第23話 To the Third Corridor(第三回廊へ)
第三回廊へ登るためには入場札をゲットする必要があった。僕たちはその札をゲットし、急な石でできた階段を登り始めた。距離的にはそうはなかったが、かなりの急な斜面であった。雨が降った後などであれば、足を滑らせそうなほどであった。
その階段を登りきるとアンコール・ワット遺跡を一望できた。
第三回廊の中央には、中央祠堂がある。僕と山田、ニャンの三人は、第三回廊を一周してみた。景色は、四面からはそれぞれの絶景が見られた。
アンコール・ワットは、ヒンドゥー教の建築物である。クメール語ではワットは寺院を表すという。この大伽藍と美しい彫刻を特徴とし、クメール建築の傑作品といわれている。その後、仏教建築物として改築されている。1632年(寛永9年)に日本人の森本右近太夫一房が参拝したという。その時代から日本でもアンコール・ワットの存在は知られていたということだ。
このような時代を超えて、今まさに当時の建築物が存在するのに感無量であった。
三人が三人各々にアンコール・ワット遺跡を堪能していた。
僕が第三回廊に登り切り、回廊を散策していると一瞬、声が聞こえてきた。なんだか複数の男性の会話であった。何を話しているのか日本語でないためわからなかった。
僕は、しばらく第三回廊の石枠で縁取られた小窓からの眺めに見入っていたのだが、僕の目の前に空中に浮いた女性の姿が見えてきた。その姿は僕から見て後姿だったが、徐々に僕の方へ振り向いてくるような感じを実感した。
この人は確実に今現存する人ではなかった。女性は僕の方を向くと何かを伝えたい雰囲気を醸し出した。この女性は僕へインスピレーションでメッセージを伝えてきた。今までの経験では、インスピレーションでメッセージを伝えてくる場合、相手の言語は日本語でなくても伝えたいことは僕にはわかる。
僕の目の前に女性が迫ってきたときには、彼女は半分白骨化している状態で、見るも無残な姿であった。彼女からのインスピレーションでは、クメール王朝の時代に、人柱としてアンコール・ワット建設時に生き埋めにされたと伝えてきた。
人柱にされた人は、彼女だけでなく彼女の家族やその一族だったという。その無念さが今に残っているといってきた。その一族がなぜ人柱にされたかというと、彼女のメッセージによればアンコール王朝と相反する部族であった彼女たち一族が、アンコール王朝に攻め滅ばされ、その戒めのために人柱に生きたままされたと伝えてきた。
実際、今となってはそういった歴史的書籍が残っているわけではなく、誰しも知る由はない。歴史の中に埋もれている残酷な事実だった。彼女は、そのこと自体は、仕方がないことであるとわかっているようだった。ただ、こういった歴史事実があったということを忘れてほしくないと伝えてきた。
僕は、彼女に現在の歴史としては忘れ去られている人たちであろうけれども、今まさに僕に伝えてきたことは、僕の中では現存する話として心に刻んだと伝えた。彼女は、その僕からのメッセージを受け取ると「ありがとう」とお礼を言い、姿が見えなくなった。
第三回廊から見える熱帯雨林のジャングルを目下にしながら、なんだかとても切なく思えてきた。植物は現在過去未来と変わらず繁栄しているが、人間のような感情は沸き上がらないと思う。人間は違う。感情を表す動物だから、このような話を聞くと胸が熱くなってくる。僕の視界が、幕を張ったように涙がでてきた。
山田「酒井さん。大丈夫ですか。」
僕「大丈夫ですよ。山田君。いつものように僕の前に現れた人がいて、その話を聞いていたらなんだか涙が出てきちゃいました。」
山田「そうだったんですね。先ほど、酒井さんが第三回廊から外を眺めていらっしゃる時ですよね。」
僕「そうですね。山田君にも見えましたか。」
山田「僕には何も見えませんでしたが、酒井さんがじっと回廊の窓枠から外を眺められていらっしゃったので、もしかしてとおもったぐらいですよ。」
ニャン「酒井さん、山田君、第三回廊からの目下の景色はいかがでしたか。」
僕「素晴らしい絶景ですよ。熱帯雨林の周囲と、このアンコール・ワット遺跡のコントラストが何とも言えず、感無量の印象をうけていますよ。」
山田「この景色って思った以上の感動を与えてくれましたよ。」
僕「やはり世界遺産になるだけの価値がある建造物ですよね。」
ニャン「そうですよね。カンボジアの誇りですよ。でも、この遺跡も時空を超えて鎮座しているため、いろいろな物語があったのでしょうけどね。」
僕「そうだよね。そのストーリーがこの遺跡の存在価値を高めていますよね。」
山田「俺、本当に今回カンボジアへ来れてよかったですよ。アンコール・ワット遺跡群を探訪できて本当に良かったです。」
僕「そうですね。山田君の言う通り、アンコール・ワット遺跡の探訪ができて本当に良かったです。」
ニャン「お二人にそんなに感動されて、カンボジア人の僕としては、うれしい限りです。
母国に誇りを感じます。」
三人が三人の感じ方が、やはりそれぞれ面白いなぁとおもった。外から来た人間の受け取り方と内から来た人間の受け取り方のクロスが垣間見れたようだった。
僕「じゃ、そろそろ第三回廊から降りましょうか。時間も時間だしね。アンコール・ワットではかなりゆっくりと時間を取りましたからね。」
ニャン「そうですね。これ以上遅くなると夕日を眺める観光客と出くわして道も混雑してきますからね。」
山田「カンボジアのラッシュ時間もかなり路は混むんですか。ニャン君。」
ニャン「そうですね。国道6号線がかなり混んできます。遺跡のあたりは、まだ大丈夫ですけどね。国道が。」
僕「どの国もラッシュは大変ですからね。」
僕たちは、一歩一歩、第三回廊の急な石段から足を踏み外さないように降りて行った。
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