第32話 半機体


 急ぎ戻ると同時に、僕は確信した。

 あの生命体の持つ技術は、僕らサーレの技術を凌駕している。

 つまり、その流用元である人類すらも超えている可能性が高い。


 ならば何故いきなり攻撃を開始した?交渉の可能性を考えないのか?

 わからない。わからないことばかりだが、今は対応するしかない。


「頼む、夜叉!」


 僕は最速の弾速を誇る光の一閃、紫電砲を出力を落として放つ。

 敵のステルス機は回避できない速度の攻撃を受け、蒸発した。


 間に合ったか、と安心しかけたが、宇宙船からは爆煙が上がっていた。

 遅かったんだ。


 すると、爆煙の中から一筋、小型のポッドが飛び出した。

 そして、その傍らに寄り添う三体の人型の何かを見て、驚愕する。


「ツルギさん……たち……?」


 宇宙服を着用もせずに宇宙空間に出るなどあり得ない。即死ものだ。

 しかし、彼女らは平然と生身で浮遊するばかりか、周囲を見渡し、敵性機をその体から放たれる砲弾で攻撃し始めた。


『何をぼさっとしているランデ・ベルーゼ!巫女様を保護して今すぐ退避しろ!』

「イクモさん!?」


 通信機から聞こえる声は間違いようもなくイクモさんのもの。

 彼女と酷似した人型の機体が僕をまっすぐに見据えていることが、同一人物だと言う主張に思えた。


「これはどう言うことなのですか!?」

『細かい説明をしている余裕はない。私たちは"半機体"、サイボーグだと言う事実のみを今は飲み込め!』


 "半機体"、だって?

 実際のところ、生の体に機械を組み込む提案は数年前には存在していたらしい。

 だが、拒絶反応や教会からの反対の声もあり、計画は頓挫。凍結されていたはずだ。

 全身を改造し、宇宙空間での戦闘を可能とするレベルの技術を、至天民は完成させていたと言うのか?


『ベルーゼさん!』


 ツルギさんはポッドに迫る敵の無人機を破壊し、僕に向けて叫んだ。


『巫女様を、守ってください』

「っ!!」


 わけがわからない。が、その懇願には答えなくてはならないと心が叫ぶ。

 僕はポッドを前足で掴み、全速力で退避した。

 しかし、敵機は圧倒的な数を以って追撃を加えてきた。


「くそっ!くそっ!」


 ミサイルで迎撃しながら逃げるが、きりがない。

 残りの弾数も尽きる。

 残る武器は紫電砲のみとなるが、二発撃てば機械獣は行動不能になる。


 他の味方も徐々に落とされていっているようだ。侍女らは善戦しているが、時間の問題だろう。救援も期待できない。

 そもそも、この逃亡ルートもあてがない。なんとか基地やセイレーンにたどり着けたとしても、この敵の大群を連れていては大損害を出しかねない。


 詰み、か。

 今回ばかりはどうしようもない。


 諦め、ヘルメットを外そうとした時だった。


 視界のガラスが真っ赤なエラー表示で一面染まり上がった。

 同時に、機械獣が勝手に動作を変更し、追っ手に向かって振り返った。


「また!?っぐ……」


 そして、僕自身にも強烈な頭痛が与えられた。

 あまりに苦痛に息ができない。何か、触れている四肢のチューブから流れ込んできているような気がした。


 この流れてくる何かは、激情だ。


 辛く厳しい怒りの感情だ。けれど、なぜか暖かい。

 それは、愛する者を諭す、優しさを孕んでいたからだ。


「夜叉……?」


 この機体は、僕に諦めるなと叫んでいるのか?

 機械獣に感情などあり得ない。だが、意志を繋げる僕の調和が、この感情をどうしようもなく理解する。


「死ぬまで戦うなんて、カッコいい終わりは僕らしくないと思うけど」


 僕は、どんな顔をしていただろう。

 誰も見てはいないけど、きっと、笑っていた。


「お願いできるかな」


 僕が撃つんじゃない。

 奏でるだけ。

 奏士は、願いを唄にして託すんだ。


 そうすれば、機械獣は応えてくれる。


 極光が集い、その雷は、星をも砕く一閃となる。


「紫電砲ッッッ!!!!!!」


 薄紫の光の柱が、目の前の全てを飲み込んでいく。

 固定する台も、衝撃を緩和するジェットも無くして放たれた攻撃の反動で、夜叉は吹き飛んだ。


 回転し、のちに暗転する視界。

 調和を限界まで酷使した僕は、強制的に眠りについた。

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