サン・セバスティアン

 サン・セバスティアンはとりとめもなく涙を流す。目の前には彼の愛馬が横たわっていた。愛馬が寿命を迎えたのだ。彼は泣く。でも愛馬の死それ自体に泣いているわけではない。これでは旅を続けることができない、と感じて泣いているのだった。

 彼はこの旅をずっと楽しみにしていた。なぜならそれはとても名誉なことだったからだ。名誉は人の心を蝕んでいく。彼はそのことを知らなかったのだ。まだ子供だったから。

 泣く泣く今まで来た道を引き返す。盗賊やならず者たちの死体が転がっている。全て、サン・セバスティアンとその愛馬が打ち倒したのだ。しかし旅はもう終結してしまった。始まる前に終わった。

 村に戻るとサン・セバスティアンを送り出した村人たちがいた。彼を送り出す会を開いてからまだ半刻も経っていない。みじめなサン・セバスティアンの姿を見た瞬間、彼らは黒い激怒に支配された。そして哀れな少年を追いかけ始めたのだった。顔を鼻水でだらだらにして逃げ惑うサン・セバスティアン。何もかも失った表情だ。あっけなく村人に捕まった彼は自分の足が愛馬だったことを思い出す。彼を乗せ、ならず者を打ち倒し、荒野を駆けたのは愛馬の疾駆する蹄とたくましい四本の脚だったことを。サン・セバスティアンに駆ける脚など元から無かったのだ。

 かわいそうなサン・セバスティアンは首輪を付けられて村から放り出されてしまった。彼の前には果てない大地が広がっている。荒涼とした風は彼の涙さえ吸い取ってしまった。さめざめとなくサン・セバスティアンの耳に聞こえたのは、髑髏のように笑う風と震える岩壁、そして人々の叫びを切り裂く蹄の音だった。

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