第29話  Each other's journey(旅立ち)

ニャン「お二人は、明日、いよいよ帰国ですよね。なんだか寂しいですね。少しの時間しか一緒にいなかったですけど、なんだか随分前から知っていたような感じがします。ところで何時の便ですか。」


僕「そうですね。シェムリアップのディパチャーの時間は、20時05分予定だったと思いますね。KA241で、香港経由ですね。香港に23:40ごろ到着予定です。トランジットまで1時間ちょっとしかないので、到着が遅れてしまうとかなり、バタバタしちゃいますね。夜だからね。香港発が夜中の1時ですからね。成田に朝の6時30分ごろ到着だったはずです。」


ニャン「明日の予定は何をされるんですか。」


僕「そうですね。日中はホテルの近くのお寺でも周ってみたいと思いますよ。山田君はどうしますか。」


山田「俺も、もちろん、酒井さんのくっつき虫ですから、同行します。いや、同行させてください。」


僕「了解です。ニャン君、ホテルの近くには市場とかありますかね。地元の市場に行くのが結構好きなんですよ。地元の方の生活感って味わえますからね。」


ニャン「この近くにはないですけど、お土産屋さんのアーケードはあります。」


山田「そこ面白そうですね。酒井さん。どんな民芸品があるのか楽しみです。そこ、行ってみましょうよ。なんだかわくわくしちゃいます。」


僕「山田君、是非、行きましょう。ニャン君、情報ありがとうございます。」


ニャン「是非、訪れてみてください。おすすめは、ホテルから徒歩圏内にあるワット・ポーという仏教寺院がいと思いますよ。」


僕「ニャン君のおすすめだから、きっとはずれてはないですね。」


山田「酒井さん、是非、明日、行ってみましょう。」


僕「了解です。後はマーケット見学してみたいと思います。」


ニャン「それはいいともいますよ。明日はお昼過ぎまで僕は学校なんで、一緒に観光できませんけど。」


僕「いえいえお構いなく。勉強は大切ですから、頑張ってくださいね。」


山田は、なんだかさみしそうな表情をうかべていた。


山田「そうなんだ。明日は会えなんですね。ニャン君とは。」


ニャン「いえいえ、学校が終わってから、酒井さんと山田君のホテルへ向かいますよ。空港までは、見送りをさせてください。」


ニャンからのその言葉を聞き、山田の表情が明るくなった。


僕「そうなんですか。それはそれは、うれしい限りですよ。」


山田「超絶うれしいです。」


ニャン「せっかく、こうやって三人が出会えたわけなんですから、帰国日も見送りさせてくださいね。」


山田「ありがとう。ニャン君。」


僕「本当、今回の出会いも本当に奇跡ですよね。時間のずれがちょっとでもあったら、三人は出会ってなかったし、この世の中でそれぞれの存在自体、気が付いていなかったんですからね。本当に不思議な出会いでした。」


山田「俺も本当にそう思いますね。」


ニャン「前世からの導きかもしれませんね。過去も何かの縁があったのかもしれないですしね。」


僕は、つくづく人の出会いの不思議な縁を実感した。今回のシェムリアップ探訪企画も、僕がたまたま、山田と食事をするときにそんな会話になり、是非行きたいとの話で山田が同行することになった。


そこでニャンと異国の地、カンボジアのシェムリアップで出会った。これもほんの数分のもしくは、僕と山田が違う路を通っていたらまったくもってお互いの存在に気付かずにいたであろう。そう思うと本当に不思議としか言いようがない出合いだった。三人が三人おそらくそう感じているだろう。


