オレの好きな人の恋人は漆黒の天使だった件

とまと

第1話 プロローグ

「はい。3番テーブル上がったよ。熱いから気をつけて!」


「サンキュー」


「それ出したら、帰りにカウンターのお客様の注文取って。多分、ジントニだから、タンカレー冷やしてる事伝えて」


「はい。分かりました。 史花ふみかさん。後ろ通りまーす」


 オレは、この春から、新オープンしたカフェバーamenoアメーノで働いている。


 オープンの10日前から、メニューの暗記や接客、物の位置など、徹底的に研修を受けた。


 マスターは、超イケメンで料理も上手くて優しいけど、仕事にはめちゃくちゃ厳しい。


 一度、叱られっぱなしで、ムッとしたら、その理由を、目を見てしっかり教えられた。


 自分や周りに火傷や、怪我をさせない事。


 そして、お客様には日常から離れて寛いで貰いたい事。


 裏を返せば、食器を落として割ったり、些細な事が苦情に繋がったりすると、その人も、周りの人にも嫌な気分を味わせてしまう。


 そんな空間は、危険だし、とても寛げない。


 そして、キチンとした接客は、怪我や苦情からオレ自身の身を守る事にも繋がる。


 そういう事だ。 と。




 惚れた。


 完全に惚れた。


 この日から、ここのマスター、雨野 秋成あめの あきなりを、なんとか振り向かせる為の作戦が始まったのだ。


 3番テーブルに、今日のおススメ、「ホタテの海鮮ポトフ」を提供する。


「お待たせしました。ホタテの海鮮ポトフでございます。お熱いので、お気を付けてお召し上がりください。では、ごゆっくりお過ごし下さいませ」


 取って返して、お水とオシボリを用意し、カウンターへ行く。


「いらっしゃいませ。森國様。今日は何をお持ちしましょうか?」


しゅんくん今日もバイトなの? お疲れ様。そうだなぁ…… 先ずは、ジントニックを貰おうか」


 森國様は、このビルに入っている美容サロンの経営者で、ほぼ毎日来てくれる、常連さんだ。


 ありがたい。


「かしこまりました。本日は、タンカレーを冷やしております」


「いいねぇ。ジンはタンカレーが好きなんだ。僕の好みを覚えてくれているなんて、嬉しいな。それで頼むよ」


「はい。かしこまりました」


 マスターに声をかける。


「森國様、ジントニです。ジンはタンカレーをご所望です」


「了解。タンカレー冷凍庫から出しておいて」


「はい」


しゅんさん。後ろ通りまーす」


 史花ふみかさんが、デザートを運ぶ。


 3人が慌ただしいリズムで動く。


 まるで、息の合ったフォーメーションのようだ。


 長年組んだバスケのチームメイトみたいな。


 やり甲斐が有って毎日が楽しい。



 コレって、もしや、恋の仕業?


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