第15話 To Bante Ikudi(バンテアイクディへ)
間もなくすると、僕たちを乗せたタクシーはバンテアイクディの駐車場へ到着した。観光バスも何台か止まっていた。車は6台ぐらい留まっている。遺跡の出入り口付近では、トゥクトゥクのドライバーが観光客待ちをしている。彼らは、トゥクトゥクに乗っているのではなく、木陰のベンチで、ゲームをしたりしている。寝転んでただひたすら、次のお客が来るのを待っているのであった。積極的に客引きはしていない。商売っ気はない感じである。
駐車場には、何軒かのお土産物屋が連なっている。簡単な食事を提供する店も2件ほどあった。木々の間から差し込む爽やかで柔らかな日差しの中で、各々の時間を過ごしているようだった。この景色も今の日本では、決して味わえない光景であった。特に東京都内ではこういった光景を目の当たりにすることはない。日本では時間をいかに効率よく過ごすかというところに視点がフォーカスされている。僕と山田とニャンは、タクシーから降りた。
三人が車から降りた瞬間、「さっ」と木々の間から風が吹いた。その風は、なんだか僕たち三人を「ようこそ、バンテアイクディへ」と歓迎をしているような印象であった。
ニャン「酒井さん、山田君、ようやく最初の遺跡、バンテアイクディへ到着しました。この遺跡は、かなり広いもので入口も西口と東口があります。今、僕たちがいるのは、東口ですね。」
山田「ということは、俺たちは、東側にいるってことですね。」
ここで少々、バンテアイクディ遺跡について紹介したい。もともとはヒンドゥー教の寺院として建設された。しかしながら、ジャヤヴァルマン7世の時代に、仏教寺院に改造されてしまった。そのためヒンドゥー教と仏教が混じり合っている神秘的な寺院として佇んでいる。今は栄枯盛衰の跡となっている。
ニャン「まずは、こちらの遺跡を探訪しましょう。この遺跡はかなり広い敷地なんですよね。」
山田「まじ、圧巻ですね。なんだかようやく戻ってきたって感じがしちゃいます。」山田はかなり感動しているようだった。その心拍音が聞こえてくような気が僕にはした。
僕「入口は、ちょっとした個人宅の入口の門のようですけど、中に一歩足を踏み入れると空気感が全く違ってきますね。解放感という感じではなく、いい意味でぞくぞくしちゃいますね。」
いつも遺跡を訪れて感じることなのだが、遺跡の日焼けをした、長い時間風雨にさらされてきた建物を見るとなんだか涙が出てくる。その理由は、どうしてかはわからないが、その遺跡から発せられるエナジーを感じ取っているからだろうか。今回もウルウルと目が潤んできた。遺跡を訪れた感動なのか、それとも、目に見えないパワーを感じとったからなのかわからないが、これが感動というものなのだろうか。
山田「俺、今、目が潤んでいます。すごいの一言ですよ、なんだか時間の流れを感じ取っているみたいです。」
僕「どうして?」
山田「長い時間風雨にさらされ、何を思って佇んでいたのかとか、ここを訪れた人たちはどのような気持ちで、この寺院を訪れていたのかなど考えちゃうと、感動して涙がでちゃいますよ。それにここカンボジアのシェムリアップの地でどれだけの時間の中で、じっと周りの景色を見て来たのかを考えるとです。」
ニャン「お二人に感動していただきうれしい限りです。この寺院はヒンドゥー教と仏教の混じった神秘的なところが人気なんですよ。」
僕「そうですね。複数の宗教の教えが混じり合った感じの遺跡ですね。なかなかないですよね。普通ならば一つの寺院で一つの宗教ですからね。この辺りからのこの遺跡のヒストリカルな物語がありそうですよね。」
山田「酒井さんが言われたとおりですね。」
ニャン「じゃ、先へ行きましょうか。この先にはかなり神秘的な空気感が感じ取れますからね。」
僕たち三人は、遺跡の周りに生えているジャングル化した木々の間にできた舗装されていない道を先へ急いだ。
遺跡が時間とともに自然の木々に取り込まれていっている途中の光景を目の当たりにしているようだ。自然の力は、人工物ではかなわない壮大な力を秘めている印象を受けた。自然の力のすごさを感じ取れる光景だった。こちらの遺跡の歴史的背景をニャン君は、説明を一通りしてくれた。
ニャン「こちらの遺跡の見学は、この辺りにして、次のタプローム遺跡へ移動しましょうか。」と、ニャンが提案してくれた。
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