第12話 Morning in Siem Reap(シェムリアップでの朝)

僕は、気が付くと深い眠りに入っており、鳥のさえずりで目が覚めた。爽やかな朝の陽ざしがホテルの部屋にカーテン越しに差し込んできた。


いよいよ、今日は、念願かなってのカンボジアのアンコール・ワット遺跡の探訪の日である。その前に、昨晩みた夢の内容をここで話したいと思う。まだ訪れたことはないが、おそらくアンコール・トムだと思うが、その景色が僕の夢の世界で出てきた。遺跡では、その時代の王宮の世界が繰り広げられていた。王女、おそらく未婚の女性のようだった。その女性と農民の若い男性との切ない恋の話だった。


もちろんその時代には、階級を超えた恋などは成就するわけもなく、お互い好きな気持ちをもったまま、結ばれず、それぞれの決めた場所で、自身を殺めてしまったという話だった。


夢に出てきた二人はいまだにお互いを探しもとめ、その二人は僕に、夢の中で二人を結び付けてほしいと言ってきた、という内容だった。僕は、目覚めたときには、枕が涙でぬれていた。この話が、今日訪れるアンコール・トムの遺跡で実際に目の当たりにするとはこの時は思ってもいなかった。


そんな思いとは別に、僕は朝の目覚めから胸がときめいていうという感じだった。悠久の時間の中でアンコール・ワット遺跡群は、どんな歴史を目の当たりにしてきたのだろうと思うと、胸躍らされてしまった。まさに僕にとっては、「ロマン」の一言に尽きない。


本当は、カーテンを思いっきり開け朝日を体中に染み渡らせたいところだが、山田はまだ寝ているので、もう少し待ってみようと思った。間もなくすると、山田が目覚めた。時計を見ると現地時間で6時30分であった。


山田は目をこすりながら「酒井さん、おはようございます。俺、気が付くと昨晩はいつの間にか寝入ちゃっていましたよ。」


僕「山田君、おはようございます。今日は、いよいよアンコール・ワットですね。楽しみでワクワクしちゃっていますよ。カーテン開けてもいいですか。」


山田「もちろんですよ。もしかして、酒井さん、俺が寝ていたからカーテン開けてなかったとかですか。」


僕「山田君が、ぐっすり寝ていたから起こすのもかわいそうだからねって感じでした。朝日を体で吸収するとなんだか元気が出てきますよ。風水的にもプラスの効果があるんですよね。」


山田「確かに太陽に光を思いっきり体に浴びたら、元気が出てきちゃいそうですからね。気を使わせちゃってすみません。」



僕「いえいえ、そんなことはないですから、気にしなくていいですよ。」


僕「心遣いや気づかいは、必要ですしね。他人を思いやる気持ちって大切ですから。」


山田「またまた、俺、勉強になっちゃいましたよ。」


僕「さぁ、僕は今からモーニングシャワーを浴びちゃいますね。テレビを付けてもいいですか。クメール語のBGMがあると気分が乗ってきますからね。僕が、シャワー、終わったら、山田君もシャワー浴びますか。」


山田「そうします。実は、俺もシャワーで目を覚ましますよ。まだ、頭は半分寝ている状態ですからね。」


僕は、そのままバスルームへ行き、湯船にお湯をはり始めた。お湯がたまるまでは、いつものように歯磨きといつもの朝のフェイスマッサージをしていた。


バスルームへも朝日が差し込んでいた。洗面台の白いタイルに反射した光が、鏡越しに僕にエナジーを与えてくれている。僕の体がスマホの充電をしている感じだ。


間もなくするとお湯が湯船にたまってきた。お湯の温度も丁度いい具合だった。人肌の温度で、朝は、これぐらいの温度が丁度いい。僕は、湯船にゆっくりと体を沈めた。思わず「あぁ」と声が漏れた。お風呂に入るのは、本当に気持ちがいい。朝は特に、体内リズムの切り替えに必要である。僕は、しばらく体をお湯の中に沈めていた。そうするとだんだんと、僕の体の一つ一つの細胞が目覚めてきた。機械を起動し始める感じだ。僕の体はようやくいつもの活動モードへ心身ともに切り替わった。


「これでOK」とひとり呟いた。寝汗もすっきりと流すことができた。就寝中に下がった体温が徐々に温まり、活動モードになってきた。


湯船から上がったら、朝食へ行き、いよいよアンコール・ワットへ出発となる。


僕「山田君、もうシャワーを浴びますか?」


山田「俺もシャワーを浴びます。それから朝食を済ませて、いよいよアンコール・ワットへ向かうってことですよね。」


山田は、シャワールームへ向かう。僕は、その間、出かける準備へと入った。


デジカメはもちろん、虫よけスプレーは外出には欠かせない必需用品である。メモ帳と筆記用具。ふと浮かんだアイデアや、その時々のふと頭に浮かんだフレーズや気持ちをちょっと書き記すためだった。


