4・竜殺し部隊
巨大な陥没穴の上空からは偵察として先行していたヘリのAH.9リンクスが様子を伺っていた。
サーモグラフィカメラが陥没穴に向けられると高熱源を持つ移動物体が映し出される。
熱源体の位置情報は後から続く地上部隊にデータリンクシステムを介して送られていた。
装甲戦闘車ウォーリアと兵員輸送車で構成された地上部隊は目的地を目指し、ロンドンの道路を進む。
彼らは第7歩兵師団所属の特別隊、
通行人たちは何事かと道路を進む戦闘車両の車列を眺めていた。
SNSでは地震の対応なのかテロ事件が起きたのかと様々な憶測が飛び交い始めていたが、すでにMI5のサイバー管理部門が情報の火消しに取り掛かり、拡散を抑えていた。
タチアナと神成が地下の穴から陥没地点にたどり着いた。
見上げると地上の建物が見える。空は夕暮れに変わりつつあった。
「このあたりも熱いですね。靴底も溶けそうだ」
周囲の石からはわずかに煙が上がっているのが見える。
「神成、注意して。すごく嫌な感じがする」
その時、足元が揺れ始めた。
瓦礫から巨大な何かが姿を現した。
ファイヤー・ドレイクだ!
口に乗用車を咥えこんでいる。しかも中には人影が見えた。
「タチアナさん! 人です! 人が乗っています!」
車の中には怯えた表情の母子がいた。
「神成、君は少し下がって」
「タチアナさん何する気ですか?」
「ボクは、こいつを何とかする」
タチアナは右手を横に伸ばすと何かを唱え始めた。
「コーサー・エフェ
すると右手の指先から炎が発火した。
炎はそのまま伸びていくと
タチアナは、それを器用にしならせ、地面を打った。
それにファイヤー・ドレイクが気づく。
そのタイミングで炎の鞭を首めがけて飛ばした。炎の鞭がファイヤー・ドレイクの喉元に巻き付いた。
炎の鞭は物理的なものではなく呪いだった。相手の質量は関係ない。その身や物は行動を制限され自由を奪われる。
ファイヤー・ドレイクが巨大な翼を広げて威嚇した。咥えていた乗用車を噛み切った。後部座席部分を残し乗用車が落下していく。
タチアナが左手を大きく降るとそちらからも炎の鞭が伸びた。
鞭は伸びていき、車に巻き付く。落下していた車は宙で受け止められた。
「ごめん、ちょっと揺れる」
左手を指揮者のように動かし鞭に巻き付かれた車を地面に下ろす。
多少勢いがついていた車が着地の振動で大きく揺れていた。中の母子は座席でひっくり返った。
「神成! 早くふたりを!」
「わかりました!」
神成は降ろされた車から二人を助け出しに向かう」
「大丈夫ですか? さっ、その子をこっちへ」
割れた窓から子供を抱えて引っ張り出した。
「次はあなたの番ですよ」
座席の母親に手をのばした時だった。
ファイヤー・ドレイクが炎の鞭を引きちぎった。
「痛っ!」
タチアナの手から伸びていた炎が消え去る
魔術から解かれたファイヤー・ドレイクが落ちた乗用車に注意を向け顔を近づけていく。
神成は、寸でのところで母親を助け出すと急いで車から離れた。
ファイヤー・ドレイクは、車に顔を近づけると、まるで肉食動物が肉にかぶりつくかのように噛み砕き飲み込んだ。
「どうやら、やつは鉄が好きらしい」
神成たちのそばにタチアナがやってきた。
「その手、大丈夫ですか?」
右手から血が滴り落ちている。
「すぐ治るよ。それよりあいつの方だ……」
ファイヤー・ドレイクは巨大な翼を羽ばたかせ始めていまにも飛び立ちそうだ。
「きっと目を覚ましたばかりで腹を空かせている」
「外で車を食いまくるってことですか?」
「車だけじゃない。きっと建物の鉄骨も奴の好みだろうさ」
「あんなヤツが外に出たら大変ですよ!」
「ああ…‥そうだね」
突風でタチアナたちの身体が一瞬、吹き飛びそうになる。見上げるとファイヤー・ドレイクの巨体が宙に浮かび、穴から出ようとしていた。
顔を地上に出した時だ。
ロケット弾が直撃した!
