第5話 To Siem Reap(シェムリアップへ)

時刻は、現在、香港時間で16時30分になっていた。搭乗開始は、17時05分からと案内版にあった。仕事をして待っているとあっという間に時間がたった。カンボジアからの帰国後、スムーズに仕事を運ぶためには、準備は必要である。


山田「酒井さん。戻ってきました。お仕事はいかがですか?」


僕「カンボジアから帰国するとすぐに仕事に入れるように準備できましたよ。後は、シェムリアップでいい画像とスピリチュアルな体験ができればOKですね。」


山田「何事も準備は必要ですからね。酒井さんって段取りいいがいいですよね。先を読む力があるっていうか。俺、見習いたいですよ。うらやましい。」


僕「山田君、ビジネスでは段取りがかなり重要なポイントですからね。段取りで仕事の進み具合も変わってきますからね。ビジネスにおいて時間の余裕はかなり大切ですよ。」


といった会話をしているとあっという間に時間がたった。搭乗ゲートから、搭乗開始アナウンスが流れはじめた。


山田「いよいよ、酒井さん、俺、シェムリアップへ行くんですね。俺の憧れのアンコール・ワット遺跡がそこに待っているんですね。」


僕「そうですね。僕も憧れの遺跡の一つですよ。遺跡巡りって歩くことが多いから、足腰がしっかりしている若いうちにいろいろと行きたいんだよね。以前、インドネシアのボロブドゥールへ行った時も、遺跡の上まで登るのにかなりありましたからね。」


山田「そういえば、インドネシアのボロブドゥールとカンボジアのアンコール・ワット、ミャンマーのバカン遺跡が東南アジアの仏教三大遺跡ですよね。いける時に行っとかないといついけなくなるかわかりませんからね。体の問題だけでなく、国際情勢によってもいけなくなる可能性がありますからね。」


僕「今のご時世、ホント何が起きるかわかりませんからね。山田君、そろそろ搭乗の順番だから、パスポートとエアーチケットを手元に準備をしといてくださいね。」


山田「はい、わかりました。酒井さん。」


搭乗ゲートでは改めてキャビンアテンダントにチケットとパスポートをチェックされた。僕と山田はいよいよ飛行機の中へ入っていく。フライトの搭乗機は、国際線の割には、小さめであった。この時期の利用者は少ないのだろう。海外の地方行きのフライトという感じだ。香港からシェムリアップまでは2時間少々で到着する。


機内は、かなり込み合っていた。僕と山田は、手荷物をコンパートメントへいれ、席へ着いた。今回は、入国するため入国書類の記載も必要になるため、筆記用具とパスポートとエアーチケットの一通り、座席の前のポケットネットの中へ用意した。


山田「酒井さん、準備いいですね。俺も見習わなければ。」


僕「備えあれば憂いなしですよ。準備しておけば、安心ですからね。心の余裕も出てきますしね。」


山田「その通りです。俺も準備しときます。」


機内は、マイナーな国際線とは言え、若干狭い印象を受けた。キャセイ・パシフィック航空で手配したはずだが、提携のドラゴン航空という航空会社の機体だった。日本でいうところのLCCといったところだろうか。山田が窓際の席に座り、僕は通路側の席とした。通路側の席の方が、トイレへ行くときに便利だからだ。また、夜だと外の景色も見れないからだ。山田は窓側の席がいいようだったのでちょうどよかった。


フライトは、定刻どおりのディパーチャーだ。座席に二人そろって着席し、これでようやく一安心といったところだ。


機内には離陸のアナウンスが機内に流れ始めた。いよいよ香港国際空港からカンボジアのシェムリアップ国際空港へ向かってフライトが今まさにはじまる。飛行機が夕魔暮れの中、香港国際空港を離陸し始めた。僕からは山田越しに機内から離陸する滑走路が見えた。だんだんと加速しはじめ、いよいよ香港から旅立つ。一瞬、僕にGが思いっきりかかってきたが、街のネオンが輝き始めた香港から、あっという間に離れていった。その後は、香港が見る見るうちに小さくなって僕の視界から消えていった。宝石箱からキラキラと輝くパワーストーンが零れ落ちていくような印象を受けた。香港の夕間暮れの夜景が、だんだんと小さくなっていった。


