第4話 呼出

 一限休み時間ーー。


 一限目は数学の小テストだった。予想していた問題が出題され、いつものように満点を取ることができた。


 さて、数学の小テストも終わったことだし、今日のところはもう大変のことは何も……。


『覚悟しなさいよ』


 颯太: …………。


『私を利用したこと、絶対に後悔させてやるわ』


 颯太: …………。


 やっぱり、まずかったかな。


 今朝の回想が頭の中をぎる。


 まあ、とりあえず今日は放課後葉月先輩と一緒に勉強する約束したわけだし、吉と出るか凶と出るか。


 颯太: …………。


 前途多難だな。


 若干の黄昏を覚えた僕は、次の授業の準備を始めた。


 昼休み・教室にてーー。


 さて、昼休みに入ったから購買にでも行って焼きそばパン買ってくるか。


 その後はいつも通り屋上で食べながら英単語を……。


『ピロン』


 ん? メール?


 From 葉月先輩『屋上に来い』


 …………。


 なんて酷い文面だ。これが人を呼び出すときのお願い《メール》か。


 葉月先輩からのメールに、いたたまれなさを感じながら、僕はダッシュで購買に向かった。


 屋上にてーー。


 颯太: ……せ、先輩?


 葉月: 来たわね。


 颯太: は、はい。


 息を切らしながら屋上の扉を開けば、日陰のベンチで先客は脚を組んで座っていた。若干貧乏ゆすりもしているが、それは無視しよう。


 葉月: 2分の遅刻よ。正確には2分と27秒の遅刻。


 颯太: メールには『屋上に来い』としか書かれてませんでしたが?


 葉月: あなた知らないの? 私が呼び出したときは5分以内に来ないと足蹴にされるっていう噂。


 颯太: 噂なんですか?


 葉月: 足蹴なんて一回もしたことないのだけれど、いつの間にかそんな噂が立ってね。ひどいもんだわ。


 颯太: 先輩ならやりかねないですけどね。


 葉月: あなたになら特別に足蹴の代わりに私の椅子にしてあげてもいいのだけれど。


 颯太: どっちも嫌です。


 相変わらず、この学校一の美少女と噂のある人はいろんな噂があるんだなあ。


 颯太: そう言えば、この前他の生徒が『葉月先輩って全国模試一位で今度海外留学するらしいよ』って言ってましたけど。


 葉月: 全国模試が一位なのは本当よ。


 颯太: う、嘘だろ。


 葉月: でも、海外留学は違うわね。どうしてそんな噂が立たれているのか、原因が知りたいわ。


 颯太: 本当に全国模試一位何ですか?


 葉月: そうよ? だからあなた、今朝あんなお願いしてきたんでしょ?


 颯太: …………。


 葉月: だから、わざわざこの私が気を使って屋上まで来て上げたのよ。感謝しなさい。


 颯太: 『屋上に来い』って文面が既に感謝の域に達してないんですが。


 葉月先輩は、首を横にフンと少し膨れながら振ったが、まあそれも無視して。


 さて、立ち話も何だし、座って購買で買った焼きそばパンでも食べるとするか。


 葉月: ちょっと、何してるのよ。


 颯太: え?


 葉月: どうしてそんなところに座るのよ。


 颯太: ……もっと離れた方がいいですか?


 葉月: 違うわよ。……ほら、ここが空いてるからここに座りなさい。


 颯太: ……あの、そこ隣ですけど。


 葉月: それがどうしたの?


 颯太: いや、先輩の隣に座ってもいいのかなって。


 葉月: 何のためにここ空けておいたと思ってるのよ。さっさと座りなさい。


 颯太: いや、でも……。


 葉月: ナイフ投げるわよ。


 颯太: は、はい。


 ◇◇◇


 颯太: それじゃあ、失礼して。


 葉月: どうぞ。ご勝手に。


 …………。


 …………。


 …………。


 き、気まずい。葉月先輩、さっきから自分の弁当を食べてるだけだし、僕ここにいて本当にいいのか?


 葉月: ……あなた、お昼それだけなの?


 颯太: え?


 葉月: それ。


 僕の右手に握られた焼きそばパンを顎で指し示した。


 颯太: ああ、これですか。そうですね、ほとんど毎日これですね。


 僕にとっては、この焼きそばパンの多くなく少なくなくの量がちょうどいい。食べ過ぎてしまっては眠くなる。少なすぎて腹が減って勉強に身が回らない。


 腹八分目が丁度良いのだ。


 だが、となりの美少女はそうでもないらしく。


 葉月: 嘘、あなた毎日それ食べてるの?


 颯太: え、そうですが。


 葉月: あなた自分の体の事、もう少し気を使いなさい。そうでないと、今頃体のどこかで栄養が偏りすぎて悲鳴が上がってるわ。


 …………。


 颯太: 今朝も葉月先輩に追いかけ回されて悲鳴を上げたばっかりですけどね。


 葉月: 何か言ったかしら?


 颯太: い、いえ、前言撤回するのでそのナイフはしまってください。


 首筋に当てられたナイフ。もう動きが見えなさすぎて心臓に悪い。


 …………。


 僕の首、傷跡無いよな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る