第31話 鬼封じの儀式

 新月の夜まであと三日となった日の夜、冬音と正宗は無事、大府に到着した。

 帰りも鬼は現れず、何の問題も起こらなかった。前回の旅路がまるで嘘であるかのようだった。

「桜雪さん、今、戻りました」

 ちょうど門の前に立っていた桜雪に正宗が声を掛けた。

「おお、なんとか間に合ったようだな」

 桜雪は、正宗の顔を見て内心ほっとした。出発の時に感じていた不安は取り越し苦労だったようだ。

 冬音は、桜雪の姿を見た途端、駆け寄って抱きついた。

「桜雪様、寂しかったわ」

 桜雪は、いきなりの冬音の行動に戸惑いながらも

「冬音殿、伝えたいことがあるのです」

 と笑みを浮かべて冬音に話し掛けた。

「まあ、何でございますの?」

 冬音が、桜雪の胸に埋めていた顔を離し、上目遣いで桜雪を見つめる。

「冬音殿のお供の方が一人、大府にたどり着いたのです。晶紀という方です」

「えっ?」

 冬音は、その言葉が信じられないというような顔をした。

「今、冬音殿の宿に泊まっておいでです。年寄衆のところへ行かれる前に、どうか無事な姿を晶紀殿に見せてあげて下さい」

「わかりましたわ」

 桜雪と正宗、そして冬音の三人は、晶紀のいる宿へと向かった。


 宿に着き、桜雪が戸を叩くと、中から晶紀が返事をした。

「どうぞ」

 桜雪が戸を開けて、冬音を中へ入れる。晶紀は冬音の姿を見た途端、驚きの表情で駆け寄ってきた。

「冬音様、よくぞご無事で」

 晶紀は目に涙をにじませて冬音の顔を見た。

「お前も無事で何よりだわ。どうやってここまで?」

「小春様という方に助けて頂いたのです」

「小春?」

「はい、仙蛇の谷で偶然お会いしました」

「その小春様という方はどちらに?」

「今は、森神村の方へ所要で出掛けておいでです」

「そうですか・・・一度、お会いしてお礼を申さねばなりません」

「小春様は、白魂のご出身でして」

「白魂の?」

「はい、剣生様のお弟子さんだったそうです」

「剣生・・・」

 冬音が思い詰めた顔をしたのを見て、晶紀が心配そうに

「冬音様、どうされましたか?」

 と尋ねた。

「いえ、何でもありませんわ。それより、私は今から年寄衆の方々へ御報告に参らねばなりません。晶紀は少しここで待っていてちょうだい」

「わかりました」

「ところで、夕食は食べたの?」

「いいえ、まだです」

「じゃあ、報告が終わったら何か食べに参りましょう」

 その言葉に、晶紀は満面の笑みを浮かべて

「はい」

 と頷いた。


 年寄衆は、松の間にいた。今夜も宴を開いていた。

「只今、戻ってまいりました」

 正宗が年寄衆に伝えた。

「正宗も、冬音殿も、ご苦労さまでした」

「年寄衆の皆様、儀式の準備はいかがでございましょうか?」

 年寄衆はお互いに顔を見合わせ沈黙を守っていた。それを破ったのは白髪頭のあの男性だ。

「儀式のための場所は完成した。決して他人から見られることもないだろう」

「人は確保できましたか?」

 冬音の質問に、一同は押し黙ったままだ。

 冬音は、桜雪と正宗に

「すみませんが、少し席を外していただけるでしょうか」

 と請うた。

「わかりました」

 二人はそう言って、一階へと下りていった。

「儀式には、冬音殿の他に人が必要だということか」