この香港から届いているネオンの明かりの中には、それぞれの人々の物語があり、どんな人たちのストーリーがあるのだろうかなと思った。香港から届くライトの光は、一つ一つが塊となっていった。僕の視界から徐々に消え去っていく。後は、シェムリアップ入国手続きが滞りなく進むことを願うばかりだった。


山田「俺、空港を離陸し、だんだんと街明かりが小さくなっていくのが、なんだか、物哀しいんですよね。旅のメランコリックに浸ってしまうっていうか。時間が流れていくことがなんだか切なくて。この一周一周には二度と戻れないと思うとなんだかさ三いい感じになるんですよね。」


僕「僕も同じですね。なんだか、切ないというか何とも言えない感じですよね。時間の流れが戻ることはできないですからね。その瞬間瞬間が戻らないと思うとなんだかメランコリックになりますよね。」


僕は山田と感受性まで一緒なんだなと改めて感じ取った。


山田「その通りです。なんだか、むなしい感じですね。それはそれでまた経験として必要なんですよね。人間として成長していくためには。」


僕と山田が、たわいのない話をしている間にも、どんどんと機体は空へ空へと舞い上がっていった。


機内では離陸後、間もなくすると機内食の配膳とカンボジアへの入国手続きの書類の配布があった。機内食も時間が慌ただしく終わる感じだった。というのも機内の席がエコノミーということもあったがやたらと狭い。ましてや通路側席ということもあって、スチュワーデスの慌ただしさが、直接、伝わってくる。また、気流もよくないようで機体の揺れも継続的である。機内食が空中に浮かぶのではないかと思うぐらいのときもあった。このままエアーポケットに突入したら、けが人が出るのではないかと思うくらいだった。


山田「酒井さん。今日は、結構機体が揺れますね。気流が悪いんでしょうね。大丈夫ですかね。」


僕「気流はそうでしょうね。機内食が空中に浮きそうですよ。このまま空中で食事って感じですね。なんだか宇宙船の中で食事をとっている感じですね。大丈夫かどうかはわかりませんがなるようにしかなりませんからね。」


機内食の配膳が終わった。30分ぐらいで機内食の食器の回収が始まった。それと同時に入国手続き書類の配布が始まった。本当に機内は慌ただしかった。フライト時間も短いせいもあるだろう。僕と山田もカンボジアの入国手続き書類を受け取り、必要事項を記載し始めた。今回のカンボジアへの入国では、ビザが必要であらかじめ日本で旅行会社へ依頼して取得していた。旅行日程とビザが送られてきたのだがビザが2枚入っており、一部保管用かと思っていたが、入国と出国でビザの提出が必要だと入国手続きの書類へ記載してあった。


僕と山田の謎はようやく解けた。


山田「酒井さん、旅行会社からビザが2枚送られてきた理由がわかりましたね。入国用と出国用とで2枚が必要だったんですね。俺、送られてきたときなぜン枚も必要なのかわかりませんでしたよ。」


僕「そうだよね。何事にも無駄はないですね。」


僕と山田は、お互いに入国手続き書類も書き終わった。そうしたところ、通路を挟んだ席の老夫婦が、入国書類を記載する筆記用具が持ち合わせていないようで困っている様子だった。


僕「なにかお困りですか。」


老男性「入国書類を記載する筆記用具をスーツケースにいれたままで、今は、ないんですよ。筆記用具あれば貸していただけますか。」


僕「こちらでよろしければ、是非、使ってください。どうぞ。」


老男性「ありがとうございます。お借りしますね。」


僕「いいえ、お互い様ですからね。これも何かのご縁でしょうからね。」


老男性は、入国書類を奥様分も記載した。


老男性「ボールペン、お貸し頂き助かりました。ありがとうございました。」


僕「お互い良い旅になるといいですね。」


僕は、貸したボールペンを受け取り、音楽を聴きながらシェムリアップのガイドブックを僕と山田はお互いに目を通していた。着陸のアナウンスが機内に流れ、他の乗客も降りる準備をしている様子だった。


