H
日常が始まる。日常とは何たるか、よく理解していない。そんな場合ではない。
目が覚めた。しかし、それはいつもの場所ではなかった。見慣れない場所だ。
見渡すと、今まで自分が寝ていたベッドがある。ベッドだが、どこか囚人を思わせる作りだ。それにとても汚い。汚れも布の破れようもなんともおぞましい。
周りを見回してみる。全体的に本当に汚い。カビというのかこれは腐敗とか腐食しているのか。
ベッドの周りには特に何もない。天井もくちかけていまにも落ちてきそうだ。その天井にはかつてカーテンでもあったのか、そのレールらしきものがある。カーテンはない。部屋の奥にもう一つベッドがある。どうやら二人用の部屋らしい。明らかにここは病室である。しかし、病室とはこんなにも不衛生な場であったろうか。病気を治すところではなく、病気を増やすとでもいうような……。不気味である。
ドアを出ると廊下が続いている。ほかの病室に続くドアがたくさんある。
廊下も老化が激しい。……というジョークはさておき、自然の日光のみで照らされている病院内は、何とも薄暗く、不気味さを際立たさせる。何のために自分はここにいるのかがわからなくなる。
";start game"
文字を打ち込んだ。そうすることでゲームが始まる。完全に最初から最後まで文字を入力することでしか進行できないテキストアドベンチャーゲームである。アメリカのものだ。当然すべて英語で入力する必要があるが、英語の教育は間に合っているため何ら問題が無い。そして、これはれっきとしたホラーゲームである。テキストだけで場面が表現されるため、理解力も問われる。これでもしっかりと恐怖を味わえるらしい。
ゲームの名は《Word Input Game》とそのままだ。単語を入力するゲームという意味合いであるが、実際に入力するのは単語の組み合わせでできた英文すなわちこれはコマンドだ。
早速テキストが表示される。イラストも何もない。テキストのみの描写だ。まるで、小説にオンラインで双方向にたのしめるかのような。
"I was there when I noticed. I don't know when or how I went. All I know is that I am in danger only."
"This building is looks like a hospital. Maybe this is a hospital room. I am in the building. The room is very dirty. Definitely hospital room, but it is so dirty that you can't imagine it."
"There is a door in the back. I cannot find other something."
つまるところ、気が付いたらここにいて、いつどうやって来たのかわからない。わかるのは自分が危険な状況にあることだけ。おそらく病院の病室にいる。部屋は想像できないほど汚い。奥にドアがある。ほかのものは見当たらない、ということだろう。
他のものがみつからないのなら部屋を出るのがいいかもしれない。
";leave room"
コマンドの頭に「;」と打ち込むと認識してくれる機能だ。
このゲームのコマンドはシンプルにするほど認識しやすくなるらしい。
"The door has been locked."
なんとカギがかかっていた。
つまり、鍵が必要そうだ。
";use key"
と打ち込んでも、
"I do not have a key."
と返される。ということはこの部屋に鍵が隠されているということに他ならない。
先ほどはドア以外に見当たらないということだったが、それは詳しく見ていないからということではないだろうか。
";look around the room"
こうすることで主人公は部屋中をさがしてくれるはずだ。
"I try look around the room..."
"I found a key on the desk."
簡単に鍵がみつかった。つまり、これは『こういうことをしないと探し物が見つからない可能性がある』というチュートリアル的な何かだろう。そう考えると主人公はやる気があるのか。
改めて、
";use key"
"The door has been unlocked."
";open the door"
"I opened the door."
";leave room"
"I leaved the room..."
こうして部屋から出ることができた。いちいち入力するのが面倒ではあるが、これがこの手のゲームの面白いところだ。
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