 桜雪が、何気なく正宗に話し掛けた。

「そういうことになりますね。なかなか決まらないということは、よほど難しいことをしなきゃならないんですかね」

「もしくは、よほど危険なことなのか・・・」

「危険、ですか?」

「ああ、場合によっては命を落とすような」

「もしそうなら、年寄衆であっても簡単に決めることはできませんね」

 しばらく沈黙が続いた。

「お前がいない間に、大府で鬼が出たよ」

 桜雪がまた正宗に話し掛けた。

「ついにこのあたりにも出ましたか」

 正宗は驚いて桜雪の顔を見る。

「鬼の噂が広まれば、大府には人が寄り付かなくなるな」

「第二の白魂、ですか」

「そうなる前になんとか鬼を封じてしまいたいものだが」

 正宗は、桜雪の顔を見たまま

「もし、儀式に必要な人として選ばれたら、桜雪さんはどうしますか?」

 と問い掛けた。

「選ばれたら儀式に出るしかないだろうな」

「危険かもしれないんですよ」

「兵士が危険な任務に怯んでどうする」

「兵士だって人の子です。怖いものは怖い」

「心配するな、そんな怖いものではないだろう」

「わかりませんよ。例えば、儀式には生贄が必要なのかも知れない」

 桜雪は、不意を突かれたような顔で正宗を見た。

 実は、桜雪も心の中でそう考えていたのだ。生贄を捧げることで鬼が出なくなるのではと。

 今、正宗に面と向かって言われ

「そんな馬鹿な」

 と返すことしかできなかった。


 やがて、冬音が二階から下りてきた。

「儀式には、晶紀に参加してもらうことにしましたわ」

「晶紀殿にですか?」

 桜雪が冬音の言葉を聞いて、もう一度聞き返した。

「はい、大府から人を出して頂けない以上、やむを得ません」

「いったい、晶紀殿に何をさせるのですか?」

 冬音は、そう質問する桜雪の顔をじっと見つめる。

「少し、手伝ってもらう必要があるのです」

「それだけですか?」

「ええ、大した事ではないのですが」

 儀式の手伝いをするだけなら、人選にそんなに悩む必要はないはずだ。桜雪は、なぜ年寄衆がすぐに人を決められないのか理解できなかった。

「とにかく、これで儀式の準備はできたわけですね」

 正宗が二人の間に割って入った。

「はい、あとは新月の夜に儀式を行うだけですわ」

 そう言って、冬音は正宗に顔を向け笑みを浮かべた。その美しさに、正宗は不思議と背筋が寒くなる思いがした。


 冬音の宿に到着した。晶紀が、冬音の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。

「それでは、我々はこれで失礼します」

 桜雪は冬音に挨拶して立ち去ろうとしたが

「お待ち下さい桜雪様。正宗様も、いっしょに夕食をいかがですか?」

 と冬音が引き止めた。

 桜雪は正宗と顔を見合わせる。正宗がうなずくのを見て、桜雪は冬音の誘いに応じることにした。

「それでは、ご一緒させていただきます」

 皆、冬音の後に付いて行く。冬音は一軒の店に入った。

「ここの料理がすごく美味しいんです」

 その店は、冬音の言う通り味の評判がよく、いつも繁盛していた。桜雪や正宗も何度も足を運んだことがある。

 四人掛けの席に案内され、桜雪と冬音、正宗と晶紀が隣同士で座った。

