第2話 突然の面接に焦った件

 大学3年の春休み、何気なく通りかかった店先で、アルバイト募集の張り紙を見つけた。


 確か、前は、レストランだったか……


 今度はカフェバー。


 覗いてみると、オシャレな内装。


 中で作業している人と目があった。


 凄いイケメン。


 目を見張っていると、イケメンはスタスタと歩み寄ってきて、扉を開けた。


「なに? バイト希望? 」


「あ、いえ。 はい、、、そうです」


「じゃ、中へどうぞ」


 いきなり、バイトの面接になってしまった。


「職歴は…… 無さそうだよね。 学生さん?」


「桜東大学の3年です。もうすぐ4年になります」


「サークルとか、何かやってる?」


「はい。バスケットを少々」


「少々って…… 。君、面白いね」


 おかしな事を口走ってしまった事に気づいて、真っ赤になってしまった。


「学生さんなら、昼間は無理だよね?」


「あ、はい。 すいません」


「いや、いいんだ。 昼営業は、研修で来てくれる女性が居るから。 もう1人は、夜に入って欲しかったんだ。夜営業は、17時から22時。

 全部でなくても、19時から21時辺りにカブるように入ってくれるとありがたいんだけど」


「はい。大丈夫です」


「因みに、もう1人の女性は、君より大分年上だし既婚者だから、残念だけど、ここで出逢いは無い、かな?」


「いえ! オレっ、いや、僕は女性に興味が無いので問題無いです!」


「ははっ。やっぱり君、面白いよ」


 オレは生粋のゲイだから、本当なのに、、、真面目を装う冗談だと思われた?


「ところで、履歴書なんて持ってないよね?」


「あ、すいません。今、ここで働きたいと思ったばかりで…… 用意してませんでした」


「声掛けたの僕だしね。大丈夫。ちょっとだけ待っててくれる?」


 そういうと、イケメンは、隣の何かの事務所へ入って行った。


 直ぐに書類を手に戻ってきた。


 差し出された書類を見てみると、表題に「労働者名簿」とあり、枠の下には「(株)春と秋 」と表記されていた。


「えっ?」


「太枠の中、記入して。写真は後でとるから」


「えっと…… 」


「何か質問ある? 」


 ニコニコ笑っている。


「あのぉ…… 雇ってくれるんですか? 」


「あれ? ダメだった? 僕は、そのつもりだったけど」


「あ、ありがとうございます。 頑張ります。でも、経験無いですよ? 」


「承知の上だよ。 みっちり仕込むから安心して」


「はい。 では、記入させて頂きます」


「ホント、面白いなぁ。君、天然? 」


「…… 言われた事ないです」


「うそ⁈ 驚き! 書いてる間にお茶でも淹れようか。今出来るのは、コーヒー系、紅茶系、ハーブティ、レスカ、どれが良い? 」


「レスカって何ですか? 」


「あれ? 今はレモンスカッシュの事、レスカって言わないの? 生レモンで作ったレスカ美味しいよ! 」


「なら、それで! 」


「りょーかい」


 出来るだけ丁寧な字で名前を書く。


 住所、電話、血液型、ん?血液型?


「血液型はね、万が一、店で事故にあった時の為。何型であろうと、採否には関係無いよ」


 どうぞ、とレモンスカッシュを置いてくれる。


 酸っぱいのを想像して、ストローをさし、恐る恐る口に運ぶ。


 何だこれ!超美味い!今まで飲んでたレモンスカッシュはいったい何だったんだ⁈


「どう? 生レモンで作ると全然違って美味しいでしょ? 」


 ニッコリ微笑んでくれた。


 この笑顔に悩殺される女子に同情する。


 だって、男のオレも悩殺されるもん。


 出来上がった書類を渡す。


「どれどれ」


 真剣な表情で、見ている。


尾上 旬おのえ しゅん君。21歳。食品アレルギー無し。B型。趣味はバスケ。既往症も無し。実家暮らし。近くだね。あ、英文科なんだ。英語話せる?」


「少しですね」


「じゃ、それも鍛えていこう」


「あのー。質問いいですか? 」


「勿論。なんでもどうぞ」


「このお店の名前、なんて読むんですか? 」


「あぁ、言ってなかったね。『アメーノ』だよ。 僕は、ここのオーナーの雨野 秋成あめの あきなり。ヨーロッパと、東南アジアと、日本の混血だから、こんな感じたけど、国籍は日本人。『アメーノ』は、イタリア語で、『心地いい』って意味。僕の苗字と掛けてるんだ。これから、簡単なイタリア語も覚えようね 」


「へぇー。 いい名前ですね」


「僕が? 店が? 」


「どっちもです! 」


「あ、条件言ってなかったね。張り紙のとおり、最初は時給1,500円から。そのうち、ドリンクの作り方覚えてもらうから、スタンダードカクテルもね。それが出来るようになったら、時給2,000円。 その間も、働きぶりを見て、上げていこうと思ってる。 あとは、交通費は別支給で、賄い付き。どう?」


「十分です」


「いつから来れそう?」


「明日からでも」


「よし。じゃあ、3日後の21日から来てもらおうか。最後に、身体の採寸して写真撮ったら今日はお終い」


 服の上から背中を触られ、妙にドキドキしてしまう。


「ちゃんと立って」


「うぅ。 くすぐったいです」


 肩幅と、腕の長さを測られる。


 ゆきって云うんだって。


 雨野さんみたいに、外国の血が入っていると、手足が長くて、既製品だと多少窮屈だから、店で着るユニフォームは特注してるらしい。


 オレは純日本人だけど、バスケで躰つきがガッシリ目だから一応測っておくんだって。


「次、首ね」


 雨野さんが前に回って、オレの首に手が伸びて来た。


 器用にボタンを外される。


 首を少し傾けて、オレの首筋を見てくる仕草が色っぽくてたまらない。


「次は、ウエスト。 失礼するよ」


 ヤバイ!やばい!ソコは、やばーい!


 健全な心と身体の素直過ぎる反応がぁぁ。


「はい。オッケー。 身長いくつ?」


 って…… 見事にスルーされた。。。


 確かに、チョイ勃ちだったけど……


 でも、そんなに小さくないと思うんだけど……


 雨野さんからしたら、取るに足らないくらいって事?


 地味に凹むなぁ。


 てか、雨野さん、そんなに大きいの?


 うわっ。バカ。何想像してんだよ。


 また、オレのオレが反応してしまうじゃないか。


「?? 旬君? し・ん・ちょ・う、いくつ?」


「あっ。188です!」


「おっ。僕とおんなじだ」


 何故か嬉しくなってしまう。


 何だ? このムズムズ感。


 その正体の訳は、後日知る事になるんだけど。



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