第7話



「そん、な……」



 僕は女性の生首を見て、愕然とその場に膝をついた。それは紛れもなく、さっきのミニアルバムに載っていた女性のものだった。

 つまりこの三体の死体のうちのひとりは――僕のなのだ。


「どうして、なんだ……?」


 口ではそう独り言を言いつつも、僕の頭の中では、ある仮説が、みるみるうちに組み立てられていく。それは最初に行った推理よりも、はるかに胸糞悪く、信じがたく、悪夢のようで、しかしそれでいて現実に即していた。

 僕が僕自身について行った、二つ目の推理。

 それは、「」というものだった。


 僕はおそらくずっと昔から、自分の姉妹に対して、姉妹以上の愛情を抱いていたのだ。


 姉妹と一緒に住んでいるうちはまだ良かったが、やがて彼女は成長して家を出てしまった。だから今度は盗撮や盗聴をし始めた。そして当然そのことを、周囲にはずっと隠していた。だが仕事が成功し、結婚して子供をもうけてもなお、姉妹への歪んだ愛情は薄らぐことなく、むしろ増していった。やがて膨らんだ病的な愛は、彼女の男友達や交際相手、そして愛する彼女そのものへの殺意に変わった――――。



「なんだ……そうだったのか」



 僕は額に手を当て、ふふ、と自嘲気味に笑った。

 それ以外の可能性など、とても考えられない。この仮説以外に、今まで得た情報すべてに対して筋の通った説明をできるストーリーなど、あるわけがない。それにしても、まあ、姉妹殺し? 肉親を殺す場合にしても、金が絡んでいるとか、元々険悪な仲だったとか、色々理由はあるだろう。しかし僕の場合、そこそこの金を持ってはいただろうが、金銭契約についての法律に明るかったはずなので、詐欺に引っかかって大損をしたとは考えにくい。万が一、何らかの方法で大金を奪われていたとしても、それほど実力のある詐欺師ならすぐに行方をくらますなどして、被害者と決して会わないように細心の注意を払うだろう。そもそも姉妹を無残に殺したいほど嫌っていたとしたら写真立てに写真など飾っているはずがない。

 僕が彼女を殺したとしたら、その理由は、ただひとつだけ。




       




「ねえ、誰かいるの?」

 


「!?」

 突然聞こえてきた声で、我に返った。中年の女の声だ。

 ドアのすぐ向こうから聞こえてくるその声に、体からドッと冷や汗が噴き出す。


 誰だ? 


 こんな時に一体、誰なんだ。


 ドッドッドッド……心臓の音があまりにもうるさすぎる。危険を告げるアドレナリンが全身で大量放出され、今にも倒れそうに気持ちが悪い。全身が勝手にブルブルブルブル震えて止まらない。まるでインフルエンザで40℃の熱が出た時のようだ。僕はちらりと目線を床に向けた。視線の先には目覚めてすぐに見つけた、あの大きなのこぎりがある。

 いざとなったら、これを――――


「開ける、わよ?」



 ドアがキィィ、と音を立てて開かれる。


 

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