 さっそく、冬音が桜雪の腕に抱きついて尋ねた。

「さあ、桜雪様、何をご注文なされますか?」

 その様子を見ていた晶紀は、なんとなく、もやもやとした気分になった。

「晶紀さんは何を召し上がりますか?」

 正宗の言葉に我に返り、壁に貼られた料理名を慌てて見渡す。

 一通り注文が終わった後、冬音は晶紀に告げた。

「儀式の件だけど、晶紀にも参加してもらうことになりました。私と一緒に来てくださいますね」

 その言葉に晶紀は

「承知致しました。でも、何をすればよいのでしょうか」

 と尋ねた。

「それは儀式を行う時に説明しますわ。そんなに難しいことはないから安心してちょうだい」

 冬音のその言葉に晶紀は

「はい」

 と笑顔で返事をした。

 今度は桜雪が、前からの疑問を晶紀に問い掛けた。

「なぜ、小春殿といっしょに大府まで?」

「仙蛇の谷で小春様に助けて頂いたのです。そこから、私を大府まで連れて来て下さって。本当に、小春様には感謝しきれないです」

「仙蛇の谷ですか?」

 桜雪は、水無村の北で鬼に襲われてはぐれてしまったと思っていた。

「はい、いろいろと訳がありまして」

 冬音が目の前にいる手前、晶紀は本当のことが言いづらい。

「それで、小春殿は森神村に向かわれたということですが、どのような要件で?」

「すみません、私もそれは伺っていないのです」

「そうですか・・・」

 晶紀の話を聞いていた冬音が桜雪に問い掛けた。

「小春様は、剣生様のお弟子さんということですが、今でも鬼を退治していらっしゃるのですか?」

「そのようですな。私は小春殿が鬼を倒すところを一度拝見しましたが、我々とは比較にならぬほど強かった。持っている刀も特別なようで」

「特別な刀ですか。それは、剣生様がお使いになっていた刀ではないですか?」

「いや、そこまでは伺っていないですね。剣生殿がお使いになった刀も何か特別なものだったのですか?」

「私も詳しくは存じ上げないですが、鬼をも斬り伏せる刀ですから普通に鍛えられたものでないことは間違いありませんわ」

 取り留めなく話をしているうちに、料理が運ばれてきた。食欲をそそる匂いがあたりに立ち込める。

 食事をしながらも思い詰めた顔をしていた晶紀が、冬音に話し掛けた。

「あの、冬音様、白魂へはいつ頃に戻られるご予定で?」

「あら、今のところ全然決めていないわ。儀式を誰かに引き継ぐ必要もあるから、すぐには無理ね」

 何かをはっと思いついたように、晶紀は冬音に早口で

「大府での儀式、私では無理でしょうか?」

 と尋ねた。

「晶紀が儀式を引き継ぐ? 白魂には戻らないつもりかえ?」

「その、誰も引き継ぐ方がいないのであれば、白魂の人間が行うべきかなと思いまして」

 冬音は、晶紀の顔をじっと見つめていたが、やがて口を開いた。

「あなたは、そんなこと心配しなくて大丈夫よ。それに、誰が引き継ぐかは私たちじゃなくて大府の方がお決めになる話よ」

「そうですね、余計なことを申してすみません」

 晶紀はうつむいたままそう言った。

 晶紀は小春が戻るまで大府にいるつもりだったが、考えてみれば冬音が戻ると言ったら自分も付いていかなければならない。もしかしたら、二度と小春に会えなくなる、ということに気が付いた。それに、晶紀には大府を離れたくはないもう一つの理由も生じたのだ。

