第5話 条理
屋上にてーー。
颯太: ところで。
葉月: 何よ。
颯太: なんで僕を屋上に呼んだんですか?
葉月: そんなの話があるからに決まってるでしょう。何を当たり前なことを言ってるのかしら。
颯太: は、はあ。話ですか? ちなみに、内容というのは?
葉月: ……今朝のことよ。
颯太: …………。
今朝ーー葉月先輩にカッターナイフで襲われたあのことか。まさかカッターナイフで襲ってくるとは思っていなかったが、あの時間帯に通り魔みたいに襲われると恐怖でしかない。
とまあ、冗談はこのくらいで。
葉月: あなたが私に要求してきたこと、できる限りのことはするわ。でも、私にも限界があるの。
葉月先輩はまともに本題に入った。
颯太: 限界?
葉月: どうせあなたも『推薦入試枠』狙いなのでしょう?
颯太: …………。
『推薦入試枠』
この学園には、3年間の成績を累計して、抜群に成績の良い生徒にだけ与えられる『推薦入試枠』が存在する。
その『推薦入試枠』を与えられた者には、ほぼ100%と言って良いほど、自分が希望した大学への進学が確実なものになる。
この学園はそれほど、知名度も勢力も大きい。僕はその『推薦入試枠』狙いなのだが、上には上が存在するわけで。
葉月: 私の場合は、特例で入学した時点から『推薦入試枠』はもらってるんだけれど。
颯太: 何だこの世界の不条理は。
こうやって肩を並べてお昼を食べているけれど、僕の隣には本当の意味で天才、いや、化け物がいる。
噂の話では、葉月先輩はものすごいところのお嬢様とかなんとか。旧家の長女とかいう噂も立っているが本当のところは想像上のものでしかない。
でも実は、こうやって会話してるだけでもレアケースなのかもしれない。
それほど彼女はすごい人間、、いや、化け物なのかもしれない。
全国模試で一位を取るくらいだ。化け物でなくて何になる。
颯太: ……先輩は、その『推薦入試枠』をどこに使うんですか? 先輩のことですから、自分から希望しなくても、他の大学からの斡旋とか推薦とかが来てるんじゃ無いんですか?
葉月: そうね。あまり興味ないからよくは知らないけれど、海外の大学からも推薦が来てるみたいよ。
颯太: やっぱり、天才は違うなあ。
葉月: ……何よ、その言い方は。
颯太: 僕なんか、小学校の頃から塾や習い事を沢山させられてきましたけど、どれもこれも面白くなくて。まあ最後まではやり遂げましたよ。もちろん、一番の成績を残して辞めていきましたけど。
葉月: ……それが何だって言うのよ。
颯太: いや、なんというか。才能なのかなって思って。
僕の人生に、妥協はしない。どんなことも最後までやり遂げるのが僕のモットーになりかけている。
後悔だけはしたくないのだ。また、昔みたいなことが起こってはもう遅いのだから。
葉月: …水を差すようなこと言って良いかしら。
感傷に浸っていた僕を尻目に、葉月先輩は口を開いた。
颯太: はい、なんでしょうか。
葉月: この学園の理事長は見たことあるかしら?
颯太: あ、はい。ちらっとですが、女性の理事長ですよね?
葉月: その人、私の母親よ。
颯太: へぇ、そうなんですか。
…………。
颯太: ん? 今なんて言いました?
葉月: だから、私の母親、ここの理事長よ。
…………。
何か急に全てを悟ったような、全身に衝撃が走ったような。
というかもうそれ、チート認定。
颯太: この学園なんか嫌いだぁあぁああ!!
僕はそれに向かって叫んでいた。
◯◯◯
葉月: いきなり大きな声出さないでくれる? 耳に悪い。
颯太: あぁ、ごめんなさい。っていうか、先輩のお母さんがこの学園の理事長何ですか?
葉月: ええ、そうよ。これで納得したかしら?
颯太: ……まさか、さっき特例って言ってたのは。
葉月: 私の母親、理事長はね、私の事、鬱陶しいくらいに溺愛してるのよ。家に帰れば『はづきちゃ〜ん大好きっ!』って言って抱きついてくるのを私が避けるんだけど。
颯太: 理事長がですか?
葉月: そうよ。ここでは猫被ってしっかりしてるように見せてるけど、家ではぐだぐだよ。他の人に見せられたものじゃないわ。
颯太: それじゃあ、『推薦入試枠』は……。
葉月: 極論を言えば、母親の娘に対するご機嫌取りの道具として使われたってことよ。
颯太: もうこの学園のパワーバランスが分からなくなってきたんですが。
葉月: だから、そんなに意気込んで勉強しなくても良いんじゃないかしら? まあ、私もあなたと同じような経験をしてきてるから分からなくもないわ。
颯太: 慰めてくれるんですか?
葉月: あら、あなたには今すぐにでも動画を消して欲しいついでにあなたも消えて欲しいって思ってるわよ? 良かったわね。
颯太: 全然良くありません。
◇◇◇
颯太: それで、話を戻すんですが。先輩はさっき、『限界がある』って言ってましたが、それは一体なんの限界なんですか?
葉月: あなたを『推薦入試枠』までのお手伝いをする。それがあなたの要求だったわね。
颯太: ……そうですね。
葉月: 手伝うのは構わないわ。ただ、あなたが『推薦入試枠』を手に入れられるかどうかは、わたしには保証が出来ないわ。
颯太: いいんです。最終的には僕の実力になるんですから。
葉月: まあ私としては早くあの動画消してもらって、あなたの記憶からも消してやりたいくらいなのだけれど。
颯太: だからっておもむろにカッターナイフを見せつけるの止めてください。
葉月: ふふ。
……本当に僕、この人に頼んで良かったのだろうか。
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