第10話 オレの将来を真剣に考えた件

 オレは今、七尾所長と真剣な話をしている。


 いつもの様にamenoアメーノで働いていたオレは、いつもの様にやって来た七尾所長に呼び止められた。


「いらっしゃいませ。 七尾所長」


「旬君、今忙しい? 少しいいかな? 」


「はい。大丈夫です」


「旬君、英文科だよね? 」


「はい。 そうです」


「TOEICのスコア、どれ位? 」


「えっと…… 350と370で、720です」


「優秀だね。 バランスも良い」


「ありがとうございます」


「ところで、就活どうしてる? 」


「あー。 一応、教員試験は受けるんです。来月。他はまだ未定で…… 。説明会には何社が行ったんですけど…… 正直マズイです」


「やっぱりな。 で、やりたい事有るの? 」


「せっかくなんで、英語を生かした仕事をしたいとは思ってるんです。 でも、日常会話くらいはイケても、ビジネスに使えるかっていうと微妙だなぁって。本当は、バスケで食べて行ければ一番ですけど、実業団に所属しても活躍出来るかどうか…… 」


「英文科に進んだ理由わけは? 」


「恥ずかしいんですけど、中学、高校とNBA目指してて…… でもここに来て、自分の限界を知ったって感じです。」


「そうか。 因みに、第二外国語は? 」


「中国語です」


「いいね。 君、ウチの事務所に来ないか? 」


「えっ⁉︎ 春日はるひさん、旬は僕のところに入れようと思ってたんだけど 」


 朔が隣で驚いている。


 朔がそんな事考えてたなんて、まるで知らなかったオレも驚きを隠せない。


「森國のところで、旬君、生かせる? 」


「分からないけど。側に置いて置きたくて…… 」


「ビジネスでは、ねこっ可愛いがるだけじゃダメな事くらい分かるだろ? 旬君だって大人なんだ。自立した1人の人間にしてあげないと」


「それは、分かってます」


「じゃ、森國は、旬君に何の仕事を与えるんだ? いきなり対等なビジネスパートナーにはならないだろう? エステやネイルをさせる訳じゃないよな? 適当に役職与えて、金払うなんて愚行だぞ? そもそも、そんなやり甲斐の無い仕事、旬君の為にならない」


「オレも、森國社長のお世話になろうとは思ってません」


「旬…… 」


「旬君の方がよっぽど大人だな」


「それでだ。実は、ウチの事務所に英語が堪能な人材が欲しいと思っているんだ。出来れば、中国語も。お陰様で顧問先も増えてきて、一人でキツくなって来ている事も有るんだが、取引先や外国人労働者の為に、英語や中国語の契約書や就業規則を作る事が増えて来ているんだ」


「へぇ。そうなんですね」


「今は、アキに手伝って貰っているが、いつまでもそうもいかない。それで、君が来てくれると助かるんだが、考えてくれないか? 」


「オレなんかに務まるでしょうか? 」


「そこは心配無いと思う。 もし、社労士試験を受けたいとなったら、みっちり仕込んであげられる。ただ、いっても小さい事務所だから、営業も、商談も、役職へのお使いもやらなきゃいけない。年末調整の時期や人の出入りの多い春先は、残業もあると思う。やり甲斐は有ると思うけど、楽な仕事じゃ無い。 どうかな? 」


「お返事は、いつ迄ですか? 」


「採用は、来春を考えているから、年内くらいまでは待てるよ」


「あ、そんなにはかからないと思います。キチンと考えたいので、1週間位貰えたら嬉しいです。良いですか?」


「勿論。 森國とも相談しないとな 」


「なっ、なんでっ! 七尾所長⁉︎ 」


「あれ? 違うのか? てっきりそうかと」


「……春日さん、ちゃんと報告しようと思ってました。 旬は…… 僕のになりました。 そして、僕の最優先は、旬になったので…… 残念だけど、春日さんの優先順位は2番目です」


「ははっ。 良かったな。おめでとう、森國」


 朔の潤んだ瞳から溢れた雫は限りなく透明で、澄んだ色をしていた。





「それで、旬はどうするんだ? 春日さんの話受けるのか? 」


 結局、今日も朔の部屋に来てしまった。


 ここ最近は、休みの前日に限らず、3日と置かずに来てしまっている。


 すっかり、朔に溺れている気がしないでは無いが …… 良いのか? オレ?