山田「酒井さん。もうそろそろ着陸ですね。俺、離陸と着陸時に体にかかるGが好きなんですよね。」


僕「そうなんだ。僕もGのかかる感覚が好きですね。胸にかかるこの圧迫感がなんだか心地よいんだよね。」


山田「本当、俺と酒井さんって、ホント、よく似てますよね。」


僕「そうですよね。不思議なぐらいですよ。夫婦でも、なかなかいないでしょうね。こういうことを人としての相性がいいってことなんでしょうね。」


着陸最終アナウンスが流れ、いよいよ着陸となる。Gが思いっきりかかってきた。機体の揺れも大きくなってきた。いよいよ僕と山田はカンボジア シェムリアップへ一歩を踏み入れる。香港国際空港を離陸し、カンボジアへの入国後の二人にはいったい何が待ち受けているのか、どんな出会いが待っているのかと考えると楽しみであった。


着陸完了のアナウンスが流れた。空港内へは、機内から空港ロビーへは、リムジンバスに乗り空港入口に到着する。カンボジアは、この時期、雨季の最終の時期である。スコールの覚悟はしていたが、ラッキーなことに雨は降っておらず天気はいい。空を見上げると、夜空の星が地上から間近にきれいに映っていた。僕の旅先での運の良さを感じさせるものであった。わりと僕は天候に恵まれる方で、天候が悪くて困ったということは、ほとんどなかった。


機内からトラックへ降りて行き、空港までのリムジンバスを待っていた。夜空の空気は、東南アジア特有の「モアっ」とした空気感だった。湿度の高い空気が、僕と山田の身にまとわりついてきた。それと同時にオーキッドの花の香だろうか甘い心地よい香りもほんのり漂ってきた。


山田「いよいよ待ちに待ったカンボジアへ入国できますね。シェムリアップ国際空港は、少々地方都市の空港って感じですね。あまり大きくなく。でも国際空港なんですよね?」


僕「そうだよね。ハノイや香港の空港よりはかなり小さいって印象ですね。東南アジアの地方空港って感じですよ。」


山田「そうなんですね。酒井さん、空港入口行きのリムジンバスが来ましたよ。乗りましょう。」


二人は、リムジンバスへ乗り込んだ。リムジンバスのドアへ一歩踏み込んだ段階で、僕と山田の体を生暖かい空気が覆ってきた感覚があった。バスの中には冷房が効いているのだろうが、外気を全く変わらない感覚であった。バスの中では、入国手続きへ向かう多国籍の人たちでごった返していた。この状態は日本の出勤ラッシュみたいだと感じた。シェムリアップまできて、ラッシュアワーの感じを体感するとは思わなかった。


空港内へ入って、入国手続きカウンターへ僕と山田は二人進んでいった。各国からアンコール・ワットの入口の街、シェムリアップへ訪れ集まっていることがわかる。この混雑ぶりからうかがえるが、さすがアンコール・ワットは世界遺産だけあると思った。今回、僕と山田は、このアンコール・ワットで何を感じ取り、何を体験し帰国するのかを思うと、もう「ワクワク」という言葉しか、思い浮かばない。


空港内バスの到着場所より、入国カウンターまでの通路を歩きながら、外の景色を改めて見た。日も暮れた夜なので空港建物は、ライトアップされており、きれいな南国の植物がライティングされている。空港内の電子案内板を確認しながら僕と山田は、入国カウンターへ向かった。入国手続きの際、指紋認証があるが、なかなかこの機械に反応しないことが多く、入国手続きに時間がかかる原因になっている。どうにか入国手続きが終了した。


