第6話 灰の町にて

 優斗を訪ねて来たキリリア共和国の商人、フリオは若い男だった。


「初めまして、殿下。フリオ・セカンダでございます。そしてセシリアお嬢様、本日も誠にお美しい」


 そう言ってフリオは爽やかな笑顔を見せた。

 フリオの肌は商人というに違和感があるほど日に焼けており、どちらかというとただの船乗りという方が相応しいような外見だった。

 年齢は二十一歳と聞いているが、その若さでフリオはキリリア共和国の最高行政機関、『十人委員会』の一人だという。


 キリリア共和国は海上貿易によって栄える商人の国であり、その政治は十人の大商人の合議によって執り行われているという。つまり、フリオという若者はキリリア共和国の最高行政機関のメンバーであり、大商人でもあるという事だった。

 


「しかし、本当に美しい赤色なのですね」


 椅子に座るなり、フリオは優斗の瞳を見ながらそう言った。


「片方だけですがね」

「ほほう、では他の候補の方は両目なのですねえ。いえ、魔王陛下にお目通りする栄誉はまだですので、魔王陛下のお目を拝見した事もございません。無論、魔王候補の方とお会いするのも初めてですので、実は緊張しております」


 優斗から見ればとてもそうは思えないが、フリオはそう言って笑った。


「では早速ですが、本題に入らせて貰います」

 

 セシリアがそう言って話を切り出す。


「フリオ様に相談したかった事は小麦の件です。何とか用意をして頂きたいのです」

「小麦でございますね。もちろん、船が座礁して失われてしまった分の半分は、当初のご契約通り補償いたしますが」

「半分では不足なのです。もちろん、代金は別にお支払いします。しかし、その支払いに猶予を頂きたいのです」

「しかし……それでは『条約』に反してしまいます」

 

 『条約』とは、魔国の東の隣国であるエスぺランド王国が発端となった貨幣に関する条約で、人間の国々の間で結ばれていた。

 魔国と食糧や武器の貿易を行う際には現金即決払い、しかもいずれかの人間の国の貨幣での取引しか認めない条約だった。すでに精神的な有名無実の条約となっているものだが、魔国で小麦が不足している今は、他国からの監視が厳しくなっているという。


「もちろん、条約は知っています――」


 セシリアは続ける。クラウスが同行している場合と同じで、交渉で主に話すのはセシリアで、優斗はここぞという時の一押しを行うように役割を決めていた。


「――ですが、その無理を知ってでも何とかご用意頂きたいのです。これはフレイスフェン家の総意としてのお願いです。もちろん、こちらとしてもできる限りの事はさせて頂きます」


 優斗とセシリアがフリオに了承させるための計画として考えていたのは、まずは小麦を購入する値段を上げること。そして、もう一つはいくつかの交易品をフレイスフェンの領土に持ち込む際の税を下げる、あるいは免除する事だった。

 これらの餌を元に、フリオから譲歩を引き出そうとしたのだが、フリオから次に出た言葉は意外なものだった。


「事情は分かりました。ええ、分かっておりますとも。喜んで協力させて頂きます」


(なに?)


 優斗は内心驚きつつ、悟られないように平静を装い、隣のセシリアに視線を送った。

 セシリアもちらりと優斗に目配せした。表情には何も出ていないが、恐らくは優斗と同じ心境であろう。

 セシリアは落ち着いた声でフリオに尋ねた。


「お心づかい、心より感謝いたします。ですが……正直なところもう少し難しい交渉になると覚悟していました」

 

 フリオは小さく笑った。


「そんな事はありません。フレイスフェン家は長年のお得意様です。しかも、この度いよいよ次の魔王候補のお方を当主に迎えられました。この魔国の次の支配者になられるかもしれないお方が直々に来られてのお願いを、無下には出来ません。ユウト殿下とは、今後もより良いお付き合いをさせて頂きたいと思います。それに、お急ぎで小麦をお求めの理由はある程度は理解しております。商売をして、人助けにもなる。お断りする理由がありません」


