第21話 依頼を果たしに森へやってきました
街から森へと抜ける道に向かって街の中を歩いていくと、やはりアルさんは目立つ。銀色の髪の人はほとんど見かけないせいもあるのかもしれない。青紫色の瞳も神秘的だ。一言で言えば近づきがたい空気をまとったイケメン。そのイケメンは私の手をしっかりと握って離さない。
「マーヤ、さっきの」
「何ですか? 何やらわめているおじさまがいらっしゃいましたけど、何言ってるのかさっぱりでしたね」
あっけらかんと分かりやすい嘘をつく。それでアルさんの心が軽くなるんだったら、いいと思う。
「……俺は……」
ぐいぐい来るのがアルさんだったはずなのに、こんなにしょんぼりと尻尾が下がった大型犬みたいな雰囲気を出されていると調子が狂う。うん。そうだ。調子が狂ってるんだ、私。
あんな風に言われて、私の顔色を伺うアルさんに、保護欲が掻き立てられてしまったんだ。つい。
顔を見るとまだ不安そうにしている。揺れている瞳が、私の心を探っている。
「……アルさんの身の上話は戻ってきたらじっくりと工房で聞かせてもらいます」
まだまだ聞いていない話が沢山あるのだろうと踏んで、私はそう告げた。あの工房は今のところ私とアルさんしか出入りが出来ないし、内緒の話をするには都合がいい。
こんなに信頼しきっていいのか、と私の中の疑心暗鬼が囁くけれど、まぁ、もう、あれだわ。騙されてもいいや。
「今は依頼に集中しましょ」
ね、と念押しすると、こくんと頷いた。なんだか前世での後輩バイトくんを思い出すんだよなぁ。しっかりしてそうで抜けていて、大型犬みたいだった。
元気にしているのかな? まぁ、知る手段はもう、無いんだけどね。
「あの東門を出ると、森に出るんだ」
アルさんが指し示す先を見ると、門番の人が立つ囲いのような塀の外、草原の先に森が見えた。
なんだかどんよりとしていて、普段であればあんまり近づきたくない感じの場所だ。
「よろしくね」
つないでいる手が緩む気配はもうない。私はアルさんを見つめてにっこりと笑ってみせると、彼もまたわずかにだが笑ってくれた。ようやく、笑ってくれた。少しだけほっとして、あのおっさんたちの言葉を反芻する。
(皆殺しの英雄、か)
何故そう呼ばれたのかは想像に難くない。頭が半分吹っ飛んでも生きているなんて、ぞっとするほどの加護だ。自分がもし、その立場だったらと思う。
アルさんはずっと、奇異なものを見る視線の中で生きていたんだ。私が怯える、その視線の中で。
「アルじゃないか。依頼か何かか? そちらのお嬢さんは?」
門番の人が気さくに話しかけてきて、私たちは立ち止った。私が何か答えるよりはやく、アルさんが口を開く。
「彼女はクラフターのマーヤだ。今回はいっしょに依頼を果たしに行くんだ」
「そうか。気を付けてな」
街の治安を守っているからなのか、この門番さんの視線は先ほどの冒険者たちほど冷たくはない。アルさんにも、そうやって接してくれる人がいるのだと思うとなんだか安心した。
「はい、行ってきます」
声に出した言葉は二人とも同じで、思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。門番さんはそれをあたたかく見守ってくれて、私たちはその姿を振り返り振り返り確認しながら、森へと足を踏み入れたのだった。
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