 うつむいたままの晶紀を見て、正宗が

「晶紀さんは、この近くにある赤い看板の雑貨屋さんへお入りになったことはありますか?」

 と話題を変えた。

「いいえ。でも、あの看板、すごく目立つので前から気にはなっていたのです」

「あの店には、見た目もきれいなお菓子がいろいろとありましてね。女性に大人気なんですよ。選んだお菓子を店内で食べることもできますよ」

 正宗の言葉に桜雪が

「お前、やけに詳しいな。さては常連だな」

 と横槍を入れた。

「私はまだ数えるほどしか入ったことはありませんよ。それに、男性にも人気の飲み物があるんです」

「ほう、そりゃ何だ?」

「珈琲というんですけどね」

「私も名前は聞いたことがありますわ。でも、詳しくは存じ上げませんけど」

 冬音が思い出したように口を開いた。

「どんな飲み物なんですか?」

 興味を持った晶紀が正宗に尋ねた。

「色は黒くて、味は苦いですけど、甘いお菓子によく合うんですよ」

 正宗はそう答えたが、うまく説明することができないようで

「でも、実際に飲んでみないと、ご理解いただけないと思います」

 と付け加えた。

「抹茶のようなものか?」

 桜雪の問い掛けに、正宗は

「うーん、抹茶とは全く異なりますね。香りも珈琲の方が強いです」

 と説明した。

「それにしても、正宗は耳が早いな。どうやって仕入れてくるんだ、そんな情報」

 桜雪が尋ねても、正宗は

「出どころは秘密ですよ」

 としか答えなかった。

 珈琲についての談義をしているうちに目の前の料理もほとんど食べ尽くし、次の機会にその雑貨屋へ行ってみるという話に落ち着いたところで四人は店を出た。

「私は、腹ごなしに少しお散歩してくるわ。晶紀は先に宿へ戻ってちょうだい」

 冬音が急に思いついたように晶紀に告げた。

「かしこまりました。お気をつけて」

 そう応える晶紀に対し、桜雪が

「我々は宿まで同じ道ですから、いっしょに行きましょう」

 と声を掛ける。いつもなら嫉妬して桜雪に絡んでくる冬音が、その時は珍しく

「分かりました。よろしくお願いします」

 と言って、そそくさとその場を離れていった。

「桜雪さん、冬音さんを怒らせたんじゃないですか?」

 正宗が桜雪の耳元で囁くので

「うるさい」

 と桜雪は一蹴した。


 小春が森神村に到着したのは、もう夜も遅い時間だった。

 村の真ん中にあった篝火は今はもうない。あの忌まわしい出来事を記憶するものはどこにも見当たらなかった。

 与一の家にたどり着く。まだ明かりが灯っていたので、戸を叩いてみた。

「誰だい?」

 という声が中から聞こえた。

「小春だ。夜遅くすまない」

 小春が返事をすると、戸の方に近づく足音が中から聞こえてきた。

 戸が開いて、与一が顔を出した。

「小春さん、どうしたんだい?」

「一晩、宿を借りたいんだが」

「ああ、それならいいけど・・・」

 与一が言いづらそうに話を続けた。

「夕夏の家なら空いてるんだけど」

 小春は少し間をおいて応えた。

「別に構わないよ」


「突然押しかけてすまない」

 夕夏の家へ向かう途中、小春が頭を下げた。

「いや、気にしなくていいよ。夜は独り身で寂しいからね。こうして誰かと話ができると気が紛れる」

 与一はわざと陽気に振る舞っているように見える。続けて与一は口を開いた。

「でも、突然どうして・・・と、もうすぐ夕夏の家だな。あとは着いてから話をしよう」

 夕夏の家にたどり着いた。与一は小春を連れて家の中に入り、行灯に火を灯した。

 あれから、全く変わったところはない。小春は、まるで過去に戻ったかのような感覚を覚えた。

「大府にはたどり着いたのかい?」

 部屋に上がってすぐに、与一が質問した。

「ああ。でも、中には入れなかったよ。封術で妖怪は立ち入ることができないんだ」

「えっ?」

 与一が驚いた顔で小春の顔を見た。与一は、小春が妖怪だということは知らない。しかし、与一は小春の人間離れした動きを何度も見ているはずである。それにもかかわらず、小春を人間だと信じて疑わなかったようだ。

