先輩

家に帰ったらまずはお風呂に入った。お風呂の付き物といえば毎日のシャンプー。バスチェアに座っても毛先が床に着くほどの髪を洗うのは大変だ。

でも今日は髪様がいるからいつも以上に気合いを入れて洗った。

お風呂から出てドライヤーをしていると、スマホの通知音が鳴った。

ドライヤーを持っていない方の手でスマホを確認してみると、桐生先輩からのメッセージが届いていた。

『明日は部活ないから一緒に帰ろう』

その一言だけで私の心は舞い上がった!

私はすぐに返信を打ち込む。

『ヤッター\(>∀<)/先輩との下校楽しみです((* ॑꒳ ॑* ))』

桐生先輩はずっと部活に打ち込んでいたから会えるのは1ヵ月ぶりだ。

「そんなに嬉しいんじゃの〜」

突然背後から髪様の声が聞こえた。

「うわっ髪様びっくりした〜!いつからそこにいたの?」

「ずっとお主を見守っておったぞ!」

「ってことはお風呂の中も!?」

「そうじゃ。髪様は常にお主を見守るものじゃ」

私は恥ずかしくって赤面した。先輩以外に裸を見られるなんて……

まあでも明日は先輩に会えるし、いっか。


翌日の放課後、いつもの待ち合わせ場所である校門前で桐生先輩を待っていた。

「今日はメイクも気合い入れたし、髪もいつも以上に丁寧にブラッシングしたから桐生先輩喜んでくれるだろうなぁ……」

5分ぐらい待っていると、校舎の方から桐生先輩がやってきた。

「おーい!光乃みつのー」

「せんぱーい!」

私は桐生先輩の元へ駆け寄った。

久しぶりに見た桐生先輩の顔はさらに格好良くなっていて惚れ直しそうだ。

「桐生先輩……会いたかったです!」

上目遣いで桐生先輩の目を見つめる。

「そうか。じゃあ帰ろうか」

しばらく会ってないせいなのか、桐生先輩はどこか大人っぽくなっていた。


「桐生先輩、私この前スイパラに行って……」

「うん」

「それで……」

「うん」

「……」

なぜだか会話が続かない。

前会った時はもっとちゃんと会話できてたはずなのに……


「そういえばこの前美容室でトリートメントしたんですけど、髪サラサラって褒められたんですよー!桐生先輩も触ってみます?」

「えっ……

いや確かにお前の髪綺麗かもしんないけどさ、そこまで長いと流石に怖い」

「そっ……そうなんですか……」

大好きな桐生先輩から自慢の髪をそう言われて、私は深く傷ついた。

「付き合い始めた時はロングヘアっつてもまだ普通の範疇だったじゃん。でも流石に太ももまであるのは頭おかしいというかみすぼらしい」

「みすぼらしいなんて……そんなこと……長い髪は女の子の憧れですよ」

「度が過ぎてるって言ってんだよ

今まで誰も口に出さなかっただけで、みんなこう思ってると思うよ?」

「そう……なんですかね……」

唯一の誇れるもの、だったのにな。

「前から言おうと思ってたんだけどさ、俺達別れよっか」

「嫌!」

誇りだけじゃなくて恋人まで失うなんて、そんなの真っ平御免だ。

「髪は切るから……お願い付き合って……」

私は涙目で懇願する。

「そういう問題じゃなくて、俺がお前に興味なくなったから。じゃ」

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

私はその場で泣き崩れた。

桐生先輩は私を置いて、スタスタと先に帰っていった。

私は泣き崩れながら、桐生先輩を見つめていた。

数十秒後、突然後ろから同じ制服の女の子が走ってきた。

「桐生っち〜探したよ!今日だけ突然帰っちゃうんだもん!いつもみたいに一緒に帰ろうよー!」

「悪かったな天野。ちょっと用事があってさ。今からでも一緒に帰ろうか」

桐生先輩と手を繋ぐショートヘアの女の子。

そして私は思い知った。

こんな長い髪は、駄目なんだと。

そういえば昼間も友達に言われたな、切った方がいいって。

私は立ち上がって家に向かって駆け出した。

学校のカバンを玄関に置いてキッチンへ向かう。

私はキッチンの引き出しから調理用のハサミを取り出し、何年も何年も伸ばし続けてきた自慢の髪を首のあたりからバッサリと切った。

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