第10話 On the way Hotel(帰り道)
僕と山田は、ホテルへ来た道を辿って戻っていくことにした。パブストリートを歩いていると、あちらこちらでにぎやかに騒いでいる観光客がいた。観光客は、皆、シェムリアップの夜を楽しんでいるようだった。アンコール・ワットを目指してシェムリアップまで来て、期待を胸に躍らせながら、アンコール・ワット遺跡群を今か今かと待っているのだろう。
ポップな曲が道まで漏れてきて、その曲がさらに観光客の気持ちを高揚させているようだった。
僕と山田は先ほど渡ってきたシェムリアップ川にかかっている橋を渡っていった。橋の両サイドには、先ほどもいた物乞いの親子づれがまだいた。母親は橋の中ほどの地べたに座り込んで、その周りを子供が母親に寄り添うように座ってうつむいていた。こういう光景を見るとなんだか悲しくなるのは、僕だけなんだろうか。東南アジアの貧富の差を目の当たりにする一場面であった。
後、思うのが親ならば子供をどうにか育て上げなければとは思わないのだろうかと不思議に思う。物乞いで毎日の生活が成り立つのであれば、それはそれでいいと思うが、どう見てもきちんとした食事が、この子供たちに与えられているとは到底思えない。東南アジアを訪れるとそんな思いにいつもかられてしまう。
山田「酒井さん。物乞いを見ると発展途上国の貧富の差をまざまざと見せつけられるような気がしますね。」
僕「そうだよね。でもさ、本当に子供を育てようとするならば、親ならば何でも仕事できると思うだけどね。それをしてないっていうのは、どうなのって感じもするよね。」
山田「それもそうですよね。仕事はなんでもやればできますからね。はじめからできないと思って動かないのは、俺もどうかとおもいますよね。」
僕「ただね、そういった考えが出てこないのかもしれないけどね。教育の大切さをまざまざと垣間見れますね。教育をうけていたならば、この母親も仕事をしていたかもしれないしね。ただ、これが、現実なんですよね。」
山田「俺もそう思いますね。これが、現実なんですよね。そう考えると、日本で親の脛をかじって、大学まで出させていただき本当に感謝ですね。」
僕「僕もですよ。生まれ育った地域によって、こんなにも格差が出るなんてね。残酷ですよね。ただ、これもまた資本主義の世界の証でもあるんですよね。」
山田「酒井さんのおっしゃる通りですね。資本主義の膿って感じがしました。」
僕と山田は、二人並んでそんな会話をしながら、シェムリアップの白熱灯で薄暗く照らされている夜道を歩いて行った。夜風が二人の肩を「ふう」って感じでかすめていった。この感覚が、夜風って感じではなく、なんだか僕たちにまとわりついてくる空気が通り過ぎていく感覚を受け取った。
山田「酒井さん。今晩、ニャン君と出会えて本当によかったですね。明日のスケジュールも、あっという間に決まっちゃいましたね。」
僕「そうですね。山田君は、明日、行きたいところはありますか?あれば、そちらも行ってみましょう。」
山田「今回のテーマは、アンコール・ワット遺跡の探訪なので、ニャン君がうまくスケジューリングしてくれそうですね。俺は、遺跡が見学できれば満足です。なかなかアンコール・ワットまで来ようと思っても来られませんからね。やはり、チャンスというかタイミングって何事にもありますよね。」
僕「そのようですね。楽しみですね。地元を知っている人のが、いいアイデアを出してくれそうですからね。」
山田「俺もアンコール・ワット遺跡で、何を感じ取れるのか楽しみですよ。悠久の時間を超え、過去と現代の狭間で、どんなインスピレーションを感じるのか楽しみです。」
僕「ちなみに、カンボジアにも占い師というか地元の人々に崇拝されている人いわゆるシャーマンは、今もいるのでしょうかね。どこかの記事にカンボジアは、今でも占いで暦を決めていると聞いたことがありますね。どのような土着の宗教に基づいているのか興味がわいてきますね。スピリチュアルな土着の宗教は、地元の人々の生活に溶け込んでいることが多いため、宗教を調べるとその地域の人々の特性もわかりますからね。まぁ、とりあえず明日のアンコール・ワット探訪が楽しみましょうね。」