 フリオは、優斗たちの小麦の使い道に目星をつけているようだった。

 優斗は、まだこのフリオという男をどこまで信用いいかは分からなかった。もしかすれば、今の言葉は優斗たちの機嫌を取るための方便かも知れない。商人とは、ただの「いい人」ではないはずだ。

 だがそれでも、優斗はフリオに対して自然と言葉が出ていた。


「フリオ様、心より感謝致します。私も、これからの末永いお付き合いを望みます」

「これはこれは……。過分なお言葉ありがとうございます。しかし、ユウト殿下は随分と腰が低い方のようですね。私は今でこそキリリア共和国の役職についてはいますが、所詮は只の平民に過ぎませんのに」

 

 確かに、今の言葉使いは少し不味かったかもしれないが、今の優斗にとっては些細な事に過ぎなかった。


「いえいえ。商売の間柄においては地位も貴賤きせんも関係はないと思います。ただの買い手と、売り手に過ぎません」

「なるほど……。改めまして、末永いお付き合いを宜しくお願いしたいものですね」


 フリオは僅かに笑った。どうやら、優斗の言葉がお気に召した様子だった。


 フリオとの交渉は簡単に纏まった。

 小麦については、現在手持ちの分をフリオは数日中に納入し、後日、必要な量全ての小麦を納入する。『条約』からの抜け道として、すぐに行う小麦の納入を『毛皮』とし、数か月後に予定された毛皮の納入を『小麦』とし、その時に小麦の代金を頂くという仕組みだ。

 いくら条約で取引が制限されているからといって、すべての商人を監視しているわけではない。帳簿上の小麦と毛皮を入れ替える事など、他愛ないなのかも知れなかった。

 

(こんな簡単に纏まるんだったら、俺が来た意味あったのか?)

 

 優斗はそんな想いが浮かんだ。

 事実、殆どの交渉をしたのはセシリアだった。


 フリオが帰った後にそんな事を考え、拗ねていた優斗を見透かしたのか、セシリアが言葉をかけた。


「ユウト様、この度はご助力ありがとうございます。お陰様で交渉も纏まりました」

「俺は何もしていませんけど」

「それは違います。魔王候補であるユウト様が居られたからこそ、この件がフレイスフェン家にとっての重要事項だとフリオ殿に伝わったのです。それにフリオ殿も言っておられたではないですか。ユウト様からのお願いを無下にはできないと」

「そうかも知れませんが、セシリアさんだけでもうまくいったのでは?」

「そうですね……まあ、自信はありましたけど」


 セシリアは悪戯っぽく笑った。優斗はそのあどけない表情にどきりとした。

 どうやら、セシリアは交渉がうまく纏まった事に素直に喜んでいるようだった。


 セシリアの言うところ、フリオは信用できる商人であり、あのように名言した以上は安心して良いとの事だった。


 とりあえずは、これで優斗も安心した。王都から、このオリエンまでやってきた目的が果たせたのだから。


「父にはわたしから手紙を出しておきます。ところで、ユウト様はこれからもう王都に戻られるのですか?」

「とりあえずは王都に、クラウスさんの元に戻ります」

「そうですか。わたしもご一緒したいのですが、まだこちらでの雑務がありますので……。近い内にはわたしも王都に参りますので、どうかお待ち下さい」

「えっ、ああ、はい……」


 セシリアも王都に来てどうするのだろうか。


「ユウト様、もしかしてわたしが王都に行っては不都合でも? まさか、わたしを差し置いてもうすでに愛人を持たれたのでは……。ユウト様のお立場でしたら、一人や二人はすぐにでもお作りになれるはず……」

「な、何を言って! そんなわけありません」


 慌てる優斗を見て、セシリアはまた悪戯っぽく笑った。優斗はすぐに、自分がからかわれていると悟った。


「ふふっ。冗談です」

「からかわないで下さい。そもそも、魔王候補に対して不敬なのでは?」

 

