第11話 夜遊びはダメです

 そして、夜七時半。角野第二公園。

 ぼくとたけるが行くと、すでに自転車にまたがった久野と、マウンテン・バイクにまたがったこーすけがそろってそこにいた。

「ひ・ろ・と・くうん! アタシはこーこよーう」

 こーすけがぼくらを見つけて手をふる。気持ち悪いこーすけに近寄って、そのまま一発殴っておく。

「痛っ。……ほんまシャレ通じへんやつやなぁ」

 頭をなでるこーすけに、ぼくはジト目になって低く言う。

「ボケるんなら、もっとマシなボケかたして」

「いやん。ひろとくんったら、わ・が・ま・まっ」

「ボードで殴りつけられるとけっこう痛いって、知ってた?」

「ごめんなさいもうしません。……て、ボードもってきたん?」

「うん。一応ね」

 ぼくは頷いて、こつんとコンクリの地面をボードの端で叩いた。ブレイブボード。地面を蹴らなくても加速できるスケボーで、コツはいるけどぼくの大得意。たけるは歩きだったから、それにあわせてゆっくりきたけれど、本気出せばかなり速く滑れる。

「一応?」

「また、海賊だかが現れたとき、これなら逃げやすいからさ」

 久野の問いかけに答えると、久野は少し迷うような仕草をしてから、

「速いのは速いだろうけど、こけたら、危なくない?」

「亜矢子知らんの? 六年の間やとけっこう有名やで? こいつ、めっさボード上手いねんで?」

 こけるわけがない、とこーすけが笑う。久野は少し目を丸くして、

「そうなの?」

 と問い掛けてきた。ぼくは小さく笑いながら、無言でブイサイン。バスケなら、こーすけと同じくらい……か、こーすけより少しヘタかもしれないけれど、こっちなら負けしらずだ。

「へぇ……」

「そいえば、たけるも来れてんな。大丈夫やったんや?」

 赤いセロファンをはった懐中電灯(星座を見に行くときはこういう風にしたほうが、目が暗闇になれるからいいんだ、ってプリントに書いてあった)を、付けたり消したりして遊んでいるたけるに、こーすけが言う。ぼくらは四人で歩きだして(ぼくはボードで滑りだして)、キリン公園へと向かう。

「ひろとがね、作戦してくれたの。ばっちり!」

 ぼくの作戦を、たけるが得意げに話す。

「さっすが。おまえ、わりと頭いいよな、ひろと」

 こーすけはこう言ったけど久野は面白くなさそうな顔をして、

「頭がいいんじゃなくて、悪知恵が働くだけでしょ」

 とかいいやがったけど、そこは無視。

 キリン公園へと向かう間、あれ以降『彼女』が出て来なかったか、とか海賊は、とか、そういう話にもなったけれど、実はこれは全くなかった。ちょっと、期待していたんだけどね。

 まぁ、いい。その沢山残った謎を解くために、今こうやってキリン公園へ向かっているんだから。

 少しして、キリン公園に辿り着く。五番街の端にあるキリン公園は、ぼくとたけるの住んでる十棟のちょうど対極線側にある。角野第二公園からは、並木道一本。街灯が沢山の第二公園と比べて、キリン公園は街灯が一本、ブランコのそばにあるだけだから、薄暗い。ここに来る途中の並木通りも、街灯は少ないから暗かった。

 夜のキリン公園。

 ぼくらは誰もいないことを確認して、そっと足を踏み入れた。

 ほとんど正方形のキリン公園。真ん中あたりに名前の由来のキリン型の滑り台。顔を地面につけた形で、長い首の部分が滑り台になっているんだ。キリンのおしりがあるほうに、ブランコが四つ。ブランコの隣、公園の端に沿うようにシーソーが二つ。

 問題の砂場は、キリンの頭が向いている先だ。

「ここやねんな?」

「うん」

 昼間放り投げたままだったたけるのスコップが、そのまま残ってある。間違いない。

 たけるが落ちていたスコップを握って、砂を掘り始めた。

「えとね、ここ。ここにあったの」

 自転車とマウンテン・バイクを止めた久野とこーすけが、たけるのそばによる。

「まだ埋まってる、ってわけじゃないわよね」

「船、やろ? ……船の模型とかプラモとか、そういうんかな?」

 久野とこーすけも、そろって砂を掘り始めたけれど、特に収獲はなさそう。ぼくは体を伸ばして見ながら、言う。

「あのさ、砂場とは限らないんじゃない? この付近、って言ってたでしょ。ぼく、ちょっと周り探してきていい?」

「一人で? 危ないわよ」

 久野の言葉に、にっと笑ってみせた。胸ポケットを叩く。

「ヘイキ。すぐ戻るし、ぼく鍵持ってるし、なんかあったら『彼女』が出て来るんじゃない?」

「……そう、かもしれないけど。持ってるからこそ余計に――」

「すぐ戻るよ」

 何かを言いかけた久野をさえぎって、ぼくはボードを漕いで走り出した。

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