第3話 母の結婚
ある日、母親が男を連れて帰って来た。結婚するのだという。
色の黒い男で、船乗りだということだった。その船乗りが陸に上がってどうして暮らして行けるのかわからないが所帯を持つという。
二人は、母親の実家からほど近い駄菓子屋の二階を借りて住むことになった。
それまで祖母に預けられていた私も引き取られて3人で暮らした。
母はこの男とは正式に結婚したらしい。
確かに優しい男だった。
借りた家の裏木戸に入るには、小さな溝を越えなくてはならない。男は小さい私を軽々と抱き上げて、そこを渡らせてくれた。その逞しい腕にふわりと持ち上げられたときの切ない感触を今も覚えている。
好きな男と暮らせて、母は幸せだった。何しろ、まだ二十歳そこそこの若い女だったのだ。最初の男は、18の生娘を大金を出して水揚げした父親ほどの年齢だった。
母は、恋も知らずに、見受けされた男の子を産んだ。それが私。
母のおかげで母の父親は、大金を手に入れ、漁船を買った。漁師に取って、自分の舟を持つのは夢だった。しかし、船主になって間もなく、母の父は脳溢血で死んだ。後に残されたのは8人兄妹の子どもたち。長女は既に結婚し、次女が一家の収入源だったが、その次女が男を連れて帰って来たのだった。
あろうことか、正式に結婚までしたいという。
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