第14話 To longed-for ruins(憧れの遺跡へ)
僕と山田は、ニャン君の叔父、ホテルの支配人へお礼を言いでかけることにした。また、三人の意見一致で早速、チャーターしたタクシーの乗り込み出かけることにした。タクシーは、昨晩のうちにホテルの支配人が手配してくれていた。三人の意見は、結構合いそうだった。また、感性も三人とも同じ方向を向いているので、話も早いと感じた。
ニャンの叔父であるホテルの支配人が、ホテルの門のところまで、僕たちを見送りに出てきてくれた。クメール語でニャンに何か言っていたのが見えた。
乗車したタクシーは左ハンドルであった。日本でいうところのいわゆる外車使用だった。助手席には、ガイド役のニャンが座った。僕と山田が後部座席。後部座席の右側に僕が座り、左側に山田が座る図となった。
タクシーはホテルの門を出ると、昨晩、僕と山田が通った細い路地を左側へ曲がっていった。間もなくすると、昨晩、観光客が屯っていた食堂が見えてきた。そういえば、昨晩この辺りで、山田の足に物の怪が絡みついているのを感じ取ったことを思い出した。
山田「昨晩、この辺りで酒井さんに教わったお祓いをしましたよね。」
ニャン「お祓いですか?それは、どういうことですか。」
山田「実は、昨晩、ニャン君と別れて、ホテルへ戻るため、シェムリアップ川を渡っていたら、僕たちに何かが憑いてきちゃったみたいでした。それが、俺の足に絡みつき、足がすごく重くなったんだよね。その様子に酒井さんが気が付いてくれて、簡単な除霊をしたところだよ。」
僕「あのシェムリアップ川ってなんだか気が澱んでいますよね。」
ニャン「わかりますか。僕もそう思うんですよね。水の流れが緩くなっていますからね。澱みやすくなっているんでしょうね。ただ、水の流れだけじゃないような気もしますけどね。」
僕と山田とニャンを乗せたタクシーは、土埃のする道路を右へ左へと曲がり、シェムリアップ市内のメイン通り国道6号線へ合流した。この国道6号線は、首都プノンペンへ続く道とのことだった。
ニャン「国道6号線へ到着しました。しばらく、6号線でプノンペン方面へ向かい走ります。アンコール・ワット遺跡観光は、観光パスを写真入りのものを購入し、遺跡群を訪れていきます。アンコール・ワット遺跡は、今日だけの観光でいいですか。」
僕「今日しか時間が取れないんですよね。明日は、帰国しますからね。」
ニャン「そうなんですか。わかりました。まずは、観光パスを購入するため、今からチケット販売所へ向かいます。ワンデイチケットは、一人20$です。チケットを購入するときに係りの者が写真を撮り、チケットが写真入りとなります。そのチケットで、1日アンコール・ワット遺跡群を探訪できるってことです。」
山田「そうなんですね。楽しみですね。チケット売り場は、かなり混んでいるんではないでしょうかね。」
ニャン「おそらく混んでいると思いますけどね。それに今日は平日なんで、そんなに購入までに時間はかかりませんよ。」
僕「それならよかったですね。ちなみに今日のルートは、希望があるんですけど伝えてもいいですか。まずは、バンテアイクディ➡タプローム➡タケウ➡アンコール・トム➡アンコール・ワットっていうルートがいいんですけどね。一日で周れますか。」
山田「俺もそのルートを周ってみたいです。」
ニャン「もちろん、1日で周りきれますよ。このコースですと、そんなに遅い時間にはならないと思いますよ。」
山田「酒井さん、良かったですね。」
僕「よかったですよね。それぞれの遺跡で何を感じ取れるのか楽しみです。また、どんな歴史的な出会いがあるのか楽しみですね。」
山田「俺にとっても、世界遺産を直に感じ取れるなんて感動ものですよ。なんか涙が出てきちゃいそうですよ。」
ニャン「お二人には、是非、感動を体験してほしいものです。悠久の時間の中、遺跡がどんな景色をみてきたのかを感じ取りながら、観光されるといいと思いますね。世界遺産だから訪れるというのではなく、酒井さんや山田君のような気持で遺跡を訪れると、遺跡も訪問を歓迎してくれると思います。」
ニャン「酒井さん、山田君、観光チケット販売所に間もなく到着します。一人、ワンディチケットが20$です。準備をお願いしますね。支払いはUS$で大丈夫ですか。」
僕「はい、了解です。写真付きで20$だけでいいんですか。」
ニャン「そうなんです。」
山田「俺も準備OKです。」
