魔剣の亡霊(2)
神成は如月を連れて魔物兵器研究部門に向かった。
神成自身も城の中を把握しているわけではない。端末のナビゲーションアプリが頼りだ。
なんとか目的地に到着すると頑丈そうな扉の前に保安部員が二人が立っていた。
「何か御用ですか?」
保安隊員がふたりを呼び止めて尋ねてきた。
「ジョン・ディーさんに会いたいんですけど」
「IDカードを拝見させてください」
神成が保安部員にIDカードを見せると保安部員が携帯端末でカードをスキャンした。神成の所属を確認すると次に如月にIDカードの提示を促した。
「IDカードを」
「彼女は、さっき着いたばかりなんですよ」
「ではビジターカードを持たされているはずです。そちらをご提示ください」
「すまないがそれも持っていないのだが」
保安部員たちが顔を見合わせる。
「お名前をもう一度お伺いできますか?」
「如月……如月琴」
保安部員は、携帯端末で琴の名前を検索してみたが"如月琴"名前は見つからない。
「申し訳ありませんが、あなたをお通しすることはできません。失礼ですが、どうやってここへ?」
「私は行かねばならない。邪魔はしないでもらいたい」
琴の口調が強くなる。
不審に思った保安隊員たちも態度が硬化させた。
「ちょ、ちょっと待ってください。彼女が何か?」
「申し訳ありませんが捜査官。彼女は違法侵入の疑いがあります」
「でも庭の森に普通にいたけど?」
「とにかく彼女を拘束します」
保安部員が如月の肩に伸ばす。たが逆に手首を掴まれ投げ飛ばされてしまう。
体格のよい保安部員の身体が小柄な如月に振り回されるのを見て神成は驚いた。
もうひとりの保安隊員がとっさにホルスターから銃を抜き、狙い構えた。
「動くな!」
「ちょ、ちょっとまってください」
「侵入者を発見。応援を……」
如月は持っていた長物の包を解いた。
出てきたのは日本刀だ。
剣先が持っていた拳銃を弾き飛ばす。保安部員はすぐさま特殊警棒を抜き殴りかかった。こうなると止められない。
しかし刀の峰で特殊警棒を受け流すと身体を翻した。無駄のないその動きに神成は感心する。
武術の動きだ。しかも達人の!
保安部員は如月の姿を見失う。如月はその隙きを見逃さなかった。さらに背後にまわると峰の部分で肩をしたたかに打ち付ける。
保安部員は前のめりに鳴って倒れた。
「如月さん、少しやり過ぎだよ」
「いえ、神成さん。この方は本気でした。命のやり取りを覚悟している以上、手を抜いた対応など出来ません!」
きっぱりと言い切る琴に神成が押される。
「そ、そうですか……」
ユースティティアの女子は何故こうなのだろうか、と神成は思った。
「武器をおろせ! 降ろすんだ!」
MP5A3サブマシンガンを数名の保安部員たちがいつの間にが駆けつけていた。恐らく監視カメラで様子を見ていたのだろう。
「跪け!」
銃口は神成にも向けられていた。
「俺は捜査官です!」
保安部員のひとりが顔を上げた。
「神成か?」
「は?」
「俺だ。ハンター・ウッドだ。以前、あんたに命を助けられた」
「ああ……
「何してる?」
「ちょっとした誤解があって」
ハンターは倒れている保安部員をちらりと見た。
「誤解?」
「はい……誤解」
同じく倒れている保安部員たちを見て苦笑いをする神成。
「とにかく武器を捨ててもらおうか」
ハンターはMP5A3の銃口を如月琴に向け直す。
「駄目だ! 駄目、駄目」
琴を庇って前に出る神成。
「神成さん。危ないです。下がってください。ここは私が……」
「琴さんもだめだって!」
緊張状態の中、扉が開いた。
「君たち。何を騒いでいるんだね」
中からガスマスクと防護服を着た男が出てきた。
「ん?」
男は、如月の構える日本刀に気がついた。
「そ、それは……」
保安部員を押しのけて如月に近づく。突然近づいてくる異様なガスマスクの男にさすがに如月も後ずさる。
「その刀の反り具合……磨き上げの美しさ……七百年から八百年前のものとみた。もしや、MURAMASAなのでは?」
「いかにも村正が一刀ですが。もしやあなたが?」
「私? 私はジョン・ディーだが」
「あなたが錬金術士のジョン・ディー?」
神成がガスマスクの男を見る。
確かに変わり者かも……と思う神成だった。
「私は如月琴と申します。あなたの手に入れた刀を取り戻しに来た」
「刀……はて?」
「九八式軍刀。その名に心当たりは?」
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