第31話 Stroll(散策)

僕と山田は、ホテルを後にし、気の向くままに気ままな寄り道をしながら、目的地のワット・ボー寺院へ向かって歩き出した。


まずは、ホテルの前の路地を左に曲がり、交通量の多いメイン通りへ向かった。ホテルの前の路地はトゥクトゥクがすれ違うがちょうどといった大きさの路地のため、舗装などされていない。


交通量の多いメイン通りへ着くと、そこは、さすがに舗装はされていた。僕たちは、近道っぽいマーケットのアーケードを通り抜け、シェムリアップ川を渡った。夜の景色と昼の景色は、どこも一緒だが、かなりの表情の差があった。


実際のところ、日中は交通量もかなり多くあちらこちらでクラクションの音が鳴り響いていた。車よりもバイクの数が圧倒的に多かった。バイクは、車と車の間をすり抜けるようにうまく運転していた。


僕と山田は、なんだかのどが渇いたので、途中、カフェでティータイムとした。再度、ガイドブックでワット・ボーの情報収集をした。入園時間は24時間大丈夫のようだった。入園料も特になかった。いわゆる地元の人たちの振興の場所のようだった。


僕たちの入ったカフェは、夜はパブストリートであるカフェであった。カフェでは、この時間帯なので、さすがにアルコール類の提供はなかった。僕と山田は、とりあえず冷たいアイスコーヒーをオーダーした。ボーイに案内された席は、路地に面したオープンテラスであった。ヤシの木の木陰で心地よい風と座り心地の良いソファーで居心地が良かった。


僕「山田君、このカフェ、いい感じだよね。というかこの席がいいね。このソファーも座り心地いいしね。」


山田「酒井さん。案内された席がラッキーでしたね。このアイスコーヒーもおいしいですね。」


僕「僕は、コーヒーをあまり飲まなんだけどこれはおいしいよね。」


二人は、このまったりとしたブランチの時間を楽しんだ。


山田「酒井さん。そろそろワット・ボーへいきませんか。」


僕「山田君。了解です。」


山田「ここは、俺が払います。昨日、ディナーをご馳走になりましたので。これぐらいは俺に出させてください。」


僕「そうですか。それじゃ、山田君にご馳走になろうかな。」


山田「もちろんです。」


僕「ご馳走様です。」


山田のこういった気づかいが、僕は好きだ。日本では今の若者でこう気の付く子は少なくなってきているからだ。


山田「このパブストリートから、ワット・ボーへは、このパブストリートをとりあえず、進んでみますか。」


僕「そうだね。路は続いているからね。とりあえず、真直ぐ進んでみましょう。」


僕と山田は、昼間のパブストリートの雰囲気を味わいながら、進んでいった。間もなくするとパブストリートが終了し、十字路へ差し掛かった。空を見上げると寺院の建物が見えていたので、とりあえず、その建物を目指していった。ガイドブックで見たワット・ボー寺院であった。


その寺院は、日本の建物の色彩とデザインが異なっていた。東南アジアだけあって、タイやミャンマーの仏教寺院と雰囲気が同じ印象を受けた。タイのバンコクは、何度か訪れたことがあったので、そう感じ取れたのかもしれなかった。寺院の屋根を目指して、僕と山田は歩いて行った。


実際のところ、どの路地をどう通っていったのかは今となっては、わからなかった。その屋根は僕たちに、シェムリアップの青空と色彩鮮やかな塔のコンタラストが何とも言えなかった。


僕と山田は、ワット・ボー寺院の正門へ到着した。門の印象は、静音の世界と喧騒の世界とのはざまのように思えた。さらに色鮮やかな門構えであった。


一歩、寺院に足を踏み入れると、街の喧騒とは全く違った空気感であった。落ち着くというか、厳かな空気というか独特な雰囲気があった。僕が、最初に気が付いたのは、仏教寺院なのだが、ブッダだけがそこに鎮座しているのではなく取り巻きのブッダや装飾がヒンドゥー教の影響を受けていることが明らかだった。ヒンドゥー教ではよく出てくる象の置物が目についた。ガネーシャとは違うデザインなのだけれども、明らかにヒンドゥー教の影響を受けていますという感じだった。


メインの寺院がモスクにも似た印象も受けた。イスラム教も影響もあるのだろうか。建立されてからの時代では、いろいろな宗教が入り乱れこの寺院ができたのかもしれない。


建物のデザインの繊細さが伝わってきた。ところどころに石と石を組み合わせたような壁の見事なつくり。寺院の建物の中には、ヒンドゥー教の神話のレリーフが飾られているところも見られた。


山田「酒井さん。このワット・ボー寺院は、独特な雰囲気がありますね。仏教寺院といいながら、宗教の枠を超えた装飾が何とも印象的です。特に、あの建物のレリーフなんかヒンドゥー教の神話ですよね。」


僕「そうだね。仏教寺院でありながら、壁の装飾の物語がヒンドゥー教とは、おもしろい設定だよね。」


山田「酒井さん。タイに行かれたことありましたよね。タイも仏教国なので寺院もたくさんあると思うのですが、こんな感じですか。」


僕「そうだな。この寺院とは違うね。宗教の垣根は超えていないね。タイの仏教寺院はブッダのみが鎮座しているね。」


山田「そうなんですね。このワット・ボーが独特なんでしょうか。」


僕「そうだね。」


僕と山田の二人は、この寺院のブッダや建物の鑑賞をした。僕たちは、シェムリアップ滞在最終日でもあり時間もあったので、この寺院をゆっくりと見学した。


寺院の北側へ移動した際に本殿から別の建物があり、太鼓が飾ってあった。儀式か何かの使うのだろうか。説明文を読むと、1時間に1回この太鼓を鳴らすと記載があった。日本のお堂の金のようなものだ。そのあたりは、日本の仏教寺院と似ているものなんだなと感心した。


僕と山田は、寺院の空気感に圧倒された。ふと気が付くと二人は、門の前にいた。あっという間に寺院を回りきったようだった。


二人は門を出て、シェムリアップの街の喧騒の中へ入り込んで行った。


山田「寺院の門の中と外では、こんなにも雰囲気が違うんですね。びっくりしちゃいますよ。なんだか空気感が異質って感じですよね」


僕「本当、山田君の言う通りだね。空気感が全く違うよね。」


山田「ニャン君が言っていたマーケットはこの近くみたいですよ。」


僕「じゃ、今から行ってみましょう。興味深い雑貨が見つかるかもしれませんね。」


山田「はい。じゃ、俺がナビしますね。あらかじめ道順をリサーチ済ですから。」


僕「さすが山田君、ナビをよろしくです。」


山田「ラジャ。了解です。」


僕と山田は、ワット・ボー寺院を後にし、シェムリアップ川沿いにあるボカンパー・アベニュー通りを目指した。

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