第13話 感触

 図書室にてーー。


 放課後の図書室はがらんとしていた。本一冊一冊が個々の存在を強く唱えていたが、それ以上に、入った瞬間に迫ってきた空気は、すでにいた少女に彩られていた。


 葉月「ふーん、それで?」


 颯太「それで、とは?」


 それで、とは?


 葉月「あなたの説明を聞く限り、2人から気持ちを伝えられたみたいだけれど、あなたはどうするつもりなの?」


 颯太「どうするも何も、僕に恋愛なんて全然。むしろ僕なんかが誰かに好かれるってこと自体、明日には槍でも降るんじゃないですか?」


 葉月「はあ。」


 葉月先輩はあからさまにため息をつく。


 葉月「あなた、自分が何者か分かってないようね。」


 颯太「何者?」


 葉月「あなたはね、モテるのよ。」


 颯太「はい?」


 葉月「私のところまで話が来たわ。一年生にものすごい生徒がいるって。」


 颯太「ものすごいってどういう風に?」


 葉月「成績優秀で容姿も性格も悪くない、非なところが一切ないって噂が来てるわよ。ってなんで私が説明しないといけないのよ。」


 颯太「僕に、そんな噂が?」


 葉月「まあ、噂って言っても事実だろうけれど。どうせあなたのことだから、無意識のうちに女子生徒に優しく接していたんじゃないのかしら?」


 颯太「い、いえ、僕は普通に、困っていたら声をかけるくらいしか。」


 葉月「声を掛けてどうしたの?」


 颯太「えっと、事情を聞いて、あとは何かできることはないかを聞いたり、手伝ったり……。」


 葉月「……っ!!」


 葉月先輩は何を腹立てていたのか、机に両手をついて立ち上がった。そして、怒号が二人しかいない図書室内に響き渡らせる。


 葉月「だから、それが原因だって言ってるでしょ!! それが無意識って言ってるのよ!! あなた一体どこの聖人よ、普通そんなことしないわよ!! どこまでお人好しで他の人を惑わせてるのよ!!」


 颯太「へ? へ?」


 葉月「あ〜もうムカついた。あなたと一緒にいると調子狂うわ。」


 颯太「あ、あの、葉月先輩?」


 葉月「帰るわ。」


 颯太「……行っちゃった。」


 僕、何か悪いことでもしたのかな?


 ◯◯◯


 葉月「…………。」


 ったく、なんであいつはああなのよ。いつもあんな感じにいろんな人を惑わすの? 本当に性格悪い。


 葉月「…………。」


 なんで、私があんな奴のこと……。


 ◇◇◇


 一人になった図書室に司書の先生が来たのはそれから30分後のことだった。


 僕はそれまで、葉月先輩からもらったプリントたちをひたすらやり続けた。


 だが、何処と無く、引っかかる感じがする。この感触は今までに味わった感触ではなく、何というか、モヤっとしたような。


 颯太「…………。」


 今の僕には、まだこの違和感の正体が何なのか、知る由もない。

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