僕たちを乗せたタクシーは、チケット販売所の門を入っていった。この建物が立派なもので、官庁か何かのための建物のように見えた。館内の駐車場では、観光客を待つトゥクトゥクやタクシーが、あちらこちらで待っている。土産物店も並んでおり、観光客も土産物店を見て回っている。このシーンだけ見てもカンボジアの人々の活気、熱気が伝わってくる。そういえば昨年、ハノイのドンスアン市場で出会った日本人のおばちゃまもシェムリアップに住んでいるって言っていたなぁっと思い出した。
ニャン「チケット売り場へ到着しましたよ。」
山田「ここですね。なんだか官庁のような建物ですね。」
僕「まずは、今日の探訪第一歩ですね。チケット購入からですね。」
ニャン「酒井さん、山田君、僕についてきて下さい。」
ニャンは、タクシードライバーへクメール語で何かを話していた。おそらく、駐車の場所を指定していたのだろう。英語ならまだしもクメール語では、いったい話しているのかは僕には全く理解できない。
観光チケット発券所は、思ったほど込み合っていない。ただ、各国のトラベラーが入り乱れているのは確かだった。国際空港のロビーにいるかのようであった。
僕と山田は、発券売り場の列へ並んだ。5分も経たないうちに間もなくすると、案内人からここで写真を撮ると英語で話しかけられた。この建物の城壁をバックに写真撮影をするように僕は思った。案内された場所は売り場の窓口であった。窓口に設置してあるカメラへ顔を向けると自動撮影になっているようだった。僕が先に画像をとられ、山田も次にとられた。一人に一枚の顔入りチケットを持たされるようだった。カンボジア人のニャンはガイドのため入場チケットは不要だという。毎回毎回ガイドの都度、チケットを購入していたらきりがないからだという。
僕と山田はチケットを窓口で受け取った。画像をとられチケットを受け取るまでは3分ぐらいだった。あっという間に、チケットが発券され、そのチケットには、それぞれの個人の画像が印刷されていた。受け取ったチケットは思ったより立派なものだった。
三人は、期待を弾ませる会話で、徐々にアンコール・ワット遺跡群へと近づいていく準備が整ってきた。まずは、遺跡探訪の第一歩の観光チケットをゲットした。
僕たちの乗ったタクシーは、さらにシェムリアップ市内から離れていった。
観光チケット発券所を出て、国道6号線を少しの間走ってから、途中、左へ曲がった。右側に小川がある小道へ入っていく。周りの景色は、南国の青空の中、田舎の田園風景といった感じだった。アジア特有の水牛が、畑に離されており、自由に動き回っている。というか、寝ている。日中は熱いから水牛も人も休むとでもいう感じだろうか。
そんな中、小川で、魚釣りをして遊んでいる子供たちがいた。
ニャン「子供たちは、普通、この時間でしたら学校なんですが、学校へ通えない子供も多く、そのような子供たちは、親の手伝いをしながら、こうして時間を過ごしているんですよね。」
山田「そうなんだ。なんだか考えさせられますね。切ないですね。」
ニャン「でも、本人たちは彼らの生活圏の世界しかしらないため、これが、日常生活と思っていると思いますよ。」
僕「そうですね。切ないと思う感情は、僕たちの一方的なものですね。確かに山田君の言う通り、僕たちから彼らを見るとなんだか切ない印象は受けますけどね。」
山田「そうですね。酒井さんの言う通り今俺が感じている思いは、俺だけの思いであってあの子供たちはそれはそれで幸せなのかもしれませんよね。」
僕「ものの見方でいろいろな感情が生まれてくるんですよね。にんげって面白いですね。それに物事の見え方、感じ方って視点によってかなり違って映りますからね。」
そんな会話をしている間も、僕たちを乗せたタクシーは走り続けた。
小道に平行に走っていた小川を、途中、橋があり、その橋を右へ曲がった。その橋は、車一台がどうにか通れるような細いセメントづくりのものであった。この橋がセメントづくりでよかったと思った。これが、木製だったら少々危険を感じたであろう。セメントづくりでも微妙ではあるが。
小川の水は、緑色に濁っているが澱んでいる感じは受けない。流れがあるからであろう。路を進むにつれてあたりには、だんだんと木々が多くなり、木々の間に作られた道を一直線に進んでいった。僕たちのタクシーの横を、トゥクトゥクに乗った観光客が何組も連なっていた。僕は、この時思った。今回は、タクシーチャーターができ、正解だったと。
というのは、車の外の気温はかなり上がっており、日差しもかなり強い。道路は舗装されているものの土埃もかなり俟っている。この状態の中を、トゥクトゥクだったら、ドアもなく屋根に簡単なシートでおおわれているだけのため、かなり暑いと思った。タクシーよりは旅情はあるかもしれないけれども。
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