僕「じゃ、そろそろ夜も更けてきましたのでこの辺りでお開きとしましょうか。」


ニャン「そうですね。僕も明日、朝一から授業がありますから。」


山田「了解です。なんだか和み惜しいですけどね。」


僕は、ボーイにチェックアウトの相図を送った。ボーイがレシートを持ってきた。


僕「このクレジットカードで清算して下さい。」


ニャン「それは、悪いですよ。ここは割り勘でお願いします。」


僕「大丈夫です。山田君もニャン君も遠慮しないでください。ここは僕が支払うので大丈夫ですよ。」


ニャン「それじゃ、お言葉に甘えて。酒井さん、ごちそうさまでした。」


山田「俺は払いますよ。」


僕「山田君もいいですよ。そんなに気を使わなくても大丈夫です。楽しい時間を共有できたお礼ですよ。」


山田「それじゃ、ニャン君とお言葉に甘えてご馳走になります。ごちそうさまでした。」


こんな謙虚な二人を本当の弟のように思えてきた。今の時代、特に日本ではこんなに素直でいい子はいないなって思った。


ニャンは、僕と山田をホテルまで送ってくれるためタクシーを拾ってくれた。ニャンも同乗してくれた。ニャンは、ホテルからバイクで帰宅するようだった。先ほど、僕たちの滞在のホテルまでミニバイクで来たようだった。


日本人の僕と山田にとっても、現地語のわかるニャンが同乗してくれると安心はできる。特に夜間だったからだ。僕たち三人が乗ったタクシーがシェムリアップのネオン街を通り越し、夜のとばりのなかひたすら走っていた。


信号もほとんどないため、タクシーが止まることはなかった。15分ぐらいで僕たちの滞在しているホテルへ到着をした。東京都内だったら、15分では到着しない距離だった。やはり、ホテルに入口に繋がる横道は、かなり、暗かった。僕は、タクシーの車窓から今回のアンコール・ワット遺跡群探訪に少々浸っていた。


山田をふと見ると、山田も車窓を何気なくぼんやりと覗いているのが分かった。


ニャン「酒井さん、山田君。そろそろ、ホテルに到着します。」


僕「ニャン君、本当に今日はお疲れ様でしたね。ガイドをしていただきありがとうごじあました。本当に感謝してもしきれない感じです。」


山田「俺もそうですよ。ニャン君、本当にありがとう。」


僕たち三人は、タクシーを降りる前に、そんな会話をした。僕たちはタクシーを降りた。タクシーの到着の音が聞こえたのか、ニャンの叔父さんであるホテルの支配人も出迎えてくれた。


支配人「おかえりなさいませ。酒井さん、山田君。カンボジア料理のディナーは、満足いただけましたか。」


僕「ニャン君のお陰で非常に楽しいディナーになりました。ありがとうございます。支配人にもいろいろと手配をいただきありがとうございました。」


支配人「いえいえ、お客様がカンボジアを堪能していただければ、それでわたくしたちはうれしい限りです。」


山田「そういっていただけると、本当にカンボジへ来てよかったと思っちゃいますね。」


ニャン「おじさん、僕はそろそろ帰ります。明日は、朝から授業ですから。お二人が帰国される際に空港まで見送って行ってもいいですか。」


支配人「いいとも、ドライバーには、お二人を送迎した後、ニャンをホテルまで送ってもらうように伝えとくよ。」


ニャン「おじさん、ありがとう。」


僕「ニャン君、授業には遅刻しないようにね。」


山田「明日が最後だなんてなんだか寂しいですよ、俺は。今回のカンボジアは俺の人生に大きな影響を与える旅行になりましたよ。」


ニャンは、自分のミニバイクに乗車してホテルを後にした。


支配人「お二人の部屋の鍵です。こちらです。」


僕「本日はいろいろとお手配をいただき、本当にありがとうございます。助かりました。おやすみなさい。」


山田「おやすみなさい。」


僕「じゃ、山田君、部屋へ行きましょうか。」


山田「ラジャ。」


僕と山田は、薄暗いホテルの小道をとおり、部屋への道をたどり戻った。


山田「ようやく、部屋に戻れましたね。お疲れ様でした。」


僕「お疲れ様、山田君。本当に今日は遺跡を歩き回ったから疲れたでしょう。遺跡巡りの後、最後にマッサージを受けたから、多少は違うかもね。」


山田「そうですよ。あのマッサージを受けていなかったら、疲れはピークでしたよマッサージへ行く前までは結構足がむくんでましたから。」


僕「お風呂に入るよね。先に入る?」


山田「いえいえ、酒井さんからお先にどうぞお入りください。」


僕「お気づかい、ありがとう。」


山田「俺は、今日写した画像を見直してみますから。ゆっくりとお風呂に入ってきてください。」


僕「了解。じゃ、そうさせていただくよ。」


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