「うん。 かなり傾いてる。 朔はどう思う? 」


「そうだなぁ。 ちょっと複雑。ずっと片想いしていた人の所で、恋人が働くって云うのと、アキさんが側に居るって云うのと、僕の側から離れちゃう感じがするのと……でも、どれも僕のエゴだって分かってる」


「それで? 」


「教師になるのも、反対じゃ無いんだ。旬ならきっと良い先生になれる。けど、それも寂しいと思ってたんだ。 多分、バスケ部の顧問とかするだろ? 平日は授業で、休日は部活で、僕の入り込む隙間が無さそうだなぁって。これも僕のエゴ」


「それから? 」


「春日さんの所なら信頼も信用も出来る。旬もやり甲斐を持って働けそうだ。アキさんの側なのは気にいらないけど」


「マスターの側なのは今も同じだろ? 」


「いや、それは、出逢った時からだから諦めるとして。でも、卒業してからもって云うのはなんだか複雑」


「それは、お互い様。言いっこなし」


「だけど…… 」


「駄々っ子だな。 クールな森國社長は何処行ったの? 」


「旬の前では、そんなの居ないよ。若くて可愛い爽やかイケメンが、誰かに取られるんじゃ無いかって、気が気じゃないんだ」


「オレは、大人でクールなインテリイケメンが、誰かに取られるんじゃないかって、気が気じゃないけど? 」


「旬…… 今夜は泊まって行ける? 」


「どうかな? 朔次第」


「やっぱり小悪魔だな。旬は」


 優しく腰を引き寄せられる。


 どちらともなく引き寄せあった唇が触れ合い、一瞬で離れる。


 その寂しさを感じる間も無く、耳を食まれ、囁かれる。


「帰さない」


 ベットルームは直ぐそこだ。


 きっと今夜もオレは朔にトロけてしまうんだ。


「ねぇ。旬。やっぱりマンションに引っ越して、一緒に暮らさないか? ここじゃバスルームも狭いだろ? それか、ジュニアスイートに部屋を替えてもいい」


 朝のコーヒーを落としながら、カップを温めていると、不意に朔がそんな事を言う。


 起きたばかりのオレ達は、シャーワーを浴びたばかりで、まだ、バスローブ姿だ。


「何? その贅沢」


「それくらいの贅沢良いだろ? この部屋を見て分かる通り、僕は物欲が少ないんだ。特に金のかかる趣味も無い。旬との生活に少し位贅沢したってバチは当たらない」


「そうかも知れないけど…… なんか気が進まない」


「何故? 」


「うーん。 何故だろう? 」


「僕と一緒に暮らす事に不安が有る? 」


「それは無い。 オレの手で毎朝コーヒー淹れてあげたいなって思うよ」


「ぁぁー。 しゅーんー」


 早足で寄ってきて抱き付かれ、チュッチュと盛大にキスをされる。


 もう、この人は、本当にオレに甘い。


 こんなんで、本当にプレイボーイだったって?


 何かの冗談みたいだ。


 軽く胸を押して引き離し、今度は、オレから丁寧なキスを贈る。


 唇を離し、しっかり眼を合わせる。


「オレ、会社の近くにアパート借りるよ」


「なんで? 急に! 一緒に住むんじゃ無いの?」


「マンション買って、家事はどうするの? また、キーパー雇うって? オレには分不相応だよ。 だからって、オレが家事全般やる自信無いし」


「勿論、僕も手伝うよ」


「いや、やっぱりそれじゃあダメな気がする。先ずは、ちゃんと自立したいんだ。朔に相応しい男になったら、一緒に住む。実家から、朔のマンションに移るなんて、なんだか嫁に行くみたいで嫌なんだ。オレが一人前になるまで浮気しないで待ってくれる?」