 セシリアに少しでも反撃がしたくてそんな事を言ってみたが、セシリアに


「問題ありません。夫婦ですから」


 と即答され、黙るしかなかった。


 優斗は、セシリアの様子や態度が昨夜とは違うと感じた。昨夜のセシリアよりも、今の方が少し幼いように感じた。

 昨夜はまだ優斗と会ったばかりだったからだろうか。それとも、今は交渉がうまくいって感情が高ぶっているからなのだろうか。


 (こっちが素なのか……)


「ところでユウト様。実は、王都に戻る前にご一緒してほしい場所があります」

「それは良いですけど、どこですか?」

「アルバ人達の町です」




  アルバ人が住む町は、オリエンよりもテルベ川の上流にあり、移動だけで数日がかかってしまった。途中までは船でテルベ川を上り、そして馬車となった。

 当たり前の話だが、元の世界に比べれば電車も自動車もないこの世界での移動は一苦労だ。

 それにも関わらず、ずっと一緒にいたセシリアはあまり苦とは感じていない様子だった。


(貴族なのにな……)


 優斗の勝手なイメージに過ぎないのだろうが、セシリアは貴族の女性にしては随分と活発なのかもしれないと感じ始めた。



 アルバ人の町は亡命を許されたアルバ人達が作った物で、名前は「ウル」とアルバ人たちは呼んでいた。アルバ人たちの古い言葉で、「灰」という意味だという。


「やはり、生活は厳しそうですね」


 ウルの町並みを馬車から眺めた優斗の率直な感想だった。

 並ぶ家々は、家というよりもバラック小屋というような粗末な代物で、目にした畑の作物も痩せた、質の悪いもののように見えた。

 更に、「灰」という名前に相応しく、時折風によってどこからともなく灰が運ばれてきており、建物の屋根や畑にうっすらと積もっているのが分かった。

 優斗はこの灰がどこから来ているのかをセシリアに尋ねた。しかし、


「川が氾濫すれば川沿いは荒れ果てますし、山火事が起これば多くの木々が失われてしまいます。矮小な我々ではどうしようもない事なのです」


 と曖昧に答えるのみだった。


「山火事でもあったのですか? それとも近くに火山でも?」

「ええ、そんな所です……」


 セシリアの回答は珍しく歯切れの悪いものだった。


 優斗たちはアルバ人の代表である『長老』、エイクの元を訪れ、現在の状況を聞き、そして食料の支援を近日中に行う事を伝えた。

 エイクは大変喜び、特に魔王候補である優斗が直々に訪れた事に感激していた。



 エイクと共に屋敷、といっても周りの家よりは多少立派なくらいの家から出て来た時に事件は起こった。

 優斗たちの前に、幼い二人の子供が飛び出してきたのだ。

 二人とも、来ている服はボロボロでやせ衰えていた。


「領主さま、どうか僕たちを助けて下さい!」


 二人の子供、恐らく兄妹は跪き、灰が積もった地面に頭を押し付けながらそう言った。


「僕も妹も、いいえ、お父さんもお母さんも何日もまともに食べてはいません! どうか、食べ物をわけて下さい!」


 突然の事に驚いた優斗だったが、とりあえず兄妹に手を伸ばそうとした。だが、それをセシリアが無言で制止した。そしてセシリアはエイクに視線を送った。


「この無礼もんが! 道を空けぬか!」


 エイクは兄妹に激怒し、持っていた杖を兄妹に振り上げて威嚇した。

 その光景に、優斗は思わず間に入ろうとした。だが、セシリアが今度は優斗の腕を掴んで制止した。


「殿下、どうかお待ちを」


(なぜ止めるんだ?!)