次に、日本で預けた荷物を受け取るのだが、その荷物がなかなか出てこない。これは、出てくるのを待つしかなかった。この時間が、結構、ホテル到着までの時間を左右する。そういえば、前回のハノイ渡航の際には、帰国の羽田空港でスーツケースを受け取ったときに破損していたことを思い出した。今回は、破損がないようにと願うばかりだった。


僕「前回、ハノイから日本へs帰国した際にスーツケースが破損していたんだよね。出国の時でなくてよかったけどね。旅立ちに日にスーツケースが壊れちゃうとテンション下がるからね。」


山田「マジっすか。壊れちゃっていたんですね。スーツケースって旅の友って感じですからね。壊れちゃうと悲しくなっちゃいますよね。」


僕「今回は、まだ到着したばかりだから、スーツケースが破損していたら困っちゃいますからね。それだけは避けたいですよ。」


山田「そうですよね。到着早々の災難っていやですよね。俺、先ほど機内でアンコール・ワットのガイドブックを読んでいたんですけど、アンコール・ワット遺跡観光には入場チケットが必要のようですね。1日観光用と数日間継続して観光できるチケットがあるようです。」


僕「僕も確認しましたよ。確かに一日では、アンコール・ワット遺跡群をすべて回ることはできませんからね。そんなチケットも必要でしょうね。そのチケットって、写真付きみたいですね。そうしないとチケットを持っている人と同一人物かわからないですしね。各国から訪問していますからね。それにその写真付きチケットも観光客にとってはいい思い出になりますね。」


今回のアンコール・ワット遺跡群では、アンコール・ワット、アンコール・トム、バイヨンの遺跡を探訪する予定である。その案には、山田も特に異論はないようだった。悠久の時間とともに、現代に存在するアンコール・ワット遺跡群、いったい今までどんな景色を見届けながら、現在に存在しているのかを考えると、スケールの大きさになんだか涙が出てくるような気がしてきた。その遺跡に僕と山田が足を踏み入れて、何を感じ取れるのかが楽しみであった。トランスレーションしてどんな思いが僕たちの入ってくるのか楽しみでもあり、少々不安でもあった。


山田「酒井さん、今回のアンコール・ワットの探訪紀行はなんだか、悠久の時間の流れと現在を結ぶ何かを感じ取れるような気がしますね。」


僕「そうだよね。明日から訪れるアンコール・ワットの遺跡探訪で、遺跡の中で佇み何を感じ取れるのか楽しみですよ。僕自身の中で、どんな感情が生まれてくるのか楽しみですよ。」


山田「俺も楽しみなんですよ。本当に。悠久の時間をどんな形で感じ取れるのか楽しみなんですよ。感無量で涙がでちゃうかもですよ。」


入国ゲートを出てとりあえず、今回は現地通貨を日本でチェンジできていなかったため、マネーチェンジをすることにした。空港内の両替所へ行った。どの換金所が利率がいいのかわからないが、とりあえず空港内では、米ドルとカンボジア通貨リエルのどちらを交換かと尋ねられた。もちろん、リエルをとりあえず交換した。山田も同じく日本円からカンボジアリエルへチェンジした。僕は初めて手にするカンボジアリエルを目の前にし、いよいよ始まるシェムリアップ紀行をわくわくしながら待ちわびてくる感情だ。僕と山田は通貨の両替を終え、いよいよカンボジアへと第一歩を踏み入れていく。


シェムリアップ国際線空港の出口では、ツーリストのガイドが所狭しに待っている。僕たちのガイドを探した。僕と山田が国際空港内を出た瞬間、これは一瞬であったが、嫌な空気がまとわりつく感じがあった。その空気感がのちのち、厄介なことになるとは、このときは、思ってもいなかった。


僕と山田は、到着したばかりの旅行者と現地のツアーガイド、タクシーの客引きの間を擦り抜け、ようやく今回のガイドと巡り合えた。僕と山田の名前が記載されたプレートが眼に入った。ようやく現地ガイドさんと会えた。


