第11話 紙束

 お昼休み・屋上にて。


 今日も僕はいつも通り屋上にて、焼きそばパンを片手にムシャムシャと。


 その後は英単語帳を開いて英単語の暗記に移る。これが僕のお昼の流れ。


 この屋上はとてもいい。日陰もあるし、涼しい風がよく来るし、教室よりも快適に思える。そして何より僕一人なのだ。


 こんなに勉強の邪魔をされないような所で一人英単語の暗記ができるのは極上の勉強場所であるのは言うまでもない。


(なんて幸せなんだ)


 だが、ここ最近この屋上にはもう一人お客さんがいる。実はもう隣りにいるわけで。


 颯太「先輩が自主的にここに来るなんて珍しいですね。」


 葉月「昨日もここにあなたを呼び出したでしょ。」


 葉月先輩である。


 颯太「それで、今回はどういったご用件で?」


 葉月「これよ。」


 ばさっ


 颯太「ん? 何ですか、この大量の紙束は。」


 葉月「一ヶ月後には中間テストよ。これを使って勉強しなさい。」


 颯太「まさか、こんな大量の紙束をこの一ヶ月でやれと?」


 葉月「何その口ぶりは。まさか出来ないとでもいうの?」


 颯太「葉月先輩は出来るんですか? こんな大量の紙束を、この一ヶ月の間で。」


 葉月「私は一週間で終わらせたわ。去年の今頃の時期ね。ちょうど同じような量を理事長から渡されてね。」


 颯太「ああ、確か理事長はあなたのお母さんでしたか。」


 葉月「その理事長から何が渡されるのだろうと思った矢先、私はとうとう愛想つかされたんだわって思ったわ。」


 颯太「…………。」


 葉月「まあ、私は別に親から愛想つかされても良かったのだけれど、元々出来る人だったから、こんなの一週間で終わらせたわ。」


 颯太「多分お母さんは、根を上げる娘の姿を見て見たかったんじゃ無いんですか? 普通これだけの量を一週間で出来るはずがありません。」


 というか普通に無理だ。どんだけあるんだよこのプリントの山。軽く10cmはあるぞ。


 葉月「そうね。でも私、出来る子だから。」


 颯太「…………。」


 葉月「私、出来る子だから。」


 颯太「そう何回も言わなくても聞こえてますから大丈夫です。」


 葉月「大事なことよ、ちゃんと覚えておきなさい。もしかしたらテストに出るかもしれないわ。」


 出ねえよ。うん、絶対に出ない。出るとしたら、この世に『葉月』っていう教科が生まれた時だ。


 颯太「とにかく、これを僕は一週間で終わらせればいいんですね。」


 葉月「そうよ。頑張んなさい。」


 颯太「まあ、何とかやってみます。その気になれば僕だってこれくらい楽勝ですよ。」


 葉月「そう余裕ぶっていると、そのうち足をすくわれるわよ。」


 颯太「どうして、足をすくわれるんですか?」


 葉月「そのうち気づくわ。あなたの近くで、あなた以上に実力を持っている人が、あなたのたもとでウロウロしていることに、ね。」


 颯太「……?」


 葉月「それじゃあ、私はもう行くわ。」


 颯太「は、はい。これ、ありがとうございます。」


 〇〇〇


 さて、早速これ《紙束》をやり始めようかな。見る限り、全教科の問題集っぽいし、ちゃちゃっと終わらせるか。


 こうして、僕はこの一週間をプリント達に捧げることになる。近くで動く影には、気づかずに。

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