第13話 再会


 眼前の脅威は去ったものの、このまま止まるわけにはいかない。

 周囲を見渡し、カナタたちのいる方角を見る。

 その上空では敵航空勢力が四機、機械獣と戦闘していた。

 機械獣が派遣され、戦闘を継続していると言うことは、まだ避難所は無事なのか。

 けれど安心などできない。すぐさま応援に向かおうと、機械獣を飛ばす。


「喰らえ!」


 機銃が火を吹き、敵の戦闘機は蠅の様に落ちていった。

 しかし、助けたつもりの味方機械獣はこちらを警戒し、肩の銃口をまっすぐにこちらへ向けていた。

 所属不明、カラーリングも見たことのない。そんな機械獣を信頼しろと言うのも無理な話だ。


 僕はハッチを開け、自分の姿を晒す。

 あの機械獣が、想像通りなら、これで大丈夫なはずだ。


 すると機械獣は僕に近づき、ハッチが開かれた。


「ランデ!?」

「ユイ!」


 数時間会わなかっただけでも随分久しく思えるのは、互いに想像を絶する死線を越えてきたからだろう。

 彼女が無事であることに、まずは安堵した。


 しかし、ユイは動揺したまま、手をワナワナさせている。


「その機械獣は何!?そもそもどうしてランデが!?」

「だよね……」


 僕の調和レベルは彼女も知っている。

 それに加えて所属不明機と来た。理解不能に理解不能が重なって混乱してしまうのはわかる。

 けれど、自分にすらよくわかっていないことを説明できるはずもない。


「とりあえず、今は避難所が心配だ。地上はどうなってる?」

「あ、そうだ。すぐに向かわなきゃ!ランデも付いてきて!」


 質問には答えず、降りていってしまう。相変わらずせっかちだ。


 そこからは、あまり手間がかからなかった。

 閉鎖された入り口をなんとかこじ開けようとする兵たちを後ろから機械獣で轢き殺す。

 拳銃程度は装甲で弾き飛ばせるため、一方的な蹂躙となった。


 閉鎖を解き、出てきたカナタは僕の顔を見て、死人に出くわしたような顔をしたが、僕の後ろに控える漆黒の機械獣に気づくとさらに驚愕した。


 すると、その後ろから、右足のない初老の男が歩いてきた。


「ジン先生。ご無事でなによりです」

「ああ。お前もな」


 ジン先生は僕の頭を撫でた。

 ジン・キハラ。その素性は分からないが、叔父の古い友人らしい。

 過去に戦争で右足を失い、仕事を無くしていた時、叔父からの紹介で孤児院の院長になった男。

 僕とも長い付き合いで、叔父に続き、第三の父のように慕う人物だ。


「それで、お前の後ろにある"それ"はまさか……」

「はい、機械獣です」

「しかしその色は……説明してくれるか?」

「はい」


 ジン先生、カナタ、ユイにタケウチ技士も交え、これまでの経緯を説明する。


「女神像から機械獣が出てきて自律行動をした?そんなバカな」


 カナタは呆れた様子だったが、ジン先生は神妙な面持ちだった。

 話を終えると、先生は一息ため息を吐く。


「俄かには信じがたい話だが、現に機械獣はある。そして、操れてもいるわけだ。なら、行くとこは決まってるんじゃないか?」

「え?」


 返された言葉は、意外なものだった。


「中央区だ。今、あそこはきっと激戦を繰り広げている。敵はかなりの勢力をつぎ込んできているらしい。下手すると、このままセイレーンを落とされかねない」

「そんな!?」

「すぐさま応援に向かうんだ」

「けど先生!ランデは正規の手続きを踏んでないんだよ!それに、機械獣も登録されていない!そんなものに乗ったことがバレたら、謹慎程度の罰ではすまない!」


 ユイは先生の前に立ち、抗議する。

 事実、その通りだ。仮にこの場を乗り越えられたとしても、銃殺刑になりかねない。


「なら、このまま見てるか?」

「先生はランデが死んでもいいの!?」

「このままじゃどの道全員死ぬんだぜ?なら、全員生き残る可能性がある方に賭けたいじゃねぇか。仮にランデが銃殺刑だったとしても、それでお国が守れるものなら安い。そうだろ?軍人」

「っ……先生、最低だよ!」

「ユイ、大丈夫だよ」


 憤る彼女を宥め、僕は先生と見つめ合う。

 その真意は、やはり読めない。けれど、その挑戦的な目は、僕に問いかけていた。

 覚悟はあるのか、と。


「僕は行く。できれば、助けて欲しい」


 ユイとカナタに向き直り、頭を下げる。


「そんなの……できない……」

「俺は手を貸すよ」

「カナタ!?」

「士官学校に入った時に決めたはずだ。俺たちはただのサーレじゃない。みんなを守る戦士なんだ」

「死んじゃうかもしれないんだよ?」

「死ぬ気なんてないさ。俺たちは必ず生きて、孤児院に帰る。ランデが軍事法廷に立ったら、全力で弁護してみせる。それが、俺たちにできる最善の行動だ」


 ユイは目を伏せる。

 本当に、優しい少女だ。けれど、僕は戦いたい。

 叔父の助けになりたいんだ。


「ユイ、お願いだ。僕を足手まといにしないで」


 ユイは涙を流しながら顔を上げて、何かを言おうとしたが、言葉は出なかった。


「わかった」


 代わりに出たのは、諦めと悲しみに満ちた呟きだった。


「それで、俺たちは何をすればいい?」


 僕は、親友たちに今後の作戦を伝えた。

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