第7話 Message from the Afterlife(メッセージ)

僕は、バスルームへと行き、バスタブにはられたお湯をかき回した。バスルームには、アメニティの歯磨きセットも備え付けのものがあるが、やはり日本から持参した使い慣れたものを、念のために用意をしていた。一通り、いつも利用している洗顔やシャンプーなど必要なものをバスルームへ揃えたころ、同時にバスタブのお湯もいい感じの温度になって丁度よくなっていた。


僕「それじゃ、山田君、お先に入りますね。お風呂から上がったら、街へ繰り出し、何か食べましょうかね?」

と、僕は山田へバスルームの扉越しに話しかけた。


山田「そうしましょう。俺は、スーツケースから荷物を出していますから。ネットでどの店がいいのか探してみますね。」


僕「それじゃ。お先にお風呂をいただきますね。山田君も、その後、お風呂にしますか。二人ともがお風呂から上がって日中の汗を洗い流したら、いよいよシェムリアップの夜の街へくりだしましょう。」


山田「了解です。なんだかワクワクしてきちゃいます。知らない国の街へ夜繰り出すなんて。」


僕は会話をしながら、バスタブの中でちょうどいい温度になっていた湯船に体を徐々に沈ませた。思わず「あぁ」って声が漏れてしまった。



長時間の機内からようやく解放された感じだった。足も多少むくんでいるような感じがした。足の脹脛を湯船の中でもみほぐした。湯船に口までつかりくつろいでいると、なんお前触れもなく急に、体が硬直してきた。金縛りだった。湯船につかった体が「ピン」と硬直し、湯気から湯気のような靄の塊が空中へ集まりだした。だんだんとその靄の塊が形を成そうとしてきた瞬間、山田が、バスルームへ駈け込んで来た。


山田「酒井さん、大丈夫ですか。ベッドに横たわっていたら、急にバスルームから邪悪な気配を感じたので、思わず、駆け込んじゃいました。」


僕「山田君、ありがとう。今まさに、湯船の中で急に金縛りになっちゃいましたよ。お湯の中だったから、危なかったよ。山田君、助けてくれてありがとう。」


そのまま、金縛りにあったままで、あの靄の塊を見ていたらどうなったことかと、一瞬ぞっとした。山田は、僕の安全を確認した後にバスルームを出て行った。


僕は、山田の出て行ったバスルームで再度、ゆっくりと湯船に体を沈めていった。リラックスでき、まもなくバスタイム終了となった。バスルームのミラーの前で、改めて僕の存在を確認した。僕は、湯船から立ち上がった。バスタオルを腰に巻きバスミラーの前で、両手で頬を叩いた。バスミラーには、湯船から上がって間もない僕の体に着いたしずくがキラキラとバスライトから放たれている光に反射していた。


僕は再度鏡で僕の存在を確認した。僕の体に着いた水滴にバスルームのライトが反射し、キラキラと鏡越しに輝いていた。僕はミラーの前で「よっし」と気合を入れてバスルームを後にした。


先ほどのあの靄は、この部屋にいついているものではなく僕たちに途中、憑いてきたもののように感じた。そういえば、シェムリアップの空港の出口で一瞬、「寒い」って感じたところがあった。おそらく、その瞬間だったと思う。


僕はバスタオルで体に着いた水滴をふき取り、バスルームから出た。


お風呂から上がった僕は、ベッドの上でごろんとくつろいでいる山田に話しかけた。


僕「山田君、先ほどは、ありがとう。」


僕は、お風呂場での出来事を山田に事細かに話した。


山田「そうだったんですね。俺もシェムリアップの空港を出たところで、「ぞっ」とした瞬間がありました。憑いてきちゃったんですかね。というよりは、俺たちに助けを求めに来ちゃったんですかね?」


僕「そう思うんだよね。助けを求められているような気がします。」


僕「それはそうと、山田君もお風呂に入りますか?今から入るのなら、お湯の準備をしときますけど。」


山田「そうですね。俺もお風呂にはいっちゃいますね。フライトの疲れをとっちゃいたいですね。汗もかいてますから、さっぱりしたいところです。」


僕は、お風呂の湯船にお湯をはり、先ほど、靄の塊が出たあたりをなんとなく眺めた。そうしたところ、バスルームの壁のタイルに、おそらく人であろう影が、一瞬映っていた。その影は、おそらく、僕に憑いてきたものだと印象付けた。


