第16話 To the Ta Prohm ruins(タプローム遺跡へ)
次は、タプロームという遺跡で、今回の目的の遺跡の一つでもあった。僕たち三人は、先ほどの出入り口へ戻った。タクシーのドライバーは、木陰で休んでいた。日本では、待ち時間は、何か仕事をし、次の準備をしていることだろうが、カンボジアでは、時間の流れが少々違うようだった。こういったゆったりとした時間の中で過ごしていると、人も穏やかになるのだろう。カンボジアの人たちは、みな穏やかな顔つきをしていた。
山田「次の遺跡は、タプロームでしたよね。俺も行きたい遺跡の一つなんですよね。」
僕「もちろんですよ、僕もですよ。このタプロームは、遺跡に木々の根がはびこっていて何とも言えない景色を醸し出しているんですよね。宮崎駿さんの作品の天空の城ラピュタの景色のモデルにもなったとい言われているみたいですよ。」
山田「俺、宮崎駿さんの作品って好きなんですよね。ラピュタですか、いい雰囲気なんでしょうね。楽しみが増してきました。」
ニャン「酒井さん、山田君、この遺跡は、今いるバンテアイクディから車で、20分ぐらいのところにありますから。」
僕「そうなんですね。というか、この地域はアンコール・ワット遺跡群なんですよね。僕たちは、その遺跡群のど真ん中にいる感じですね。遺跡群から出されているエナジーを感じ取れますよね。」
山田「俺もそのエナジーというかパワーをヒシヒシと感じてますよ。」
僕は、アンコール・ワット遺跡群のエナジーの強さを感じ取っていた。この遺跡群の中にいるだけで、これだけのパワーを感じ取れるだなんて、実際この遺跡群のメインであるアンコール・ワットへ訪れるといったいどんな感覚になるのか、楽しみである。
ニャン「それでは、車の乗って下さい。今から移動しましょう。」
僕たち三人は、冷房の効いたタクシーへ乗り込んだ。この時、改めてつくづく思ったのだが、やはりタクシーのチャーターで正解だったと。遺跡群を歩き回ると、かなり汗が出るし、体温が上がる。ましてやこのカンボジアの日中の気温は、おそらく今日は、40度近い感じがする。そんな中、外気に触れての移動だったら、体のほてりは、ひかないであろう。熱中症にならないように、水分補給は必須であった。
僕はニャン君へ聞いてみた。
僕「ニャン君、カンボジアの人たちは熱中症にならないんですか。結構、気温がありますよね。日本だったら、熱中症になる人がかなりいると思いますよ。」
ニャン「そうですね。カンボジアでは、あまり熱中症という言葉を聞かないですね。おそらく、そうならないように日中は、昼寝をしている人が多いのかもしれませんね。僕も熱中症になったことは、今までないですね。」
山田「そうなんだ。そういえば、俺も熱中症にかかったことがないや。」
山田「ところで、次はどの遺跡なんですか。ニャン君。」
ニャン「次は、すごく神秘的な寺院です。ジャヤヴァルマン7世が創建者といわれています。その寺院の遺跡です。タプローム寺院という遺跡です。噂によると日本のアニメの「天空の城ラピュタ」の参考にもなったといわれています。ジブリ作品は、僕もすごく好きでよく見るんですよね。」
僕「そうなんですね。日本のアニメってアジアですごく人気ありますよね。特にジブリの世界観には、僕は非常に共感できるところがあるんですよね。ということは、ラピュタの遺跡の景色に似ているところがあるってことですよね。」
ニャン「そうなんです。あのラピュタの世界観が感じ取れる場所があります。感動ものですよ。僕もラピュタを見た後に、そのタプローム寺院遺跡を訪れたら、感動しちゃいました。お二人にも、その感動を味わっていただきたいものですよ。」
山田「俺もジブリ作品好きなんで、その景色が、すっごく楽しみです。」
僕「山田君やニャン君もジブリ作品が好きなんですね。あの宮崎駿さんの世界観っていいですよね。」
ニャン「それと実は、このタプロームでは、よく不思議な体験をするんですよね。遺跡の通路にものかなしそうな女性と子供の姿が見えたりするんですよね。おそらく、それは僕だけ見えるみたいなんですけどね。」
