第2話 尋問

 葉月: 何してるの。


 颯太: !? は、葉月先輩!?


 その少女が来たことによって変わったこの空気は、僕には正直合わない。


 最悪だ。まさか葉月先輩が来るなんて。


 僕の片手にはピエロみたいな人形が握られたまま。葉月先輩の目的は完全にこれ目当てだろう。


 颯太: せ、先輩こそ、こんな朝早くに僕の教室に何か用事ですか?


 お決まりの返事。正直今の僕にはこれくらいしか返せない。


 葉月: ……そうね。あなたには用事は無いのだけれど、その人形には用事があるわね。


 颯太: え? これですか?


 葉月: そうよ。それ、返してくれない?


 颯太: これ、葉月先輩のなんですか?


 葉月: 違うわ。私の知り合いの人のよ。ほら、早く返しなさい。


 颯太: …………。


 葉月: どうしたの。早く返して欲しいのだけれど。


 …………。


 切り出してみるか。


 颯太: 実は先輩、僕見てしまったんです。


 葉月: ……何を見たのかしら?


 颯太: これです。


 動画『あなたのことが好きです!付き合ってください!』


 僕は、すぐに彼女に見せられるように準備していた動画を見せた。


 葉月: !? あなた、それ……。


 颯太: 昨日、たまたま教室に戻ったら、葉月先輩がこの人形に向かって告白の練習をしていたのを見たんです。


 葉月: …………。


 颯太: それにこの人形の顔には、綺麗な字で『颯太』と張り紙が書かれてあって。普通は写真を貼るんじゃ無いかって思ったりもしましたけど。


 葉月: …………。


 颯太: 葉月先輩、単刀直入に申し上げます。


 葉月: ……何よ。


 先輩の顔が赤い、今なら先輩を追い詰められる。


 一撃目


 颯太: 先輩は、僕のことが好きなんですか?


 葉月: !? な、何を言ってるのよ! そんなわけないでしょう! 被害妄想がはなはだしいわねあなた。そんなに異性から好かれたいのかしら?


 ……どう見ても動揺してるな。


 二撃目


 颯太: 僕のどこが好きなんですか?


 葉月: だ、だから私はあなたのことなんて好きじゃないわよ! 私があなたのこと好きになったら明日には槍でも降ってくるんじゃないかしら?


 颯太: …………。


 三撃目


 颯太: この人形可愛いですね。先輩の手作りですか? と言うか手作りですよね。ここのタグの所にご丁寧に「はづき」って書かれてますから。


 葉月: ち、違う!! それは私の知り合いの人が作ったもので、決して私が作ったものじゃ。


 動画『あなたのことが好きです! 付き合ってください!』


 トドメの一撃


 葉月: …………。


 あれ? うつむいちゃった? ちょっとやり過ぎたかな?


 颯太: あの、葉月先輩?


 葉月: ふふ、ふふふふ。


 颯太: せ、せんぱい?


 葉月: どうやら、ここがあなたの墓場のようね。


 そういうと葉月先輩はどこから取り出したのか、キラッと光るものを取り出し、その先端を僕に向けてみせた。


 颯太: ちょ、ちょっと葉月先輩なんでカッターナイフなんて持ってるんですか!?


 葉月: 大丈夫安心して。これ、あなた用のカッターナイフだから、楽に死ねるわ。


 颯太: そう言う問題じゃありません!!


 葉月: 颯太。


 颯太: は、はい?


 葉月: さよなら。


 颯太: ちょぉおおぉおおぉお!! それ刃物!! 振り回すのやめてぇええぇえ!!


 葉月: 死になさい!! この盗撮魔あぁああ!!


 颯太: いやぁああぁあ!!


 僕はただただ逃げるしかなかったのである。

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