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『彼を助けてほしいの』

 そんな連絡を受け取ったのは、昨日の夕方のことだった。

 彼とはいったい誰なのだろうか。俺は彼女ととしか関係が無い。

 俺に彼女以外存在しない。

 彼女からの連絡だったから。

 俺はわけがわからなかった。

「彼とは誰だ」

 そう問うても、すでに通話は終了していた。

 助けろ。そう言われてもだれを、どうやって助けるのかがわからないのだからどうしようもない。


 わからないから。


 俺は、昨日の夜、彼女が家に帰ってきたとき、一緒に家に入ってきた男を、彼女の居ないところで、彼の居た部屋で、


 殺してあげた。


 彼は、血が、青かった。

 気味が悪かった。


 でも、助けるとはこういうことでしょう。

 そうでしょう?


 彼女は怒った。あなたが彼を殺したのか。そう問われた。でも、冗談のようにしか聞こえなかった。

 面白かった。

 なんとも、愉快だ。

 彼女の話によると、彼は、精神病院に入院していた元患者らしい。

 血を青くするような手術が施されたとしても、おかしくはない。だって、悪名高い、あの精神病院の、元患者。

 人間の血は、いつから赤いものだと錯覚していた?


 ああ、愚かで愉快な。


 お話だ。

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