第13話 石厚
朝、衛の宮殿に迫る影があった。
その者たちが宮殿に近づくと門が開いた。開かれた門に彼らは躊躇なく、入っていった。
彼らが宮殿の中の庭から宮中へ進む中、先方に井戸から水を汲む女官がいた。彼女は寝起きらしく、まだ頭が覚めていないのか彼らに直ぐに気付かなかった。だが彼らが段々と近づいてくるとやっと気が付き、叫び声を上げようとした。
だが、哀れ、叫び声が上がる前に剣が煌めき、彼女の首が宙に舞った。
「このまま進めば良いのだな」
「はい、左様でございます。父上」
彼らが進む先に扉が現れた。その前には兵が立っており、彼らは目の前に現れた一団に槍を向け、叫ぶ、
「誰だ、貴様らどうやって……ぐふっ」
兵が言葉をすべて発する前に彼らは兵を切り捨てた。そして、扉から乗り込んだ。
流石に彼らが入ったことに気付いた宮中の者たちは兵を呼ぶが、段たちは武勇に優れており、やってくる兵たちを次々と切り捨てていく。
この事態に気付いた者のほとんどが逃げ出し始めた。この騒ぎの中、
「何事ですか、これは」
「何者かが宮中に入り込んだとかしかわかりません」
侍女は怯えながら、荘姜に言う。そんな侍女の手を放し、桓公のいる部屋の方向を向いた。直ぐ様侍女に目線を戻し、
「国君の元に向かいます。一緒に来なさい」
侍女は荘姜の言葉に驚きながらも彼女の言葉に逆らえるはずがなく、怯えながらも同意した。
二人が桓公の部屋に向かう、しかし、彼女らの他に桓公の元に向かう者たちがいた。そんな彼らの姿に真っ先に気づいたのは侍女である。
「荘姜様、お持ち下さ‥…」
侍女が荘姜を止めようとしたとき、男たちの一人が自分たちに気づいた。仲間にそのことを伝え、離れ走った。そのまま荘姜たちに近づき、剣を彼女に向かって突き出した。剣は深々と荘姜の胸に刺さった。即死である。
「ひっ」
目の前の光景に悲鳴を上げそうになったが何とか、我慢し、物陰に隠れた。ここで大声を出せば他の男たちがやって来ると思ったからである。だが荘姜を殺した男は侍女を見ており、そのまま物陰に隠れた侍女に向かってきた。
彼女はすぐさま立ち上がり、死ぬ気で逃げた。だが次第に二人の差は縮まり、侍女は足を躓き、転んだ。そんな彼女に男は剣を振り下ろした。その瞬間、横から剣が出てきて男の剣を弾いた。
剣を弾かれた男はそのまま切り裂かれた。
「大丈夫か」
「あなた様は・・・
助けたのは獳羊肩であった。宮中の騒ぎを聞き、駆けつけてきたのである。
「主君はご無事か」
「わかりません。ただ先ほどこの男に荘姜様が……」
「なんと……」
獳羊肩は侍女の言葉に思わず、天井を仰いだ。だが今は悲しみに暮れているべきではない。
「歩けるか? 直ぐ様ここから脱出しよう」
獳羊肩は桓公を助けることは無理だと考えた。そのため彼は侍女を連れ、宮中から脱出した。
その頃、段と公孫滑は桓公の元へ急いでいた。
「部屋はどっちだ」
「こっちです」
公孫滑の指差す方向にある部屋に彼らは駆け込んだ。
「何者だ。私を誰だと思って……」
声を上げようとする桓公を彼らは斬り殺した。
「衛君は死んだ。彼らを宮中に招け」
段はそう周りの兵に命じた。
この宮中での騒ぎの中、兵を率いてやってきたのは公子・
「成功したようだな」
「左様でございますな」
「ならば当初の予定通りに事を進めよう」
「はっ、皆の者これより、主公を殺した段と滑の親子を討ち果たす。かかれぇ」
彼は兵士たちに叫ぶように命じた。彼らは最初から段と公孫滑を利用することしか考えていなかったのだ。
州吁の兵が宮中に入ってきたことに段たちは気づいた。
「州吁め、最初から我らを裏切っていたのか」
段は悔しそうに吐き捨てた。
「父上、申し訳ございませぬ」
「お前の責任ではない……ここでやつらに殺されることは国を裏切り、兄を裏切り、他国の君主を殺し、多くの者を殺した私に相応しいだろう」
段は己の運命を嘲笑うように言いながら、迫り来る州吁の兵を見た。
「だが、州吁よ。お前も私と同類であぞ。必ず私のように報いを受けることになる。だが、ただで死ねると思うな」
剣を振り上げながら、段は息子の公孫滑と自分の兵と共に州吁の兵たちに突っ込んだ。
多数の兵を殺した段と公孫滑は州吁の兵により、殺された。その後、鎮圧が終わった州吁と石厚は群臣たちを集め、石厚が群臣たちに新たな国君について話した。
「我らが主はこの段と公孫滑によって殺されていました。変わりに衛の国を治める国君が必要となる。この度の反乱者段と公孫滑を討ち果たした州吁様こそが即位するべきであると考えている。これに異論ある者はいるか」
そう石厚は群臣に問いかけるが誰も石厚の意見に反論しなかった。そのため衛の君主に州吁は即位した。こうして、衛の内乱は終わった。
この内乱の顛末は獳羊肩から
決断の時が来た。
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