第6話 心情

 葉月: とりあえず、颯太。


 颯太: はい。


 葉月: あなたは今を維持することよ。まだ一年生なんだから、これから山のように大変なことは襲ってくるわ。私も一応協力するとは言ったけど、正直、どう転ぶか分からないわよ。


 颯太: 大丈夫ですよ。その時はその時です。それに、葉月先輩が協力してくれるのなら百人力です。


 葉月: そのポジティブ思考は一体どこから出てくるのかしらね。


 まあ、ネガティブになったとこで何も始まらないし、なんならポジティブになった方が人生楽しいものではないだろうか。


 そこは人によって違いはあるだろうけれど。この世には一生ネガティブ思考の人もいるみたいだし、一概に否定ができない。


 颯太: さて、早いとこお昼食べて英単語でも覚えましょうか。


 葉月: あなた、まさかまだ英単語帳なんて使ってるの?


 颯太: え? そうですけど、先輩は違うんですか?


 葉月: Of course.


 颯太: …………。


 葉月: それじゃあ私、もう行くわ。英語、話せるくらいまでは勉強しときなさいよ。


 颯太: …………。


 葉月: それじゃあ、また放課後。


 葉月先輩は屋上から出て行った。


 というか、何今の流暢な英語。


 もしかして僕、この時点で負けてる?


 ◯◯◯


 五限休み時間ーー。


 やはり、葉月先輩は英語が話せるに違いない。そうでなきゃ、あんな流暢なオフコースが言えるはずがない。


 颯太: むむぅ。


 翼: ねぇ颯太くん。


 颯太: ん? 何、翼さん


 翼: いや、ものすごい険悪な表情してたから、何か悪いものでも食べたのかなって思って。大丈夫?


 颯太: うん。大丈夫だよ。ただちょっと気になることがあって。


 翼: 気になること? もしかして、さっきの現代語の登場人物の心情のこと?


 颯太: いや、惜しいようでものすごく離れたような感じだけど、まあそんな感じだよ。


 翼: そうなんだ。実は私もさっきの登場人物の心情がどうも引っかかっててね〜。これはどう見てもヒロインが主人公に恋してると思うんだよね〜。颯太くんはどう思う?


 颯太: え、恋?


 翼: そうそう。だってこのヒロインずっと主人公のこと見てるんだよ? それに主人公と話してる時の言動がどう見ても恋する乙女って感じでとても女の子してるんだよね。


 颯太: そんな描写ってあったっけ?


 翼: ないよ。


 颯太: そ、そんな威張るように言わなくても。でも、どうしてこのヒロインが主人公に恋してるって分かるの?


 翼: 勘!


 颯太: オッケー分かった翼さん。このヒロインは主人公に恋してる。それで万事解決だ。


 翼: 良かった〜。学年一位の颯太くんが言うなら間違いないね。テストに出た時は『ヒロインは主人公に恋してるから』って書こ。


 颯太: ちょっと待った僕が悪かったからちょっと一緒に教科書見ようか。


 ◇◇◇


 颯太: ……どう? 僕の説明分かったかな?


 翼: うん、颯太くんの説明は分かったけど、でもなんだかちょっと寂しいね。


 颯太: どうして?


 翼: だって、ヒロインは結局主人公に恋してるのは確かなのに、それを示す描写がどこにも書かれてないんだよ? これって他の人から見たらほとんど暴力だよ。


 颯太: ぼ、暴力……?


 翼: そうだよ。本当は好きなのに何もできない、もしくはつい好きな人をいじめちゃったり暴力ふるっちゃったりして、最終的には主人公には気持ちが届かないっていう結末だよ。


 颯太: そ、そうなんだ。


 翼: そうだよ! これは一種の暴力だよ。ちゃんと主人公には相手の気持ちに気づいてもらわないといけないんだよ。颯太くんにはこの気持ちわかる?


 颯太: な、なんで僕なの


 翼: だって颯太くん、いつまでたっても私の気持ちに……。


 颯太: ……私の気持ち?


 翼: ……はっ!? いや、なんでもないなんでもない!! 今のは忘れて!!


 颯太: あ、うん。分かった。


(キーンコーンカーンコーン)


 翼: あ、六限目が始まっちゃう。それじゃあまたね颯太くん。


 颯太: う、うん。また。


 ……私の気持ち?

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