪いと思い、逃げ出したのだろうか。

死んだ仲間達は、やはり今日初めて狩りに来た者達だけだな、可哀そうだとは思うが弔ってやる余裕は無い。

リーダーが倒した狼の心臓を食べる様、指示を出している。

俺は毒の牙で倒した狼の所に行った、毒が入っている為、他の者には食べさせられないからな。

という事は、余り毒の牙を使って倒せないという事になるな・・・。

俺達は食料を目当てに、狩りに来ているのだから、緊急時以外は毒の牙を使わない様にしよう。

俺は狼を目の前にして、どうしようかと迷っていた・・・。

今まで動物の解体とかやった事は無い・・・悠希と二人暮らしをしていて、料理はある程度やってはいたが、魚もスーパーで切ってあるのを買って来ていたからな。

取り合えずやれるだけやってみるか・・・。

狼を仰向けにして、槍を首元に突き刺して、一気にお腹まで割いて見た。

ドバッ!っと血が噴き出してきて、全身血塗れになった・・・。

うわぁ~、最悪だ・・・。

しかし、内臓は取り出せるな・・・正直気持ち悪いが、進化の為だ!

俺は心臓を取り出し、かぶりついた。

美味い!

見た目は酷いが、味は良いので、一気に食べつくした。

どうせ他の仲間に、毒入りの肉は食べさせられないからな、俺は狼の肉を次々と食べ始めた。

とは言え、半分程食べた所で、お腹いっぱいになってしまった。

それと食べている途中で、狼の体内から石のようなものが出て来た、リーダーに聞いて見るか。

俺はリーダーの元へ行き、俺が毒で倒した狼の事を教え、最後に狼の体内から出てきた石をリーダーに見せた。

「これは魔石だ、俺が預かる」

なるほど、これが魔石か・・・何に使う物なのかは分からないので、素直にリーダーに渡した。

ゲームなんかでは、魔法の触媒として使う物だよな・・・、俺はゴブリンだから魔法とか使えないのだろうが、もしかして進化すれば使えるようになるのだろうか?

それは何か楽しみだな!

取り合えず魔法の事は置いておいて、新しく狼から得た能力だが、嗅覚だけだな。

しかし熱感知と嗅覚が手に入った事で、狩りをやりやすくなることは間違いないだろう。

この嗅覚を使えば、逃げて行った狼を追う事は容易だろう。

でも今は、得た食料を家族の元へ持って帰る事が先だな。

リーダーも狼を運ぶよう指示を出している。

俺も近くにある狼を背負って、家族の待つ洞窟へと帰る事にした。

洞窟が近づくにつれ、何やら匂いが漂って来た・・・これは血の匂い!

他の仲間も嗅覚の能力を得ているので、異変に気が付いた様だ。

リーダーも気が付いた様子で、狼を下ろして、戦闘態勢を取る様に指示を出した。

血の匂いは、洞窟の中から漂って来ている様だ。

まさか狼が俺達の洞窟を襲った?

いや、狼の匂いはしていない。

リーダーは洞窟に突入するよう命令した。

俺も槍を構え、洞窟内へと入った、すると強烈な血の匂いで咽せ返りそうになる。

焦る心を抑えて、慎重に洞窟内へと入って行った・・・。

するとそこは一面血の海だった、数多くの仲間が殺されていて、生きている者はいないのでは無いだろうか・・・。

「ズバッ!」

何かを斬り割く音が聞こえた、それは今まで戦ってきた仲間が斬り倒された音だった・・・。

そこには五人の人がいた・・・。

「敵だ!かかれ!」

俺はリーダーの声で正気に戻った。

槍を中段に構え、相手の様子を伺う、両手剣を持つ者、剣と盾を持つ者、短剣を持ち、背中に弓を背負っている者、杖を持つ者が二人。

前衛二人、中衛一人、後衛二人といった感じだ。

ゴブリンに転生してから、人と戦う事を考えなかった訳では無いが、俺の心の中でその可能性を否定していた・・・。

しかし、今目の前で家族が、仲間が殺されている、俺は激情に駆られるのを必死に抑える!

戦いでは常に冷静でないといけない!子供の頃から師範代に言われてきたことだ・・・。

「ふぅぅぅぅぅぅ」

俺は大きく息を吐き、心を落ち着かせる。

「よしっ!」

改めて仲間が今戦っている相手を見る、盾を持つ者が仲間を守り、両手剣を持つ者が斬り伏せている。

ナイフを持つ者は、隙を見て、後方から投げているな。

杖を持つ者の一人は周囲を明るくして、視界の確保をしている。

もう一人の杖を持つ者は、様子を見ている。

狙う相手は決まった!

