春は紅梅、夏は宵蛍、秋は夕暮れ

雨宮 白虎

初めて出会った少女の想い

<<プロローグ>>

 春は紅梅

  夏は蛍火

   秋は稲穂

    冬は・・・冬は・・・



第1章 ~~寒紅梅~~


 僕がこの地方都市へ越して1年が過ぎた。


 交通の便が位に便利な喧噪での中で暮らしてきた僕は、父親の転勤により、この地方都市へと引っ越してきた。


 町を知ろうと散歩中に見かけた、紅い小さな花が可愛らしく、つい枝を折って持ち帰ってしまった。

 帰宅してコップに刺していたら、母に殴られてっしまった。

「梅折らぬ馬鹿。ってネットで見たこと有るんだろうけど、人様の枝を折るなんて、なんて情けないの!」

 そういえば、前の句は「桜折る馬鹿」だっただろか? 母の叱咤を上の空していたら、額にデコピンされてしまった。

「取った物は返さなくてはならないけど、折れた枝葉をかえしても仕方ないけど、これは礼儀として謝ってきなさい。いい、分かった!」


 勢いに飲まれてしまい、はいと2つ返事をしてしまった。

 どうして、このまま生け花みたいに育てよう、と言えなかったのだろうか。



第2章 ~~舞い上がる蛍火~~


 もう3ヶ月か。新しい仲間ができて良かった。都会者とか嫌われるのではと心配だったが、杞憂だった。


 地方は過疎化が進んでいて、クラス全員でも10に満たない。私は地方都市ならこう云うものだろう。

 と、ありのままを受け入れたが、先生達の「私が子供の頃は・・・」という話しでは何クラスもあったそうだ。

 そういうのは、・・・え~と、団塊世代。っていっただろうか?


 1年、2年、と過ぎる毎に、1人、2人と減ってしまったのだろう。今通っている学校は分校扱いだから、いつまで見守ってくれるのだろうか。校舎を眺めながら思いに浸る。


 今夜は地元だけの蛍祭り。

 蛍を名物に街興しをしても良いだろうに、と思ったが、

「人が増えれば蛍が減ってしまうからこのままでいいのじゃ」

 と、蛍の園の神社を箒で払う総代さんが教えてくれた。人が増えると蛍が育つ場所が踏み荒らされてしまうのが、辛いのだと。


 向かいながらに提灯をぶら下げて観る蛍の舞は、薄暗い天幕により、一層光り輝いていた。

 灯籠流しではないけども、蛍火が天高く舞い上がる様はまるで・・・

 まるで・・・?


 あれ、何を考えていたんだろうか?

「ダメよ。探したんだから。都会暮らしが長くて、この町に慣れてないのは分かるけど、それなら必ず誰かと一緒にいてよね」

 少女が腕を強く握りしめて帰り道を進んだ。

 少女の腕が振るえていたのは、彼女も独りになってしまい寂しかったんだと思う。丁度、僕を見かけて、地元民として力強い態度をとったけど、可愛い少女だと思った。



第3章 ~~落ち穂拾い~~



 学校帰りに機械で稲を刈る姿を見かけた。

 丁度夕日が照り返して、稲穂がまるで金の綿毛のように輝いていた。

 日本が金の国と呼んだのは誰だっただろうか? 今は思い出せない。喉の辺りまで出掛かっているのに。

 と、悔しさまぎれに喉をトントンと叩いてみたけどダメだった。


 おばあさんが落ちた稲穂を拾って縄を作って見せてくれた。

 感動にあわせて、自分たちでも編んでみたいと、ちょっとしたブームになった。

 邪魔にならないように、落ちている稲穂を拾うみんなの姿を額に収めたい気持ちになった。

 そういえば、スマホがあったんだった。

 カシュッ

 と、音がすると、ついさっきまでの縄編みブームは何処に行ってしまったのだろうか。

「スマホかしてー。ゲームしたい。教えろ~」

 子供達の興味の変化には流石に驚いた。



第4章 ~~ 冬 真っ白い 冬 ~~

 冬と云えばスキーだ。

 温暖化とはいってもこの町の山頂にはそこそこ雪が積もる。

 スキーはできないけど、子供用のソリで銀色の斜面を滑空する。その時に頬をかすめる風が冷たくも気持ちが良かった。


 そう。みんなで滑る雪ソリが愉しかったんだ。

 そう。みんなと愉しかったんだ。

 あれ、みんなって、誰?



第5章 ~~ きれいな境内 ~~


 僕はこの神社が大好きだ。冬に咲く寒桜に少し遅れて赤紅梅。

 満開の桜がとてもきれいで、風で舞い散る花びらが、まるで吹雪のようだ。


 そういえば、あの時も吹雪だった。

 一粒一粒キラキラ光る舞雪に心を奪わそうになるほど感動してた。



第6章 ~~ 寒紅梅 ~~


 ここは何処だろう。


 見慣れない白い天井。

  高くて手が届かない天井

   揺らめく影が映る天井


 目だけで周りを見渡せば、小さな梅の植木鉢があった。


 思い出せない。どうしてここで寝ているのだろう。



「おばあさん。おばあさん。めざめましたよ。おめでとうございます」

 白い服を着た綺麗な女性は、車いすを押してやってきた。

「おかえり、おまえさん」

「あの、僕は、ここは何処ですか?僕は友達と学校へ行かなくちゃ」

「何をいっているのでしょう。今日はお休みですよ。蛍は来年一緒に居に行きましょうね。今日はとりあえずおやすみなさい」

「あ、ありがとう。おばあちゃん」



「あなた。子供の頃が幸せだったのね。できるだけ幸せに暮らしてくださいませ。それでは、後はどうぞ、よろしくお願いいたします」

 老婆は大粒の涙をあふれさせながら、看護師の手をさすると、自分でゆっくりと車いすを漕いで、別途のホームへ帰っていった。



「できることなら、私と出会い、式を挙げるまで、生きていて欲しい」

 そう願いながら。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春は紅梅、夏は宵蛍、秋は夕暮れ 雨宮 白虎 @amamiya-byakko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る