ツンデレ以上ツンドラ未満は好きですか?

千条まや

第1話 告白

校舎内・一回廊下にて。


(まさかこんな日に限って教科書を教室に忘れるなんて、それも数学の教科書を忘れるとはなんてバカなことを。明日は数学の小テストがあるっていうのに、学年一位の僕としてはなんとしてでも毎回満点を取らなければならなっていうのに)


この日、僕は何を焦っていたのか教科書を教室に置いてきてしまった。普通はこんなのありえない話なのだが、何故か教科書を忘れるという事態に困惑している。


だが、もう教室はすぐ目の前だ。教科書を手にしたら後は一目散に家に帰るだけ。そして教科書を開いてひたすら勉強をする。それだけの話だ。


そんな事を考えながら、廊下をひたすら早歩きで音を立てないように。誰にも気づかれないよう、校舎内を動き回っていた。


そりゃそうさ。学年一位の僕が教室に忘れ物なんてことがあってはいけない。意識は高く持たなければ、いつ順位がひっくり返るか分かったもんじゃない。


まあそんなこんなで、夕方、誰もいない校舎内を歩き回っている。


夕焼けの残光が窓に屈折しながら校舎内を照らしているのを僕は横目に、教室まであと10m行ったところで、それは聞こえた。


『あなたのことが好きです』


(ん? 教室から声が聞こえるような……)


『私と付き合ってください』


(!? こ、告白!! こんな時間に?)


……………。


紛れもなく、僕の教室から聞こえる。急なことだったためにその場に立ち止まったが、僕も教科書を取りに来ている身としては一刻も早く教科書を手にして勉強をしたい。


…………。


ま、まぁ、こんな時間に、教室に男女が二人きりでいるのもおかしくはないか。告白する雰囲気としては最高だろう。邪魔はできる限りしたくはないが……。


…………。


(ちょ、ちょっとだけなら覗いてもいいかな……、どれどれ)


葉月「あなたが好きです! 私と付き合ってください!」


…………。


そこには、見覚えのある少女が一人。


どうして、葉月先輩が……。それもあの人形は何? どうしてピエロみたいな人形が教卓の上に立たされて、顔に「颯太」って張り紙が貼り付けられてるんだ?


葉月「あなたのことが好きです! 私と付き合ってください!」


…………。


ああ、なるほど。そういうことか。これはあれだ、見てはいけないやつだ。あのプライドも態度も大きい葉月先輩が僕に秘密で告白の練習をしている。そんな悪夢な現場に僕は来てしまったということだな。


…………。


帰ろう。


僕は教科書を諦め、その場から逃げるように去った。


◯◯◯


夜19時・颯太宅にて。


颯太「……はあ。」


今日はいつもよりどっと疲れた。教科書は忘れるは、葉月先輩の秘密は知ってしまうは、数学の勉強は全然捗らないは、散々だ。


……それにしても、どうして葉月先輩が? 僕に告白なんて、好かれるようなことなんてしてないと思うんだけど。


…………。


うん。全然分からん。


考えれば考えるほど、理由なんて遠のいていくばかりである。一向に最適解が見つからない。


明日、直接本人に聞いてみるしかないな。うん、そうしよう。例えしらばっくれたとしても、こっちはこっそり動画を録っておいたから、これを証拠として突き出せば。


…………。


明日、僕死なないよね?


葉月先輩とは、そういう人間であると、僕は再確認した。


◯◯◯


翌日。


朝7時・校舎・廊下にてーー。


朝はとにかく暗いか寒いのどちらか。日光なんて概念がまだこの時間帯には存在しない中、僕はいつも通りに教室に向かっていた。


さて、放課後にでも時間を見つけて葉月先輩を問いただして見ようかな。それまでは普通に過ごすとして……。


今日一日の流れを頭の中で考え、それでいて足の動きは止めず、教室にさしかかろうとした時。


…………。


僕は、昨日と同じように、足を止めた。別に誰かが居たからとかそういう理由ではなく、それが居たから足を止めたという方が正しいかもしれない。


……葉月先輩、やりやがったな。


教卓の上にポツンと、それはあった。ピエロみたいな顔をした、結構な大きさの人形。顔には『颯太』と書かれた張り紙。


なんで一番大事な練習台を教卓の上に置きっぱにするんだ。


颯太「……どうするんだよこれ。」


つい言葉が漏れてしまった。と同時に、教室の前方の扉が勢いよく開く音が教室に響き渡った。


葉月「何してるの。」


颯太「っ!? は、葉月先輩!?」


昨日、ちょうどこの場所で告白の練習をしていた少女・葉月先輩である。


な、なんでここに葉月先輩が!?


詰みのお知らせが目の前に現れた瞬間である。

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