バスルームにある鏡の中から視線を感じていた。ふとその気配に気が付き、僕は鏡を改めて見つめなおした。気配だけを感じ、何も映ってはいなかった。僕は自分の肩を払った。そうすると簡単な除霊はできるからだ。それと同時にかしわをうった。きれいな透き通った音が出たから大丈夫と確信した。かしわをうった時に、鈍い音がすると、「気」が澱んでいることがよくあるからだ。神社などで参拝するときも、かしわを打つがそれも一種の清めるという作法になる。


僕「湯船にお湯をはっときました。いつでもOKですよ。それとバスルームを除霊しときましたから、山田君も安心してバスタイムを満喫してください。」


山田「じゃ、俺、今からバスタイムにしますね。」


山田がバスタイム中、僕は、夜のシェムリアップの街へと出かける準備へと入った。


現地時間では、夜の8時過ぎになっていた。日本とシェムリアップの時差はマイナス2時間、香港とシェムリアップの時差はマイナス1時間となっている。ということは、日本時間では、夜の10時ぐらいである。そこそこの時間帯にはなっていた。きちんとした夕食もまだのため、山田がお風呂から上がったら食事でも行こうかと思っていた。山田もきっとお腹を空かしているはずだから。


地球の歩き方でおすすめのお店を探していた。日本から遠く離れたカンボジアまで来たのだから、何かローカルな食事がいいかもと思った。でも、よくよく考えたらカンボジア料理って馴染みがないため、イメージが全くわかない。日本を出る前には、友人にはコオロギやサソリなんかの唐揚げとかありそうとか言われていた。さすがに、それはちょっと口にするのは無理と思った。


カンボジアでは、この時期は、雨季の終わり間際だから、蚊などの虫が割と多くいるという。デング熱や、ジカ熱などの伝染病の感染リスクも高くなる。大抵、そういった伝染病の媒介は、「蚊」というのが定番である。そのため蚊対策は、必須である。虫よけスプレーは日本から、十分なほど持ってきていたから安心であった。


僕がガイドブックで、今から行こうとするお店も決めかけたころ、山田のバスタイム終了となって、さっぱりとした感じでバスルームより出てきた。


山田「お待たせいたしました。酒井さん。いいお湯でした。フライトの疲れも吹っ飛んじゃいました。今からどうします?」


山田、相も変わらず、無邪気さを全開であった。


僕「山田君が、バスタイム中にガイドブックでお店を探しときました。ちゃんとした夕食はまだですからね。簡易的な機内食は食べましたけど。夜食でも食べながら、シェムリアップの夜の景色を堪能しましょうか。なんだかパブストリートがいいみたいです。たくさん飲食店もありそうですから。」


山田「いいですね。俺、実のところお腹すいてきちゃったんですよね。」


僕「山田君は、若いから食欲もありますね。」


山田「お店はいいところはありましたか?パブストリートってなんだか意味深な通りですかね。」



僕「どうでしょうかね。お店をネットで調べてみたんですけど、似たり寄ったりでよくわかりませんでした。カンボジア料理ってなんだか、イメージが付きにくいですよね。山田君、カンボジア料理で何か、おすすめありますか。」


山田「俺もよくわからないですよね。っていうか、カンボジア料理って、なんだかなじみがなくてイメージがわかないんですけど。タイ料理やベトナム料理はなじみあるんですけどね。」


僕は、Tシャツに短パン。日本から持ってきたものを着た。山田は、しゃべりながらベッドに腰を掛け、水滴をバスタオルでふき取っていた。山田の若い体に着いたはじけるような水滴に部屋のライトがあたり、なんだか幻想的な輝きを醸し出していた。


僕「じゃ、山田君の準備ができましたら、とりあえず街へくりだしましょうかね?パブストリートあたりだったら割と繁華街のため、何でもありそうですよ。」


山田「そうなんですね。俺も、ガイドブックで確認してまして、そのパブストリートって気になっていたんですよね。」


僕「じゃ、決まりだね。雨季の終わりだから虫よけスプレーは全開でお願いしますね。」


山田は、そそくさと白のTシャツを着、短パン履いた。虫よけスプレーを体中に振りかけていた。


山田「了解です。虫よけスプレーはばっちりです。」


僕「忘れ物はないですか?お金はチェンジしたリエルがあれば、大丈夫なので、セーフティボックスへ残りは保管してくださいね。」


山田「了解です。日本円で5000円程度あれば間に合いますよね?」


僕「十分だと思います。夜ごはんぐらいのお金があれば問題ないでしょうね。」

と会話をしながら二人、外出の準備をした。


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