僕「そうなんですね。なかなかヒストリカルなストーリーが探るとありそうですね。そういうのは、僕は大好物なんですよ。」
ニャン「それは、それは。歴史の中の悲しさや残酷さがある話ですよ。それでは、まず、タプローム寺院について少々案内しますね。」
ニャン「タプローム遺跡は、この遺跡は、アンコール・ワット、アンコール・トム遺跡に次いで人気のある遺跡なんですよね。どいうところが人気かというと、先ほどお話しをしたジブリ作品の参考にもなったといわれているスポットがある点などですね。日本のアニメは、いまや世界で人気ありますからね。遺跡が巨大なガジュマロの一種の樹、スポアンという木の根っこに覆われています。一瞬、これらの木々が遺跡を飲み込んでいるかのような錯覚になりますね。雨季には、遺跡に苔が生え、さらに神秘的な光景になります。いまは、雨季の終わりなので、その景色も終わりに近づいてきていますけどね。また、逆に乾季の時には、東南アジアの強い日差しが木々の隙間から差し込んできます。その光が樹木の根っこに包まれた遺跡を映し出し、その景色は、時間の流れを感じ取れるには、十分すぎるものだと思います。雨季と乾季では、まったく違う景色を堪能できますよ。」
山田「そうなんですね。雨季と乾季の両方を訪れてみたいですね。」
僕「そうですね。同じ場所なのに、全く違った印象を与える景色になるんでしょうね。雨季の苔むした遺跡は、非常に神秘さがましてきますね。雨季のタプロームを緑の遺跡と言ったりもしますね。」
ニャン「実はこの寺院は、創建されてからも増改築が何度も行われ、その都度、増築されていますので、寺院自体が迷路のようになっています。万が一、道を見つけて奥へ行けば行くほど、迷路にはまってしまいますから、僕から離れないようにして下さいね。」
確かに、このように増築が頻繁にされているということであれば、迷路って感じがするのだろう。ガイドブックにもガイドからは離れないようにと注意コメントがあったのを思い出した。
僕「そうなんですね。ガジュマロの樹って東南アジアでは、神木とされることが多いですよね。」
ニャン「ほかの国ではどうだかわかりませんが、カンボジアでは、ガジュマロの樹には、精霊が宿るといわれています。だから、ガジュマロの樹に神様として扱うタスリを付けていますね。」
僕たちは、ニャンからのガイド解説を受けながら、どんどんとタプローム寺院へ向けてタクシーは進んでいった。
バンテアイクディからタプロームへは、先ほど入った入口を右へ曲り、小川にかかった橋を渡った。橋を渡り切るとさらに右へ小川沿いの道を平行に進んでいった。今回は、そんなに時間はかからず、15分程度でタプロームへ到着した。
途中の道端で、僕は、小川を見ながら佇んでいた白髪の老婆の姿が目に入ってきた。その老婆は、誰かを探しているようなインスピレーションが伝わってきた。その老婆を僕は目で追っていたが、ちょっと目を離した瞬間、その老婆の姿は僕の視界から見えなくなっていた。後、不思議なのがその老婆からのメッセージに孫というワードが伝わってきた。その老婆の姿は、ニャンと山田には、見えていない様子であった。再度、目を先ほどの老婆がいたであろうあたりへ目をやると老婆の姿が透けて消えていった。それと同時に僕たちの乗車したタクシーが、その老女の横を過ぎ去った時、その老女は、僕へ「恨めしい」とつぶやいた気がした。
山田とニャンには、その声は聞こえていない様子だった。むろん、姿にも気が付いていないため、声が聞こえるはずもないのだが。実は、その老女の横を通過した時に、天気が急変しスコールになったが、天気は一瞬の変化であった。僕と山田、ニャンが乗車しているタクシーがその老女の側を通り過ぎると間もなくスコールはやんだ。スコールはほんの1分あったかなかったかという時間であった。
山田「先ほど、急に雲行きが怪しくなりましたね。あのスコールはすごかったですよね。なんだかあのスコールの雨は、悲しさの涙だったように思えますね。あっという間にやんじゃいましたけど。」
ニャン「この時期では、珍しかったですよ。通常ならば、スコールもかなりの時間続いたりするんですけどね。あっと言う間にやんじゃいましたね。お二人の運の強さを感じますよ。」
