第6話
廊下は明かりがついていなかった。ドアを開けると、元々いた部屋の明かりでうっすらと周りの様子は見えたが、奥の方はよく見えない。僕は仕方なく、手探りで進むことにした。運よく近くに部屋があったので、そこのドアノブを回してみた。触った感じカギ穴は存在するようだが、カギはかかっておらず、中に入ることができた。
「……」
全く物音や人の気配はしないものの、誰かがいないとは限らないので、ゆっくりとノブを回してドアを開けた。中は書斎のようで、部屋の奥には仕事机と回転椅子、その横に小さな引き出しがある。壁側には大きな本棚があり、法律関係の本がずらりと並べられている。
「僕の、部屋、なのか……?」
するとその時、部屋の片隅からチチチ……と、動物の鳴き声が聞こえた。歩いて近づいてみると、本棚の陰に、小ぶりの鳥かごがある。中を覗き込むと、小鳥が一羽、そこにいた。
「小鳥……か」
インコか、それともカナリアだろうか。
種類はよくわからなかったが、小鳥は羽をふるわせて、曇りのない綺麗な両目でじっとこちらを見つめてくる。僕はふと、この小鳥をとてもかわいそうに思った。どこにも逃げられず、わけもわからず閉じ込められている状況が、今の自分と重なったせいかもしれない。僕は鳥かごを持って窓のそばまで行くと、鳥かごの扉を開け、そして窓を開けた。
「ほら、お逃げ」
優しく声をかけると、小鳥は勢いよく鳥かごから飛び出し、夜の森に消えていった。
「……」
自分でも妙なことだとは思ったが、それを見て僕はなぜか、こう思っていた。
あの小鳥は、いつかまたここへ戻ってくるのではないか――――?
「いや、あり得ない」
そう自分に言い聞かせる。きっと僕はあまりに心細いがために、ありもしない、自分に都合の良い空想をしているだけに違いない。弱気になるのは良くない兆候だ。空想に逃げるのも、負け犬のすることだ。僕は家族のためにも、逃げおおせなければならない。せっかく復讐を遂げたのに、あっさり捕まってなるものか。
僕は気を取り直して、今度は机に駆け寄った。何か自分についてわかるものがないかを調べてみたが、ここは本宅ではなく別荘か何かなのか、机の上にはボールペンと写真立て以外何もない。写真には少女の写真が入っていた。だが、さっきのアルバムにあった少女とは明らかに顔も雰囲気も違った。
「誰だ……?」
どこかで見た顔だ、と思ったその時、思い至った。さっき見た自分の顔だ。この少女の顔は、僕の顔とどこか似ている。それも、家族写真に映っていた少女よりもずっと。ということは、妹か姉なのだ。僕はまた服の袖で手を覆ってから、そっと引き出しを開けようとした。だが、カギがかかっていた。僕はしばらく机周りを探し、小さなカギが机の裏側にセロテープで貼り付けられているのを見つけた。
引き出しを開けて、中に入っていたものに、僕は思わず息をのんだ。
何十冊ものミニアルバムが、そこにはぎっしりと詰め込まれていた。
「なんだこれ……」
僕はそのうちの一冊をとりあえず開いた。写真はすべて、同じ女性の写真だった。しかもひとつとして、女性の視線がカメラに向いていない。明らかに盗撮写真だ。また写真のアルバムだけでなく、いくつかSDカード用のアルバムも収納されていた。盗撮写真があったことから考えると、これにはおそらく盗撮動画か、盗聴した音声データが入っているのだろう。
これを自分がやったのか、と困惑しながらアルバムを見ていたその時、僕は恐ろしい可能性に思い至った。そして同時に、もう一つ気が付いたことがあった。僕は書斎を出て、最初の部屋に戻った。
散らばった死体の中にあった、女性の頭部を確認するために。
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