「浮気なんてしないよ。 でも、明日にでも一緒に住みたいのに、我慢出来るかな? 」


「全く…… 。別に逢えなくなる訳じゃ無いんだし。 むしろ、オレが一人暮らしになれば、アパートに来たっていいんだから、今より逢えるようになるかもしれないだろ? 」


「そっか。 …… でもなぁ。 うーん。 分かった。でも、心配だから、セキュリティはしっかりした所にしてよ! 」


「大丈夫だよ。 女じゃ無いんだから…… 」


「だって、もし、夜に、春日さんやアキさんが押し掛けて来たらどうするんだよ? 」


「は? どうもしないよ。普通にもてなすよ」


「ダメだよ! 簡単に男を家に上げちゃ。もー。やっぱり、心配だなぁ」


「てか、七尾所長やマスターなら、むしろ何の心配も無いだろ? 」


「何言ってるんだよ。 アキさんは、旬の事、可愛いって言ってた」


「それは、従業員とか、弟みたいなとか、そう言う意味だろ? 」


「そうだとは、思うけど…… 」


「朔? 今日の予定は? 」


「今日は、2時に横浜店。それまでは多少ゆっくり過ごせるよ」


「なら、今朝は? する? 朔の好きなヤツ。」


「えっ? 何? どういう風の吹き回し? 」


「さっき、長谷部はせべからLINEが来た。2講目が休講になったって。だから、オレも午後まで授業が無い」


 ちょっと驚いたような顔が可愛くて、頬に触れるだけのキスをする。


 7歳も年上の、身長も2センチしか違わない、大人の大男を可愛いだなんて、オレも大概どうかしてる。


「旬。 ベットに行こう」


「コーヒーは? 」


「終わった後に、氷を入れて、アイスで飲もう」


「それも良いかもね」


 オデコを付けて、微笑み合う。


 もう、すっかり絆されている、と思う。


 指を絡めて、ベットまで手を引かれる。


 朝日の差すベットの上で、バスローブの腰紐が解かれ、簡単に胸が露わになる。


「あぁ。本当に綺麗。いつ見ても彫刻みたいだだ。美しいよ。背中も見せて」


 バスローブの腕を抜かれ、身体を裏返す。


 首から背中に優しいキスを施され、オレの分身は簡単に形を変える。


 いつの間にか後ろの蕾が濡らされ、昨夜散々受け入れたソコは何の違和感も無く、指を飲み込んでいく。


「うっ…… あっ。 ぁあ…… 」


 朔の指が艶かしく動き、それに合わせて、堪らず湿った吐息が漏れてしまう。


「この、絡みつく動きが堪らない。僕の指を離してくれないんだ。 期待してる。可愛いよ」


 後ろ手に、朔の状態を確認する。


 完全に勃ちあがっている。


 この、硬く長いしろものがどれ程の快感をもたらすか、既に熟知しいるオレは、触れただけで、その熱さに身悶えする。


「朔。 もう欲しい」


「うん。 このまま行くね」


 寝バックの体制で、押し入ってくる剛直は、いつもと違う場所を擦りながら、いつもの場所に納まっていく。


 身体中に微電流が走り、ビクビクとした震えが止まらない。


 その痺れは後孔にも及んでしまい、意図せず、キュッと締め付けてしまう。


「あっ。 待って。そんなにしたら、気持ち良すぎて保たないよ」


「だって、オレも気持ちいい…… 」


「あっ。ごめん。ダメだ」


 節奏せっそうのリズムが一気に早くなり、朔は呆気なく達してしまった。


 僅かに覇気を無くした朔が、抜け出る刺激にブルリと震える。


「ぁん。 キスしながらイキたかった…… 」


「ゴメンね。 でも、まだ、ホラ」


 朔のそれは、マックスとは行かないまでも、充分な硬度を保っていた。


「あっ。 スゴイ…… 」


 その言葉に触発された様に、もう一段階硬度をあげる姿に息を飲む。



「次は、スローセックスでいこう」


「うん。 イク時は、キスしてね」


「っもう。 可愛いな」


 見つめ合い、何度も角度を変えキスをする。


 どちらとも知れない唾液が溢れ、頬に流れる。


 舌の絡まりが心地よく、うっとりとしていると、朔の屹立が今度は緩やかに、装填を繰り返しながら深く深く挿入された。


 旬の中心は痛い程にそそり立ち、先からは待てずに涙を流している。


 愛しい人に、身も心も愛される。


 こんな幸せがあるだろうか。


 朝のセックスが好きだと言う、朔の気持ちが解った気がした。

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