ドライバーはニャンへクメール語で何かを言っていた。
ニャン「間もなく、タプローム寺院遺跡へ到着するみたいです。」
僕「あっという間に到着しちゃいましたね。」
山田「そうですね。割と時間がかかりませんでしたよね。」
ニャン「アンコール・ワット遺跡群は、思ったより一つ一つの遺跡が距離的には離れてないんですよ。だから、移動も時間がかかりませんよ。」
僕「そうですか。それは、見学するには便利でいいですよね。」
山田「でもアンコール・ワット遺跡群は、どうして近くに点在しているのでしょうか。」
ニャン「それは、このアンコール・ワット遺跡の不思議なところなんですよね。地理的に立地が良かったのかもしれませんね。シェムリアップは、水には恵まれている場所ですからね。」
山田「そういえば、カンボジアって今でもシャーマンによって暦が作られているって聞きいたことがあるんですけど、実際、そうなんですか。」
ニャン「山田君のいうとおりで、現在でも地元の村々にいるシャーマンによって、暦や祭事が決められているんですよね。毎年、同じ日にちに同じ行事があることはないんですよね。」
僕「それでは、年間の予定が立てにくいですよね。それはないですか。」
ニャン「シャーマンによって、年間の行事のスケジュールは経てられるので、問題ないですよ。ただ、同じ行事の日が毎年違うってことだけですよ。」
僕「なるほどね。それは、自然と向き合って昔ながらの伝統を大切にしているってことでしょうね。」
山田「それはそうと、そういえば、先ほどニャン君が、タプローム寺院は増築されて迷路みたいだって言っていたけど、実際はどうなんですか?日本でいうところの富士山の青木ヶ原樹海のように、磁場が関係してくるんでしょうかね。」
僕「迷路というキーワードで青木ヶ原樹海を思い出したんですよね。タプローム寺院も方位磁石を持っていくと、いったいどんな現象が起きるのか少々興味がありますね。」
ただ、今回は、方位磁石など誰も持っていなかったため、その現象を確認できる手立てはなかった。
ニャン「間もなく、タプローム寺院遺跡へ到着します。スコールもなく歩きやすいと思います。」
ニャンがそうアナウンスしている間に、タプローム寺院へ到着した。
駐車場へタクシーを止めるのだが、駐車場も赤土むき出しの広場に車を駐車場にしているものだった。駐車場の近くには、土産物屋と食事ができる店が数件あった。店員たちは、木々の間にハンモッグをつるし、昼寝をしているようだった。駐車場の周りには、トゥクトゥクのドライバーは熱心に客引きをしていた。
観光客の中には遺跡ごとに、移動手段を乗り換えている人もいるようだ。そういった観光客をトゥクトゥクのドライバーたちは狙っているようだ。駐車場には、物売りの子供たちが何人かいて、ブレスレットや絵葉書を観光客へ勧めている光景があった。その駐車場には、ガジュマロの大木が2本横にならんで立っていた。
僕「ニャン君、このガジュマロの樹には、すごくプラスのエナジーを感じますね。ちょうど、2本の樹の間に精霊でも鎮座しているような感じがしますよ。」
ニャン「そうですね。実はこのガジュマロの樹は神木として、このタプローム寺院を守っているといわれているんですよ。」
僕たちは、タプローム寺院遺跡へ到着し、タクシーを降りた。
駐車場といっても雑草を刈り取って成らしただけの土地であった。不思議なことに赤土がむき出しになっている駐車場には、雨が降った気配はなかった。つい先ほど、僕たちがタクシーに乗車中に雨が降ったが、この近距離で駐車場が濡れていないのもおかしなことだった。僕たちの乗車のタクシーだけが確かに水で濡れていた。
そういえば、僕たちの通ってきた道路も雨で濡れていなかったような気がしてきた。先ほどまではそれほど気にしていなかったのだけれども。駐車場の周りに民家が数件、土産物屋と食堂を営んでした。僕は、土産物屋の店員の子供に先ほどスコールがなかったか聞いてみた。子供からの回答はもちろん、この景色をそのままの回答だった。
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