山田「俺もどんなヒストリカルな物語が、このアンコール・ワット遺跡群にあるのか、本当に楽しみです。悲しい過去もあるんでしょうけどね。」
僕「そうだね。歴史には、必ず、悲しい過去が付いて回りますからね。その悲しみを乗り越えて今がありますからね。今となっては、遺跡になっているということであれば、栄枯盛衰ですからね。」
僕と山田は、ホテルへと近づいてきた。先繁華街を離れるにつれ、先ほどよりも更に暗くなっている。夕間暮れを超えて闇夜の時間帯に入ってきた様子がうかがえた。先ほどの食堂も店閉まいをしており、ライトが消えて明かりがなくなっている。華やかなライティングだったが、それもなく、うす暗くなった道をひたすら歩いていった。
山田「酒井さん、先程よりもさらに薄暗くなってきていますね。早めにホテルへ帰りましょう。ニャン君との時間が楽しくて、ついつい時間が経つのを忘れちゃいましたね。」
僕「そのようですね。山田君、僕たちの後をついている物怪がいますよ。」
山田「そうですね。酒井さんも気づかれていましたか。先程からシェムリアップ川を渡ったあたりから、何かがついてきていますね。」
僕「僕も同じ感覚ですよ。」
山田「酒井さん、急ぎましょう。なんだか嫌な予感がします。」
僕「山田君、なんだかぞっとする感じで、悪寒がしますよね。」
山田「俺にはこれは、この世のものなのか、あちらの世界のものなのかよくわからないんですけど。酒井さんはわかりますか。」
僕「こちらの世界の物怪ではないですよ。この世とあの世の境から地場のゆがみから来ていますね。おそらく、あのシェムリアップ川が境目だったかもしれませんね。」
山田「そうですか。少々、俺の足にまとわり付いているような気がします。酒井さん見てくれますか。」
僕「ちょっと待ってね。見てみますね。そうですね。山田君の左足に白い靄が絡みついているようだったよ。」
山田「どうしましょうか。」
僕「これぐらいだったら、地面に足踏みを二回してみて下さい。それで取れますよ。」
と同時に僕は柏手を一回ならした。柏手を鳴らすと簡単な除霊にはなるからだ。昔から音魂ともいわれるので、音によって邪気を祓うということだ。神社を参拝するときも柏手をうつのも同じことだ。
山田「酒井さん、今からしますね。」
というと山田は、僕の言った通り二回足踏みをした。そうすると山田の足の運びが軽やかになってきた様子だった。
山田「酒井さん、ありがとうございました。なんだ足が軽くなって、すっきりしてきましたよ。」
僕「それは良かったですよ。山田君の足元には先ほどの白い靄の塊はもうないですよ。安心してください。」
よくよく考えると、先ほどのシェムリアップ川は水の流れが緩く、澱んでいた。そういった場所は、あの世からの使者が、はびこんでることが多々ある。
僕と山田の感受性の強さからそういった輩が憑いてきたようだった。助けを求めたというよりは、存在をわかってほしかった印象を受けた。
山田「酒井さん、そろそろホテルに到着しますね。」
僕と山田は、土埃のする舗装されていない路地をホテルへ向かってひたすら進んだ。
この薄暗い夜道にも関わらず、僕と山田は割とスムーズにホテルへと到着しそうである。
僕「山田君、どうにかホテルに到着しそうですね。この道を左に曲がれば、ホテルの前の道ですからね。間もなくホテルですよ。」
山田「それにしても薄暗い道ですね。日本では、こういった道もなかなか歩きませんからね。」
僕「この人間の手を入れていない感じもいいですよね。僕にはなんだか懐かしさを感じます。」
山田「酒井さん、この先に見える黒い塊は何でしょうね。」と道の片隅にあった黒いモヤを山田は指をさした。
僕「山田君。それは邪気の塊ですよ。触れないようにね。」
山田「了解しました。触ったら何かあるんですか。」
僕「そうだね。おそらく憑いてきちゃうね。何か悪さをするとかはないと思うけど、体の調子が思わしくなくなるかもね。」
山田「そうなんですね。マジっすか。なんだか怖いですね。」
そんな会話をしていると、気が付くとホテルの門の前に到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます