第11話 想い人も想い人
男女の幼馴染には、大きく分けて四つのタイプがある。
一つ目は、お互いが両想いになるタイプ。幼い頃から一緒にいる気心が知れた相手として、心も体も一つになれるタイプだ。
二つ目は、片方が片方の事を想いつづけるタイプ。これは少年に多いタイプだが、自分の好きな相手を一途に想いつづけて……その想いが結ばない事もあるけれど、大抵は少年が少女に告白する事で、それが見事に成就するタイプである。
三つ目は……これが一番悲惨なタイプだが、お互いがお互いを嫌っているタイプだ。お互いの価値観が合わない、または、その存在自体が鬱陶しい。彼等の場合は、そうではないが、それに近い幼馴染の組み合わせもいるのは確かである。
四つ目は……これが最も多いタイプだろう。お互いの事を親友のように思うタイプだ。同姓には言えない悩みを相談できる、多くの人々は「これ」を「ソウルメイト」と呼んでいた。
彼女にとってのソウルメイトは、正にこのオーガンだった。オーガンには自分の悩みを含めて(大抵は、エルス王子への悩みだが)、色々な事を相談できる。
ネフテリアは両面の涙を拭うと、真剣な顔で彼の瞳を見つめた。
「オーガン」
「ああん?」の返事が、少し火照っていた。「な、なんだよ?」
「自分の心に鍵を掛けるのは、止めて。私は、貴方の親友でしょう?」
親友、の言葉が、少年の心を抉った。
「お前が何を言っているのか。俺には、まったく分からねぇけどな」
オーガンは悲しげな目で、彼女の顔から視線を逸らした。
「俺は、お前に何も隠しちゃ」
「嘘を付かないで!」
ネフテリアは、彼の手を握った。
「心臓の病気なんでしょう?」
を聞いて、少年の顔が強ばった。それを聞いていた周りも、今の話を驚いた顔で「ヒソヒソ」と言い合っている。彼等の態度に苛立ったエルス王子も。
エルス王子は二人の会話を静観していたが、ネフテリアがまた泣き出すと、自分の席から立ち上がって、オーガンの前にそっと歩み寄った。
「オーガン……」
「エルス王子……」
二人は、互いを意識するように見合った。
「今の話は、本当かい?」
を聞いて、少年の顔がまた強ばった。
「まったく。何処で聞いたのかは分かりませんが……たぶん、コイツの勘違いでしょう。コイツは昔から、そう言う所がありますから」
「そうか」と言って、ネフテリアに目をやる王子。「ネフテリア」
「は、はい!」
「根拠もない嘘を信じちゃいけないよ?」
「なっ!」と、驚くネフテリア。「嘘ではありません! 彼は、本当に……。オーガン!」
ネフテリアはオーガンの肩を掴むと、懇願するような目でその肩を強く握りつづけた。
「今からでも遅くない! お医者様の所に行きましょう! 今から診て貰えば」
「ネフ!」
オーガンは、彼女の腕を振り払った。まるで彼女の両手から逃げるように。彼女の顔を見た目からも、言葉にならない想いが伝わってきた。
「俺は、本当に大丈夫なんだ。それに」
の続きは、何となくだが察せられた。
「今は、飯時だろう? 本当は、お前の事をからかおうと思ったが」
「オーガン……」
オーガンは「ニコッ」と笑って、自分の席に戻って行った。
ネフテリアは、その場に座り込んでしまった。「このままでは、自分の大事な人を失ってしまう」と。先程の沈黙だって、病気の事を知っている……それも、既に諦めている可能性が高かった。
「自分の病気はもう、治らない」と。それが治る病気であるなら、親友の彼女に何があっても報告する、または、それらしい事を仄めかす筈だ。それをしないと言う事は……。
ネフテリアは悔しげな顔で、床の上を何度も叩きつづけた。
「う、ぐっ、うっ、はっ」
エルス王子は、彼女の背中を優しく摩った。
「泣かないで、ネフテリア。君が泣くと、僕も悲しくなってしまう」
「王子!」
ネフテリアは、王子の体に抱きついた。
王子はその感触にドギマギし、オーガンは何処か悲しげな顔で「それ」を眺めていた。周りの貴族達は、頭がついていけないのか、間抜けな顔で根拠のない憶測を話しつづけた。
その日の夕食は、暗い空気のままで終わった。本来なら最も安らぐ筈の時間も、この日に限っては、憂鬱な空気が立ち籠めていた。
ユエ・パープルトンは所定の場所に食器類を片づけると、自分の部屋に戻って、一から先程の光景を思い返した。
片思いの相手が、あのネフテリアと知り合いだったと言う事実。
そして、そのネフテリアに「バカバカ」と抱きしめられた現実。
そのどれもが、彼女の心を苦しめた。先週ようやく、彼と言葉を交わす事ができたのに。視界に入ってきた現実は、それをぶち壊す最悪の世界だった。
少女の直感が言う。「オーガンは、彼女に惚れている」と。教室の片隅に座っているような少女では、決して敵わない。彼女の思い人は、彼女が最も嫌悪する相手に惚れているのだ。その現実に「うっ」と打ちひしがれる。
ユエはその悲しみに涙を流したが、しばらく泣いて落ち着くと、先程の光景からある疑問をふと感じはじめた。「ネフテリアはどうして、病気の事を知っていたのだろう?」と。彼女の知る限りでは、オーガンが病気なんて誰も知らなかったのに。またオーガン自身もまるで悪さがバレた子供のように、バツの悪そうな顔をしていた。
彼女の中で何かが弾けた。
彼女は恐怖で一瞬震えながらも(オーガンとの仲を進める計算もあったが)、その疑問を晴らすべく、不本意ながらネフテリアについて調べる事を決めた。
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