第30話 Return home morning(帰国の朝)

僕もいつ寝入ったかわからないぐらい、すぐに寝てしまったらしい。気が付いたら、カンボジアの朝日がカーテン越しに差し込んでいた。


僕「山田君、起きた?」


山田は寝ぼけた声で返事をした。


山田「酒井さん、おはようございます。あっという間に朝ですね。」


僕「そうですね。山田君、昨晩はベッドに横になるとすぐに寝ちゃっていましたよ。」


山田「そうでしたか。バスルームからでたところまでは、意識はあったんですけど、ベッドに横たわったら、一気に疲れがでちゃったみたいでした。」


僕「昨日は、遺跡巡りでかなり歩き回っていましたから、かなりの運動量だったと思いますよ。足元のかなり悪かったですからね。余計に体力を使っちゃいますよね。」


僕は、そういいながらバスルームへ向かい、朝のシャワーで体を目覚めさせた。


僕「山田君も目覚めのシャワーを浴びますか。」


山田「はい。もちろんです。」


僕は、冷蔵庫から冷たい水を出し飲んだ。その水は、体中に染み渡っていくような感覚だった。思わず僕の体の中で細胞が、生きているんだなぁって感じを実感した。


バスルームから山田が出てきた。


山田「酒井さん。寝起きのシャワーでやっと目が覚めました。」


僕「それはよかったです。人間は寝ている間にも汗をかいていますからね。僕が朝、シャワーを浴びるのは、気持ちのスイッチの入れ替えができるからですね。」


山田「酒井さんのその気持ち、わかる気がします。気分がすっきりしますからね。なんかシャキッて感じです。」


僕、「山田君、朝の目覚めの水でも飲みますか。」


山田「はい。いただきます。」


僕「じゃ、これ、はい、どうぞ。」


山田「ありがとうございます。」


山田が手渡したペットボトルの水を受け取りグイっと一飲みした。


山田「朝飲む水って、なんだか体に染み渡りますね。体が水分を欲していたのがわかります。」


僕「そうだよね。寝ている間にもかなり汗をかいていますからね。」


山田も朝食へ出かける準備をし始めた。


僕「山田君の準備ができたら朝食にしましょうかね。朝食の後は、そのまま、出かけますか。それとも一回、部屋へ戻る?」


山田「そうですね。朝食の後、一度、部屋へ戻りませんか。歯磨きとかしたいので。」


僕「そうですね。了解。」


山田「酒井さん。俺、準備できました。今から行きましょうか。」


僕と山田は部屋のドアを開けた。その瞬間、シェムリアップの朝のさわやかな風が、部屋の中に「さーっ」と入ってきた。南の国の朝陽がまぶしいくらいに輝いていた。


僕たちが寝ていた間に、スコールがあったみたいだった。ブーゲンビリアの華やかな赤色の花びらに、水滴がついていた。僕と山田は、ドアを開け、朝陽を体いっぱいに染み渡らせるように背伸びをした。


レストランまでの細い路地を通っていった。朝陽からの生命力を感じるそよ風が、二人の体をかすめていった。なんだかその風は、僕たちを包み込んでくれるような優しさを醸し出していた。


いつもの中庭の小道を通り抜け、朝食を出すレストランへと到着した。


ボーイ「グッドモーニング。サー。」


僕「グッドモーニング。ハワユー。」


ボーイ「アイアム グッド。プリーズ ディス シート。」


僕「サンキュー」


山田「さすが酒井さん、会話が成立していますね。俺じゃ、到底、無理ですよ。」


僕「いやいや。僕が話していたのは、中学生英語ぐらいでのレベルですよ。海外では大学受験英語レベルでしたら、通じないことが多いですからね。」


山田「そうですよね。」


僕と山田は案内された席へ着いた。今日は、オープンテラスのプールサイドの席へ案内された。ヤシの木陰で、南国の太陽の光を遮り、いい雰囲気の席だった。鳥のさえずりが聞こえてきた。南国ののんびりとした朝を体感できるようだった。僕と山田の二人は、それぞれのガイドブックを読みながらメニューが来るのを待っていた。


ボーイ「失礼します。メニューです。朝食はカンボジアン・コンチネンタル・スタイルです。まず、ドリンクは、フレッシュフルーツジュース、スープ、ブレッド、ハムエッグとなります。デザートにはフレッシュなフルーツの盛り合わせです。最後にコーヒーか紅茶です。」


僕「オレンジジュースとトロピカル紅茶で。」


山田「アセロラジュースと、コーヒーで。」


僕「山田君、健康的なドリンクで女子力高いですよ。」


山田「俺、女子力高いんですよね(笑)大学の女友達からもよく言われちゃいます。なんあんでしょうね。」


ボーイ「かしこまりました。」


僕「女子力が高いってことは、身なりを気にして、清潔感があり魅力的だってことじゃないかな。」


山田「酒井さんにそう言われると、俺、なんだか調子乗っちゃいそうです。」


僕「いいと思うよ。そういったところは長所として、どんどん調子に乗っちゃってもいいじゃないかな。」


山田「了解です。」


僕は、今晩にはシェムリアップを後にし、日本への帰国の途に就くんだなぁと思うとなんだか寂しくなった。もっともっとカンボジアのいろいろなところを見て回わってみみたいと思った。それは、また次のチャンスにしよう。明日の今頃は日本に帰国し、昼ごろにはリムジンバスで帰宅途中なんどろうか。それか自宅にいるころだろうか。日本へは、朝8時にアライバルであった。成田空港である。


成田空港から東京都内へリムジンバスに乗り戻ることになる。山田も同じ感じだと思う。そういえば、山田は、世田谷に住んでいるといっていた。リムジンバスからは、それぞれ別々になる。