ファイヤー・ドレイクは体勢を崩して倒れる。巨体が直撃した土壁が崩れていく
「ここは危険だ。さっきの横穴に戻るよ!」
タチアナたちは母子を連れてもと来た道を戻っていく。
ファイヤー・ドレイクは身体を起こすと手の爪を器用に使い、穴から這い出ていた。
付近の住民たちは避難していたが、警官たちが巨大な生き物を見上げている。
中には銃を抜いた者もいたが、拳銃で歯が立つ相手ではない。
無線で警官たちに退避命令がされると警官たちはパトカーに乗り込んで逃げ出した。
入れ違いに装甲車と戦闘車両が現場に乗り込んでくる。陥没穴まで来ると取り囲むように停車していった。
「こちらアルファ。目標と遭遇。敵は情報どおりの"飛竜"種。戦闘準備に入る」
車両部隊の指揮官が報告をする
装甲車と先頭車両から武装した兵士たちが降りて周囲に展開した。
多くの兵士が対戦車ミサイルのM47 ドラゴンを装備して配置についていた。
彼らは巨大な怪物を目の前にしても動揺していない。
種類は違うが別の竜種の姿をすでに何度か目にしている彼らは怪物に慣れているのだ。
這い出たファイヤー・ドレイクは、餌である鉄を求めて周囲を見渡した。
解体現場の露出した鉄骨を見つけると目がけて這っていく。
「各ユニット、目標に照準つけ指示を待て」
展開する兵士たちがM47 ドラゴンの照準をつけていく。
二台のウォーリア装甲戦闘車は三〇ミリ砲をファイヤー・ドレイクに向ける
ファイヤー・ドレイクが鉄骨目がけて動き出そうとした時だ。
「攻撃開始! 攻撃開始!」
兵士たちが構える対戦車ミサイルが一斉に発射された。ウォーリア装甲戦闘車は三〇ミリ砲も砲撃を開始する。
ファイヤー・ドレイクに対戦車ミサイルが直撃し爆炎を上げていく。ファイヤー・ドレイクがよろめく。
さらに追い打ちをかけて三〇ミリ砲弾が直撃すると巨体は、大きく傾く。
「射撃止め」
ウォーリア装甲戦闘車の砲撃が止んだ。
ファイヤー・ドレイクが力なく倒れこんだ。巨体が周囲の建物を崩しながら倒れると同時に土埃が舞い上がった。
兵士たちがアサルトライフルを構えながらゆっくりと近づいていく。
その時だった。後方の地面から別のファイヤー・ドレイクが飛び出してきた。
突き上げられた一台のウォーリア装甲戦闘車が横転した。
残りのウォーリア装甲戦闘車と兵員輸送車が慌てて動き出す。
「後方から新たに
砲塔部分が回転して新たなファイヤー・ドレイクに向けられた。だが、砲塔は食いつかれ、車体から引き抜かれてしまう。ウォーリア装甲戦闘車は動きを止め、その場に立ち往生した。
生き残ったウォーリアがチェーンガンを撃ち続けながら後退していく。
強力な7.62x51mmNATO弾がファイヤー・ドレイクの鱗を撃ち抜いていくが致命傷にはならなかった。
明らかに機嫌を損ねたファイヤー・ドレイクが炎の息を吹きつけた
ウォーリア装甲戦闘車が一瞬で炎に包まれ、建物に突っ込んでしまう。
ファイヤー・ドレイクは、炎の息を周囲に吐き続けた。含まれた化学物質のせいなのか可燃物ではないはずのコンクリートやアスファルトに火が燃え移っていく。
唯一対抗できる対戦車ミサイルはすでに撃ち尽くしてしまった歩兵達は逃げるしかなかった。
燃え盛る炎の中、ファイヤー・ドレイクが雄叫びを上げた。
炎は広がっていくように思われたその時だった。
突如、炎が生き物のように動き出し、一箇所に集まっていく。兵士たちを取り囲んでいた炎も向きを変えていた。
やがて集まっていった炎がひとつにまとまると何かに形を成していった。
それは巨大な蛇の姿に変化していくと、ファイヤー・ドレイクに劣らぬ大きさとなっていた。
その炎の蛇の下に誰かが立ってファイヤー・ドレイクを見上げている。
"黒髪の魔女"タチアナ・バリアントだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます