第3話 要求

 教室にてーー。


 動機が最低限まで治った頃合いに、僕は今朝のことを思い出す。


 はぁ。今朝は散々だったな。


 回想


 葉月: 死になさい! この盗撮魔あぁあぁああ!!


 颯太: いやぁあぁあああ!!


 僕は今、一人の少女から襲われていた。それも彼女の手にはカッターナイフという物騒なものが握られている。


 葉月: 誰があんたみたいな変態のことを好きになるのよ! もう何も思い出せないように解剖してやるわ!!


 颯太: 解剖とか怖いこと言わないでください!! それと刃物を振り回して追いかけてこないでください!!


 まだ校舎内には誰もいないことが幸いした。こんな状況を誰かにでも見られたら反省文どころでは済まされない。


 葉月: 盗撮と脅迫した罰よ! さっさと私に解剖されなさい!! それとさっきの動画、早く削除しなさい!!


 颯太: 誰が消すもんですか!!


 葉月: 待ちなさい、この変態盗撮魔ああぁあ!!


 変態は余計だ。強いて言うなら僕はムッツリだ! ってそうじゃない!


 こんな朝っぱらから体力なんて使いたくないのになんで僕はこんな全力疾走しているんだ。この後一限目から数学の小テストがあるから朝早く来て勉強しようって思ったのに。


 葉月: これでも、喰らいなさい!


 颯太: え?


 ーーっ!?


 後ろから何やら残像が僕の真横を通り過ぎた。


 もちろんカッターナイフである。


 颯太: ってぇ!! 刃物投げたら危ないじゃないですか!! 今頬をかすめました!!


 葉月: あと少しだったのに。


 怖い。この人怖い。完全に僕をりにきてる。


 とにかく、今はどこかに隠れないと、このままじゃ……。


 葉月: ふふ、追い詰めたわ。


 颯太: っ! どうして行き止まり!?


 眼前、行き止まり。恐怖と絶望が一気に襲いかかる感触。


 葉月: 残念だったわね。私のカッターナイフはとても優秀ね。


 はっ。そうか。カッターナイフを投げていたのは、僕をここまで誘導するためのオトリ。刃物から遠ざけようとする心理条件を利用したのか。


 颯太: そ、それじゃあ、先輩はわざと……。


 葉月: ええ。もちろん、わざと外して投げてたわよ。


 じゃあ、最初から当てようと思えば当てられたって言うことか。やられた。


 葉月: さあ、あなたの死に場所はどうやらここのようね。


 颯太: せ、先輩? まさか本気で僕を殺そうとなんて思ってないですよね?


 葉月: あら、私はそのつもりだけど?


 ーーシュッ。


 颯太: ひっ!?


 葉月: ほら、あんまり動くと刃物が飛んでくるわよ?


 颯太: く、首筋にカッターを投げてくるなんて……。


 葉月: まずはどこから割いて上げましょうかしら。


 颯太: 何を!?


 このままじゃ本当に解剖されかれない。それなら……。


 颯太: 先輩、取引しませんか?


 葉月: 取引?


 颯太: はい。取引です。


 葉月: 何かしら?


 颯太: 実は、さっきの動画はもう既に僕の家のPCの中に入ってるんです。


 葉月: それならあなたの家ごと解体するしかないわね。


 颯太: え?


 葉月: だってそうでしょ? PCなんて削除したってログは残るもの。PCは物理的に破壊した方が一番いいのよ? あとは強力な磁石とかで基盤を狂わせたりとか。


 颯太: 先輩って僕の家、知りませんよね?


 葉月: ええ、知らないわよ。


 颯太: なら、そう簡単に僕の家を壊そうなんてできませんよね?


 葉月: なら、今あなたの口から言わせるまでよ。


 颯太: ーーっ!!


 葉月: ほら、あなた専用の刃物カッターナイフが目をくり抜きたいそうよ?


 颯太: ……あの、もう既に先端が右目に触れてるんですが。


 葉月: ……そうね。


 この人怖い。ナイフを当たり前のように人の眼球に紙一重で寸止めしている。


 ここは冷静に、慎重に。


 颯太: ……本題に入っていいですか?


 葉月: どうぞ。


 颯太: 取引をしましょう、葉月先輩。


 葉月: ……何かしら。


 颯太: さっきも言いましたが、既にさっきの動画は僕のPCの中にあります。


 葉月: ……私は何をすればいいのかしら?


 颯太: 話が早くて助かります。先輩には、一つだけお願いがあります。


 葉月: お願い?


 颯太: はい。そのお願いの内容というのが……。


 回想終了


 …………。


 果たして、先輩は受け入れてくれるのだろうか。僕の出したお願いに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る