部屋を出る前には、体中に虫よけスプレーをかけまくる。朝食のメニューは、カンボジアンスタイルと記載があった。カンボジアンスタイルの朝食って、どんな感じなのか楽しみだった。朝食をとって、そのまま出かけられるよう準備を整えた。間もなくすると、山田もバスルームから出てきた。山田の表情も寝起きから活動モードへ切り替わったようにうかがえた。


山田「酒井さん、朝のシャワーはすっきりできますよね。活動モードに切り替えるには必要ですね。お出かけの準備はできました?」


僕「もちろんできていますよ。朝食を済ませたらそのまま、外出したいと思いますけど、どうしますか。」


山田「それでOKです。俺は朝食を済ませて、そのままニャン君と合流でOKですね。」


僕「じゃ、そうしましょう。」


僕は、ポットへミネラルウォーターを入れ、お湯を沸かした。紅茶を一口、口にしたくなった。部屋にあるあのポットだったら、あっという間にお湯が沸いちゃう感じだ。お湯が沸き、紅茶を入れ少々、ブレイクしていた。山田のコーヒーもカップに入れておいた。


僕「山田君、目覚めのコーヒーを入れておいたので、どうぞ。目覚めのいっぱいっていいですよ。」


山田「ありがとうございます。いただきます。のども乾いたしちょうどいいです。酒井さん、俺、寝汗すごかったみたいです。パジャマ代わりのTシャツが汗でびっしょり濡れていました。昨晩の夢で切なく不思議な夢を見ちゃいました。後程、お話しますね。」


僕「そうでしたか。僕も夢を見ていますのでその話も後程。もしかして、山田君と同じ内容だったりしてね。ところで、昨晩、暑かったですか?僕も少々寝汗をかいていましたから。今晩はエアコンの温度を下げて寝ましょうかね。」


山田「了解です。ところで、カンボジアでの朝食ってどんな感じでしょうかね。楽しみです。まぁ、ホテルなので無難なものが出ると思いますけどね。でも、夜寝ているときは夏風邪ひかないように気を付けないとですね。」


僕「山田君の言う通りでしょうね。山田君も虫よけスプレーは満遍なく吹きかけといてくださいね。雨季の最後だから、蚊に刺されないようにですよ。」


山田「了解です。俺の準備はOKですよ。酒井さんはお出かけの準備はいかがですか。」


僕「こちらもOKですよ。じゃ、ブレックファーストタイムとしましょうか。ニャン君も迎えに来ちゃいますからね。」


山田「そうですね。今日のアンコール・ワット探訪は、本当に楽しみですし、ニャン君が一緒ならば安心ですね。」


僕「じゃ、ルームキーは、僕が持って出ますからね。朝食用のチケットをもってきてくださいね。」


山田「わかりました。」


僕と山田は部屋のドアを開け、まぶしく輝いている南国の日差しが降り注ぐ朝の空気の世界へと出て行った。ルームキーをかけ、僕と山田はレストランでのブレックファーストへと出かけた。部屋からレストランまでの小道の両サイドには、朝露にまみれた芝生が輝いていた。


 昨日、一緒に送迎車へ同乗していたおばさまたちも一緒の朝食時間だったようだ。


おばちゃんA「お兄ちゃんたち、おはよう。昨晩は部屋に着いてから、夜の街のどっかへいったの?」


僕「おはようございます。昨晩は、連れとパブストリートへ出かけちゃいましたよ。夜食を食べるついでに。」


おばちゃんB「そこ、どこ?どんな感じやった?おもしろかった?」


山田「面白いっていうか、活気はありましたね。それにホテルからも思ったほど遠くなかったので。」


おばちゃんA「お兄ちゃんたちは、歩いて行ったん?夜道を?それともタクシーで?」


僕「bそうですね。僕たちは歩いていきましたよ。途中、危険な感じはありましたが、男性なので何とかいけましたよ。」


山田「今日は、どちらへ行かれるんですか。」


おばちゃんC「そうね。私らは、アンコール・ワットのスタンダードのオプションを付けたので、その観光じゃね。」


僕「僕たちも知り合いに頼んで、一日かけてアンコール・ワット遺跡群を探訪する予定ですよ。途中、お会いするかもしれませんね。」


僕と山田と、おばちゃまたちのグループでそんな会話をしながら、日本人同士という連帯感みたいなものはあった。ボーイに案内されたそれぞれの朝食の席へ着いた。



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