第18話 病床

 翼「颯太くん、大丈夫?」


 保健室の病床で横になっていたのは、翼からのダイレクトアタックを喰らった僕、颯太だった。翼愛用千枚通しは、キャップつきで僕の脇腹に突き刺さった。もう一度言う。キャップつきだ。


 颯太「うぇええ」


 言葉にならない声をあげながら、保健室に運ばれた僕は今もなお、その痛みに耐えかねている。いつになったら走馬灯が見えるのかなと、半ば本気で死を覚悟している自分が恐ろしい。あれがキャップつきでなかったらどうなっていたかと思うと、想像に頭を痛める。正直、考えたくない。


 春香「翼ちゃんがあんなことするから」


 微かに二人の会話が耳に入ってくる。視界はぼやけてピントが合っていない。


 翼「だって、あのままだったら春香ちゃん、颯太くんに告白してたでしょ?」


 春香「私は、別に......」


 翼「『別に』じゃない!! 絶対颯太くんに告白する流れになってた!! もしあのまま颯太くんが『僕も好きだよ』とか言っちゃってたら私本気で千枚通し突き刺してたよ」


 どうやら僕は九死に一生を得ていたのかもしれない。すぐにでも春香に返事していたら、僕はもう生きていないのかもしれない。


 答え渋ってて良かった。


 春香「私だって我慢してたんだもん! もう気持ちが抑えられなかったんだもん! 翼ちゃんの方が頭いいし可愛いから、私なんか振り向いてもらえないもん」


 翼「春香ちゃんだって可愛い!」


 春香「翼ちゃんの方が可愛い!」


 何この小学生レベルの可愛い喧嘩。この会話を聞いてるだけでも痛みが和らいでいく。いいぞ。もっとやれ。


 翼「可愛さは春香ちゃんに負ける。でも、颯太くんのことを好きな気持ちは私の方が上だから」


 春香「私の方が颯太くんのこと好きだもん」


 翼「私の方が颯太くんのことが好き!」


 春香「私の方が颯太くんのことが好き!」


 翼「私の方が好き!」


 春香「私だって好き!」


 翼「大好き!!」


 春香「私が大好き!!」


 翼「じゃあ颯太くんの良いところ10個言えますか〜?」


 春香「翼ちゃんこそ颯太くんの良いところ10個言えるんですか〜?」


 なんだか聞いて恥ずかしくなって来た。しばらく横になっていたおかげで少しだが、痛みは引いていた。だが二人の会話が面白いのでこのまま聞くことにする。


 翼は指を折って数えるように、僕の良いところ(?)を言い始めた。


 翼「まずかっこいい。頭もいい。優しすぎ。あとかっこいい」


 かっこいいが二回出てます翼さん。


 春香「はい残念かっこいいが二回出てます〜。私の勝ち〜」


 翼「それくらいかっこいいってことだよ! それなら春香ちゃんは他に10個言えるんですか〜?」


 春香「まず成績優秀。スポーツ万能。性格もよくてお人好し。色んな人を惑わせる。好きすぎて今すぐにでも抱きつきたい。大好きすぎて結婚したい」


 春香さん、あなたそんな性格でしたっけ?


 翼「私の方が颯太くんと結婚したい気持ちでいっぱいです〜!」


 春香「私の方が結婚する気持ちはいっぱいあります〜!」


 颯太「あの、二人とも、そろそろ落ち着いて」


 翼「「颯太くんは黙ってて!!」」春香


 颯太「ぐふっ」


 二人からのダイレクトアタック。衝撃が強すぎた。僕は再び、病床に寝付くことになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る