今盾を持つ者と、リーダーが対峙していて、両手剣を持つ者も、他の仲間と戦っている。

俺は駆け出し、戦っている者達の上を飛び越え、後ろの杖を持ち明かりを灯している者へと迫った。

当然ナイフを持つ者が、俺にナイフを投擲して来るが、そんな投げナイフで俺の硬い皮膚を貫けるはずもなく、ナイフは跳ね返った。

「〇△□×!」

ナイフを持つ者が、何か叫んでいるが理解できなかった。

俺は気にせず、杖を持つ者へと、槍を突き出した。

「ガツン!」

当たったと思われた俺の槍は、見えない壁に遮られて、届く事は無かった。

もう一人の杖を持つ者が、杖を構えて念じている所を見ると、魔法で壁を作ったのだろう。

「チッ!」

俺は振り返り、迫って来ているナイフをしゃがんで躱し、ナイフを持つ者の足へと、毒の牙で噛みついた。

「△×〇!」

「××〇△!」

人の言葉は理解できない様だな、ゴブリンだから当然なのだろう。

俺は噛みついたのを放し、魔法で壁を作っている方へと、槍を突き出したが、こちらも見えない壁に遮られた。

ふと急激に周囲が明るくなった、よく見ると、明かりを灯していた者が、頭上にバレーボール大の炎と作り上げていた。

洞窟内で炎を使うつもりか!

今までの常識がこの世界で通用するのか分からないが、この狭い洞窟内で炎を使えば酸欠になったりしないのだろうか?

どちらにしろ、その炎は俺に向けられている様で、勢いよく俺に飛んで来た。

俺は慌てて、横に飛び避けたが、炎は追尾してきて、俺に当たると燃え広がった。

熱い!!いや俺の知識がそう思っているだけで、痛みを感じないゴブリンが炎の熱さを感じる訳も無かった。

炎は俺の皮膚を焦がしている様だが、そこまで深刻な状態では無いな。

炎を飛ばして来た事から、見えない壁は無くなっているだろう。

俺は燃え盛りながら、炎を撃って来た相手目がけ突っ込んだ。

やはり壁は無く、俺と共に杖を持つ者も燃え上がる!

「〇△△××!!」

何か叫んでいる様だが、構わずおまけに毒の牙で噛みついて置いた。

そこに頭上から大量の水が落ちて来た。

「ザバーーーッ!」

炎は消えたが、ついでに辺りも真っ暗な闇へと変わった。

チャンスだと思い、もう一人の杖を持つ者の首へと槍を突き刺した。

「ブスッ!」

見えない壁は無く、すんなりと槍は突き刺さり、杖を持つ者は倒れた。

ナイフを持った者も、毒で苦しんでいるから、死ぬのは時間の問題だろう。

そう思い、止めを刺そうと振り返ると、ナイフを持った者は松明に火を点けていた。

せっかく闇に閉ざされたのに、また明るくなってしまった。

止めを刺していなかった俺の責任だな、火傷と毒でもがき苦しんでいる杖を持つ者に、槍を突き刺し止めを刺した。

松明を消さないと、そう思ってナイフを持つ者へ近づこうとすると、それを守る様に盾を持つ者が前に出て来た。

「□×〇!」

盾を持つ者の横から、両手剣を持つ者が俺に斬りかかって来た。

俺はそれを後ろに飛んで躱し、槍を上段に構えた。

リーダーはどうしたのだろう?盾を持つ者の背後を確認すると、リーダーが倒れているのが分かった・・・。

そして俺の他に誰も生き残っていない事も・・・。

「ふぅぅぅ」

息を吐き、集中する、今は目の前の敵の事だけを考えるんだ!