山田「酒井さん、今晩には、シェムリアップを発つと思うとなんだか寂しいですね。これも旅情というか旅の醍醐味ですよね。」


僕「そうだね。山田君の言う通り、この寂しさも旅の醍醐味だね。」


山田「酒井さん、今日の予定は、昨晩、ニャン君がすすめていたお寺、ワット・ポーへ行き、マーケットへ寄ってみますか。俺、まだお土産を買ってないんですよね。」


僕「そうですよ。僕もお土産をまだ全く買ってなかったので、シェムリアップ国際空港か香港でトランジットの時にでも買おうと思っていましたよ。でも、香港のトランジットの時間は夜中ですから、お店が開いてないかもしれないですよね。」


山田「そうですね。いいのがなかったら、最悪、シェムリアップ国際空港の免税店でということですよね。」


僕「マーケットには、ニャン君が言っていた通り、観光客向けのお土産ってありそうですけどね。」


山田「そうですよ。きっと興味深い面白いものありますよ。」


僕と山田は、そんな会話をしながら、朝食に舌包みをうった。


山田「酒井さん。このスープの味、昨日と同じですけど、すごく日本人の口に会いますよね。胃にやさしい味付けですよね。なんだか食のルーツを感じますね。」


僕「山田君の言う通り、日本人の食のルーツを感じちゃいますね。」


山田「昨晩、ディナーのコースに出てきたスープの出汁を使っているんじゃないでしょうか。ところでその調味料って何って言いましたっけ。」


僕「なんだったっけ?」


僕と山田は、そう言いながらガイドブックで昨晩の調味料を探していた。朝食は、ほぼ昨日の朝と同じメニューだった。フレッシュフルーツのみデイリーで変わるようだった。僕と山田は、朝食を終え、いったん部屋へ戻った。


山田「今朝の朝食は、昨日とほぼ一緒でしたね。」


僕「そうだね。唯一、違っていたのがフレッシュフルーツでしたね。」


山田「俺、ちょっと歯磨きをしてきますね。お先にいいですか。」


僕「どうぞ、どうぞ。」


山田はそういうとバスルームへ入り、歯磨きをし始めた。僕は、その間に今から訪れるワット・ボー寺院について少々確認した。


シェムリアップ市内には、寺院はそんなにはなかった。唯一、観光できそうな寺院が、ニャンが紹介してくれたワット・ポーであった。


僕は、昨晩からニャンの言っていたシェムリアップ市内の仏教寺院であるワット・ポーで検索をしても、情報がヒットしなかった。どうしてか不思議だったが、実は正式名称は「ワット・ボー」だった。思わず笑いが吹き出しそうになった。というのがワット・ポーというのはタイのバンコックにもあるからだ。どこをどう聞き間違えたのか、自分ながらにおかしくなった。


山田が歯磨きをしている間に、改めてワット・ボーで検索開始した。そうすると、立派な仏教寺院の情報がヒットした。


カンボジアは、国民の大半が仏教徒ということもあって仏教寺院が割と多い。ということで、日本人の僕と山田がカンボジアへ初めて降り立った時も何も違和感がなかったのだろう。日本も大半が仏教徒であるため、価値観や思想が同じ仏教国であるカンボジアでも感じ取れたからだと思った。


ワット・ボーは、シェムリアップ川の東側にあるシェムリアップ市内でもかなり大きな仏教寺院のようだ。カンボジアの寺院の興味深いところは、少なからずヒンドゥー教の影響を受けているところだという。日本でも神社なのかお寺なのかよくわからない寺社がるように。カンボジアの多くの寺院もヒンドゥー教の寺院なのか、仏教寺院なのかよくわからないケースが多いという。僕は興味深さを感じワット・ボーの記事を読みいっていると山田が歯磨き終了したようで、バスルームから出てきた。


山田「酒井さん、お待たせいたしました。歯磨き終了です。」


僕「それじゃ、僕も歯磨きしてくるね。そうそう、山田君、昨日、ニャン君が言っていたワット・ポーという寺院の記事ガイドブックに載ってましたか?」


山田「なかったんですよね。」


僕「実は、良く検索してみるとワット・ポーではなくワット・ボーでしたよ。タイのバンコクにワット・ポーという寺院があるので、同じ名称の場所がカンボジアにもあるんだなって思っていたんですよね。僕の聞き間違えでした。」


山田「マジですか。ウケるんですけど。でもちょっと紛らわしい名前ですよね。」


僕「僕もそれに気が付いた時、思わず笑っちゃいましたよ。」


僕は、山田にそう告げるとバスルームへ行き歯磨きをし始めた。バスルームのミラー越しに、さわやかな日差しが優しく目に入ってきた。僕は一通りの身支度を終え、バスルームを後にした。


僕「お待たせ。山田君。じゃ、そろそろ出かけましょうか。ワット・ボー寺院までは、歩いて行けそうだから、シェムリアップ市内を探訪しながらいきましょうか。」


山田「了解です。いいですね。天気も良く、涼しい風も吹いていましたから。歩いても気持ちいいと思いますよ。それに昨日の遺跡探訪で少し歩きにも自信が持てましたから。」


僕「昨日、マッサージに行っておいてよかったよね。今は足のむくれなんか全くないもんね。」


山田「そうなんですよ。足のむくれがないんですよね。それってやはり、マッサージのおかげでしょうかね。」


僕と山田は、それぞれお出かけ準備できたので、部屋を出た。ドアを開けると外世界のさわやかな空気がふぅっと部屋に入ってきた。天気もすごくよく、雲一つない。かといって気温が高いんだが、湿度が低いせいか不快感はなかった。


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