送迎のガイドは、ヤンさんというカンボジア人だった。


ヤンさん「こんばんは。私は、ガイドのヤンです。ようこそ、シェムリアップへ。酒井さんと山田さんでいいですか。」


僕「はい、そうです。帰国までよろしくお願いします。」


山田「ヤンさん。よろしくお願いします。」


ヤンさん「今からホテルまで送迎車で送りますが、まだ、何人か来ていませんので、少々こちらでお待ちください。」


僕「わかりました。後、何名ですか。」


ヤンさん「あと、5名待ちです。」


山田「そうなんですね。酒井さん、もう少々時間がかかりそうですね。俺、写真を撮っていてもいいですか。空港の出口のところに気になるガネーシャの像があったので、それを記念に撮りたいんですよ。」


僕「いいよ。OKですよ。山田君、でも、迷子にならないようにしてくださいね。」


山田「もちろんですよ。右も左もわかりませんからね。出口の石でできているガネーシャの像の写真を撮りたいので。あの像には何か引き付けられる感じがするんですよね。これもシェムリアップパワーですかね。」


僕「そうだね。どうでしょうね。何かを山田君へ伝えたいのかもしれませんね。山田君、写真を撮ってあげましょうか。この出口のガネーシャと並んで。」


山田「酒井さん、こんな感じでいいですか?」


僕「OK。いい感じですよ。神秘的なカンボジアの空気感が出ていますよ。」


アジアの国へ入国すると、その瞬間、独特の香りがする。その国その国の特有な香りがある。今回のカンボジアもお香の香りがする。「モアっ」とした東南アジアの特有の湿気と高温さ。お香の香りは、サンダルウッドと、なんだか薬草の入り混じった落ち着く香りだった。


僕はそういえば以前、カンボジアのお香を日本で取り扱っていたことを思い出した。同じ香りが匂った気がした。少々懐かしい感じがあった。同じ香りを日本とカンボジアで出会えるとは、なんとも言えない趣があった。僕と山田の前を何人もバックパッカー風な人たちが通り過ぎて行った。スーツケースを持ってガイドを待っている人。バックパッカーのような人の側についてタクシーの交渉をしているドライバーなど、ここは日本じゃないと改めて感じ取れる景色だった。


山田「酒井さん、カンボジアの空気感ってなんだか独特ですね。それと、独特の日本では香らないお香のような薬草のような何とも言えない、日本では嗅いだことのない落ち着く香りですね。」


僕「ハノイもそうでしたがその国、その国独特の香りってありますからね。」


山田「そういうものなんですね。そういえば、ハノイの独特の香りと今回のカンボジアのシェムリアップの香りって違うような気がします。」


僕「そうでしょ。そういうものですよ。空港に到着した際の香りが、その国その国の文化をも伝えてくるんでしょうね。」


そうこうしているうちに、今回の同乗者のメンバーが全員そろったようだった。ヤンさんが、一人二人とツアーの人たちをかき集めてきた様子だった。空港出口の側より薄暗い通路でヤンさんが乗車人数を数えていた。


ヤンさん「皆さん、ようこそシェムリアップへお越しいただきました。長旅、お疲れ様でした。ようやく全員そろいましたので、今からそれぞれのホテルへ向かいます。この車に乗ってください。荷物は、ドライバイーに預けてください。落し物がないようにしてくださいね。」


僕「わかりました。僕と山田君の荷物はこの二つだけです。あとは手荷で持ち込みます方大丈夫です。」


山田「空港からホテルまでは、どれくらいかかりますか。」


ヤンさん「そうですな。酒井さんと山田さんのホテルには、空港から、おおよそ30分ぐらいですね。」


山田「そうなんですね。皆さん同じホテルですか。」


ヤンさん「違いますな。三か所のホテルになります。カンボジアも観光客が多くやってきていますから、ホテルもたくさんできてきましたな。酒井さん、山田さんが泊まるホテルには最後の到着となります。」