「どうした?」

「あっ、いや。それで戻ってきたのかい?」

「他の場所でちょっとした情報が入ってな」

 小春は与一の顔を見て、話を続けた。

「北の山へ行こうと考えている」

「北の山へ?」

「ああ、天狗に会いに行くんだ」

「正気か? 天狗様の領域に入ったらあっという間に殺されるぞ」

「しかし、そうしなければ天狗には会えない」

 与一は、小春が真顔で話すのを見て信じられないというような顔をした。

「一応、この村には伝えておいた方がいいと思ってな。それでここに立ち寄ったのだ」

「なあ、それは非常に危険だぞ。命を落とすことになるかも知れない」

「もし、戻らなかったら、死んだと思ってくれ。別に探す必要はないよ」

 与一は、心配そうな顔で小春を見ていた。

「そう安々と殺られるつもりはないよ。用心はするから心配しないでくれ」

 小春はそう言うと、笑みを浮かべた。


 早朝、森神村は早くも多くの村人が外を歩いていた。野良仕事へと出掛けるのだろう。

 村人は、大刀を背負った小春の姿を見てたいそう驚いた。小春が戻ってきたことを知るはずがないので当然の話である。

 小春のすぐ後ろを、与一が付いて歩いていた。

 その途中、与一は月影の一件を思い出し、小春に話し掛けた。

「そう言えば、小春さんが森神村を出た後の事なんだが・・・」

 与一は、月影が森神村を訪れていたことを小春に伝えた。

「ここに来ていたのかい?」

 小春は驚いて与一の顔を見た。

「ああ。それで小春さんが大府へ向かったことを話してしまったんだが、大丈夫だったか?」

「・・・大府に向かう途中で会ったよ」

「えっ? 月影さんが大府へ向かったのは小春さんが出発してから何日も後のことだぜ。いったいどうやって・・・」

「途中、行き先を変更したんだ。私も兄者・・・月影を探していた。行き違いになっていたようだな」

 小春は、ふと疑問に思った。

「いったい、私が森神村にいたことを誰から聞いたのだろうか?」

「そこまでは俺も聞いてないな。村の者以外は知らないはずなんだが」

 小春は空の方を見上げて

「・・・不思議なこともあるものだな」

 とつぶやいた。

 村の外れまで来たところで二人は立ち止まった。

「じゃあ、行ってくるよ」

 小春は与一の顔を見て、まるで小用に出掛けるかのように別れを告げた。

「とにかく、危険だと思ったら戻ってくるんだ。決して無理するな」

 与一は昨夜遅くまで、小春が北の山に行くのを止めさせようと説得していたが、小春の考えを変えることはできなかった。

 小春は、与一に向かって軽くうなずくと、北の山目指して歩き出した。

 与一は、小春の姿が遠く見えなくなるまで、その場を立ったまま見送っていた。


 月のない夜を、松明を持った人々が大府の北東にある小高い山の麓に集まっていた。

「ここからは、私と晶紀の二人で参ります。何があっても、他の方はこれ以上お近づきになりませぬようお願いいたします」

 冬音は、集まっていた面々にそう警告した。

 その場にいたのは、十人の年寄衆とその護衛のための兵士だ。その中には、桜雪、蒼太、正宗、紫音、龍之介の姿もあった。

 冬音と晶紀が石段を上り始めた。

 階段の両側には灯籠が規則正しく並んでいる。その灯りが、はるか頭上の儀式の舞台まで続いていた。

 冬音は一言も口を開かない。晶紀は、重苦しい雰囲気に押され、下を向いたまま冬音に付いていった。

 ようやく、頂上にたどり着いた。広く平らにならされたその場所には何もなかった。

「晶紀、真ん中あたりまで進みなさい」

 冬音の指示に従い、晶紀は前に進んだ。

 目の前には闇が広がり、どのあたりが中央になるのかよく分からなかった。

「冬音様、このあたりでよろしいですか?」

 返事がない。晶紀は不安に駆られた。

「冬音様?」

 晶紀は後ろを振り向いた。冬音は、灯籠の灯りに照らされて立っている。その顔には笑みを浮かべていた。

 ふと、自分の後ろに何かの気配を感じた。背筋が凍りつくような感覚を覚える。

 気が付くと、足元に霧が現れていた。心臓の鼓動が速くなる。この感覚は前にも経験したことがあった。

 冬音の下へ戻ろうとするが、足がすくんで動けない。晶紀はその場で転んでしまった。

「助けて・・・」

 晶紀は振り返ることができない。明らかに自分の背後に何かがいる。恐ろしいほどの力が、全身を押さえつけているかのように感じた。

「喜ぶがいい。お前はこの地で最初の生贄に選ばれたのだ」

 背後から声が聞こえ、晶紀は思わず後ろを見た。

 そこには、肌の青い鬼の顔があった。一つの目が自分の方へ向けられている。

 晶紀は、叫ぶ間もなくその場で気を失ってしまった。

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