そう自分に言い聞かせる。

改めて相手を確認する、盾を持つ者は全身金属鎧で固めていて、この骨の槍であの装甲を貫くのは不可能に思える。

両手剣を持つ者は、胸や頭と言った重要なところには金属の鎧を着ているが、その他の部分に関しては動きやすいように革製の鎧を着ていた。

となれば、両手剣を持つ者の方から倒すべきだな。

俺は上段に構えたまま、一歩ずつ間合いを詰める・・・俺の間合いまで後少しと言う所で、両手剣が俺に向けられ振り下ろされた。

「ブンッ!」

俺は一歩引いてそれをぎりぎり躱し、素早く両手剣を握っている手に向け、槍を振り下ろした。

「××△□!」

槍は両手剣を握っている右手に当たり、そのまま喉を突き刺そうとしたが、盾を持つ者に阻まれ、後ろに下がって盾を持つ者と対峙した。

あの両手剣を振る事は出来ないだろうが、盾を持つ者を倒さない限り、両手剣を持つ者とナイフを持つ者には近づけそうにないな。

しかしどうしたものか、全身金属鎧は繋ぎ目を狙えば何とかなりそうだが、盾をどうにかしないとやらせてもらえないだろう。

そうか盾を俺が使えばいいんだな、俺は再び上段に構え、盾を持つ者との間合いを一気に詰めて、盾を持つ者へ槍を振り下ろした。

それに合わせて、盾を上にあげて防御してきた、俺は素早く槍を戻し、盾を構えている方へと体を滑り込ませた。

これで俺の位置が盾で分からなくなっただろう、すかさず盾を持つ者の膝の鎧の繋ぎ目へと槍を突き刺した。

「△×〇!」

盾を持つ者は膝を抱えて倒れこんだ、よし、この隙に両手剣を持つ者へと止めを刺すべく向き直った。

「ザシュッ!」

両手剣が俺に振り下ろされていて、とっさに身を躱したが、左腕を切り落とされてしまった。

両手剣を持つ者は、左手のみで両手剣を振り下ろしていた、しかしその為、振り下ろした後は体が前のめりに倒れこんでいて隙だらけだ。

左腕を切り落とされた痛みは無いので、右手に握っていた槍で両手剣を持つ者の喉を突き刺して倒した。

さて、盾を持つ者へを見ると、這うように足を引きずりながら逃げ出そうとしていた。

重そうな全身鎧を片足で支えることは出来ないのだろう。

俺は後ろから、盾を持つ者の首へと槍を突き刺し、止めを刺した。

残るはナイフを持つ者だが、すでに毒が回って死んでいた。

「ふぅぅぅ」

息を吐き、張り詰めていた気持ちを緩めた・・・。

ゴブリンとして転生して、ようやく皆を家族と思えるようになってきたのに・・・。

そう思うと自然と涙が溢れて来た・・・。

「うっ、うああああああああああああああああ」

誰もいない洞窟で、一人泣き崩れた・・・。

・・・・・・。

・・・。

どれだけの時間そうしていただろう、何も考えたくなかったし、何もやりたくなかった・・・。

しかし、いつまでもこうしている訳にも行かない・・・。

涙を拭い、立ち上がった。

これからは、一人で生きて行かなければならない、その為には進化して強くならないと・・・。

俺はナイフを持つ者の死体へと近寄り、ナイフを奪い取った。

そして、冒険者の死体から鎧を剥がし、心臓を取り出して食べた。

凄く不味い!

俺は吐きだしそうになるのを我慢して食べきった、残る四人も全て不味かったが、進化の為と思い我慢して食べた。

食べ終わる事には、切り落とされた左腕は生えて来て、体力も元通り元気になった。

しかし何の能力も得る事が出来なかった・・・。

体を確認してみる・・・肌の色は黒くなっていて、身長が少し伸びただろうか。

今まで心臓を食べる事によって、能力を得て来たから、今回も同じ様に、冒険者の能力を得られると思っていた。

しかしよく考えて見ると、冒険者、いや、人に能力ってあるのか?

剣や魔法を使っているのは、積み上げられた技量であって、能力では無いのかもしれない。

魔法が使える様にならないかと、期待していたのだが残念だ・・・。

得られなかった物は仕方が無い、俺は冒険者の荷物をあさる事にした。

盾を持つ者が使っていた、片手剣と鞘を貰って腰に下げ、使えないかも知れないが、両手剣も頂いた。

両手剣の重さは気にならないが、体の大きさとのバランスが悪く、両手剣に振り回されてしまう。

大きな鞄の中には食料と、鍋、寝具と言った物が入っていたので、ありがたく頂戴する。

冒険者の腰に下げている袋には、魔石が入っていた、それと木製のカードが出て来た。

カードには小さな魔石が埋め込まれており。

名前 エドアルド、職業 戦士、ランク Cと書かれていた。

なるほど、冒険者カードと言う奴だろう。

他の者も同じ様に冒険者カードを所持しており、全員ランク Cだった。

ランク Aが一番上だとするとランク Cは普通の冒険者となるのだろうか?

あれ?もう一度冒険者カードを確認する、今までに見た事が無い文字で書かれているが、普通に読めるな・・・。

もしかして、心臓を食べた事で、人が使う言語を理解できるようになったのかな?

試してみよう。

「吾輩はゴブリンである、名前はまだ無い」

言えた、今まで使っていたゴブリン語?とは違う発音だ。

味は不味かったが、言語を理解したのなら良しとしよう。

冒険者カードは持ち主へと返して、魔石は頂いておこう、リーダーも集めている様だったから、何か使い道があるのだろう。

戦士の持ち物から、剣の手入れの道具を見つけ、これも頂いておく。

手入れを怠ると、すぐ錆びて使えなくなるだろうからな。

後はナイフを持つ者の袋から火打石?みたいな物も頂いておく、弓と矢はどうするか・・・一応持って行くか。

それを大きな鞄に詰め込もうとしたが、少し欲張りすぎた様だ・・・。

一番大きな寝具と食料を少し減らす、食料は全部持って行きたかったが、それは何か魔物を倒して食べれば問題は無いだろう。

大きな鞄を背負い、立ち上がった。

改めて皆を見る・・・やはり誰一人生き残ってはいない。

俺は手を合わせ、黙とうする。

・・・・・・。

・・・。

埋葬してやりたいが、この数を一人でやるのは無理だ、皆すまない。

俺は皆に謝って、洞窟を出て行った・・・。

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