僕「そうなんですね。」


ヤンさん「皆さん、車へお乗りください。」


それぞれ送迎車へ乗り込んだ。今回の送迎車は、白いミニバンのような車だった。10名ぐらいが乗り込み、いざ発車となった。ガイドのヤンさんのたまにおかしな日本語が面白かった。僕は笑いを抑えるのが精一杯だった。

山田「酒井さん、大丈夫ですか。」


僕「面白すぎて笑いを抑えるのが精一杯ですよ。」僕と山田は、笑いのツボも同じようだった。ヤンさんの奇妙な日本語にはまった。


ヤンさん「ようこそ、シェムリアップへお越しいただきました。長時間のフライト、お疲れ様でした。今から、それぞれのホテルへ向かいます。三か所のホテルへ行きます。通貨の両替は終わっていますか。ここシェムリアップでは、米ドルのが皆さんへはわかりやすいと思います。土産物店のプライス表示は米ドルになっていることが多いです。」


ガイドのヤンさんが、自己紹介とあいさつをしながら、その送迎車は空港から徐々にシェムリアップの市内へと近づいて行った。市内の中心へ向かう道路でもかなり薄暗かった。電力不足でもあるのだろうか。日本の感覚とは全く異なっている。日本では、繁華街であれば、ネオンがキラキラしている。


ここカンボジア シェムリアップの第一印象は、なんだか土埃っぽい感じを受けた。メイン通りは、舗装はされているが、赤土が舗装された道路にあふれていたというのも道路はアスファルトで舗装されているが、道路以外は赤土が表に出ているからである。。車の中はクーラーがかかっているので涼しいが、おそらく、窓を開けたら、どんよりした生暖かい埃っぽい空気が車内へ入ってくるはずである。その空気感って東南アジアって感じが伝わってくる。


車内では、ガイドのヤンさんがシェムリアップでの観光注意事項を説明していた。


ヤンさん「シェムリアップでの注意事項をいいます。シェムリアップは、観光客が多い街なので、客引きが多いです。スリもいますから注意してください。お金は人にみせないようにしてください。」


同乗女性A「そうなんですね。女性だけの外出は危険ですか。」


ヤンさん「日中は大丈夫ですが、夜は、一人は危ないですね。二人以上で外出されるのがいいですよ。」


同乗女性A「うちらは、三人なので大丈夫やね。」


同乗女性B「そうやな。」


同乗女性C「まぁ、何とかなるんじゃん。お兄ちゃんたちは男やし、大丈夫やね。」


僕「そうですね。僕たち二人は大丈夫ですよ。女性は気を付けないとですよね。」


山田「俺も大丈夫だと思いますよ。」


同乗者の女性三人組は、どういった関係かは知らないが、彼女たちであれば、身の危険を感じることはないと思った。追剥に出くわせば別だがと、僕は思った。


山田が小声で僕へ話してきた。


山田「この女性たちなら、男性以上に安心そうですね。」


僕「山田君、僕も同感だよ。彼女たちなら逆に男性を襲っちゃいそうだよね。」


僕と山田はお互いの思いにうなずいた。というのも、この女性たち三名は、わかりやすく言うとジブリ作品の「千と千尋の神隠し」で出てくる、ユバーバに似ているからだ。山田もおそらく同じ印象を受けているに違いないと思った。後ほど、部屋に入って聞いてみるとする。


受け取る感性も僕と山田は、同じなだなってつくづく思った。本当に不思議な関係なんだよね。興味を持つツボも同じだんよなって一人で感心していた。なかなかこんな感じの相手っていないものなんだけど、こういうのを相思相愛っていうのかなってとも思った。ある意味、僕と山田の出合いは、出会うべくして出会ったという感じである。


僕は、送迎車の車窓から外の景色を眺めていると、日の落ちたシェムリアップの道路は、ミステリアスで怪しげな空気を醸し出していた。この世と別世界が混じり合った妖艶な東南アジア特有の夜の世界って感じがした。それは、「モアっ」とした熱帯雨林気候の湿度、整備されていない道路、観光客相手の客引きや、日本国内でいうところの違法薬物の勧誘などである。大抵、そういった輩はバイクに乗って勧誘してくる。


シェムリアップのメイン通りは、国道6号線とのことだった。6号線の街路樹の下にはそういった輩たちのたまり場になっているようだった。また、近くの人たちが夕涼みをしている憩いの場のようだ。後は、観光客相手の娼婦が、妖艶な流し目で行きかう車を覗いている。


道路の両側には、街灯があるがもちろんLEDライトを使っているわけはなく、昔ながらの蛍光灯のような赤黄色の明かりだった。その明かりに大小の虫がたかり、さらに妖艶な世界観を醸し出している。夜にも関わらず、カンボジアの人たちだけでなく、観光客の姿もちらほら見受けられた。観光客もこの時間帯に歩いているということは、ヤンさんの言った通り複数での外出であれば大丈夫そうだと感じた。僕は、車窓の景色をぼんやりと眺めていた。


山田「酒井さん、シェムリアップってなんだか、埃っぽい印象がしますね。メイン通りの6号線を通っていても、なんだか赤土の埃っぽさが目立っちゃいますよね。」


僕「雨季にも関わらず、なんだか埃っぽい感じがしますね。乾期だったらもっと乾燥しているんだるうね。」


ということは、ここ数日の間ではあまり雨も降っていないということであろう。


街路のライトが赤土の土埃を照らし、土埃の霧のようにも見える。まるで砂漠の中の道を通っているような印象を受けた。街路の明かりを通して、霞んだ感じで景色が見えた。空港から国道6号線を通り、途中、通りを左へ曲がり繁華街の付近を通過していった。


カンボジア シェムリアップの通りには、名前のついていない通りが多いようだ。メイン通りは、通り名があるが、それ以外の細い道は名前がないものがほとんどであった。


シェムリアップ市内中心には、シェムリアップ川が流れている。その左右の岸辺では、雰囲気が違った。シェムリアップ川には左右の岸を結ぶ橋がいくつかあった。自動車用、人が歩いて渡れる歩道用のものが別々にあるようだった。シェムリアップの中心街にも国道6号が通っている。シェムリアップ川にかかっている橋は、歩道用以外は一方通行のもののようであった。


ちなみにこの6号線をひたすら走り続けると首都のプノンペンに到着するとのことだった。そういえば、何かの書籍で、すべての道はアンコール・ワットへ続くと読んだことがあった。


夜の繁華街、パブストリート通りの付近は通り名が付いているようだった。日中はどうなっているのかとガイドのヤンさんへ確認するとおしゃれなカフェが立ち並ぶといっていた。カフェが夜になるとパブに様変わりするようだ。大きな通りは、通称のような通り名が付いている。


初めてのところだから、夜の暗闇に送迎車でホテルまで案内され、いったいどの通りを通りホテルまで辿りついたのかは、僕にはわからなかった。


おそらく、空港から国道6号線を通り、途中では、シェムリアップ川沿いのタップ・ヴォン通りを進み、更にシェムリアップ川を渡り、川向こうのアーチャー・スパ通りへ進んでいったように思われた。そこからは、通り名のないような横道へ入り、どんどんと暗闇の細い路地へ入っていった。


舗装もされていない細い路地に入り、土埃を立てながらガタガタと送迎車は左右に揺れ、僕たちをホテルへ導いていった。ホテルへ細い路地を入ることになるのだが、その道の入口には、オウムの看板があった。それがなぜか僕にとっては非常に印象深かった。オウムの絵の下にはクメール語で何か書かれてあったが、クメール語のため何と書いてあるかはわからない。ホテルの名前が書いてあったように思われる。日本では、なかなかない状態の悪い道路であった。逆に日本が整いすぎているのかもしれない。僕たちを乗せた送迎車は間もなく、滞在ホテルへと到着した。

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