第18話 遠い星の向こうから


ここはどこだろう。


眼前に広がる一面の花園を前に、僕は立ちすくんでいた。


赤、白、黄色、紫、緑と、実に様々な色彩を持ちつつ、決して調和を崩さないその景色は純粋に美しい。


しかし、それ以上に、僕が今ここにいる理由がわからない。

確か、機械獣に乗って紫電砲を放ち……そうか。コーサカ元中佐も言っていた。自分のキャパを超えた調和の行使は命に関わると。

夢と言い切るにはあまりにリアルなこの世界は、死後の世界なのだろう。


とんでもない状況だと言うのに、なぜか心は全くざわめかない。


僕は風に揺られながらも、波のように騒めく花園をゆっくりと歩く。

そのうちに立ち止まり、一輪のルビーのように真っ赤な花を摘んで香りを嗅いだ。甘くも上品な香りが鼻孔を満たす。


不思議な世界だ。

あまりにも鮮明に風の感触、花の香りを感じる。

それに加え、この見覚えのない風景に対し、懐古に似た感情を覚えている。


セイレーンは、無事だろうか。

サーレはこれからどうなるのだろうか。

シエルさ……元中佐は、一体何をしているのだろう。


その時、背後に何者かの気配を感じた。


「誰だっ!?」


腰の剣を引き抜くと同時に対象に向かって構えを取る。

長きに渡る訓練の末に身につけた、一種の癖のようなものだ。

だが、振り向き『それ』を目視した瞬間、僕は戦意を失い、ただ絶句した。




『…………………………』




眼前に佇む『それ』は、四足で立つ獣であった。

伝承に残る龍に似た顎を持ち、虹のように輝く白銀の体毛に覆われている。

文献のどの生物とも似つかわないその獣は、推奨の様に蒼い瞳で、僕をじっと見つめていた。


『――――る』

「何?」


その獣は、僕に何かを伝えようとしている。

だが、何を伝えようとしているのかわからない。音はノイズのようなものに阻まれ、意味を持てずにいる。


『――――――ってる』

「っ!?」


声が徐々に鮮明になると同時に、花々が竜巻に煽られたかのように舞い、僕の視界を遮った。


「お前は、何を言っている……!?」


普段であれば絶対に近寄りはしない。

けれど、なぜか僕は、あの生物が僕に伝えようとしているメッセージが気になって仕方なかった。


否。僕は、あの獣に……○○○に触れたくて、如何しようも無いんだ。


風と花に行く手を阻まれながら、その先の獣に向かい手を伸ばす。

何か大切なことを、僕に訴えかけている気がしたのだ。


けれどその手は届くことはない。視界が花吹雪から眩しいほどの白に侵食されていく。




「待ってる――――――――」




最後に、かろうじてそんな声が、光の中から聞こえた気がした。


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