 優斗がセシリアに問おうとした時に、エイクが口を開いた。


「こいつらの親はあろうことか、全員で分け合う非常用の食糧を盗もうとしたのです!」

「そ、それは僕と妹がお腹を空かせてたから仕方なく……」

「そりゃあ、どの家も一緒だ! それなのに自分達だけ皆の食糧に手を付けやがって!」


 つまりは、この兄妹の家族は飢えのために公共の非常用食料に手を出してしまい、村八分の扱いを受けているという事だった。町からの食糧の支援も受けられなくなってしまっているのだろう。

 それで、この町の人間ではない優斗とセシリアから何とか食べ物を貰おうと、このような無茶を行ってきたのだ。


「さっさとそこをどけ!」

 

 再び、エイクが怒声を上げる。


「な、なんとか食べ物を。領主様、お願いします!」


 男の子はまだ地面に頭をこすりつけて懇願している。 


(少しならパンがあるはずだ)

 

 優斗たちが乗ってきた場馬車には、僅かだがパンがあった。

 兄妹のあまりの姿に、優斗はそのパンを馬車に取りにいこうとしたのだが、セシリアに止められた。


「なりません、殿下」

「どうして?! こんな事、見てられない!」

「お聞きください殿下、私たちはこの町にいる子供全員分のパンを持ってはいません」

「何を言っている?!」

「私たちは、特に殿下は統治者です。多くの人々を治めるべき方です。ですから、殿下は『公正』でなければなりません。今、目の前のこの兄妹にパンを与える事は簡単です。しかし、それはこの兄妹にのみパンを与えるという『不公平』となります。つまりは、公正な行いではないのです。飢えているのはこの町の人々、全てです。この兄妹にパンを与えるのであれば、町の子供全てに与えなければなりません」


 セシリアはまるで自分に言い聞かせるように、そして耐えるように最後の言葉を言った。

 優斗は、セシリアの言葉を理解した。理解してしまった。


(セシリアの言う事は正しい……)


 今、この兄妹にパンを分け与える事は本当に簡単な事だった。だが、今の優斗にはそれが出来ない。


(いや、考えろ。今の俺にできる事を……)


 優斗はしばらく思案し、大きく深呼吸をした。そして、未だに優斗の腕を離さないでいるセシリアに小さな声で


「大丈夫です」


 と呟いた。

 優斗は兄妹に向き直った。


「そこの二人、我々の行く先を塞ぐとは無礼極まりない」


 その言葉を聞いた兄の方が、怯えた顔を上げる。


「その罪は許すゆえ、我々を町の外まで案内せよ」



 優斗に命じられ、兄妹は恐る恐る優斗達の馬車を町の出口まで案内した。

 そして最後に、優斗はその報酬として、馬車に残っていた数個の小さなパンを兄妹に分け与えた。


「ありがとうございます! 領主さま!」


 そうして、兄弟は涙を流して優斗に感謝し、去っていった。




「あれで良かったのかどうかは分かりません」


 馬車の中で、セシリアは優斗にそう漏らした。


「いくら案内した褒美という体裁をとっても少し苦しいものがあります。不満に思う者もいるかもしれません」


 その言葉を聞いた優斗は小さく笑った。カワード・ヴァルムスの屋敷を後にした際に、セシリアの父であるクラウスからも同じような苦言を呈された事を思い出したからだった。

 優斗も、自分の行いが完全に正しいとは思わなかった。それに、いくら数個のパンを渡したからといっても、それは焼け石に水のようなものだ。

 あの兄妹の家族は、あの町でのルールを破って食料を盗もうとしたのだ。それがとてつもなく重いことだという事は優斗も分かる。町からの支援を受ける事ができないあの兄妹は、数日で再び飢える事になるだろう。


「セシリアさん、もし我々からの食糧支援がきちんとウルの町に届けば、あの兄妹も大丈夫ですよね?」

「恐らく、町の全員にいきわたる食料を提供できれば大丈夫かと。全員のお腹を満たしさえすれば、そこまで無情な事はしないかと」

「そうか、よかった……」


 優斗は安堵した。

 フリオに依頼した食糧さえ届けば、あの兄妹も助かるのだ。

 安堵したところで、優斗はずっと疑問に思っていたことをセシリアに尋ねてみた。


「セシリアさん、どうして俺をあの町に連れて行ったんです?」

「そう……ですね。一つは、新たな当主となったユウト様が直々に食料問題の解決が近いことを伝えて頂き、アルバ人達を安心させるためです。もう一つは、ユウト様にこれから統治する人々、それも立場の弱い人々を実際に見て貰いたかったからです」

「まあ、そんな所だとは思っていましたけど。セシリアさんは、優しい人ですね……」


 最後に、優斗は自然とその言葉を呟いていた。


「優しい……ですか。それを言うのでしたら、ユウト様もお優しすぎるかと」

「あまり好ましくはありませんか?」

「……ええ」

 

 セシリアは少し間を置いた後にそう答えた。


「ユウト様のお立場を考えると、あまりにもお優しいと今後は困る事の方が多いかもしれません。ですが……わたし個人としては好きですが」


 好きだという言葉を聞き、意味合いが違うと分かっていても優斗は少し頬が熱くなった。


「ところでユウト様。そろそろ、わたしに『さん付け』はお止め下さい。どうかセシリアとお呼び下さい」

 

 まだ何となく気恥ずかしく、優斗はセシリアを呼び捨てにする事には抵抗がある。意識して変える事は出来るが、優斗はあることを思いついた。


「俺も努力します。だけど、セシリアさんも俺にはもう少し砕けた話をしてくれませんか?」

「そ、それはさすがに不敬です」

「でも、向こうの世界では同世代はそんなに敬語なんて使いませんよ」

「で、では二人きりの時には出来るだけ努力します」


 思えば、この世界ではほぼすべての人が優斗には敬語で話かけていた。

ある意味息苦しくも感じていたため、一人でも対等に話してくれる人物が出来る事はありがたかった。


「ありがとう、セシリア……」

「ど、どういたしまして。ユウト……様」


 ぎこちないセシリアの物言いに、優斗は思わず笑ってしまった。


「わ、笑わなくてもいいでしょう」

「すまない。お互い、慣れていこう」

「わたしは練習が必要です。……必要みたい」


「はははっ」

「ふふっ」

 今度は、優斗もセシリアも二人とも笑った。


(とりあえずよかった)


 これで、小麦の問題は解決したのだ。

 優斗はこの世界に来て初めてすがすがしい気持ちになった。ある種の達成感を感じていたからなのかもしれなかった。


(それに――)


 優斗は微笑みセシリアの顔にちらりと視線を送る。


(この笑顔が見れるのは素直に嬉しいな)


 優斗はそう思ってしまっていた。




 数日後、優斗たちはオリントの町へと戻った。

 そこで待ち受けていた報告を聞き、優斗は衝撃を受けた。


  屋敷に戻ってその報せを受け取ったセシリアの顔から笑みは完全に消えていた。 

 優斗たちが受け取った報せは、キリリア共和国の商人、フリオからのものだった。


「小麦が、駄目になりました……」


 そう呟くセシリアは、平静を装ってはいたが、声は震えていた。


「どういう意味だ?」

「フリオ殿からの連絡です。数日以内に私たちに届けられるははずだった小麦を、いえ、全ての小麦を違うお方にお売りするようにキリリア本国から命令が来たようです」

「そんな馬鹿なことが……」


ようやく光明が見えたこの食料問題を解決する手段が、一気に遠のいたように感じた。

 そもそも、小麦の取引はきちんと纏まったはずだ。商人がその約束を反故にする事などありえるのだろうか。ましてや、優斗は次の魔王候補という、この魔国での地位は非常に高い存在だ。そんな人間との約束を反故にできるのか。


 優斗は事態をまだ完全に理解ができず、茫然としていた。セシリアは続けた。


「キリリア本国が命じた小麦の売り手は、オレストス家。つまりミナ・オレストス様です……」 

 

 ミナ・オレストス。優斗とともにこの世界へと召喚された魔王候補の一人、神月美奈だ。


「美奈か……」


 その名を聞いた優斗の顔に、引きつった笑みが浮かんでいた。

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