第24話 太陽神の導き
さて、気持ち髪型に気合が入ってしまった気がするが気のせいだ。
と言っても黒髪サラサラな僕が整えられる部分なんて外ハネくらいなんだけど。
しかし女性と待ち合わせなんてほとんどしたことがないからなんだか緊張するな。
元中佐との朝特訓は待ち合わせといえば待ち合わせだったのかもしれないが、それとは少し違う。
いや、そもそもこれは待ち合わせなのだろうか。
これで誰もいないとかだったらどうしよう。
……なんだこの童貞丸出しの思考回路は。捨てろ。捨てるんだ。
そんなことを考えていると、あっという間に噴水前に着いてしまった。
まだ誰もいないのかと思い近づいていく。
「はっ!……はっ!」
「…………?」
すると、噴水の裏側から何だか可愛らしい声が聞こえてきた。
噴水を回り、声の主を確認する。
「……至天民、様?」
「え?わ、わぁっ!?」
僕に驚いて尻餅をついてしまう。
声の主であった至天民にして巫女、カグラ・イスルギは、白い袴姿で僕を見上げていた。
近くに竹刀が転がっているのを見るに、素振りをしていたのだろうか。
「な、ななな何ですか貴方は!?こんな時間に外出することは許していませんよ!」
「えっと、ツルギさんに呼ばれてきたんですが……」
「アズサが?まずったわ……」
「まずった?」
「ごほん、間違えましたわ。失敗した、です」
「それより、手を」
僕は至天民に手を差し出す。
いつまでも見下ろしているのも良くないだろう。
「要りません!」
僕の手を払って立ち上がり、袴から土を払う。
せめてと思い、竹刀を拾って手渡した。
「ありがとうございます」
至天民は竹刀を受け取った。
「鍛錬ですか?」
「貴方には関係ありません」
「……そうですか」
明らかに歓迎されていない様子だ。
今すぐ去りたいところだが、待ち合わせもある。少し待たせてもらおう。
「あの、何をしているのですか?」
「え?ツルギさんを待っているだけですが」
「〜〜〜〜っ!わからない方ですね!」
どうやら何処かに行って欲しいらしい。
けどそうもいかないからなぁ。
僕は噴水のそばに腰掛ける。
それを見て、至天民は怒りで顔を赤くしながらも諦めたか、その場で竹刀を振り始めた。
ツルギさんは彼女の侍女。つまり部下とはいえ、無下にはできないのだろうか。いや、したくないのか?
「わっ!……っとと」
そもそも至天民のそばに一般のサーレがいること自体意外だったのだが、彼女らはいつから一緒にいるようになったのだろうか。
「せい!はっ!やぁっ!……って、わわ」
侍女と至天民はどのような関係にあるのかを理解できるほど僕は彼女らのことを知らない。
「はぁっ!……あれ?竹刀は?」
いつか国防軍に戻るときのために、可能な限り至天民、及び教会の情報を得ておきたいものだ。
「あいたっ!?なに?敵の攻撃?」
…………振り上げた竹刀がすっぽ抜けて頭に当たっただけだ。
ってかさっきから気が散って仕方ない。
危なっかしすぎるだろう。なぜ素振りだけでバランスを崩して転ぶんだ。
「あの、至天民様」
「うう……」
「至天民様?」
「……至天民?ああ、私のことですか?」
「私?」
「妾です!」
頭を押さえてうずくまっていた至天民は慌てて誤魔化した。
「巫女様と呼びなさい。紛らわしいです」
「はぁ」
ついでにダメ出しされた。
「それで、何ですか?できれば話しかけないで欲しいのですが」
「いえ、流石に見てられないと言うか。あの、剣は誰かに教えてもらったりしているのですか?」
「……教えてもらっていません」
やはりか。
「剣を振る時に後ろ足を浮かせてはいけませんよ」
「え?」
「あと、振り下ろす時はしっかりと力を入れて。緩急が大事です」
「え?」
僕は再び噴水に腰掛ける。
しばらくして僕が助言していたことに気づいたのか、羞恥で顔を赤くしたが、再び竹刀を振り始めた。
なんだか孤児院にいた子供に重なってしまい、つい声をかけてしまった。
それからどれくらい時間が経っただろう。
巫女様は疲れたのか、屋内に戻るらしい。
彼女の後ろ姿を見送り、再び正面を向いた。
ここまで来ないと、流石にすっぽかされたか。
もう少し待ったら帰ろうと思いながら空を見上げると、背後から足音が近づいてきた。
彼女は顔を赤くさせながら、僕の前に立つ。
「ど、どうでしたか?」
「どう?」
「最後の方です!結構上手く振れていたと思うのです!」
巫女様は、僕に素振りの評価を聞きに戻ってきたらしい。
しかし……どこまで言っていいものか。無礼だと怒り出して牢獄にぶち込まれたりしないだろうか。
「えっと、最初よりは良くなったと思います。転ばなくなったし」
「は、はい!転ばないで竹刀を振れるようになったのは大きな成長でした」
巫女様は得意げだ。
何度かこけそうになっていたような気もするが、まぁ黙っておこう。
「あの、その……良ければなのですが……」
すると、巫女様はもじもじと指を遊ばせ始めた。
……僕も察しが悪い方ではない。
「僕も、待ち合わせの日を間違えたのかも知れません。明日、ツルギさんをもう一度待ってみることにしますよ」
「ほ、ほんとですか!ぜ、絶対ですよ!」
花が咲くように嬉しそうな顔をして、巫女様は今度こそ大聖堂に戻っていった。
「まぁ、いっか」
特にやることもない。あと数週間くらい付き合ってもいいだろう。
それに、きっとツルギさんはこれを望んでいたはずだ。
その真意は良く分からないが、至天民……巫女様に近づいておいて損はない。
これも、きっと太陽神様のお導きなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます