第16話 赤み

 さっきからものすごい視線を感じる。


 これは今に始まったことじゃない。ここ最近の出来事ではあるが、それにしても圧がすごすぎる。授業中も休み時間も屋上でお昼しているときにでさえ、僕への視線は増すばかり。


 いや、だからと言ってその視線の持ち主が誰なのか分からない、というわけでもなく。


 むしろこれは、僕が元凶で起こっていることなのかもしれない。


 僕が彼女、春香を好きにしてしまったためである。


 ◯◯◯


 春香「......」


 颯太「ねえ翼?」


 翼「なに、颯太くん?」


 颯太「さっきから春香がこっちをずっと睨んでるんだけど」


 翼「多分気のせいだと思うよ」


 颯太「そ、そうかなあ」


 否。そんなはずがない。というかさっき目があった。その瞬間に春香はより一層視線を鋭くしてくる。顔も完全にこっちに向けてくるのに、他の生徒は違和感とか無いのか。あれだけ圧がかかった視線が来てるんだぞ。少しは気にしたりしないのか?


 颯太「どう見てもこっちを見てると思うんだけど」


 そう言うと、翼は人差し指を僕の唇に当て、


 翼「そんな野暮なことは聞いたらいけません。他のみんなも気づかないふりしてるんだから」


 は。気づかないふり? そんなそぶり全然見えな。


 あー。そう言われれば、納得だ。もしくは翼にそう言われなければ気づかなかったのかもしれない。


 他のみんな、汗マークや額に縦線がびっしり描かれている。


 なるほど。てことは結局春香は僕を見ていることで間違いない。


 でもこれは仕方ないことだ。翼のせいで自分の気持ちに気付かされたんだろう。春香が僕のことを好きだってことに。


 ちなみにこれも翼からの受け売りだ。「春香ちゃんは絶対に颯太くんのことが好きなんだ」とかなんとか。


 そこで疑問が一つ。だからってあんな表情になるか?


 普通、好きな人には顔を向けられないのが普通なんじゃないのか? ものすごい形相で見てくるんですが、これは一体どうしたら良いのでしょう。


 無論、話を聞く以外に方法があるものか。


 自問自答の内容の薄さに肩を落として、次の休み時間は話しかけてみようと、心に決めた僕であった。


 ◇◇◇


 休み時間。


 さて、春香に話しかけてみようかな。そう思って立ち上がったと同時に、春香もその場で勢いよく立ち上がり、ドスドスと足音を立てて僕のところに来た。


 近くなるにつれ春香の表情はより一層険しいものだと詳細に理解できる。


 第一声は春香から。


 春香「颯太くん、ちょっといいですか」


 颯太「は、はい」


 圧が強い。つい声が裏返ってしまった。僕は言われるがまま、春香の後について行った。


 ◯◯◯


 校舎内廊下。


 少し歩いたところ、特段ほかの廊下とはなにも変わらないところで春香の足は止まった。


 春香「颯太くん」


「はい?」と一言応答する。春香は一回深呼吸をして、背を向けていた体を反転させた。


 春香の表情は、さっきとは打って変わって赤みを帯びている。


 春香「颯太くん。私、どうしちゃったんだろう」


 颯太「......え?」


 春香の顔はますます赤くなるばかりであった。

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